僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います)   作:まだら模様

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※ちなみにどの時系列のキャラが来るかは不明で、同一人物でも別の時間軸やこの本編の時期や季節、年月が違う人がこの空間に誘われてきます。
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)



第27回:常闇踏陰

 

 

 「……光が強ければ、影もまた濃くなる。この部屋に溜まった『想い』は、いささか濃度が高すぎるようだ」

 

 灯りを落としたスタジオの隅に、漆黒の外套を纏った少年が、彫像のように静かに佇んでいた。

 

 常闇踏陰——闇を友とし、闇に苛まれる彼こそが、前回の「(ねじれ)」に揺らされた徹郎の心象を、最も正確に写し出す鏡となった。

 

 

 

 眠りに落ちた瞬間——鳴った。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー

  ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー

  ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 スタジオに引き込まれた瞬間——暗かった。

 

 照明が、いつもより落ちている気がした。

 

 スタジオの隅に、影が濃かった。

 

 舞台袖からソファを確認した。

 

 少年が、立っていた。

 

 ソファには座らず——スタジオの暗い隅に、腕を組んで、静かに立っていた。

 

 漆黒の外套。鳥のような顔立ち。深い目。

 

 そして外套の影から、黒い何かがのぞいていた。

 

 「……」

 

 少年は何も言わなかった。

 

 でも——その黒い何かが、にゅっと外套から顔を出した。

 

 大きな目が、スタジオを見回した。

 

 「おっ! ここ、いい感じに暗いじゃん! ボク好き好き!!」

 

 (二人来た!!)

 

 (少年と、その中から出てきた黒い何かと、二人来た……!!)

 

 

 

 「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」

 

 「……来たぞ」

 

 「……来てくれてありがとうございます、常闇くん」

 

 「うむ」

 

 「本日のゲストをご紹介します——」

 

 「常闇踏陰。漆黒ヒーロー、ツクヨミ。それだけで十分であろう」

 

 (また自己紹介を奪われた……!! この番組のゲストは全員自己紹介を先にしていく……!!)

 

 「……常闇くん、今夜はよく来てくれました」

 

 「この空間、悪くない。沈黙の重さが適度にある」

 

 「……ありがとうございます」

 

 「褒めていない。観察だ」

 

 (相澤先生と同じ「褒めていない」が出た……!)

 

 「……あの、ソファに座っていただけますか」

 

 「……うむ」

 

 常闇が、ゆっくりとソファに歩いてきた。

 

 座った。

 

 外套がソファを覆った。

 

 外套の中から、黒い何かがぬるりと出てきた。

 

 「おっ、このソファ、やわらか~!!」

 

 「常闇くん」

 

 「なんだ」

 

 「……その、黒影くん……でいいですか。カメラのレンズを舐めないでください。曇って何も見えなくなります」

 

 「黒影!! やめろ!!」

 

 「えー! だって気になるんだも~ん!!」

 

 常闇が、黒影をぱしっと外套の中に引き戻した。

 

 「……失礼した。コイツはこの空間の暗さを気に入ってしまったようで」

 

 「……ありがとうございます。そのお気持ちは嬉しいですが」

 

 「うむ。以後気をつける」

 

 黒影がまた、外套からちょっとだけ顔を出した。

 

 「ねぇ~、ボクも番組に出ていい~?!」

 

 「黙れ!!」

 

 「……あの、常闇くん」

 

 「なんだ」

 

 「黒影くんも、ゲストとして扱ってかまいませんか」

 

 常闇が、少しだけ止まった。

 

 「……この番組、黒影も受け入れるのか」

 

 「はい。二人で来たのなら、二人で話を聞きます」

 

 黒影が、外套からにょろりと出てきた。

 

 「やった~!!!」

 

 (この子、めちゃくちゃ元気だな……!!)

