僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います)   作:まだら模様

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※ちなみにどの時系列のキャラが来るかは不明で、同一人物でも別の時間軸やこの本編の時期や季節、年月が違う人がこの空間に誘われてきます。
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)



第18回:通形ミリオ(プロヒーローに最も近い男)

 

 

 「はいっ! 通形ミリオ、参上——おっと!」

 

 登場からわずか一秒。

 

 ソファをすり抜けて床に埋まり、満面の笑みで股間を隠しながら浮上してくる少年。

 

 通形ミリオ——その太陽のような眩しさは、治崎廻が残した「消毒液の絶望」を、ギャグという名の暴力で開幕一秒で粉砕した。

 

 

 

 眠りに落ちた瞬間——鳴った。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー

  ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー

  ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 スタジオに引き込まれた瞬間——明るかった。

 

 物理的に、明るかった。

 

 スタジオの照明が、今夜だけ少し明るい気がした。気のせいかもしれない。でも確かにそう感じた。

 

 舞台袖からソファを確認した。

 

 誰もいなかった。

 

 (……え? 来てない?)

 

 「はいっ! 通形ミリオ、参上——おっと!」

 

 ソファの真ん中から、人間の上半身が生えてきた。

 

 ソファをすり抜けて床まで落ちたらしい。

 

 満面の笑みで股間を隠しながら、ゆっくりと浮上してくる。

 

 「ちょっとコントロールが甘かったなぁ! 服は無事だった、よかった!」

 

 (ソファから生えてきた……!)

 

 (大丈夫か俺の番組……!)

 

 

 

 「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」

 

 「こんばんは! すごいな、本当にテレビのスタジオみたいなんだよね! あ、テレビのスタジオか!」

 

 ミリオが、完全にソファの上に浮上してきた。

 

 改めて座り直した。今度はちゃんと、ソファの上に。

 

 「本日のゲストをご紹介します——」

 

 「通形ミリオ! 雄英三年B組! ヒーロー名はルミリオン! レミオロメンみたいでカッコいいだろ!」

 

 「……よく知っています。ルミリオンさん、今夜は来ていただいて——」

 

 「ミリオでいいよ! 先輩面するのが苦手なんだよね!」

 

 「……ミリオさん、でよいですか」

 

 「どっちでも!」

 

 (治崎の次にこれが来るとは……!)

 

 (ありがとう神様。本当に今夜だけはあなたを信じます……!)

 

 

 

 「ミリオさん、今いくつですか」

 

 「十七! 三年生!」

 

 (十七歳。三年生。壊理ちゃんを救出する前後の時期だ——)

 

 (壊理ちゃんは昨夜ここに来た。今夜はその壊理ちゃんを「俺が君のヒーローになる」と言って守った人が来ている)

 

 「……では、改めて。今夜はどんな調子ですか」

 

 「最高! さっき訓練してきたんだよね! 相澤先生…イレイザーヘッドにしごかれまくったけど、最高だった!」

 

 「……最高の基準が高いですね」

 

 「しごかれないと成長できないから——あ、でもこのスタジオはすごいよ! 壁の透過率が均一で、埋まり甲斐があるんだよね!」

 

 「壁に埋まらないでください」

 

 「試してみたいんだよね! 通過できる素材と通過できない素材の見分け方がさ、まだ完璧じゃないから——」

 

 「番組中にその研究はやめてください」

 

 「じゃあ帰りに!」

 

 「帰りもやめてください!!」

 

 (治崎の消毒液が、頭から全部吹き飛んでいく……!)

