僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います)   作:まだら模様

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※ちなみにどの時系列のキャラが来るかは不明で、同一人物でも別の時間軸やこの本編の時期や季節、年月が違う人がこの空間に誘われてきます。
例 本編2024年の場合 25年の婆、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)


第13回:エンデヴァー(頂点に立った者)

見ろ。

 

 このスタジオに満ちた薄ら寒い「偽物」の平和を。

 

 ゲスト席の巨躯から溢れる熱風が、セットの壁紙を端から焦がし始めていた。

 

 現No.1ヒーロー、エンデヴァー——轟炎司。

 

 その眼光は、司会者である俺の「嘘」すら、今夜焼き尽くそうとしていた。

 

 

 

 眠りに落ちた瞬間——鳴った。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー

  ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー

  ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 スタジオに引き込まれた瞬間——暑かった。

 

 気のせいではない。空気が熱を帯びていた。

 ガラステーブルのふちに、細い陽炎がゆれていた。

 床のタイルが、ところどころ薄く溶け始めていた。

 

 徹郎は舞台袖からスタジオを確認した。

 

 男が、立っていた。

 

 ソファには座っていなかった。

 仁王立ちで腕を組んで、スタジオの正面を睨んでいた。

 

 身長が、高い。

 体が、大きい。

 頭部に炎をまとっていた。

 

 スタジオの壁紙が、端から少しずつ焦げていた。

 

 (……あの、壁紙が)

 

 (言うか。言わなかったら燃え上がる気がする)

 

 「……エンデヴァーさん」

 

 男が、ゆっくりとこちらを見た。

 

 「……お前が司会か」

 

 低い。声が、低い。炉の底から来るような声だった。

 

 「はい。黒柳徹郎といいます。本日はご来場——」

 

 「余計なことは言うな」

 

 「……失礼しました」

 

 「座ることも要求するな。俺は立っている方が性に合う」

 

 「わかりました。ただ——」

 

 「なんだ」

 

 「床のタイルが溶け始めています。スタジオが弁償問題になる前に、少し出力を落としていただけると」

 

 エンデヴァーが、徹郎を見た。

 

 一秒、見た。

 

 炎が、わずかに小さくなった。

 

 「……気が利かんな、お前は」

 

 「すみません」

 

 「褒めた」

 

 

 

 「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます。本日のゲストをご紹介します——」

 

 「エンデヴァー。それだけでいい」

 

 「……エンデヴァーさん。今夜は来ていただいて——」

 

 「来たくて来たわけではない」

 

 「……そうですね。毎晩ランダムで来る番組ですので」

 

 「ランダムで呼ばれて、三十分喋れば現実に戻れる。それだけか」

 

 「それだけです」

 

 「非合理だな」

 

 (相澤先生と同じことを言っている……!)

 (でも、この人が言うと別の重みがある)

 

 「……合理的ではありません。でも続けています」

 

 「なぜ」

 

 「続けるしかないので」

 

 エンデヴァーが、少しだけ目を細めた。

 

 「……それは、答えになっていないが」

 

 「そうですね。でも今の私にはそれしか言えません」

 

 「正直な奴だ」

 

 「……ありがとうございます」

 

 「褒めていない」

 

 「……そうですか」

 

 「事実を言った」

 

 (この人は「褒めた」と「褒めていない」の基準が独自すぎる……!)

 

 

 

 「……いくつだ、お前は」

 

 「高校生です」

 

 「この個性は、先天性か」

 

 「はい。毎晩強制発動します」

 

 エンデヴァーが、腕を組んだまま少し徹郎を見た。

 

 「毎晩一人でやっているのか」

 

 「はい」

 

 「失敗したらどうなる」

 

 「意識が永久幽閉されます。現実の肉体が昏睡状態になります」

 

 「……そのリスクを負いながら、毎晩か」

 

 「毎晩です」

 

 エンデヴァーが、少しだけ黙った。

 

 「……それは、過酷な個性だな」

 

 「慣れています」

 

 「慣れるものじゃない」

 

 「慣れるしか——」

 

 「慣れるものじゃない、と言った」

 

