【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.13「特別対策部始動」

 翌日の刃ケ丘(はがみおか)異能高等学校。

 一年A組の教室にて、担任から六大路辛(ろくおおじ・かのと)たち特別対策部へと一枚のデータ端末が渡された。

 

『特別対策部へ。今回の事件を無事解決して見せよ』

 

 ディスプレイに表示されたのは、上位機関たるⅩⅢ(サーティーン)からの正式な通達。

 今回の事件とは、色波樹(しきなみ・いつき)火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)の決闘時に起きた異能の強制停止事象、ならびに先日帰宅途中で目撃した路地裏での同様の事象を指している。

 

「あの異能が使えなくなるって言う?」

 

 紺野爪戯(こんの・つまぎ)が端末の画面を覗き込みながら、右手を口元へ当てる。

 

「使えなくなるっても一時的にってやつでしょ~でもまあ、使えなくなった反動で気を失うみたいだったけど」

 

 爪戯の背後から、黒川玄(くろかわ・くろ)が後頭部で腕を組みながら口を開いた。

 その表情にはいつもの緩やかな空気が漂い、言葉の軽さも平時と変わりない。

 

「ⅩⅢは何故自分たちで動かない?」

 

 辛は感情を排し、純粋な疑問を場に投じた。

 

 帰路で目撃した事案の現場には魔の残滓のみで物理的な痕跡がなく、過去視の異能を持つ四月(しづき)レンも別任務で不在であった。

 ゆえにⅩⅢが即座に犯人を特定できなかったという事実は、計算式として成立する。

 

 しかし、決闘の現場は前提条件が異なる。あの演壇にはⅩⅢの監査官が同席しており、事象の発生をリアルタイムで観測していた。

 組織の情報収集能力を考慮すれば、何らかの手掛かりを掌握していると推測するのが自然である。

 

 辛の脳内で高速の演算処理が行われる。

 

 それにもかかわらず、下部組織に過ぎない自分たちへ事象の解決を命じるのは、明らかに不自然な采配であった。

 

「決闘中とは言え、学校で起きたから? 学園版ⅩⅢに頼むってこと?」

 

 爪戯が推測を口にする。

 

「だとしても捜査権限のあるⅩⅢがやった方が良いってことだよね~。別の目的がある的な~?」

 

 玄の気の抜けた声が、事態の核心を正確に貫いていた。

 

「オレ達にやらせることに意味がある、か」

 

 辛は最適解としてその結論を弾き出した。

 

 いずれにせよ、決闘の場(アリーナ)で事象を引き起こしたのは、あの空間に存在した学園内の何者かである確率が極めて高い。

 学内で発生した魔に関連する事案であるならば、特別対策部が介入する論理的根拠は存在する。

 

 辛は思考を固定した。

 

「これ以上好きにはさせない」

 

 前を見据え、抑揚のない声の中に微かな熱を帯びた言葉を落とす。

 

「「だね」」

 

 爪戯と玄の声が、綺麗に重なって教室に響いた。

 

「決闘で予定変わったけど、今回は現場百篇? ってのやる?」

 

 爪戯が空中で指を回しながら問う。

 

「それしかないね! レッツゴー!」

 

 玄が右腕を前へ突き出し、行動の開始を宣言する。

 辛もまた、無言のまま歩みを進めた。

 

 放課後。

 

 事件の舞台となったⅩⅢ異能結界アリーナ第三層は、監査局の手によって厳重に封鎖されており、立ち入る隙は微塵も存在しなかった。

 そのため、三人は最初の事案が発生した路地裏へと足を踏み入れる。

 

「なんかあるかな? 聞き込みもしてみる?」

 

 爪戯の提案に頷き、玄は通りを行き交う人々へ足早に駆け寄っていく。目撃証言という不確定な情報から、手がかりをすくい上げるための行動だ。

 

 辛は他者との円滑な対話を得意としていない。

 ゆえに情報収集は二人に任せ、自身は現場の物理的な検証に集中する。

 

 視覚情報を極限まで研ぎ澄ましてアスファルトや壁面を走査するが、異常を示す痕跡は一切検出されない。

 

 辛は思考の海へと深く潜行する。

 アリーナの空間に存在した学園関係者。その中でも、一年A組に所属する者が関与している可能性は統計的に無視できない。

 

 では、該当者は誰か。

 

「異能を一時的にでも封じる異能の使い手なんていたか?」

 

 口内から極小の音を漏らしつつ、記憶領域へのアクセスを継続する。

 しかし、A組の生徒が保有する能力データと、今回発生した事象の性質とをリンクさせる要素が見当たらない。

 

 一方、情報収集を続ける玄と爪戯。

 

「A組の誰かを目撃したなんて情報でも出てくれば話は変わるんだけど」

「なんでA組~?」

 

 爪戯の呟きに対し、玄が疑問を投げ返す。

 

「決闘の日、観客席にはA組のほとんどが居た。そして同様の事件が起きた、ってことは──……」

 

 爪戯が顔を引き締め、自らの導き出した仮説を口にする。

 それは辛が構築した論理モデルと完全に一致していた。

 

「それは思ったけど、一応別のクラスとかも居たよ?」

「それは……!」

 

 玄も同様の思考を巡らせていたものの、視野の狭さを指摘する。

 決闘の観客席においてA組の生徒が多数を占めていたのは事実だが、他クラスの見物人も少なからず存在していた。

 

 犯人をA組に限定するのは、現時点では時期尚早である。

 

「辛はどう思ってるかな?」

 

 爪戯が意見を求めようと、辛の方へ首を巡らせる。

 

 その瞬間、玄の両目が限界まで見開かれた。

 彼から一切の動きが失われ、その場に縫い付けられたかのように硬直する。

 

「? どうした?」

 

 異変に気付いた爪戯が声をかける。

 

「そんなことって……」

 

 玄の口から、掠れた声が漏れ落ちた。

 彼の視線の先を、一人の少年が一定の歩調で横切っていく。

 

 短く刈り込まれた黒髪に、黒縁の眼鏡。指先の爪は異質な黒色に染まっており、光を吸収するような漆黒の瞳には、感情というものが一切見当たらない。

 表情をピクリとも動かさず、ただ前だけを見て歩みを進めている。

 

「あの制服、切ノ札(きりのふだ)学園じゃん」

 

 対象を見た爪戯が、その所属を言い当てる。

 切ノ札学園。それは、ⅩⅢの構成員である四月レンが在籍する学校であった。

 

 玄は依然として硬直を解かず、少年を直視し続けている。

 普段の緩やかな空気は完全に消え去り、その顔には未知の恐怖に直面したかのような、異様な緊張が張り付いていた。

 

「どうした?」

 

 爪戯が再度、問いかける。

 

「なんでもない」

 

 玄は極めて小さな声で返答した。だが、視線は少年の姿から外れない。

 

「わかし~! 置いてくよ~!」

 

 少し離れた場所から、少女の甲高い声が響いてきた。

 わかしと呼ばれた黒い少年は、声のした方へと足の向きを変える。

 

「ってか、なんかあった~?」

 

 少女からの無邪気な問い。

 

「何も」

 

 わかしは短い言葉で返し、歩みを再開する。

 

 爪戯に促され、玄はようやく少年から目を逸らした。

 玄と爪戯は踵を返し、路地の奥へと足を踏み出していく。

 

 その背後で、わかしの足が一瞬だけ止まった。

 

 遠ざかる玄の背中へ無機質な視線を向けた後、彼は再び歩幅を一定に戻す。

 一瞬だけ目を伏せ、少女の待つ場所へと向かって。

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