僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います) 作:まだら模様
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)
「最高だなこの番組!」
「……いや、ゴミ溜めだわ!」
マスクを被り、支離滅裂な自己矛盾を叫びながら、その男はスタジオの均衡を瞬時にぶち壊した。
眠りに落ちた瞬間——鳴った。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー
ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー
ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
スタジオに引き込まれた瞬間——騒がしかった。
一人なのに、騒がしかった。
舞台袖からソファを確認した。
男が、立っていた。
ソファに座らず、スタジオの真ん中で、腕を振り回していた。
全身黒灰色のラバースーツ。顔全体を覆うマスク。左腕に巻き尺。
「このスタジオ、広い!」
「……狭いな!」
「照明、いい感じだ!」
「……眩しくて死ぬわ!」
(一人で二人分喋っている……!!)
(しかも全部矛盾している……!!)
「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」
「こんばんは!」
「……誰だよ!」
「……黒柳徹郎です。この番組の司会者です」
「司会者か! 最高じゃないか!」
「……ゴミだな!」
(ゴミ……!! 今夜のスタートが一番キツい言われ方だった……!!)
「本日のゲストをご紹介します——」
「トゥワイスだ! 以後よろしくな!」
「……分倍河原仁! 覚えなくていいぞ!」
(自己紹介の時点で情報量で溺れそうだ……!!)
「……トゥワイスさん、今夜は来ていただいてありがとうございます」
「礼なんていらねぇ!」
「……もっと言え!」
(もっと言えと言われた……!!)
「……では、改めて言います。来てくれて、本当によかったです」
「最高だ!」
「……反吐が出るぜ!」
(どっちだ……!!)
「……あの、テロップに出す言葉——今の『最高』と『ゴミ溜め』、どちらを使えばいいですか」
「最高の方に決まってんだろ!」
「……ゴミの方を使え!」
「……両方出します」
「天才だ!」
「……バカじゃないか!」
(褒めてくれている……たぶん……!!)
「座ってもらえますか」
「座る!」
「……立つ!」
「座る、でお願いします」
「了解!」
「……嫌だ!」
でもトゥワイスは座った。
ソファにどかっと座った。
「……ありがとうございます」
「礼はいらないと言った!」
「……もっと言え!」
(この人との会話、体力を使う……!!)
(でも——なぜか、嫌いじゃない雰囲気がある)
(うるさいけど、怖くない)
「……まず確認させてください。今いくつですか」
「三十一だ!」
「……違う!」
「……三十一を信じます」
「正解だ!」
「……不正解だ!」
(どっちだ……!!)
「……この番組のルールはわかりますか」
「三十分話せばお前が現実に帰れる、失敗したら幽閉だろ! 全部お見通しだぜ!」
「……知るか!」
「……知っている方が本音ですね」
「正解!」
「……不正解!」
(この人は——最初に言ったことが本音で、後の言葉が反対になっている)
(それがわかれば、この人と話せる)
「……一つだけ確認していいですか」
「なんだ!」
「……なんでもない!」
「なんだ、の方を聞きます」
「賢いな!」
「……バカだな!」
「……トゥワイスさんの喋り方のパターン、少しわかってきました」
「気づいたか!」
「……気づくな!」
「気づいた方が本音ですね」
「そうだ!」
「……違う!」
「……最初に言った言葉が本音で、後に続く言葉がその反対——ということですよね」
トゥワイスが、少しだけ止まった。
「……よくわかったな」
矛盾がなかった。
「……三十一話目です。色々な人と話してきたので、少しは慣れました」
「三十一人目か! すごいじゃないか!」
「……どうってことない!」
(すごいじゃないかが本音だ。嬉しい)
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「コーナーをやってもいいですか」
十分が過ぎた頃、徹郎が言った。
「やる!」
「……やらない!」
「やる、でお願いします。『お前が二人!どっちが本音?』というコーナーです」
「名前が最高だ!」
「……ゴミだな!」
「……最初の言葉で受け取ります。ありがとうございます」
「どういたしまして!」
「……死ね!」
(どういたしまして、が本音だ。礼儀はある)
「最初の問い——ヒーローを目指しているのかわからなくなった人に、何か言いますか」
「やめちまえ!」
「……死ぬ気で続けろ!」
「どちらが本音ですか」
「……どっちも本音だ!」
「え?」
「迷ってるお前も、確信してるお前も、どっちも『お前』だろ! どっちかが消えたら、もうそれはお前じゃねぇんだよ! 全部抱えてろ、バカ野郎!」
矛盾がなかった。
(……これは、本音だ。全部本音だ)
(理屈はメチャクチャだけど——なぜか元気が出る……!!)