 短く、断言した。

 

 徹郎は、少し止まった。

 

 「……はい」

 

 「慣れたと思っている内に、どこかが壊れる。そういうものだ」

 

 (……この人はそれを、自分の経験から知っている)

 

 「先生のことで、何か?」

 

 「俺の話ではない」

 

 「……そうですか」

 

 「お前の話をしている」

 

 徹郎は、しばらく返せなかった。

 

 

 

 「……改めて、番組を進めていいですか」

 

 「好きにしろ」

 

 「エンデヴァーさん。今夜の時系列を確認させてください。今、何歳ですか」

 

 「四十五だ」

 

 (四十五歳。No.1になって間もない頃か、あるいはその後か)

 (轟くんの時に聞いた「また来る」という言葉を覚えている——でも今夜のエンデヴァーは、轟くんではない。轟くんの父だ)

 

 「……エンデヴァーさんは今、No.1ヒーローですか」

 

 「そうだ」

 

 「……オールマイトが引退してから、ということですか」

 

 「なぜ聞く」

 

 「状況を把握したいので」

 

 エンデヴァーが、少しだけ目を動かした。

 

 「……お前は、先ほどから妙に『どこまで知っているか』を測るような聞き方をする」

 

 (この人も気づく……!)

 

 「……個性の特性で、多少の背景情報が伝わることがあるので」

 

 「ほう」

 

 「詳しくは言えません」

 

 「言わなくていい」

 

 「……ありがとうございます」

 

 「感謝するな。俺が興味を失っただけだ」

 

 (興味を失ったのに、まだ目がこっちを向いている)

 

 (この人は、全部見ている)

 

 

 

 「……一つ、聞いていいですか」

 

 「何でも聞け。答えるかどうかは俺が決める」

 

 「エンデヴァーさんにとって、No.1というのは何ですか」

 

 エンデヴァーが、少しだけ目を細めた。

 

 「重い質問をするな」

 

 「答えにくければ——」

 

 「答えにくくはない。ただ、軽く答えられる質問でもない」

 

 「……では、時間をかけて答えてください。三十分あります」

 

 エンデヴァーが、少しだけ鼻から息を吐いた。

 

 「……俺は、長年No.2だった」

 

 「はい」

 

 「オールマイトには、どうしても届かなかった。個性でも、影響力でも、精神的な支柱としても——届かなかった」

 

 「……それでも、諦めなかった」

 

 「諦めなかった。それが正しかったかどうかは、今でもわからん」

 

 「なぜですか」

 

 「諦めなかった結果、俺はすべきでないことをした」

 

 スタジオが、少しだけ静かになった。

 

 炎の揺れ方が、少し変わった。

 

 「……それは」

 

 「家族の話だ。深くは言わん」

 

 「わかりました」

 

 「ただ——」

 

 エンデヴァーが、腕を組み直した。

 

 「やったことは消えない。消えないし、戻らない。それだけは確かだ」

 

 

 

 「……過去は消えない。それでも、進むんですか」

 

 徹郎は、静かに聞いた。

 

 エンデヴァーが、徹郎を見た。

 

 長い、沈黙だった。

 

 「……お前、妙なことを聞く」

 

 「すみません」

 

 「謝るな。妙なことを聞くのは、悪いことじゃない」

 

 少し間があった。

 

 「……進む」

 

 静かな声だった。

 

 「過去を消せないなら、進むしかない。そういうことだ」

 

 「……進む先に、何がありますか」

 

 「俺が求めているのは許しではない」

 

 「では」

 

 「俺がやるべきことは——ただ、今の俺を見せ続けることだ。家族に。そして、この社会に」

 

 「見せ続ける、というのは」

 

 「多くは語らん。見ていてくれ——それだけだ」

 

 スタジオが、静かだった。

 

 炎が、静かに燃えていた。

 

 (轟くんは先日、「また来る。聞きたいことができた」と言って去った)

 

 (轟くんが聞きたかったのは——もしかすると、この人のことだったかもしれない)

 

 (この父親が今、何を思っているのかを)

 

 

 

 「……一つだけ、また聞いていいですか」

 

