【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.10「闘争の気配」

 卯月。翌日の刃ケ丘(はがみおか)異能高等学校。

 

「どうする? 何から手を付ける?」

 

 教室の一角で、紺野爪戯(こんの・つまぎ)が問いを投げた。

 その背後から、黒川玄(くろかわ・くろ)が歩み寄りながら口を開く。

 

「現場百篇なのだよ、新人君」

「何? 何に影響されてるんだ?」

 

 玄の気の抜けた声に、爪戯が即座に反応する。

 何かの映像作品の影響だろうか。半ば反射的な突っ込みだった。

 

「ってか、警察やⅩⅢ(サーティーン)が調べて分からないものを、オレ達が調べたところで……」

 

 爪戯の言い分は極めて現実的だった。専門の捜査機関が見つけられなかった痕跡を、ただの学生が見つけ出せる保証はない。

 六大路辛(ろくおおじ・かのと)の思考もその結論と一致している。だが、彼は一つの選択肢を残していた。

 

「一応もう一度行ってみよう。見落としがあるかもしれん」

 

 辛は玄の提案に頷いた。

 

 教室の後方。火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)の鋭い視線が、円滑なやり取りを交わす三人に向けられていた。

 異能測定において、彼女は過剰な火力で施設を損壊させ、多大な時間をロスした。

 周囲の嘲笑を浴びた事実が、彼女のプライドを著しく傷つけている。

 順調にグループを作りつつある辛の存在が、不快なノイズとして彼女の神経を逆撫でしていた。

 

「私は……ちっ」

 

 朱美は手のひらで机を強く叩き、椅子の脚が床を擦る硬質な音を響かせて立ち上がる。

 そのまま足早に教室を抜け、廊下へと姿を消した。

 突発的な行動に、クラスメイトたちの視線が一瞬だけ彼女の背中へ集まる。

 

「なに?」

「なんかご立腹~?」

「お高くとまってんだろ」

 

 周囲から、冷ややかな声が漏れ落ちる。

 

 廊下。

 朱美は歩調を早め、前方から歩いてくる灰塚(はいづか)こころの姿を視界に捉えた。

 意図的に歩く軌道をずらし、すれ違いざまに肩をぶつける。

 

「きゃっ」

「うっざ!」

 

 不意の衝撃により、こころはバランスを崩して床へ倒れ込んだ。

 朱美は見下ろし、不快感を露わにする。

 

「あんたって本当に昔からトロいんだから! もう少し気をつけてよね」

 

 自らぶつかっておきながら、責任をこころへと押し付ける。

 

「なにしてるんだ!」

 

 少し離れた場所から事態を見ていた色波樹(しきなみ・いつき)が駆け寄り、床に座り込むこころの傍らで膝を折った。

 

「オレは見てたぞ、お前からぶつかってただろ! 謝れよ」

「はあ? 避けられなかったそいつが悪いでしょうが!」

 

 両者の間で声の応酬が始まる。

 

「あ、えっと……」

 

 こころは事態を収めようと口を開くが、言葉が上手くまとまらない。

 庇われながらも自己主張できないこころの態度が、朱美の苛立ちをさらに煽った。

 

「これだからトロ子って言われんのよ! あんたのことなんだから、あんたが何か言いなさいよ」

 

 朱美は樹から視線を外し、矛先を完全にこころへと向ける。

 

「そんな言い方ないだろ!」

「……っ」

 

 樹が庇うように声を荒らげるが、こころはやはり言葉を返せない。

 

「あんたはそいつの何?」

「はあ?」

 

 朱美の唐突な問いに、樹の口から反射的に声が漏れた。

 

「そいつの何を知ってるって言うの?」

 

 樹の言葉が詰まる。

 

 こころの事情など、彼は何も知らない。

 ただ、過去に失った幼馴染と顔立ちが似ているという事実があるだけだ。

 しかし、目の前の理不尽を見過ごすという選択は、彼の中に存在しなかった。

 

「私はね、そいつと中学が同じだったの」

 

 沈黙を破ったのは朱美の方だった。

 

「いつもいつも、動作が遅くて遅くて、異能もまともに使えない」

 

 朱美の声が大きくなる。こころの肩が小さく跳ねた。

 

「目障りなのよ! こっちが必死に努力している中、向上心のかけらもなく呑気に!!」

 

 廊下に甲高い声が響く。

 対する樹の顔からは、すっと熱が引いていた。

 

「それと灰塚が今責められることになんの関係があるんだ?」

 

 樹は冷静に指摘する。その後方で、こころはただ樹の背中を見つめていた。

 

「良いわよね、そうやって可哀想な子ですって振りしてれば助けてもらえて」

 

 朱美の言葉は、もはやこころへの非難を超え、純粋な八つ当たりへと変わっていた。

 

「お前!」

 

 樹が声を荒らげた直後、教室から辛がその場へと歩み出た。

 

「やめろ、それ以上は」

 

 辛の平坦な声が、張り詰めた空気を断ち切る。

 

「何? あんたもそいつを庇うわけ?」

 

 朱美が挑発的な視線を向ける。辛の表情は鉄面皮のままだ。

 樹が辛を睨みつける。その目には、彼がⅩⅢへの評価を稼ぐために偽善で介入してきたのだという不信感が浮かんでいた。

 

「やるなら決闘でだ、それがルールだ」

 

 辛の言葉に、朱美と樹、そしてこころが目を見開く。

 

 異能者間特例決闘調停制度。通称、決闘システム。

 

 治安維持組織であるⅩⅢ直属の監査局が管理し、学園内外での紛争や対立を合法かつ管理下で解決するための制度。

 未承認の戦闘行為は犯罪として介入対象となるため、生徒間の実力行使はこのシステムを通すことが絶対的なルールとして定められていた。

 

 辛の背後から、玄と爪戯が顔を出す。

 

「何~? 修羅場?」

 

 玄はいつもの緩い口調で首を傾げた。

 

「こりゃ今日の調査は中止ですな」

 

 爪戯もまた、目の前の空気を察して肩をすくめる。

 

 こうして、特別対策部の調査は初日から見送りとなった。

 朱美と樹、こころを巻き込んだ対立は、制度化された闘争の場へと持ち込まれようとしていた。

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