「貴女がどうして...」
迷宮にできた森の中で俺とラティスは見つめ合った。
どうして一般人であるはずの彼女が迷宮の主なんかに。
「カブルーだったんだね、迷宮に侵入者が入ったって白蛇から報告が来たから飛んできちゃった」
ラティスは迷宮の事をとぼけようともともせず、その琥珀の眼を細めて平然と言い放った。
普通は俺に対してバレたことを開き直るか、事情を説明するはずなのだが。
「その...」
言葉が出てこない。
迷宮の真実を求めるものとして、白蛇とはなんなのかと聞くべきなのか。
ラティスの友人として、今すぐこの迷宮の拡大を止めろと言うべきなのか。
「ということは隣にいたのはセンシさんで合ってる?」
「そうですが...」
「はー良かった、手荒なことしないで...カブルーのお友達を傷つけたら嫌われちゃうもの、ね」
よかったよかったと、胸に手をあてて息を吐くラティス。
...このままラティスと話していても、埒が明かないな。
「...単刀直入に聞きます。迷宮の主は貴女なんですか」
マスクを取ってラティスにそう話した。
99%ラティスが迷宮の主と確信はしているが、迷宮の主の使いの可能性もあるので念のために聞く。
カーカブルードの迷宮の主...狂乱の魔術師は王に仕えるエルフだったらしいが、ラティスは何の変哲もない村娘だ。
そんな一般人が迷宮の主になれるものなのかという疑問で、確信が持てないのもあった。
「そうだね、最初にこの事を明かすのはファリンだと思ってたけど...」
えへへ、とまるでサプライズパーティの用意が途中でバレてしまったような反応だ。
事の重大さが分かってないのか、ラティスは。
俺がそんな感情を顔に出していることも理解できていないようだ。
「どうしてその本を...?」
俺はラティスが持っている目玉がついた奇妙な装丁の本を指さす。
狂乱の魔術師が持っていたものとデザインは微妙に違う気がするが、おそらく同じような本だろう。
この本が彼女に力を与えているのだろうか。
「どうしてって...オルマンって人に金の指輪を売ってたエルフの行商人がまた村に来て、その商品の中にこの本があったの。ファリンがいなくなって、一人きりのベッドで毎日夜泣きしてた小さい頃の私をうるさがったのかな、ご機嫌取りに
エルフの行商人から買った...。
“本”とやらは何らかの力を与える魔道具なのか。
迷宮の根源はこの本にあるのか...?
「えっと、白蛇は────」
「もう...。何かにいちいち理由を求めるとか、人間関係のしがらみとか、そんなことはもうどうだっていいじゃない」
どうでもいいことだとラティスは話を打ち切った。
どうやら、話したい本題があるらしい。
「カブルーは一緒に来てくれるよね?」
「一緒にって、どこにですか」
「ふふ、場所じゃなくて夢の話よ」
ラティスは両掌を顔の前で合わせて笑顔で話す。
夢とはいったい。
確かにこの迷宮からは明確な目的があって作られているのを感じたが。
「確かに場所って言うなら空が目的地かもしれないけど」
「空...?」
「そう、醜い人の殻を捨てて空を飛ぶの。貴方はグリフィンで私はコアトル。そうやって翼がある魔物に変わったら一緒に満月の夜空を駆けるの。そこには何も邪魔するものなんていない。自由気ままにさすらって、星を眺めながら毎日旅をする」
ラティスはウキウキとした表情で、人を魔物に変えてしまう空恐ろしい話を喋る。
まるで子供が将来の夢を語るように。
「ファリンも賛成してくれるに違いないわ。ファリンはそうね...私と違って可愛いものね、顔は残しておきたいかな。上半身が人間で下半身はドラゴンのキメラなんてどうかしら。ん~、それだと食事をする時に難儀するから、お腹に口でもつけようかな。カブルーもかっこいいし、もし魔物になっても顔を残したかったら言ってね?」
返事はしてないが、もう彼女の中では俺が付いていくことで確定しているらしい。
