【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
殺害された幼馴染の仇を探し出し、この手で討つことだ。
その目的を達成するためには、捜査権限と制圧権限を有する上位機関、
思想を持たず、ただ機械的に点数を稼いでいるように見える
オレはあいつとは違う。
樹は拳を強く握り込む。
自身がなぜ、亡き幼馴染と似た顔立ちの少女を庇おうとするのか。いや、外見の類似は理由にならない。目の前で理不尽に虐げられている者がいれば、それを排除する。ただそれだけの行動原理だった。
歩みを進めながら、樹は決闘の手順を脳内で反芻した。
決闘申請システム(異能者間紛争調停制度)
正式名称:異能者間特例決闘調停制度(通称「決闘システム」)
管理機関:治安維持組織〈
各異能学園にも端末が設置されており、学生間の正式な決闘は、ここを通じて承認される。
【目的】
異能者同士の紛争や、学校間・派閥間の対立を「合法的」かつ「管理下」で解決するために設けられた制度。
未承認の戦闘(無許可戦闘)は犯罪行為としてⅩⅢの介入対象となる。
【申請手順】
1.申請書の提出
代表者(挑戦者)が「個人」または「組織(学校・チーム)」単位で申請する。
•提出先:ⅩⅢ監査局(または現地の認定監査官)
•内容:目的・当事者名・理由・使用異能の範囲・立会人(監査官)・会場の選定
2.審査・承認
•審査にはⅩⅢの監査官が立ち会い、両者の異能適性を照合。
•「殺傷を目的としない」「第三者被害を出さない」「時間制限内で決着をつける」の三原則を守る誓約を行う。
3.対戦形式の決定
•通常は「三対三」「個人戦」「代表戦」のいずれか。
•今回の申請は三対三形式。
4.決闘会場
•ⅩⅢ監査局の仮想異能結界〈A.R.E.N.A.(アリーナ)〉内で実施。
•学園区域から独立した結界空間で、物理被害は現実世界に反映されない。
5.勝敗条件
•相手チーム全員の戦闘不能、もしくは監査官による中断判定。
•戦闘不能=立ち上がれない状態、もしくは異能が発動不能な状態。
6.決闘後の処理
•勝者側には「正当防衛認定」として報告書が出される。
•敗者側は一時的に異能制限を受け、ⅩⅢによる監査が入る。
【制度の世界観的意味】
•決闘制度は「力の暴走を秩序化する」ための仕組み。
•法的に異能を“使える場”を限定することで、暴力と復讐の連鎖を断つ目的がある。
•ⅩⅢは単なる警察組織ではなく、異能者社会の「法と秩序の代理神」的存在。
◇
放課後。
今回の承認形式は、先日と同様の個人戦。そして
「ご……ごめんなさい」
ⅩⅢ異能結界アリーナ第三層、闘技の演壇への入り口付近。こころが樹へ向けて深く頭を下げた。
「悪いのはあっちだろ」
「で、でも……」
樹は少女を真っ直ぐに見据えて返す。
こころは言葉を見つけられず、かといって自身が戦端に立つこともできず、ただ口を噤んだ。
「大丈夫、行ってくる」
樹は短く告げ、演壇へと足を踏み入れた。
すり鉢状に形成された観客席から、喧騒が空気を震わせる。
一年A組の生徒たちは、ほぼ全員がこの場に集結していた。
「ふあ~っ。なんって言うか立て続けに決闘しすぎだよ」
しかし、大半の者にとって眼下の闘争は純粋な娯楽でしかない。
「どっちが勝つか賭ける?」
「コントロールはいまいちだけど火力はあるよ火乃宮さん」
「やっちゃえ」
飛び交う無責任な声の中、辛は最後列付近で静かに腰を下ろし、事の推移を冷徹に見極めていた。
「まあ、殺害は禁止だし……大丈夫だよね?」
「ⅩⅢも居るしそこまでのことには……」
致命的な異能の暴走が起これば、監査官が介入して強制終了プロセスが発動する。最悪の事態には至らないはずであった。
「問題は、あいつが勝てるのかってところじゃね?」
爪戯は演壇上の樹を見下ろし、戦力差を指摘する。
基礎能力測定で示された樹の能力は受動的なカウンターのみであり、能動的な攻撃手段を欠く以上、勝率は極めて低いと見積もられていた。
「真白さんはどう思います?」
真白はその声が耳に入っていないかのように、前を見据えたまま無反応を貫いていた。
演壇上。
「まさか私に決闘を申し込むなんてね」
「悪いのはお前だ。悪いが勝たせてもらう」
樹もまた、敵意を隠すことなく視線を跳ね返した。
「なーんかあんたって、点数稼ぎって言ってた割に同じことしてるわね」
「なに?」
朱美が髪の毛先を指先でもてあそびながら鼻で笑う。
樹の顔が不快感に歪んだ。
「だってそうでしょ? これは私とトロ子の問題だもの。部外者であるあんたは黙って見てればいい、それなのに決闘までして……これの点数稼ぎじゃなくて、なんだって言うの?」
朱美は髪を大きく払い、再び手を腰へと戻す。
「違う、オレのは信念があってやってるんだ」
樹が重心を前方に移し、一歩踏み出す。
その動きを、審判役を務めるⅩⅢの監査官が片手で制止した。
「どうだか」
朱美は短く吐き捨てた。
監査官は両者を規定の位置へと戻し、右腕を高く掲げて合図を送る。
『これより、色波樹 対 火乃宮朱美。
異能決闘戦――開始する。』
一方、こころは観客席へは向かわず、入場ゲートの影から演壇の二人を見つめていた。
肩が不規則に震えている。事態が自身の制御を離れ、闘争へと発展した現実に対し、彼女の精神は自責の念で飽和状態にあった。
いつも私は何も出来ない。
争いを止めるどころか、事態をより悪い方向へと加速させてしまった。
演壇上では、すでに戦闘が開始されている。
朱美が圧倒的な熱量の炎を放出し、空間の主導権を握る。
樹はカウンターの異能を有するが、現状で反射可能な対象は物理的な衝撃のみに限られており、質量を持たない熱波に対しては防戦を強いられていた。
観客席の熱量が上昇していく中、最後列の辛だけが、空間に混じる微細なノイズを感知していた。
異能が過剰に収束する気配。そして、大気中に混入し始めた「魔」特有の冷たく不快な波長。
入場ゲート付近。肩を震わせるこころの周囲が、突如として異常な高密度の念動力によって埋め尽くされた。
次の瞬間、空間そのものが限界を迎え、強烈な衝撃波を伴って弾け飛んだ。
「なに!?」
「!?」
決闘に集中していた朱美と樹の視線が、爆音の発生源へと弾かれる。
念の暴走によって破壊された壁面の破片が、致命的な凶器となって演壇上の朱美へと飛来する。
朱美は反射的に炎の障壁を構築して迎撃を試みたが、予期せぬ質量との衝突により、熱量の制御を完全に喪失した。
秩序は一瞬にして崩壊する。
砕け散る瓦礫、そして制御を離れた超高温の炎が、無軌道に闘技場を蹂躙し始めた。