 

 

 

 「常闇くん、今いくつですか」

 

 「十五。雄英一年だ」

 

 (十五歳。林間合宿の前か後か——どちらにしても、黒影の暴走を経験した時期に近い)

 

 「……今夜は、どんな調子ですか」

 

 「……まあまあといったところだ」

 

 「まあまあ」

 

 「闇は今夜も深い。ダークシャドウも落ち着いている。それだけのことだ」

 

 「……闇が深い方が、落ち着くんですか」

 

 「そうだ。俺は光の中より、闇の中の方が、自分でいられる」

 

 「……どうしてですか」

 

 「光の中では、全てが露わになる。隠していたいものも、見せたくないものも、全て照らされる。……闇の中では、必要なものだけが見える」

 

 「……必要なものだけ」

 

 「そうだ。余計なものが削ぎ落とされた暗闇の中でこそ、本質が見える。それが俺の信念だ」

 

 (これは厨二病の言い回しだけど——言っていることの核心は本物だ)

 

 (必要なものだけが見える、か)

 

 「……黒影くんはどうですか」

 

 「ボク!?」

 

 「今夜のコンディションを」

 

 「最高~!! このスタジオ、いい感じに暗くて好きよ!! 徹郎くんのこと、ボク好きになっちゃったかも!!」

 

 「……ありがとうございます」

 

 「でもさ~」

 

```

黒影が、少しだけ声のトーンを落とした。

```

 

 「徹郎くん、なんか甘いもんの匂いするのに……時々、ちょっと変な音がするんだよね」

 

 「変な音?」

 

 「なんか……消えちゃいそうな音。ボクにしか聞こえないかもしれないけど」

 

 徹郎は、少しだけ固まった。

 

 常闇が、静かに黒影を見た。

 

 「……コイツは、嘘をつかない。感じたことをそのまま言う」

 

 「……そうですか」

 

 「気に障ったなら詫びる」

 

 「……気に障っていません。ただ——少し、驚きました」

 

 

 

 「……コーナーをやってもいいですか」

 

 十分が過ぎた頃、徹郎が言った。

 

 「……なんだ」

 

 「『深淵の黙示録』というコーナーです。私が問いを出すので、常闇くんが答えてください」

 

 常闇が、少しだけ目を細めた。

 

 「……面白い名前だ。やろう」

 

 「最初の問い——自分の居場所がどこにもないと感じる人へ、何か言いますか」

 

 常闇が、腕を組んだ。

 

 「……居場所を外に求めるから、見つからないのだ」

 

 「外に、ですか」

 

 「己の内に深淵を持て。独りであることは、孤高であることと同義だ。闇の中でこそ、真に自分を視ることができる」

 

 (かっこいい……!!)

 

 (厨二っぽい言い回しだけど、言っていることが本物すぎる……!!)

 

 「……それは、経験から言っていますか」

 

 「……そうだ」

 

 「どんな経験ですか」

 

 「俺の個性は、闇が深すぎると制御を失う。それは俺の弱点だ。だが——その弱点と向き合い続けることで、俺は自分の闇を知った。知ることは、恐れを和らげる」

 

 「……自分の闇を知ることが、制御に繋がる」

 

 「共存だ。制御ではなく、共存。黒影は俺の一部だ。俺が黒影を押さえつけるのではなく——俺と黒影が、同じ方向を向いて動く。それが俺の求める境地だ」

 

 「ボク~!! 踏陰がいいこと言ってるよ~!!」

 

 「黙れ黒影!!」

 

 「えへへ!!」

 

 (このコンビ、なんか好きだ……!!)

 

 「次の問い——ダークシャドウくんから見て徹郎はどうですか」

 

 「え!? ボクが答えるの!?」

 

 「黒影くんの視点で」

 

 「うえ〜い!! じゃあ……徹郎くん、いい匂いするよ! 甘くて、でもちょっと疲れた匂い。でもさ、ボクが一番気になるのは」

 

 「気になること?」

 

 「徹郎くんが誰かの話を聞いてる時の音——すごくいい音がするんだよね! なんか、ちゃんと受け取ってる音!!」

 

 「……ちゃんと受け取ってる音」

 

 「でも、時々さっきの消えちゃいそうな音が混ざるから……ボクはそれが、心配なんだよね」

 

 常闇が、徹郎を見た。

 

 「……コイツが心配するのは珍しい」

 

 「そうなんですか」

 

 「俺に対しても、そういうことを言ったことはない」

 

 「踏陰は強いもん! 徹郎くんは……なんか、一人で全部受け取りすぎてる感じがして。ボク、そういう子のこと、ほっとけないんだよね」

 

 (心音まで読まれた……!!)