...どうしようもなく、ラティスは迷宮に心を食われている。
「そうじゃないだろ...」
「グリフィンは嫌だった?」
「違う!もしその夢が叶えば地上に魔物が溢れることになる。その時に君の家族はどうなる...?両親は、夫と子供は、村の人達は」
地上に出た魔物で、どれだけの悪影響が出るか分からない。
ウタヤの規模とは比べ物にならない被害が、いやそれこそ世界が滅びるかもしれない。
「......?なんでカブルーがそんなことを気にするの?そうね...ワーガルとフッチは特別にワイバーンとかでいいかなあ。他の村の人間はみんなゴーストにでもなって貰おうかしら。そうなれば霊が見えるファリンへの偏見も無くなるもの、ね。いいアイデアだと思わない」
「それは...」
名案なわけがない。
虫嫌いな人間を虫に変えるようなものだ。
考えが変わるどころか、むしろ悪化するだけだろう。
滅茶苦茶で荒唐無稽な事を良いことのように語っている。
「ねえ、カブルー。私は地上での立場があるから無理だけど、貴方なら今すぐにでもグリフィンになれるわ!地下まで案内するから来て。私、一度いいからグリフィンに跨って見たかったの。私も魔物になったら、出来なくなっちゃうし...」
沈みゆく俺の心とは対照的に、ラティスがウキウキとした様子だ。
子供が浮かべる無邪気で屈託のない笑みを浮かべて。
狂った思想に引いている俺の様子も全く気にしていないのか?
「そして遠くまで私を連れてって!こんな村じゃない...いや、どこでもいい、とにかく別の場所ならなんでも!」
...ああそうか。
ラティスの心はずっと成長してこなかったんだ。
外見は大人でも中身は子供。
村に残ることを決意した幼き日から心を閉じ込めて、ずっと蓋をしてきたのだろう。
知り合いはいても、友人なんてものは俺がなるまでいなかった。
だから大人と形式上の付き合いは出来ても、友人関係なんて、ましてや人の気持ちなんて考えられないんだ。
「いっしょに、きて」
ラティスが手を差し伸べてきた。
俺は────
カチャリ。
ロングソードをラティスに向けた。
「...?」
ラティスは小首をかしげて、不思議そうにロングソードの切っ先を見つめていた。
理解できていないらしい。
「ああ、ごめんなさい。どこまで地上で情報が出回ってくるか確認するために、捕獲用の歩き茸達を呼んでたのを忘れてたわ。もう危害を加えたりしないから安心してちょうだい」
そう言ってラティスは歩き茸達を引っ込めさせる。
子供だから、ハッキリ言わないと分からないらしい。
都合のいいように解釈してしまう。
「心配とかじゃない、君の誘いには応えられないと言っているんだ」
「...え?」
「地上への魔物進出を...止めさせてもらう」
「...」
俺が何を言ったのか理解が及ばないラティスは表情が固まった。
一切予想だにしてなかった返答が来たからだろう。
「どうして?」
「そんなこと...誰も望んでいないからだ」
その思想についていける人間はいない。
俺は複雑な考えを持ち、思考を織りなす人間が好きだ。
だから人としてのラティスは好きだが、お互い魔物になってしまえば貪るだけで、好き嫌いすら単純な獣になってしまうのだろう。
「カブルーは魔物になりたいんじゃなかったの?」
「...僕にも苦手なものはあります」
「一緒に空を飛ぶって約束は?」
「出来れば一緒にはいたいとは思いましたが...」
俺の言葉を聞くたびその顔が悲しい形に変わり、そして徐々に怒りの表情に変わっていく。
「はは...全部ウソだったのね...なにもかも...。すきだったのに...友達だと思ってたのに!」
激高したラティスが本を宙に浮かべた状態で開いた。
まずい!
あの本の力を行使すれば、迷宮内で全能ともいえる力を発揮できる。
いくら魔力の薄い浅層とはいえ、俺一人ごとき容易くくびり殺せるぞ。
今すぐにでも詠唱を止めなければ!
口を塞いで...いや間に合わない!
