【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.20「それぞれのクラスⅡ」

「その……天竜君、あのくらいで良かったのかな?」

 

 登頂を目指し、A組とは別ルートを進むB組。

 先頭を歩く天竜天色(てんりゅう・あまいろ)の背中へ、西森(にしもり)シルヴァが恐る恐る声をかけた。

 

「ああ、彼のチカラが見てみたいから攻撃してみてってお願いしたこと? う~ん、そうだね。底は見えたとは思わないよ」

 

 天色は右手の人差し指を顎に当てながら、柔らかな笑顔のまま答える。

 シルヴァが六大路辛(ろくおおじ・かのと)を攻撃したのは、天色の指示によるものだった。

 

ⅩⅢ(サーティーン)が目をかけてる理由はなんとなく分かったけどね」

 

 天色の声色はどこまでも穏やかだ。

 

「入学式から通えていれば良かったよな」

 

 天色の後ろから、朱殷実果(しゅあん・みはか)が頭の後ろで両手を組みながら声を張り上げる。

 

「見てみたかったぜ、無様に負けるクラスメイトってのを」

 

 朱殷の言葉が、浅黄(あさぎ)ゴウへと真っ直ぐに突き刺さる。

 ゴウはポケットに両手を突っ込んだまま、苛立たしげに舌打ちをしてそっぽを向いた。

 

「その点について少し疑問なのですが、何故入学式の日から一週間も休んでいたのですか? それも二人揃って」

 

 花緑青小春(はなろくしょう・こはる)が、ふと湧いた疑問をそのまま口にした。

 

「花緑青さん、事情があったと思うし追及するのは……どうかと思うなあ」

 

 小春の隣を歩く炭野(すみの)るかという少年が、慌てて釘を刺す。

 B組の間に、得体の知れない妙な緊張感が走った。

 

「なあ花緑青」

 

 前方を歩いていた朱殷が振り返った直後、その手が小春の首元へと伸びた。

 有無を言わさぬ力で首を締め上げ、彼女の身体を宙へと持ち上げる。

 B組の生徒たちの表情が完全に硬直した。

 

「ご、ごめ……っ」

「詮索は無しだ」

 

 小春は苦痛に顔を歪め、絞り出すように声を漏らす。

 朱殷は冷たく言い放つと、ふいっと手の力を抜き、小春を解放した。

 

 小春はその場に崩れ落ち、激しくむせる。

 炭野が駆け寄り、彼女の背中をさすった。

 

「駄目だよ朱殷。暴力沙汰は」

 

 天色は前を向いたまま、振り返ることも歩みを止めることもなく、極めて軽い調子でたしなめた。

 

 

 一方、A組。

 

 無数の魔物が、列をなすA組へと襲い掛かっていた。

 先頭に立つ佐倉真白(さくら・ましろ)は、無表情のまま光線を放ち魔物を処理していたが、絶対数が多すぎる。

 

「きゃっ」

「なんでこんなに!?」

 

 木々の隙間から次々と湧き出す魔物に、女子生徒たちから悲鳴が上がる。

 

「それになんか機敏って言うか……暴走してる?」

 

 紺野爪戯(こんの・つまぎ)が迎撃しながら叫ぶ。

 後方から襲い来る魔物は、強矢翠柳(きょうや・すいりゅう)が抜刀した刃で次々と斬り伏せている。

 

「確かにこれは暴走! 真白さん!」

 

 翠柳の意識は、常に真白一択であった。

 当の真白は背後の喧騒など存在しないかのように、前を向いたまま光の珠を操り、淡々と殲滅を継続している。

 

 土煙が舞い、視界が白く濁っていく。

 真白の眼がわずかに細められた。

 

「『魔』の影響か?」

 

 色波樹(しきなみ・いつき)が状況を分析し、結論を口にする。

 

「ⅩⅢが管理してるんじゃないのかよ!」

「『魔』についてはどうしようもないんじゃない?」

 

 紅桔梗志紀(べにききょう・しき)が焦燥に駆られて叫び、蘇芳(すおう)レイヴンが呆れたように返す。

 魔は異能の暴走を誘発するだけでなく、魔物にも作用する。

 理性を奪い、凶暴化させて人間を襲わせるのだ。

 

 しかし、何故急に暴走しだした……? 予兆はなかったように思える……。

 

 樹の脳内で高速演算が行われる。

 しかし、答えは視えない。

 『魔』という現象はそれほどまでに不可解であり、現在の彼らには情報が圧倒的に不足していた。

 

「応戦するしかない、か」

 

 樹は額に冷や汗をにじませる。

 自身の持つ反射の異能で、自分一人を守ることは可能だ。

 しかし、他のクラスメイトはどうなる。その懸念が彼の足を重くしていた。

 

「くっ」

 

 火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)が魔物へ向けて手を突き出そうとする。

 だが、即座に志紀がそれを制止した。

 

「何よ!」

「お前が戦って引火してみろ! 大惨事だぞ!」

「……でも!」

 

 朱美は自身の異能を完全にコントロールできていない。

 木々が密集するこの山中で熱量の制御を失えば、大規模な山火事へと発展する。

 そうなれば、全員での登頂という課題の達成は不可能となる。

 