「……次の問いです。この番組に来て、思ったことはありますか」
「お前の声、震えてていいぞ!」
「……次はもっとマシな服着てこい!」
(服の話は初めて出た……!! 気にしていたのか……!!)
「震えている声が、いいと思ってくれるんですか」
「ああ!」
「……違う!」
「ああ、が本音ですね」
「……まあな」
「……ありがとうございます」
「……一つだけ、踏み込んでいいですか」
徹郎が、少し声を落とした。
「なんだ!」
「……黙れ!」
「……聞いてください」
「聞く!」
「……聞かない!」
「……最近、色々な人に言われたことがあって」
「なんだ?」
矛盾がなかった。
「社会的な意味があるのか、記録に残るのか、責任は誰が取るのか——この番組をやり続けることに、意味があるのかって。ずっと、迷っていたんです」
「……それで?」
「それでも続けていて——でも、迷いが消えたわけじゃなくて」
トゥワイスが、少しだけ前を向いた。
「は? 知るかよそんなもん!」
「……え」
「社会が意味あるかどうかとか、記録に残るとか残らないとか——そういうの、知るかよ!」
矛盾がなかった。
完全に、矛盾がなかった。
「……俺な、社会にゴミだって捨てられたんだよ。ちょっとしたつまずきから、転がり落ちて——気づいたら誰もいなかった。社会も、法も、正義も——俺を拾ってくれなかった」
「……それは」
「でもな」
トゥワイスが、声を上げた。
「仲間だけが、『ここにいろ』って言ってくれたんだよ! それだけで十分だろ! 社会? 正義? そんなもん、俺たちの居場所より大事かよ!」
「……トゥワイスさん」
「お前の番組で誰か一人が『生きてていい』って思えたなら、それで全部お釣りが出るんだよ!!」
スタジオが、静かになった。
徹郎は、少しだけ固まった。
(……これは)
(ジーニストさんの言葉が頭に来た。耳郎さんの言葉が。塚内警部の言葉が)
(全部、重くて、正しくて——でも今夜の言葉が、一番、真っ直ぐに来た)
「……それは、本当のことを言っていますか」
「本当だ!」
「……嘘だ!」
「本当だ、が本音ですね」
「……ああ」
「……トゥワイスさん」
徹郎が、静かに言った。
「なんだ!」
「……あなたを拾ってくれた仲間を、大切にしてください」
トゥワイスが、少しだけ止まった。
「……当然だろ」
矛盾がなかった。
「あいつらがいなかったら——俺、とっくに終わってたんだよ。それだけは、確かだ」
「……確かですか」
「確かだ!」
「……違う!」
「確かだ、が本音ですね」
「……まあな」
「……あなたが仲間のために動こうとする気持ちは——本物だと思います」
「そうだ!」
「……違う!」
「そうだ、を信じます」
「……ありがとな」
静かな声だった。
矛盾がなかった。
徹郎は、少しだけ目が熱くなった。
(この人は——社会から落ちて、自分が本物かもわからなくなって、でも仲間を見つけた)
(その仲間のためなら、何でもすると言っている)
(それは——純粋で、だからこそ、怖い)
(でも今夜だけは、その純粋さに、救われた気がする)
「……いいか、徹郎」
トゥワイスが、少しだけ前に身を乗り出した。
「お前は、お前を信じてくれる奴のためにだけマイクを握ればいいんだ」
「……それは」
「たとえ世界がそれを無駄だと呼んでも、誰かがそこに意味を見つけたなら、それが全部だろ」
「……でも、それだけでいいんですか」
「いい!」
「……ダメだ!」
「いい、が本音ですね」
「……そうだ。お前みたいな奴が、一人でもいてくれたら——社会からゴミだって言われて落ちてる奴が、少しだけ息ができる。それだけで十分なんだよ」
「……あなたが言うから、信じられます」
「なんでだよ!」
「……あなた自身が、そういう人に救われてきたから」
トゥワイスが、少しだけ黙った。
「……まあな」
「……ありがとうございます」
「礼はいらない!」
「……もっと言え!」
「……もっと言います。今夜、あなたに会えてよかったです」
「最高だ!」
「……反吐が出るぜ!」
(最高だ、が本音だ。絶対に)