俺は手に持っていたロングソードを構え直して、ラティスに向かって突き出した。
詠唱よりも早く、俺はラティスの懐に入る。
ズプリ。
肉を貫く嫌な感触が手に伝わってくる。
ラティスの詠唱を完全に止めるために急所を貫いた。
「あっ...ああ...」
ラティスが自分に刺さったロングソードを見つめながらふらふらと後退していく。
「ふふっ...あはは...。やっぱり私には最初から友達なんていなかったのね」
ラティスは血を吐きながら、自嘲するように己を笑った。
何物にもなれなかった己の人生そのものを。
「ウソツキ...」
そうして憎らしげに俺に呪いの言葉を吐きながら、前のめりに倒れた。
ドクドクと血が服と地面に広がっていく。
「...今でも俺は友達だと思っていますよ」
ラティスの動きが止まり、完全に沈黙する前に俺は本心を伝えた。
その言葉を言い終わるかどうかのタイミングで彼女は完全に動かなくなる。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
...迷宮に心を食われた彼女を説得するのは難しいだろうが、誘いに乗った上で言葉でうまく丸め込むことも出来たかもしれないのに。
珍しく感情的になりすぎた。
...そうなったのは俺の中でも彼女は大きかったからなのか。
ほんのわずかな時間しか交流したことがなかったというのに。
ラティスが描く絵のモデルになって視線を交わした日々で、特別な感情でも沸いたのだろうか。
「.........」
俺は本を抱え込むように前のめりになったラティスを見下ろす。
...彼女は悪人だったかもしれないが、成敗したという気持ちにはなれない。
だが、彼女はまだ生きられる。
俺がラティスの無力化を優先した理由として、迷宮でならば蘇生の可能性があるというのもあった。
地上のファリンを呼べば、蘇生術で彼女を復活させられる。
「蘇生で、まだ彼女は生きられるかもしれない...」
そう言うと地震のような大きな揺れが起きて、俺は体勢を崩して地面に手をついた。
迷宮の主が死んだことで迷宮が変動しているのか...?
大きな揺れによって足元の地面が裂けて、その裂け目がどんどん広がっていく。
いや違う、これは迷宮が崩壊しているんだ!
カーカブルードの迷宮はこんなことにはならなかったのにどうして...!
どんどん揺れと地割れが広がっていく。
まずい、一刻も早く出なければ生き埋めになる!
出口を確認するための迷宮用のコンパスは...たしか鞄の奥にしまい込んで...。
くそ。焦りもあってなかなか見つからない。
...?
森から歩き茸達が飛び出し、焦る俺の隣をドタドタと通り過ぎて、一斉に一定方向に走っていった。
「カブルー!こっちだ!」
歩き茸の後ろに走って付いていたセンシが、腕を大きく振り上げて俺を呼ぶ。
「センシさん!ご無事で。」
「話はあとだ。今は脱出しよう」
俺よりセンシの方が状況を理解できていないはずだが、的確で素早い判断を下した。
「そうですね、今コンパスで出口の方向を...」
「いらん。迷宮の生物たちは、ああみえて迷宮の構造を理解している。歩き茸達が走っている方向が出口だ」
そう言うとセンシは俺の腕を掴んで連れて行こうとする。
いや...待ってくれ。
「彼女が...本が...!」
俺はまだやるべきことがあると、彼女に手を伸ばすが────
「あっ...!」
地面の亀裂に飲み込まれて、本ごとラティスの遺体が階下の闇に落ちていった。
これでは回収は不可能だ...。
あと少しで迷宮の真相が分かったかもしれないのに。
俺の故郷が滅んだ理由が、エルフ達がこれを隠匿する理由が、彼女が狂った理由が。
なにより...まだ助けられたかもしれない命だったのに。
ちくしょう...!
