僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います) 作:まだら模様
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)
「はいっ! 通形ミリオ、参上——おっと!」
登場からわずか一秒。
ソファをすり抜けて床に埋まり、満面の笑みで股間を隠しながら浮上してくる少年。
通形ミリオ——その太陽のような眩しさは、治崎廻が残した「消毒液の絶望」を、ギャグという名の暴力で開幕一秒で粉砕した。
眠りに落ちた瞬間——鳴った。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー
ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー
ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
スタジオに引き込まれた瞬間——明るかった。
物理的に、明るかった。
スタジオの照明が、今夜だけ少し明るい気がした。気のせいかもしれない。でも確かにそう感じた。
舞台袖からソファを確認した。
誰もいなかった。
(……え? 来てない?)
「はいっ! 通形ミリオ、参上——おっと!」
ソファの真ん中から、人間の上半身が生えてきた。
ソファをすり抜けて床まで落ちたらしい。
満面の笑みで股間を隠しながら、ゆっくりと浮上してくる。
「ちょっとコントロールが甘かったなぁ! 服は無事だった、よかった!」
(ソファから生えてきた……!)
(大丈夫か俺の番組……!)
「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」
「こんばんは! すごいな、本当にテレビのスタジオみたいなんだよね! あ、テレビのスタジオか!」
ミリオが、完全にソファの上に浮上してきた。
改めて座り直した。今度はちゃんと、ソファの上に。
「本日のゲストをご紹介します——」
「通形ミリオ! 雄英三年B組! ヒーロー名はルミリオン! レミオロメンみたいでカッコいいだろ!」
「……よく知っています。ルミリオンさん、今夜は来ていただいて——」
「ミリオでいいよ! 先輩面するのが苦手なんだよね!」
「……ミリオさん、でよいですか」
「どっちでも!」
(治崎の次にこれが来るとは……!)
(ありがとう神様。本当に今夜だけはあなたを信じます……!)
「ミリオさん、今いくつですか」
「十七! 三年生!」
(十七歳。三年生。壊理ちゃんを救出する前後の時期だ——)
(壊理ちゃんは昨夜ここに来た。今夜はその壊理ちゃんを「俺が君のヒーローになる」と言って守った人が来ている)
「……では、改めて。今夜はどんな調子ですか」
「最高! さっき訓練してきたんだよね! 相澤先生…イレイザーヘッドにしごかれまくったけど、最高だった!」
「……最高の基準が高いですね」
「しごかれないと成長できないから——あ、でもこのスタジオはすごいよ! 壁の透過率が均一で、埋まり甲斐があるんだよね!」
「壁に埋まらないでください」
「試してみたいんだよね! 通過できる素材と通過できない素材の見分け方がさ、まだ完璧じゃないから——」
「番組中にその研究はやめてください」
「じゃあ帰りに!」
「帰りもやめてください!!」
(治崎の消毒液が、頭から全部吹き飛んでいく……!)
「……ミリオさん、一つ確認させてください」
「なに?」
「この番組のルールを知っていますか」
「ゲストと三十分話せば、司会者が現実に戻れる夢の番組——そういうことだよね! さっきから観察してたんだよね、このスタジオ」
「……二言目で把握しているんですね」
「サーの訓練で、状況把握は叩き込まれたんだよね! どんな場所でも、まず環境を読む。それが基本だって」
「サー、というのはサー・ナイトアイのことですか」
「そう! 俺のインターン先の師匠なんだよね!」
「……どんな方ですか」
ミリオが、少し目を輝かせた。
「最高の人なんだよね! ものすごく厳しいし、見た目は怖いし、目が合うだけで腰が引けそうになるけど——ユーモアが大好きな人で、『元気とユーモアのない社会に明るい未来はやってこない』が口癖なんだよね!」
「……それは、独特な口癖ですね」
「でも本当のことなんだよね! 俺もそう思う。笑えない人間にヒーローは難しいと思うから」
「笑えない人間に、ですか」
「そう。困ってる人の傍に来て、一緒に泣くだけじゃ、救けたことにはならないんだよね。笑顔を見せてあげることで、初めて『大丈夫だ』って伝わる。サーはそれをちゃんと知ってる人なんだよね」
(これが——ユーモアがヒーローの武器だという信念か)
(サー・ナイトアイが育てた人間は、こういう人間になるんだ)
「では、コーナーをやってみたいんですが」
「コーナー! 好きだよそういうの!」
「『ユーモア・イズ・パワー』というコーナーです。私が悩み相談を出すので、ミリオさんが解決してください」
「任せろ!」
「最初の相談——最近、何をやっても上手くいかなくて、落ち込んでいます」
ミリオが、即座に立ち上がった。
「じゃあ、見てて!」
そして——ソファをすり抜けた。
床に埋まった。
また浮上してきた。
「俺も今さっきコントロールミスして床に埋まったんだよね! でも落ち込んでない! なぜかって言うと——」
「なぜですか」
「転んでる間も、ちゃんと前に進んでるから! 床に埋まっても、また出てきた! それでいいんだよね!」
「……その理論だと埋まることが前提になっていますよね?」
「前提! 人生は埋まることの連続なんだよね!」
(そのメタファー、ミリオさんの個性を抜きにして聞くとかなり深い話なんですが……!)