 「まだあるか」

 

 「一つだけです」

 

 「言え」

 

 「エンデヴァーさんは——自分を、許せていますか」

 

 炎が、ふっと揺れた。

 

 エンデヴァーが、しばらく何も言わなかった。

 

 スタジオの熱が、少し変わった。

 圧力は変わらない。でも——何かが、少しだけ違う方向に動いた。

 

 「……許すとは、何だ」

 

 「自分がしてきたことを、受け入れることでしょうか」

 

 「受け入れている」

 

 「では——」

 

 「ただし」

 

 エンデヴァーが、徹郎を見た。

 

 「受け入れることと、赦すことは違う」

 

 「……どう違いますか」

 

 「受け入れるのは——それが現実だからだ。逃げられないからだ。だが赦すのは違う。赦してしまえば、前に進む理由が薄れる」

 

 「……理由?」

 

 「罪悪感は、燃料だ」

 

 低い声だった。

 

 「俺を突き動かしてきたのは、オールマイトへの対抗心だった。それが間違いを生んだ。ならば——今度は、俺が犯した過ちへの罪悪感が燃料になる。それで構わん」

 

 徹郎は、少し止まった。

 

 (この人は——救われないことを選んでいる)

 

 (救われてしまったら、前に進めなくなると知っているから)

 

 (それで、進み続ける)

 

 (何という、地獄だろう)

 

 

 

 「……それは、苦しくないですか」

 

 徹郎が言った。

 

 エンデヴァーが、少し目を細めた。

 

 「苦しいに決まっている」

 

 「……それでも」

 

 「それでも——この背中を降ろすことは、死んでも許されない」

 

 「なぜですか」

 

 「俺がNo.1の座を降りた瞬間、この社会の誰かが不安になる。オールマイトがいなくなって、次の柱が揺らいでは——意味がない」

 

 「……エンデヴァーさんは、オールマイトになろうとしているんですか」

 

 「なれない」

 

 即答だった。

 

 「俺はオールマイトにはなれない。笑顔で全部を引き受けるような人間ではない。不器用で、見苦しくて、泥を啜ってきた人間だ。それは変わらない」

 

 「……でも」

 

 「だが、だからこそできることがある」

 

 エンデヴァーが、前を向いた。

 

 「泥を啜った人間にしか、立てない場所がある。完璧な象徴には見せられない背中がある。俺はそれを見せ続ける——それだけだ」

 

 徹郎は、少しだけ目が熱くなった。

 

 (救われないまま、焼かれ続ける道だ)

 

 (それを選んでいる)

 

 (誰に強制されたわけでもなく)

 

 

 「……では、コーナーをやってもいいですか」

 

 「なんだ」

 

 「エンデヴァーさんに、いくつかお題を出します。短く答えてください」

 

 「……それが番組の趣向か」

 

 「はい」

 

 「いいだろう」

 

 「最初のお題——才能がないと嘆く若者に、何と声をかけますか」

 

 エンデヴァーが、少し考えた。

 

 「死ぬ気でやってから言え」

 

 「……それだけですか」

 

 「それだけだ。才能がないと嘆く前に、やり切ったかどうかを問え。やり切ってから嘆くのと、やらずに嘆くのでは意味が違う」

 

 (……厳しい。でも——誰よりも自分に厳しくあり続けてきた男の言葉だ。重みが違う)

 

 「次のお題——やり直したい過去がある人間は、どう生きるべきか」

 

 エンデヴァーが、少し止まった。

 

 今度は、少し長く止まった。

 

 「……過去を見るな。未来を見ろ」

 

 「やり直すことはできないと?」

 

 「できない。だが——上書きすることはできる。たとえ血を吐くような苦しみだとしても」

 

 (……それ、自分に言っていますよね?)