「急ぐぞカブルー!」
「くそ...!」
センシの前で猫を被るのも忘れて悪態をつく。
そうやって何度も悪態をつきながら、地割れと植物で形成された悪路を駆けた。
歩き茸の木の根を跨いで、地面の裂け目を飛んで避ける。
足を取られたらそこで終わりだ。
背負っていた荷物も投げ捨てて、ただひたすらに駆ける。
「間に合うか...!?」
障害物を避けながらでは思うように前に進まず、出口までたどり着けるか怪しくなってきた。
「ふひー...ふひー...!」
センシは玉のような汗を流しながら、息を切らしてだいぶきつそうだ。
遠くまで連れ去られていた事と、ドワーフがスタミナが無い種族ということが影響しているのだろう。
まあ原因の1番は、まるで形見のように鍋などを手放さずに走っていることなんだろうが。
そうやって走っていると、更に揺れが激しくなってくる。
地割れも更に階下に広がっていき、もう迷宮崩壊まで時間もない。
そうやってさらに焦りながら走っていると、なぜか木々の配置が変動していった。
迷宮の主はもう死んでいるはずなのに。
そうやって動いていった木々で出口までの通り道が形成される。
その通り道だけ地面の裂け方も緩かった。
まるで何者かが助けるように。
これは...どういう事なんだ...!?
わからない。
だけどとにかく走るしかない...!
そうして無我夢中で、俺達は出口まで走った。
記憶と意識が飛ぶくらい走った末に、いつの間にか出口までたどり着いていた。
「はぁ...はぁ...」
「はひー...」
俺とセンシは迷宮外の森の中で、重力に逆らえずぶっ倒れるように地面に体を預ける。
そうして地面につけた頭で、俺はなぜカーカブルードの迷宮と違って崩壊したか考えていた。
...いや答えは単純だ。
迷宮の主が望んだからだろう。
魂だけになった彼女が、迷宮を崩してまで滅びを望んで蘇生を拒否した...?
妹が霊媒師だったんだ、霊となっても意識を持って蘇生しようとした俺の話を聞いていた可能性はある。
逃げる時に助けるように道が出来たのも、霊になった彼女が最後の力で俺たちを助けたいと思っていたからか。
...なら、俺の「今でも俺は友達だと思っている」という言葉は彼女に届いてたんだろうか。
そうやって考えるのは、あまりに都合がよすぎるが...。
そう思わなかったら、彼女の生が報われなさすぎる。
────────
俺はあの後、迷宮で起こったことをトーデン家で全て正直に伝えた。
何もなかったように去っても良かったが、人でなしにはなりたくなかった。
...配慮としてラティスの子供と、心が強くなさそうな母親には話せなかったが。
「少し...席を外す」
ラティスの父親、レオス村長は俺の話を聞いた後、どこかに行き...。
戻ってきた後は、無言で客間にあるラティスが描いたグリフィンの絵を眺めていた。
ラティスを救えなかった自責とも、父親としての弔いとも見えた。
「そう...ですか。ははは、僕は最後まで力になれなかったなぁ...ごめんよラティス...」
ラティスの夫、ワーガルは辛そうに笑っていた。
無力感にさいなまれながら、一生を過ごすのだろうか。
母親の死を子供にどうやって伝えるのだろうか。
家族を失う痛みは、俺も知っているが...相当につらいものだ。
「カブルーさんは、迷宮探しの旅を続けますか?」
ラティスの妹、ファリンは乾いた眼を開いて俺にそう聞いてくる。
天真爛漫な彼女らしくない張り付いた無表情で。
...なんとなくだが、今の彼女からは死の匂いがする。
返答を間違えば...。
「ええ、続けますよ。彼女のためにも、僕のためにも」
「はー...よかった。」
俺の返答を聞いて、ファリンは胸をなでおろした。
「私は...どうしてもラティス姉さんを殺したあなたを許すことができなかったから...。たとえ姉さんの自業自得だったとしても」
ラティスが渇いた眼を閉じて、そう告げた。
何か含みがある物言いだが...俺が許せなかった返答だった場合は...。
いや、考えるな。
ありえなかったことに思考を巡らせるのは悪い癖だ。
「...でも、私は迷宮の事はもっと許せないの。迷宮の旅についていっても、いいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。戦力は多いくらいがいい」