「次の相談——頑張っているのに、誰にも認めてもらえません」
ミリオが、少しだけ考えた。
今度は即答しなかった。
「……俺も最初はそうだったんだよね」
「え?」
「個性の制御が全然できなくて、透過しっぱなしで服もなくなって——訓練しても訓練しても、全然うまくいかなくて。三年間、ビリっけつのことも多かったんだよね」
「……ミリオさんが、ですか」
「そう。でも——」
ミリオが、真っすぐ徹郎を見た。
「その三年間は無駄じゃなかった。全部が今に繋がってたんだよね。だから——誰かに認めてもらえなくても、自分が積み上げてきたものは本物だって、信じていいと思う」
「……それは」
「あと、いつか絶対に誰かが見てるから。ちゃんと努力してる奴を、見てる人間は必ずいるんだよね」
(……今、この人は何気なく言ったけれど)
(この言葉は——前世で泥を啜ってきた俺にも、刺さる)
十五分が過ぎた頃。
「……ミリオさん、少し踏み込んでいいですか」
「どうぞ!」
「壊理ちゃんのことを、聞いていいですか」
ミリオの顔が、少しだけ変わった。
笑顔は消えなかった。でも——少し、重さが加わった。
「……エリのこと、知ってるんだ」
「概要は把握しています」
「今、どういう状況かも?」
「……ある程度は」
ミリオが、少しだけ前を向いた。
「……一度、見逃してるんだよね。俺」
「知っています」
「街で会った時。一緒に連れて帰れたのに——証拠が足りなくて、踏み込めなかった。あの時エリが怖がってる顔を見て、それでも俺は行かなかった」
「……それは」
「後悔してるんだよね。ずっと」
静かな声だった。
今夜初めて——明るさと全く別の声が出た。
「……でも、今は」
「今は——絶対に助けるって、決めてる。今度こそ、どんな状況でも踏み込む。それだけは決めた」
「……それが、今のミリオさんの覚悟ですか」
「覚悟っていうか——当たり前のことなんだよね」
ミリオが、少しだけ笑った。
「ヒーローがマントを羽織るのはさ、痛くて辛くて苦しんでる子を包んであげるためなんだよね。それだけだよ」
「……その言葉、どこかで聞きましたか」
「自分で思ったんだよね。あの子を見てたら、自然と」
徹郎は、少しだけ目が熱くなった。
(壊理ちゃんは昨夜、ここで「手が温かかった」と言っていた)
(ミリオさんの手が、温かかったと)
「……一つだけ、最後に聞いていいですか」
「なんでも!」
「もし——その個性が、明日なくなってしまったとしたら、どうしますか」
スタジオが、少しだけ静かになった。
ミリオが、徹郎を見た。
一瞬だけ「間」ができた。
本当に一瞬だけ。
そして——いつもの、迷いのない笑顔が戻った。
「また一から鍛え直すだけなんだよね」
「……それだけですか」
「それだけ! 俺の筋肉は個性がなくなっても消えないし、三年間積み上げてきた経験も消えない。心は——個性がなくなっても、ヒーローのままでいられるから」
(……この人、もうその覚悟ができている)
(笑いながら、一番過酷な道を見据えている)
(サーが育てた人間は——本当に、こういう人間だ)
「……それって、怖くないですか」
「怖い!」
即答だった。
「怖いよ。個性がなくなるのは怖いに決まってるんだよね。でも——」
ミリオが、拳を握った。
「怖くても、やるべきことはやるんだよね。ヒーローってそういうもんだから」
「……すごいですね」
「すごくないよ! ヒーローの基本じゃないか!」
「基本のレベルがおかしいですよ、ミリオさんの」
「そうかな!」
「そうですよ」
ミリオが、声を出して笑った。
「……徹郎くん、ツッコミが上手いんだよね! サーの事務所に来ない?」
「行きません。毎晩この番組があるので」
「じゃあ副業で!」
「副業でも行きません!!」
「……ミリオさん」
「なに?」
「あなたがエリちゃんを『笑わせてあげたい』と思っているの——彼女に、伝わっています」
ミリオが、少しだけ止まった。
「……どうしてわかるの」
「あの子が昨夜、ここで話してくれたので」
「エリが——ここに来たんだ」
「来ました。林檎の飴を食べて、パーティークラッカーのテープを大事そうに持って帰って——笑いました」
ミリオの目が、大きくなった。
「……笑った?」
「笑いました」
「……そっか」
少しの沈黙だった。
ミリオが、目を細めた。
「……笑ってくれたんだな。よかった」
「よかった、しか言わないんですか」
「言葉が出てこないんだよね、今。……でも、本当に、よかった」
(サーに報告したかっただろう、この言葉を)
(「笑ったよ! サー! 見えるかい!」と——)
(言えたかどうか、俺にはわからない。でも——今夜この人は、笑ったと聞いた)
徹郎は、少し声を落とした。
「ミリオさんが守ったから、あの子は笑えています」
「俺だけじゃないよ。デクもいたし、みんながいた」