「仲間割れしてる場合じゃないって!」

 

 爪戯が氷の異能で魔物の足を止めながら叫ぶ。

 しかし、凍らされた魔物の一部は赤い肉芽を膨れ上がらせ、再生して再び襲い掛かってくる。

 

「再生はズルいって!」

「赤い核がある! それを狙って!」

 

 レイヴンが愚痴をこぼし、爪戯が的確な指示を飛ばす。

 彼らは特別対策部の入部試練において、これと同種の魔物と対峙している。

 核さえ潰せば再生を阻止できるという事実は、すでにデータとして共有されていた。

 

「か、核を狙うっても……」

「きゃっ」

 

 錆御納戸雫(さびおなんど・しずく)青藤葵(あおふじ・あおい)が、飛びかかってきた魔物を避けようとして地面に転がり込む。

 体勢を崩した二人へ、魔物が凶悪な爪を振り下ろす。

 

 一閃。

 

 合流を果たした辛が、掌から生成した金属の刀で魔物を両断した。

 雫と葵はお互いの手を固く握りしめたまま、完全に腰を抜かしている。

 

「辛!」

「逃げる時間を稼ぐ」

 

 爪戯の声に、辛は視線を動かすことなく短く応じた。

 

「オレも居るよ~」

 

 後れて駆けつけた黒川玄(くろかわ・くろ)が、足元の影を刃に変えて魔物を貫く。

 

「任務継続了解」

 

 先頭に立つ真白が、圧倒的な火力で前方の道をこじ開ける。

 後方では辛、玄、翠柳、爪戯の四人が防衛ラインを構築し、魔物の群れを押し留めている。

 残りの生徒たちは互いに助け合いながら、歩みを止めずに前へと進む。

 

「前回みたいに爆破する?」

 

 爪戯が入部試練の記憶を引っ張り出し、提案する。

 

「爆破!? 物騒な!」

 

 事情を知らない翠柳がすかさず突っ込みを入れた。

 

「爆破ってもオレの影が抑え込むんだよ~」

 

 玄が緊迫感のない声で補足する。

 

「核の位置なら前回の戦いで分かっている。そこを貫く」

 

 辛は前方を見据えたまま、別の戦術を提示した。

 

「あまり前と離れるのも良くない、早急に決めよう。オレと爪戯君が動きを止める、良い?」

「なんであんたが仕切って──……」

 

 玄の指示に、爪戯が反射的に噛みつく。

 

「俺は前に行きそうなのを斬る! うおおおおお! 真白さあああん!」

 

 翠柳は真白の名を叫びながら、前方へと突き進んでいく。

 辛が短く頷くと、爪戯と玄が同時に異能を展開した。

 

 凍てつく氷と、這い寄る影。

 二つの異能が魔物の群れの機動力を完全に奪い、その場に縫い付ける。

 

 辛は金属生成の異能を励起させた。

 目標は固定された。あとは正確に核を貫くだけだ。

 

 直後、地面から無数の金属の剣や槍が突如として隆起し、魔物たちの赤い核を容赦なく貫いていった。

 

 一瞬の静寂。

 核を破壊された魔物たちは、再生のプロセスに移行することなく霧散し、消滅していく。

 

「急いで合流するぞ」

 

 辛は刀を消散させると、背を向けて駆け出した。

 

「「あ、待って!」」

 

 玄と爪戯の声が見事に重なる。

 

 列の先頭は真白が維持しているが、窮地を脱したとはいえ油断はできない。

 辛は一気に距離を詰め、真白と並ぶ最前列へと出た。

 

「お前っ……」

 

 樹が辛の合流を見て、思わず顔をしかめる。

 辛は足を止め、地面を強く踏みしめた。

 

「あまり自然の地形を変えるのは好まないんだが……」

 

 辛は自身の内にある五行の異能のうち、土と木を同時に解放した。

 地響きとともに地面が平坦に均され、行く手を阻む木々や根が自ら退くようにして道を開いていく。

 

「すごっ」

 

 背後のクラスメイトたちから、思わず感嘆の声が漏れた。

 彼らの目の前に、安全で歩きやすい道が瞬く間に形成されていく。

 

 最初からこの手段を取ればよかったと思うかもしれない。

 しかし、管理地とはいえここは自然の山だ。地形を強引に作り変えれば、生態系に予期せぬ影響を及ぼしかねない。その論理的懸念があるからこそ、辛は最初からこの力を行使しなかった。

 だが、魔物の暴走というイレギュラーが発生した今、緊急時の最適解としてこの選択肢を実行したのだ。

 

「このまま登頂する」

 

 辛が簡潔に宣言し、真白と共に先頭を歩く。

 殿(しんがり)には爪戯、玄、そして翠柳がつく。

 

 足場の悪い獣道ではなく、地ならしされた平坦な道を、A組は駆け上がっていく。

 

「ってか五行使いってズルくね?」

「一瞬で切り開いちゃったよ」

「最初からやって欲しかったよなあ」

 

 緊張の糸が少しだけ緩み、クラスメイトたちから各々の感想が漏れる。

 

「流石だね」

 

 玄が笑みを浮かべて言うと、爪戯は大きく、力強く頷いた。

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