僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います)   作:まだら模様

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※ちなみにどの時系列のキャラが来るかは不明で、同一人物でも別の時間軸やこの本編の時期や季節、年月が違う人がこの空間に誘われてきます。
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)



第33回:ステイン

 

 

 「……放送などという浮ついた手段で、何を語る。何を救うというのだ」

 

 暗闘の中に佇む、静かな殺意と威圧感。

 

 ステイン——数多のヒーローを屠ってきた「英雄回帰」の狂信者が、今夜は電波を通じて徹郎の「魂」を試しに現れた。

 

 

 

 眠りに落ちた瞬間——鳴った。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー

  ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー

  ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 スタジオに引き込まれた瞬間——冷たかった。

 

 温度が、下がっていた。

 

 舞台袖からソファを確認した。

 

 男が、壁際に立っていた。

 

 ソファには座らず——スタジオの一番暗い隅に、腕を組んで、静かに立っていた。

 

 布を纏った体。赤いマフラー。包帯で覆われた目元。

 

 ただ——立って、徹郎を見ていた。

 

 「……」

 

 何も言わなかった。

 

 ただ、見ていた。

 

 (AFOより怖い。死柄木より怖い。今夜一番、怖い)

 

 (でも——逃げたら終わる。この人に逃げを見せたら、番組が成立しない)

 

-----

 

 「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」

 

 沈黙。

 

 「本日のゲストをご紹介します——」

 

 「名乗る必要はない」

 

 低い声だった。

 

 「俺が誰かは、わかっているはずだ」

 

 「……赤黒血染さん。ステイン」

 

 

「……ステインでいい」

 

 

 「……ステイン。今夜は来てくれて——」

 

 「礼は要らない。来たくて来たわけでもない」

 

 「それはわかっています。でも——」

 

 「でも?」

 

 徹郎は、少しだけ息を整えた。

 

 (言え。ここで言わなければ、この人と三十分話せない)

 

 「……あなたの信念を、聞きたかった。この番組に来てくれた多くの人の言葉を、あなたに問いたかった。それだけです」

 

 ステインが、少しだけ目を細めた。

 

 「……面白いことを言う」

 

 「面白いですか」

 

 「俺は言葉を諦めた人間だ。それを知っていて、言葉の番組に呼ぶとは」

 

 「……知っています。だからこそ、呼びたかった」

 

 

 

 「座ってもらえますか」

 

 「立ったままでいい。俺は座ることが少ない」

 

 「……わかりました。では、このまま話しましょう」

 

 「一つだけ、先に聞く」

 

 「はい」

 

 「この番組のルールは知っている。三十分、成立させれば貴様は現実に戻れる。失敗すれば永久幽閉。そういうことだな」

 

 「……正確です」

 

 「貴様は今、命を懸けて俺と話そうとしている。それが、貴様の番組に対する『覚悟』の一端か」

 

 「……毎晩、そうしています」

 

 ステインが、少しだけ前を向いた。

 

 「……それだけは、認める」

 

 (認めてくれた……!!)

 

 (でも油断したら終わる。この人の「認める」は第一関門だ)

 

 

 

 「……今いくつですか」

 

 「三十一だ」

 

 (三十一歳。逮捕される前の、単独で活動している時期か——)

 

 (転生者知識でステインのその後を知っている。今夜の徹郎はその全てを知っている)

 

 「……ステインが言葉を諦めたのは、いつですか」

 

 ステインが、少しだけ間を置いた。

 

 「……街頭演説をした。英雄回帰を訴えた。だが、誰にも届かなかった」

 

 「……それで」

 

 「言葉に力はないと知った。行動だけが、世界を変える」

 

 「……でも」

 

 「でも?」

 

 「あなたが逮捕された後——あなたの言葉が、マスメディアを通じて広まって、多くの人の心に刺さった。あなたの信念を継ごうとした人間が、各地に現れた」

 

 ステインが、静かに聞いていた。

 

 「……それは、言葉が力を持った瞬間ではないですか」

 

 長い沈黙があった。

 

 「……皮肉だな」

 

 「皮肉だと思います。でも——本当のことです」

 

 「……行動が言葉を生んだ。俺の行動が、俺が諦めた言葉を代わりに広めた。そういうことか」

 

 「……そう思っています」

 

 「……それが、この番組に俺を呼んだ理由か」

 

 「理由の一つです」

 

 

 

 「コーナーをやってもいいですか」

 

 十分が過ぎた頃、徹郎が言った。

 

 「なんだ」

 

 「『断罪と粛清』というコーナーです。私が問いを出して、ステインが答えてください」

 

 「……本物かどうかを、問うコーナーか」

 

 「そうです」

 

 「……いいだろう。問え」

 

 「最初の問い——善行をしているが、SNSで褒められたい気持ちもある。それは本物か偽物か」

 

 ステインが、少しだけ考えた。

 

 「……承認を求めている時点で、目的がすでに歪んでいる」

 

 「やはりそう思いますか」

 

 「だが」

 

 「だが?」

 

 「その偽りが、いつか呼吸のように無意識に行えるようになった時——初めて本物に一歩近づく。全てが最初から本物である必要はない。問うべきは、そこへ向かっているかどうかだ」

 

 (……今日一番の言葉だ……!!)