「でも、あなたが最初に『俺が君のヒーローになる』と言ったんでしょう」
ミリオが、少しだけ目を細めた。
「……知ってるんだ、それも」
「知っています」
「……そっか」
また少しの間があった。
「……ありがとね、徹郎くん」
「私は何もしていませんが」
「してるよ。エリが笑ったって、俺に教えてくれた。それは——結構、大事なことなんだよね」
そのとき。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪
エンディングのテーマが、流れ始めた。
ミリオが、すっと立ち上がった。
「もう三十分か! あっという間なんだよね!」
「お時間です。ミリオさん、今夜は来ていただいてありがとうございました」
「こちらこそ! 楽しかったよ!」
「最後に——一言、いただけますか」
ミリオが、少し考えた。
それから——拳を、まっすぐ前に突き出した。
「たとえ明日、全部なくなっても、俺は立ち続けるんだよね!」
「……それは、覚悟がありすぎる一言ですね」
「当然! ヒーローに覚悟は基本装備なんだよね!」
「基本装備のレベルが——」
「おかしい! わかってる!」
二人で、少し笑った。
テーマ曲が、最後の段階へ移った。
♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
「あ、一個だけ!」
「なんですか」
「次また会う時——もっと面白いジョークを用意しておくんだよね!」
「……期待しないで待っています」
「じゃあ絶対に驚かせる!」
旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——
「ドアから入ってきてくださいね、次は」
「無理なんだよね!!」
ミリオが笑いながら——床をすり抜けて、消えていった。
今度こそ、床の下に。
スタジオに、明るい空気だけが残った。
目が覚めた。
朝の七時。
布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。
顔が——笑っていた。
泣いてもいない。感動で胸が苦しいわけでもない。
ただ——笑っていた。
(なんで俺は今、笑っているんだ)
(治崎の次の夜に、こんなに笑えるとは思わなかった)
でも——笑える夜が来た。
それだけで、今日という日が少し違って見えた。
「元気とユーモアのない社会に明るい未来はやってこない」
サー・ナイトアイの言葉が、頭の中にあった。
(この番組にも、そういう夜が必要なんだろう)
(重い夜だけが続いたら、司会者が壊れる)
(今夜のミリオさんは——俺に、そういう夜をくれた)
攻略ノートを開いた。
「通形ミリオ(17歳・三年生):今夜のゲスト。開幕一秒でソファをすり抜けて床に埋まった——対策は不明、たぶんない。ユーモアを武器にしている——サー・ナイトアイの影響。笑えるヒーローが人を救けられる、という信念は本物。壊理ちゃんを一度見逃したことを後悔している——でも、今は必ず踏み込む覚悟がある。個性を失う問いに対して『また一から』と即答した——覚悟がもうできている。壊理ちゃんが笑ったと伝えたら、言葉が出なくなっていた。危険度:低(ただしソファが透過される)」
ペンを止めた。
最後の一行を書いた。
「※『次また会う時、もっと面白いジョークを用意しておく』と言っていた。次ミリオさんが来るのが楽しみだ。この番組を始めてから、次が楽しみと思ったのは初めてかもしれない。……内緒」
その日の学校は、なんとなく、足取りが軽かった。
理由は特にない。
強いて言えば——
今朝目が覚めた時、笑っていたから。
それだけだ。
夜になれば、また鳴る。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪
明日のゲストは誰だろう。
どんな夜でも——後悔しない三十分を積み上げていく。
それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。
第18話、ミリオ回でした。治崎廻の次にこの人を持ってきたのは正解でした。「ギャグという名の暴力」という言葉を冒頭で使いましたが、ミリオのユーモアは本当にそういうものだと思います——絶望を一瞬で吹き飛ばす力がある。
でも笑いながら、一番過酷な道を見据えている。「たとえ明日、全部なくなっても」という言葉の重さを、明るい声で言えるのがミリオという人間です。
サー・ナイトアイが育てた人間は、こういう人間になる。それを書けてよかったと思っています。
次回——また誰かが来ます。どんな夜も、続いていきます。
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