 

 

 

 「……ミリオさん、一つ確認させてください」

 

 「なに?」

 

 「この番組のルールを知っていますか」

 

 「ゲストと三十分話せば、司会者が現実に戻れる夢の番組——そういうことだよね! さっきから観察してたんだよね、このスタジオ」

 

 「……二言目で把握しているんですね」

 

 「サーの訓練で、状況把握は叩き込まれたんだよね! どんな場所でも、まず環境を読む。それが基本だって」

 

 「サー、というのはサー・ナイトアイのことですか」

 

 「そう! 俺のインターン先の師匠なんだよね!」

 

 「……どんな方ですか」

 

 ミリオが、少し目を輝かせた。

 

 「最高の人なんだよね! ものすごく厳しいし、見た目は怖いし、目が合うだけで腰が引けそうになるけど——ユーモアが大好きな人で、『元気とユーモアのない社会に明るい未来はやってこない』が口癖なんだよね!」

 

 「……それは、独特な口癖ですね」

 

 「でも本当のことなんだよね! 俺もそう思う。笑えない人間にヒーローは難しいと思うから」

 

 「笑えない人間に、ですか」

 

 「そう。困ってる人の傍に来て、一緒に泣くだけじゃ、救けたことにはならないんだよね。笑顔を見せてあげることで、初めて『大丈夫だ』って伝わる。サーはそれをちゃんと知ってる人なんだよね」

 

 (これが——ユーモアがヒーローの武器だという信念か)

 

 (サー・ナイトアイが育てた人間は、こういう人間になるんだ)

 

 

 

 「では、コーナーをやってみたいんですが」

 

 「コーナー! 好きだよそういうの!」

 

 「『ユーモア・イズ・パワー』というコーナーです。私が悩み相談を出すので、ミリオさんが解決してください」

 

 「任せろ!」

 

 「最初の相談——最近、何をやっても上手くいかなくて、落ち込んでいます」

 

 ミリオが、即座に立ち上がった。

 

 「じゃあ、見てて!」

 

 そして——ソファをすり抜けた。

 

 床に埋まった。

 

 また浮上してきた。

 

 「俺も今さっきコントロールミスして床に埋まったんだよね! でも落ち込んでない! なぜかって言うと——」

 

 「なぜですか」

 

 「転んでる間も、ちゃんと前に進んでるから! 床に埋まっても、また出てきた! それでいいんだよね!」

 

 「……その理論だと埋まることが前提になっていますよね?」

 

 「前提! 人生は埋まることの連続なんだよね!」

 

 (そのメタファー、ミリオさんの個性を抜きにして聞くとかなり深い話なんですが……!)

 

 「次の相談——頑張っているのに、誰にも認めてもらえません」

 

 ミリオが、少しだけ考えた。

 

 今度は即答しなかった。

 

 「……俺も最初はそうだったんだよね」

 

 「え?」

 

 「個性の制御が全然できなくて、透過しっぱなしで服もなくなって——訓練しても訓練しても、全然うまくいかなくて。三年間、ビリっけつのことも多かったんだよね」

 

 「……ミリオさんが、ですか」

 

 「そう。でも——」

 

 ミリオが、真っすぐ徹郎を見た。

 

 「その三年間は無駄じゃなかった。全部が今に繋がってたんだよね。だから——誰かに認めてもらえなくても、自分が積み上げてきたものは本物だって、信じていいと思う」

 

 「……それは」

 

 「あと、いつか絶対に誰かが見てるから。ちゃんと努力してる奴を、見てる人間は必ずいるんだよね」

 

 (……今、この人は何気なく言ったけれど)

 

 (この言葉は——前世で泥を啜ってきた俺にも、刺さる)

 

 

 

 十五分が過ぎた頃。

 

 「……ミリオさん、少し踏み込んでいいですか」

 

 「どうぞ!」

 

 「壊理ちゃんのことを、聞いていいですか」

 

 ミリオの顔が、少しだけ変わった。

 

 笑顔は消えなかった。でも——少し、重さが加わった。

 

 「……エリのこと、知ってるんだ」

 

 「概要は把握しています」

 

 「今、どういう状況かも?」

 

 「……ある程度は」

 

 ミリオが、少しだけ前を向いた。

 

 「……一度、見逃してるんだよね。俺」

 

 「知っています」

 

 「街で会った時。一緒に連れて帰れたのに——証拠が足りなくて、踏み込めなかった。あの時エリが怖がってる顔を見て、それでも俺は行かなかった」

 

 「……それは」

 

 「後悔してるんだよね。ずっと」

 

 静かな声だった。

 

 今夜初めて——明るさと全く別の声が出た。

 

 「……でも、今は」

 