 

 (この子は、感じる力がある……!!)

 

 

 

 「……一つだけ、踏み込んでいいですか」

 

 徹郎が、少し声を落とした。

 

 「どうぞ」

 

 「常闇くんは——自分の中の黒影との共存を、どうやって成し遂げましたか」

 

 常闇が、少しだけ前を向いた。

 

 「……成し遂げた、とは言えない。今も途中だ」

 

 「途中、ですか」

 

 「俺は黒影を制御しようとした時期があった。力を押さえ込もうとした。だが——それは違った」

 

 「……どう違ったんですか」

 

 「押さえ込むほどに、コイツは暴れた。俺が恐れるほどに、コイツは大きくなった。……だから今は、向き合っている。コイツの声を聞く。コイツが何を感じているか、確認する。そうすることで——暴走が減った」

 

 「向き合うことで、落ち着く」

 

 「そうだ。恐れているものから目を逸らすと、それは膨らむ。直視することで、初めて扱えるようになる」

 

 徹郎は、少しだけ黙った。

 

 「……徹郎」

 

 「はい」

 

 「お前は、この番組という場所に、多くのものを受け取り続けてきた。それは分かる。だが——」

 

 「だが?」

 

 「受け取り続けるだけでは、器が溢れる。いつか、食い破られるぞ」

 

 スタジオが、静かになった。

 

 「……ねじれさんにも、言われました。心がすり減っていると」

 

 「……波動か。あいつは感覚が鋭い」

 

 「常闇くんも、そう思いますか」

 

 「思う。この空間に充満する声の重さは——尋常ではない。エンデヴァー、荼毘、ミッドナイト、白雲——そういう声の残滓が、まだここに残っている」

 

 「……感じ取れるんですか」

 

 「俺は闇に慣れている。だから、闇の中に残るものが見える。……徹郎。お前は一人で、これを受け取り続けてきた」

 

 「……はい」

 

 「それは——重い」

 

 「……わかっています」

 

 「わかっていて、続けているのか」

 

 「……続けています」

 

 常闇が、少しだけ目を細めた。

 

 「……お前、心の底から友を想う人間だな」

 

 「……友、ですか」

 

 「この番組に来た者たちは、皆お前を信頼して話した。それは友の関係に近い。翌朝忘れるとしても——お前がその声を抱えていることは、友情の形の一つだ」

 

 徹郎は、少しだけ目が熱くなった。

 

 (友情、か)

 

 (今まで一度も、そう思ったことがなかった)

 

 「……ありがとうございます」

 

 「礼は要らない。観察だ」

 

 「また観察って言った」

 

 「……うむ」

 

 常闇が、少しだけ口の端を動かした。

 

 笑ったわけじゃない。でも——確かに、何かが動いた。

 

 

 

 「……もう一つ聞いていいですか」

 

 「なんだ」

 

 「常闇くんは、自分の中二病的な言い回しを——自覚していますか」

 

 スタジオが、静かになった。

 

 常闇が、少しだけ固まった。

 

 「……中二病、とは」

 

 「深淵とか、漆黒とか、虚無とか——少し芝居がかった言い方をすることが多いですよね」

 

 「……それは、俺の美学だ」

 

 「美学ですか」

 

 「そうだ。言葉は思想の器だ。貧相な言葉で貧相な思想を語るより、それに見合った言葉を選ぶ方が誠実だ」

 

 「……それは、一理あります」

 

 「一理どころか、全理だ」

 

 (全理……!!)

 

 (この言葉、今まで聞いたことがなかった……!!)

 

 「……でも、クラスメイトに笑われることはないですか」

 

 「……ある」

 

 「どんな時に」

 

 「技名を叫んだ時。自室を見られた時。読んでいる本のタイトルを見られた時」

 

 「それでも、やめない」

 

 「やめない。俺が俺である以上、俺の言葉を使う。それが俺の矜持だ」

 

 「……かっこいいですね」

 

 「……そうだろう」

 

 常闇が、少しだけ胸を張った。

 

 (さらっと肯定した……!!)

 

 (でも——本当にかっこいいから、否定できない……!!)