 

 (厳しいのに、希望がある……!!)

 

 「……次の問いです。信念のために誰かを傷つけることは、正しいですか」

 

 ステインが、少しだけ静かになった。

 

 「……俺に問うか、それを」

 

 「あなたに問います」

 

 「……俺が答えれる立場ではないな」

 

 「立場を問わず、答えてください」

 

 ステインが、しばらく黙った。

 

 「……正しくはない」

 

 静かな声だった。

 

 「正しくはないが——俺はそれを選んだ。それが俺の業だ」

 

 「……業」

 

 「何かを成し遂げるには、信念と、それに伴う覚悟が要る。その覚悟の重さが、俺には人を傷つけることと釣り合っていた。……それが正しいかどうかは、俺には判断できない」

 

 「……それを、誰かに判断してほしかったですか」

 

```

ステインが、少しだけ徹郎を見た。

```

 

 「……俺を殺していいのは、本物の英雄だけだ」

 

 「……それが、答えですか」

 

 「そうだ。裁かれるとしたら、本物だけに裁かれたい。それだけだ」

 

 

 

 「……一つだけ、踏み込んでいいですか」

 

 徹郎が、少し声を落とした。

 

 「問え」

 

 「この番組に来た人たちのことを、少し話させてください」

 

 「聞こう」

 

 「オールマイトが来ました。笑顔が武器であり重荷だという話をしてくれました」

 

 ステインが、少しだけ動いた。

 

 「……オールマイトが、か」

 

 「はい」

 

 「……それは」

 

 少しの間があった。

 

 「……あの方は本物だ。笑顔を重荷と感じながらも、笑い続けた。それがあの方の生き方だ」

 

 「あなたがオールマイトを本物と呼ぶ理由が、今の言葉に入っていますか」

 

 「……そうだ。見返りを求めない。自分を削って人のために動く。個性の強さではなく、その生き方が、あの方を本物たらしめている」

 

 「……ステインがヒーローを目指した時、オールマイトがいたんですよね」

 

 ステインが、少しだけ止まった。

 

 「……知っているのか」

 

 「調べました」

 

 「……あの方に感銘を受けてヒーロー科に入った。だが——そこで見たのは、私欲のために個性を使う人間たちだった」

 

 「……それが」

 

 「英雄回帰を誓った原点だ」

 

 「……あなたは、本物のヒーローを見たくて、ヒーローを目指した」

 

 「そうだ」

 

 「……その気持ちは、今も変わっていませんか」

 

 「変わらない。ただ——方法を間違えた可能性は、ある」

 

 「……間違えた、と思いますか」

 

 「分からない。だが——言葉で変えられなかったものが、行動で変えられたかどうかも、まだ分からない」

 

 

 

 「……直接聞かせてください」

 

 徹郎が、正面を向いて言った。

 

 「なんだ」

 

 「この番組は——本物ですか、偽物ですか」

 

 スタジオが、静かになった。

 

 ステインが、じっと徹郎を見た。

 

 「……貴様は何を求めてその問いを発する」

 

 「あなたに評価してもらいたいわけではないです。ただ——あなたが信念をもって言葉を諦めた人間として、この番組をどう見るか、知りたい」

 

 「……」

 

 「毎晩、誰かと話して、覚えているのは私だけで、記録には残らない。社会的な意味があるかどうかもわからない。でも——この番組で誰かが明日を生きようとしたなら、それは意味があると信じています」

 

 「信じる根拠は」

 

 「根拠はないです。でも——信じている」

 

 「それが貴様の信念か」

 

 「……信念、と呼べるかどうかわかりませんが、覚悟はあります」

 

 ステインが、少しだけ目を細めた。

 

 「……覚悟とは何か、貴様は理解しているか」

 

 「……完全には理解していないかもしれません」

 

 「では言う」

 

 ステインが、少しだけ前に出た。

 

 「覚悟とは——失うものを明確に知りながら、なお進むことだ。貴様は毎晩、意識永久幽閉のリスクを負いながら、この番組を続けている。失うものを知って、なお続けている。……それは、覚悟の形だ」

 

 「……」

 

 「だが、貴様の番組が本物かどうかは、俺には判断できない」

 