 「今は——絶対に助けるって、決めてる。今度こそ、どんな状況でも踏み込む。それだけは決めた」

 

 「……それが、今のミリオさんの覚悟ですか」

 

 「覚悟っていうか——当たり前のことなんだよね」

 

 ミリオが、少しだけ笑った。

 

 「ヒーローがマントを羽織るのはさ、痛くて辛くて苦しんでる子を包んであげるためなんだよね。それだけだよ」

 

 「……その言葉、どこかで聞きましたか」

 

 「自分で思ったんだよね。あの子を見てたら、自然と」

 

 徹郎は、少しだけ目が熱くなった。

 

 (壊理ちゃんは昨夜、ここで「手が温かかった」と言っていた)

 

 (ミリオさんの手が、温かかったと)

 

 

 

 「……一つだけ、最後に聞いていいですか」

 

 「なんでも!」

 

 「もし——その個性が、明日なくなってしまったとしたら、どうしますか」

 

 スタジオが、少しだけ静かになった。

 

 ミリオが、徹郎を見た。

 

 一瞬だけ「間」ができた。

 

 本当に一瞬だけ。

 

 そして——いつもの、迷いのない笑顔が戻った。

 

 「また一から鍛え直すだけなんだよね」

 

 「……それだけですか」

 

 「それだけ! 俺の筋肉は個性がなくなっても消えないし、三年間積み上げてきた経験も消えない。心は——個性がなくなっても、ヒーローのままでいられるから」

 

 (……この人、もうその覚悟ができている)

 

 (笑いながら、一番過酷な道を見据えている)

 

 (サーが育てた人間は——本当に、こういう人間だ)

 

 「……それって、怖くないですか」

 

 「怖い!」

 

 即答だった。

 

 「怖いよ。個性がなくなるのは怖いに決まってるんだよね。でも——」

 

 ミリオが、拳を握った。

 

 「怖くても、やるべきことはやるんだよね。ヒーローってそういうもんだから」

 

 「……すごいですね」

 

 「すごくないよ! ヒーローの基本じゃないか!」

 

 「基本のレベルがおかしいですよ、ミリオさんの」

 

 「そうかな!」

 

 「そうですよ」

 

 ミリオが、声を出して笑った。

 

 「……徹郎くん、ツッコミが上手いんだよね! サーの事務所に来ない?」

 

 「行きません。毎晩この番組があるので」

 

 「じゃあ副業で!」

 

 「副業でも行きません!!」

 

 

 

 「……ミリオさん」

 

 「なに?」

 

 「あなたがエリちゃんを『笑わせてあげたい』と思っているの——彼女に、伝わっています」

 

 ミリオが、少しだけ止まった。

 

 「……どうしてわかるの」

 

 「あの子が昨夜、ここで話してくれたので」

 

 「エリが——ここに来たんだ」

 

 「来ました。林檎の飴を食べて、パーティークラッカーのテープを大事そうに持って帰って——笑いました」

 

 ミリオの目が、大きくなった。

 

 「……笑った?」

 

 「笑いました」

 

 「……そっか」

 

 少しの沈黙だった。

 

 ミリオが、目を細めた。

 

 「……笑ってくれたんだな。よかった」

 

 「よかった、しか言わないんですか」

 

 「言葉が出てこないんだよね、今。……でも、本当に、よかった」

 

 (サーに報告したかっただろう、この言葉を)

 

 (「笑ったよ! サー! 見えるかい!」と——)

 

 (言えたかどうか、俺にはわからない。でも——今夜この人は、笑ったと聞いた)

 

 徹郎は、少し声を落とした。

 

 「ミリオさんが守ったから、あの子は笑えています」

 

 「俺だけじゃないよ。デクもいたし、みんながいた」

 

 「でも、あなたが最初に『俺が君のヒーローになる』と言ったんでしょう」

 

 ミリオが、少しだけ目を細めた。

 

 「……知ってるんだ、それも」

 

 「知っています」

 

 「……そっか」

 

 また少しの間があった。

 

 「……ありがとね、徹郎くん」

 

 「私は何もしていませんが」

 

 「してるよ。エリが笑ったって、俺に教えてくれた。それは——結構、大事なことなんだよね」

 そのとき。

 