ファリンが、姉の弔いと迷宮への復讐のために旅についていくことを俺は承諾した。
...ファリンがついてくるのは、迷宮の旅を諦めないように監視する意味もあるんだろうが。
もし俺が諦めたら、ファリンが今必死に押さえている感情を躊躇する理由が無くなるのだろう。
...迷宮の真相を突き止める理由がまた一つ増えたか。
────────
「チルチャックという人に酒場で聞きましたが、次の街で迷宮と思わしき遺跡が見つかったそうです」
俺は街路を歩きながら、同行者に目的地について説明する。
酒飲みのハーフフットの与太話だが、チルチャックは迷宮探索の経験があるようなので信憑性は高いだろう。
「はぁ...そんな疑わしい話信じられるの?」
「その話については、もうみんな納得してたよね」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
喧嘩になりそうなリンとマルシルを、ファリンがなだめる。
ファリンがパーティに入るならほっとけないということで、エルフのマルシルもこのパーティに付いてきた。
...そしてその話をしたら、幼馴染のリンも。
美人二人と旅をするのが気に食わなかったらしい。
そのせいか、リンは負けん気の強いマルシルと衝突することが多い。
前のパーティは男4女2だったが────
「この地方ではコイン虫が特産物らしいぞ」
────センシを含めて男2女3のパーティになった。
だがまだ少しバランスが悪いので、もう一人鍵師を加える予定だ。
「いやセンシさん、特産物というかただの生息地だと思います」
センシのコイン虫の生息地云々はともかく、魔術師が3人の尖ったPTなので目的地がハーフフットの街というのは好都合。
鍵師を確保するにはもってこいだろう。
出来ればパーティの男女比率が半々になる男性を加えるのが望ましいが...今のところチルチャックに迷宮の話ついでに紹介された実の娘のメイジャックが候補。
あとは、どこかに旅に出かけた元PTメンバーのミックベルが、この街で同郷相手に商売を営んでいる可能性もある。
メイジャックかミックベルを加えると斥候が1、前衛が2、魔術師が3というパーティになるが、ファリンは前衛もできるらしいので、これでメンバーは問題ないだろう。
......。
...少し気になることがある。
なぜファリンの姉、ラティスがあそこまで迷宮の侵入者を警戒していたのか。
ファリンに聞いたが、カナリア隊のことまではラティスに喋っていなかったらしい。
ならば、ラティスは迷宮の噂が広がるとエルフに迷宮が制圧されかねないことまでは知らないはずだ。
どうして知っていたのか。
まるで他の迷宮が潰されたのを受けて、何者かが慎重に動くようラティスに助言したようだ。
迷宮の構造もそうだ。
魔物の生態系の構築についてはともかく、迷宮を形成する魔術なんて彼女は知らないだろう。
あの本が力を与えたにしても、限界がある。
...ここには妙に作為的というか、人間的なものを感じるな。
まるで、誰かがラティスに助言を行ったようだ。
迷宮の力は概念的なものだと思っていたが、まさか意思があるのか?
ラティスが言っていた“白蛇”とは監視役の魔物の事だと思っていたが、そいつが迷宮の根源なのかもしれない。
いずれにせよその真相を掴むには、本が鍵となるのは間違いないだろうが...。
「ふぅ...」
思考に区切りをつけるために息を吐く。
長旅のせいかそれにしても..。
「腹が減ったなあ」
「干しスライムならあるぞ」
「「「いらない!!」」」
「えっ食べたい!」
センシの発言で俺を含む3人が怒り、ファリンだけは興味津々だった。
────────
迷宮地下深くで、何者かが瓦礫の隙間を縫うように通り抜ける。
その通り抜けた影の正体である白蛇は、ラティスの死体で止まった。
「ふむ...彼女には期待していたが、死んでしまうとは残念だ。お気に入りだったのだが」
「カナリア隊への警戒を促したのはいいが、別の人間が入ってくるとはな」
「複雑な鬱屈した欲望は美味なのだが...カーカブルードに続いて食べ損ねた」
「...まあ次を考えるとしよう。今度は失敗しないよう、もっと慎重に」
「それにしても...」
「────腹が減った」
そう言うと、白蛇は迷宮だった瓦礫の隙間を通り、迷宮の深い闇に消えていった。