そのとき。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪
エンディングのテーマが、流れ始めた。
トゥワイスが、ぱっと立ち上がった。
「もう時間か! 早い!」
「……遅い!」
「お時間です。トゥワイスさん、今夜は来てくれてありがとうございました」
「こちらこそ!」
「……死ねよ!」
「……こちらこそ、が本音ですね。ありがとうございます」
「最後に一言、いただけますか」
トゥワイスが、少しだけ考えた。
「……ありがとな、徹郎!」
「……死ね!」
「ありがとう、が本音ですね」
「……まあな!」
テーマ曲が、最後の段階へ移った。
♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
「また呼んでくれよな!」
「……二度と来るか!」
「また呼んでくれよな、が本音ですね」
「……当然だろ!」
旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——
「あいつらに自慢してくるわ! 今夜の話!」
「……するな!」
そう言いながら——消えていった。
スタジオが、静かになった。
トゥワイスが座っていたソファだけが、そこにあった。
目が覚めた。
朝の七時。
布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。
「お前の番組で誰か一人が『生きてていい』って思えたなら、それで全部お釣りが出るんだよ」
その言葉が、頭の中にあった。
(……救われた気がする)
(でも——どうして、あの背中があんなに危うく見えたんだろう)
(一人の居場所を守るために、何かを切り捨てる。その覚悟は——怖い)
(でも今夜だけは、その言葉が、一番欲しかったものだった)
攻略ノートを開いた。
「トゥワイス(分倍河原仁・31歳):今夜のゲスト。開幕からソファに座らず、スタジオ真ん中で両腕を振り回していた。最初に言う言葉が本音、後に続く言葉が反対——これを掴んでから話が通じた。社会から捨てられた経験がある。仲間だけが居場所だという確信を持っている。その純粋さが武器でもあり、危うさでもある。でも——今夜の言葉で、少しだけ迷いが消えた。危険度:今夜は低(個性の複製は使わなかった)」
ペンを止めた。
少しだけ考えて、最後の一行を書いた。
「※『あいつらに自慢してくる』と言って消えた。……してきてください。今夜の話を、仲間に話してきてください。それが、あなたの居場所での話になればいい。内緒」
その日の学校帰り、公園のベンチに誰かが一人座っていた。
うつむいて、何かを考えていた。
声をかけるべきか、徹郎は少し迷った。
でも——
(一人でいい。その一人さえ救えれば、それでいい)
その言葉が頭に来た。
徹郎は、その人の隣の自動販売機で、温かい缶コーヒーを買った。
(……塚内警部の真似かもしれない)
(でも——エッジショットさんも、こういうことをしていると言っていた)
そっと、ベンチの端に置いた。
声はかけなかった。
ただ置いて、歩き出した。
(届いたかどうかはわからない)
(でも——置いた)
夜になれば、また鳴る。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪
明日のゲストは誰だろう。
それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。
第31話、トゥワイス回でした。「最初の言葉が本音、後の言葉が反対」——このパターンを徹郎が気づいてから、会話が成立し始める構造にしました。矛盾している言葉の中から本音を拾い続ける徹郎の姿が、この番組の司会者として30話分積み上げてきたものの結果だと思います。
「お前の番組で誰か一人が生きてていいって思えたなら、それで全部お釣りが出るんだよ」——矛盾なく言った。それが全てでした。
でも——その背中が、怖いほど危うく見えた。それもまた、本当のことでした。
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