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪

 

 エンディングのテーマが、流れ始めた。

 

 ミリオが、すっと立ち上がった。

 

 「もう三十分か! あっという間なんだよね!」

 

 「お時間です。ミリオさん、今夜は来ていただいてありがとうございました」

 

 「こちらこそ! 楽しかったよ!」

 

 「最後に——一言、いただけますか」

 

 ミリオが、少し考えた。

 

 それから——拳を、まっすぐ前に突き出した。

 

 「たとえ明日、全部なくなっても、俺は立ち続けるんだよね!」

 

 「……それは、覚悟がありすぎる一言ですね」

 

 「当然! ヒーローに覚悟は基本装備なんだよね!」

 

 「基本装備のレベルが——」

 

 「おかしい! わかってる!」

 

 二人で、少し笑った。

 

 テーマ曲が、最後の段階へ移った。

 

 ♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 「あ、一個だけ!」

 

 「なんですか」

 

 「次また会う時——もっと面白いジョークを用意しておくんだよね!」

 

 「……期待しないで待っています」

 

 「じゃあ絶対に驚かせる!」

 

 旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——

 

 「ドアから入ってきてくださいね、次は」

 

 「無理なんだよね!!」

 

 ミリオが笑いながら——床をすり抜けて、消えていった。

 

 今度こそ、床の下に。

 

 スタジオに、明るい空気だけが残った。

 

 

 

 目が覚めた。

 

 朝の七時。

 

 布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。

 

 顔が——笑っていた。

 

 泣いてもいない。感動で胸が苦しいわけでもない。

 

 ただ——笑っていた。

 

 (なんで俺は今、笑っているんだ)

 

 (治崎の次の夜に、こんなに笑えるとは思わなかった)

 

 でも——笑える夜が来た。

 

 それだけで、今日という日が少し違って見えた。

 

 「元気とユーモアのない社会に明るい未来はやってこない」

 

 サー・ナイトアイの言葉が、頭の中にあった。

 

 (この番組にも、そういう夜が必要なんだろう)

 

 (重い夜だけが続いたら、司会者が壊れる)

 

 (今夜のミリオさんは——俺に、そういう夜をくれた)

 

 攻略ノートを開いた。

 

 「通形ミリオ(17歳・三年生):今夜のゲスト。開幕一秒でソファをすり抜けて床に埋まった——対策は不明、たぶんない。ユーモアを武器にしている——サー・ナイトアイの影響。笑えるヒーローが人を救けられる、という信念は本物。壊理ちゃんを一度見逃したことを後悔している——でも、今は必ず踏み込む覚悟がある。個性を失う問いに対して『また一から』と即答した——覚悟がもうできている。壊理ちゃんが笑ったと伝えたら、言葉が出なくなっていた。危険度:低(ただしソファが透過される)」

 

 ペンを止めた。

 

 最後の一行を書いた。

 

「※『次また会う時、もっと面白いジョークを用意しておく』と言っていた。次ミリオさんが来るのが楽しみだ。この番組を始めてから、次が楽しみと思ったのは初めてかもしれない。……内緒」

 

 

 

 その日の学校は、なんとなく、足取りが軽かった。

 

 理由は特にない。

 

 強いて言えば——

 

 今朝目が覚めた時、笑っていたから。

 

 それだけだ。

 

 夜になれば、また鳴る。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪

 

 明日のゲストは誰だろう。

 

 どんな夜でも——後悔しない三十分を積み上げていく。

 

 それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。

 

 




 第18話、ミリオ回でした。治崎廻の次にこの人を持ってきたのは正解でした。「ギャグという名の暴力」という言葉を冒頭で使いましたが、ミリオのユーモアは本当にそういうものだと思います——絶望を一瞬で吹き飛ばす力がある。
 でも笑いながら、一番過酷な道を見据えている。「たとえ明日、全部なくなっても」という言葉の重さを、明るい声で言えるのがミリオという人間です。
 サー・ナイトアイが育てた人間は、こういう人間になる。それを書けてよかったと思っています。

 次回——また誰かが来ます。どんな夜も、続いていきます。 

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