 

 「踏陰、かっこいいよね~!! ボク、踏陰のこと好き好き!!」

 

 「わかっている。黙れ」

 

 「えへへ!!」

 

 

 

 そのとき。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪

 

 エンディングのテーマが、流れ始めた。

 

 常闇が、立ち上がった。

 

 「……時間か」

 

 「お時間です。常闇くん、今夜は来てくれてありがとうございました」

 

 「最後に一言だろう」

 

 「お願いします」

 

 常闇が、少しだけ徹郎を見た。

 

 「……徹郎」

 

 「はい」

 

 「この放送が終わるまでの間——お前の抱える痛みを、我々が預かろう」

 

 「……え」

 

 「深淵に沈めれば、誰にも悟られることはない。俺とコイツが、今夜限り、その重荷を共に引き受ける」

 

 (……厨二病の言い回しだけど)

 

 (それは——本当に優しい言葉だ)

 

 「……ありがとうございます」

 

 「礼は——」

 

 「観察じゃないです。ちゃんと受け取ります」

 

 常闇が、少しだけ止まった。

 

 そして——わずかに、頷いた。

 

 テーマ曲が、最後の段階へ移った。

 

 ♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 「踏陰踏陰! 最後に言いたいことある!!」

 

 「……手短に」

 

 「徹郎くん! 消えちゃいそうな音、もうちょっと減ってたよ! 今夜は!!」

 

 「……そうですか」

 

 「うん!! またね!! ボク、また来るね!!」

 

 旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——

 

 「……さらばだ、徹郎。……君の夜が、いつか暁に祝福されることを、闇の中から祈っていよう」

 

 常闇の姿が、漆黒の外套とともに、スタジオの影に溶けていった。

 

 黒影の「またね~!!」という声だけが、一瞬だけ残って——消えた。

 

 スタジオの隅に、黒い羽根が一枚だけ、落ちていた。

 

 

 

 目が覚めた。

 

 朝の六時。

 

 布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。

 

 (……救われた)

 

 明るい光の中で自分を晒すのは怖かった。

 

 でも——闇の中でなら、少しだけ自分を許せる気がした。

 

 「消えちゃいそうな音、もうちょっと減ってたよ、今夜は」

 

 黒影の言葉が、頭の中にあった。

 

 (……減ってたのか)

 

 (自分では気づかなかったけれど)

 

 攻略ノートを開いた。

 

 「常闇踏陰(15歳・一年):今夜のゲスト。黒影も一緒に来た——二人で来た初めてのゲストだ。スタジオの暗い隅に立っていた——ソファに座るより立つ方が落ち着くらしい。黒影がカメラのレンズを舐めようとした——要注意。カメラを曇らせる可能性あり。中二病的な言い回しが多い——でも言っていることの核心は全部本物だ。深淵・漆黒・虚無——言葉は思想の器、という哲学があった。黒影が『消えちゃいそうな音がする』と言っていた——今夜の終わりには、減ったと言っていた。危険度:低(黒影が暗いところで暴走する可能性のみ)」

 

 ペンを止めた。

 

 最後の一行を書いた。

 

「※『全理だ』という言葉を初めて聞いた。使えるかどうかわからないが、覚えておく。常闇くんの厨二病は本物だ。でも——その言葉の裏にある優しさも、本物だった。黒影くん、ありがとう。内緒」

 

 

 

 スタジオを出る前に、徹郎は床に落ちた黒い羽根を拾い上げた。

 

 手の中で、少しだけ光を反射した。

 

 (……よし)

 

 徹郎は少しだけ、深呼吸をした。

 

 (ねじれさんが揺らして、常闇くんが整えてくれた)

 

 (闇の中で少し休ませてもらった)

 

 (そろそろ——明かりを点けるか)

 

 夜になれば、また鳴る。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪

 

 明日のゲストは誰だろう。

 

 それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。

 




 第27話、常闇踏陰回でした。中二病の言い回しが「笑えるのに刺さる」構造を書きたくて、この話を書きました。「全理だ」という言葉が、今回一番好きな台詞です。芝居がかっているのに、言っていることが本物すぎて否定できない——それが常闇踏陰という人間でした。
 黒影が「消えちゃいそうな音、今夜は減ってたよ」と言った瞬間——それが今話の全てでした。

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