 

 (でも、言えない。言ったら怒られる気がする)

 

 徹郎は内心だけで思うに留めた。

 

 「最後のお題——人は、変われますか」

 

 エンデヴァーが、長い間黙った。

 

 徹郎も、急かさなかった。

 

 スタジオに、炎の音だけがあった。

 

 「……わからん」

 

 静かな声だった。

 

 「変わっているのかどうか、俺にはわからない。ただ——変わろうとし続けることしかできない。それが答えになるかどうかも、俺には判断できない」

 

 「……誰が判断するんですか」

 

 「俺を見ている人間たちだ」

 

 「……家族も含めて」

 

 「……ああ」

 

 一言だった。

 

 でも——その一言に、すべてが入っていた。

 

 

 そのとき。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪

 

 エンディングのテーマが、流れ始めた。

 

 エンデヴァーが、わずかに体を動かした。

 

 「……時間か」

 

 「お時間です。エンデヴァーさん、今夜は来ていただいてありがとうございました」

 

 「礼は要らない」

 

 「……では、省略します」

 

 「最後に一言か」

 

 「お願いします」

 

 エンデヴァーが、徹郎をまっすぐ見た。

 

 炎が、静かに揺れていた。

 

 「……司会者」

 

 「はい」

 

 「貴様の言葉には、泥を舐めた者の匂いがする」

 

 徹郎は、少し止まった。

 

 「……どういう意味ですか」

 

 「そのままの意味だ。綺麗なところしか知らない人間には、あの質問はできない」

 

 「……」

 

 「何があったかは聞かん。だが——」

 

 エンデヴァーが、少しだけ目を細めた。

 

 「精進しろ」

 

 テーマ曲が、最後の段階へ移った。

 

 ♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——

 

 炎が、ゆっくりと小さくなった。

 

 エンデヴァーの姿が、熱の揺らぎの中に溶けていった。

 

 スタジオの温度が、少しずつ元に戻った。

 

 床のタイルに、溶けかけた跡が残っていた。

 

 

 目が覚めた。

 

 朝の五時。

 

 布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。

 

 「救われないまま、焼かれ続ける道か」

 

 その言葉が、頭の中にあった。

 

 (地獄だな、と思った)

 

 (でも——あの人は、それを選んだ)

 

 (誰かに押しつけられたわけじゃない。どこかの時点で、自分で選んだ)

 

 (その背中は——確かに、ヒーローだった)

 

 攻略ノートを開いた。

 

 「エンデヴァー(轟炎司・45歳):今夜のゲスト。開幕からソファに座らなかった——立ったまま三十分。床のタイルが溶けた(弁償請求先不明)。出力を落とす要求には応じた。口調:短文・断定的・感情表現が極端に不器用。でも、全部見えている。『許しを求めない、見せ続けることだけだ』——これが今の轟炎司の信念。罪悪感を燃料にして進む——救われないことを選んでいる。それがこの人の強さだ」

 

 ペンを止めた。

 

 最後の一行を書いた。

 

「※『貴様の言葉には泥を舐めた者の匂いがする』と言われた。褒め言葉として受け取ることにする。……最高にヒーローだったよ、炎司さん。内緒」

 

 

 その日の学校の帰り道。

 

 夕焼けが、赤かった。

 

 昨日も赤かった。

 切島くんを思い出した。

 

 でも今日の赤は——少し、違う赤だった。

 

 もっと深くて、もっと重くて、もっと諦めの悪い赤だった。

 

 炎みたいな赤だった。

 

 (泥を舐めた者の匂いがする、か)

 

 (俺が、か)

 

 徹郎は少し考えた。

 

 前世で高校生のまま死んで、転生して、毎晩誰かと話して、覚えているのは自分だけで——それを「泥を舐めた」と言っていいのかはわからない。

 

 でも——

 

 (この番組を続けてきた分だけ、何かを積み上げてきたのは確かだ)

 

 (オールマイトに「もう大丈夫だ」と言われた夜。ミッドナイト先生に頭を撫でてもらった夜。梅雨ちゃんに名前を呼んでもらった夜。デクが泣きながら笑った夜。相澤先生に「合理的じゃないぞ」と言われた夜。切島くんに「男らしい」と言われた夜)

 

 (そして今夜——「精進しろ」と言われた)

 

 夜になれば、また鳴る。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪

 

 明日のゲストは誰だろう。

 

 どんな夜も——後悔しない三十分を積み上げていく。

 

 それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。

 




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