 「なぜですか」

 

 「本物かどうかを決めるのは——この番組で声を聞いてもらった者たちだ。俺ではない」

 

 (……ステインが言った)

 

 (本物かどうかを決めるのは、救われた側だと)

 

 (俺がずっと言いたかったことを——この人が言った)

 

 「……ありがとうございます」

 

 「礼は要らない。事実を言っただけだ」

 

 

 

 「……最後に一つだけ言っていいですか」

 

 徹郎が、少し声に力を込めた。

 

 「なんだ」

 

 「あなたは言葉を諦めた。でも——言葉は続いた。あなたが諦めても、あなたの言葉は別の誰かの声になって、今も続いている」

 

 「……それが何を言いたい」

 

 「言葉は、諦めた人間の手を離れても、生き続けることがある。この番組も——翌朝ゲストは忘れる。記録も残らない。でも、誰かの心に届いた言葉は、その人の中で続いている」

 

 「……それが貴様の信念か」

 

 「……そうかもしれません」

 

 ステインが、しばらく黙った。

 

 「……まだ濁っているな」

 

 「……そうですね」

 

 「だが、濁りの中に芯が見える」

 

 徹郎は、少しだけ固まった。

 

 「……磨け、黒柳徹郎。貴様が真の本物になるか、偽物として朽ちるか——見届けてやろう」

 

 

 

 そのとき。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪

 

 エンディングのテーマが、流れ始めた。

 

 ステインが、少し動いた。

 

 「……時間か」

 

 「お時間です。ステイン、今夜は来てくれてありがとうございました」

 

 「最後に一言、か」

 

 「お願いします」

 

 ステインが、出口の方を向いた。

 

 背中を見せながら、言った。

 

 「……何を成し遂げるにも、信念と想いが要る。ない者、弱い者が淘汰される。それが現実だ」

 

 「……わかっています」

 

 「だが——貴様には、今夜少しだけ見えた。芯が」

 

 テーマ曲が、最後の段階へ移った。

 

 ♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー

  ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪

 

 「……折れるな、偽物」

 

 それだけ言って——ステインの姿が、スタジオの暗闇に溶けていった。

 

 スタジオの隅に、微かな冷気だけが残った。

 

 

 

 目が覚めた。

 

 朝の五時。

 

 布団の中で、徹郎はしばらく動かなかった。

 

 「折れるな、偽物」

 

 その言葉が、頭の中にあった。

 

 (偽物か)

 

 (でも——今夜、偽物と呼ばれながら、芯が見えると言われた)

 

 (それは——どういうことなんだろう)

 

 「本物かどうかを決めるのは、俺ではない。声を聞いてもらった者たちだ」

 

 ステインの言葉が、続けて頭に来た。

 

 (……そうだ)

 

 (俺が本物かどうかを決める必要はない)

 

 (来てくれた人たちが、どう受け取ったかだけが——答えだ)

 

 攻略ノートを開いた。

 

 手が、少しだけ震えていた。

 

 「ステイン(赤黒血染・31歳):今夜のゲスト。壁際に立ったまま、座らなかった。開幕から温度が下がった。言葉を諦めた人間、という核心を最初から持ってきた。オールマイトへの狂信——でも、それはオールマイトの生き方への純粋な敬意だった。本物かどうかを決めるのは救われた側だと言っていた——それが今夜の全てだった。危険度:最高(個性が夢の空間でも機能するかは不明。でも今夜は使わなかった)」

 

 ペンを止めた。

 

 最後の一行を書いた。

 

「※『折れるな、偽物』と言われた。……折れません。偽物のままでいい。偽物が本物になる過程にいる、それだけで十分だ。ステイン、あなたも言葉を続けていましたよ、今夜ここで。内緒」

 

 

 

 その日の学校帰り、街頭演説をしている人の前を通った。

 

 声が、誰にも届いていなかった。

 

 でも——その人は、続けていた。

 

 (……言葉を続けること自体が、もう何かだ)

 

 (届いていなくても、声を上げていること自体が——何かを変える可能性になる)

 

 ステインがそれを証明していた。

 

 言葉を諦めた男の言葉が、結局残った。

 

 (俺も、続ける)

 

 夜になれば、また鳴る。

 

 ♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪

 

 明日のゲストは誰だろう。

 

 それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。

 

 




 第33話、ステイン回でした。「言葉を諦めた男」を言葉の番組に呼ぶ——この逆説のために今話を書きました。「本物かどうかを決めるのは、俺ではない。声を聞いてもらった者たちだ」——この言葉がステインの口から出た瞬間、今話の全てが決まりました。
 「折れるな、偽物」——これが今夜の最高の叱咤激励でした。

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