【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
「その……天竜君、あのくらいで良かったのかな?」
登頂を目指し、A組とは別ルートを進むB組。
先頭を歩く
「ああ、彼のチカラが見てみたいから攻撃してみてってお願いしたこと? う~ん、そうだね。底は見えたとは思わないよ」
天色は右手の人差し指を顎に当てながら、柔らかな笑顔のまま答える。
シルヴァが
「
天色の声色はどこまでも穏やかだ。
「入学式から通えていれば良かったよな」
天色の後ろから、
「見てみたかったぜ、無様に負けるクラスメイトってのを」
朱殷の言葉が、
ゴウはポケットに両手を突っ込んだまま、苛立たしげに舌打ちをしてそっぽを向いた。
「その点について少し疑問なのですが、何故入学式の日から一週間も休んでいたのですか? それも二人揃って」
「花緑青さん、事情があったと思うし追及するのは……どうかと思うなあ」
小春の隣を歩く
B組の間に、得体の知れない妙な緊張感が走った。
「なあ花緑青」
前方を歩いていた朱殷が振り返った直後、その手が小春の首元へと伸びた。
有無を言わさぬ力で首を締め上げ、彼女の身体を宙へと持ち上げる。
B組の生徒たちの表情が完全に硬直した。
「ご、ごめ……っ」
「詮索は無しだ」
小春は苦痛に顔を歪め、絞り出すように声を漏らす。
朱殷は冷たく言い放つと、ふいっと手の力を抜き、小春を解放した。
小春はその場に崩れ落ち、激しくむせる。
炭野が駆け寄り、彼女の背中をさすった。
「駄目だよ朱殷。暴力沙汰は」
天色は前を向いたまま、振り返ることも歩みを止めることもなく、極めて軽い調子でたしなめた。
一方、A組。
無数の魔物が、列をなすA組へと襲い掛かっていた。
先頭に立つ
「きゃっ」
「なんでこんなに!?」
木々の隙間から次々と湧き出す魔物に、女子生徒たちから悲鳴が上がる。
「それになんか機敏って言うか……暴走してる?」
後方から襲い来る魔物は、
「確かにこれは暴走! 真白さん!」
翠柳の意識は、常に真白一択であった。
当の真白は背後の喧騒など存在しないかのように、前を向いたまま光の珠を操り、淡々と殲滅を継続している。
土煙が舞い、視界が白く濁っていく。
真白の眼がわずかに細められた。
「『魔』の影響か?」
「ⅩⅢが管理してるんじゃないのかよ!」
「『魔』についてはどうしようもないんじゃない?」
魔は異能の暴走を誘発するだけでなく、魔物にも作用する。
理性を奪い、凶暴化させて人間を襲わせるのだ。
しかし、何故急に暴走しだした……? 予兆はなかったように思える……。
樹の脳内で高速演算が行われる。
しかし、答えは視えない。
『魔』という現象はそれほどまでに不可解であり、現在の彼らには情報が圧倒的に不足していた。
「応戦するしかない、か」
樹は額に冷や汗をにじませる。
自身の持つ反射の異能で、自分一人を守ることは可能だ。
しかし、他のクラスメイトはどうなる。その懸念が彼の足を重くしていた。
「くっ」
だが、即座に志紀がそれを制止した。
「何よ!」
「お前が戦って引火してみろ! 大惨事だぞ!」
「……でも!」
朱美は自身の異能を完全にコントロールできていない。
木々が密集するこの山中で熱量の制御を失えば、大規模な山火事へと発展する。
そうなれば、全員での登頂という課題の達成は不可能となる。
「仲間割れしてる場合じゃないって!」
爪戯が氷の異能で魔物の足を止めながら叫ぶ。
しかし、凍らされた魔物の一部は赤い肉芽を膨れ上がらせ、再生して再び襲い掛かってくる。
「再生はズルいって!」
「赤い核がある! それを狙って!」
レイヴンが愚痴をこぼし、爪戯が的確な指示を飛ばす。
彼らは特別対策部の入部試練において、これと同種の魔物と対峙している。
核さえ潰せば再生を阻止できるという事実は、すでにデータとして共有されていた。
「か、核を狙うっても……」
「きゃっ」
体勢を崩した二人へ、魔物が凶悪な爪を振り下ろす。
一閃。
合流を果たした辛が、掌から生成した金属の刀で魔物を両断した。
雫と葵はお互いの手を固く握りしめたまま、完全に腰を抜かしている。
「辛!」
「逃げる時間を稼ぐ」
爪戯の声に、辛は視線を動かすことなく短く応じた。
「オレも居るよ~」
後れて駆けつけた
「任務継続了解」
先頭に立つ真白が、圧倒的な火力で前方の道をこじ開ける。
後方では辛、玄、翠柳、爪戯の四人が防衛ラインを構築し、魔物の群れを押し留めている。
残りの生徒たちは互いに助け合いながら、歩みを止めずに前へと進む。
「前回みたいに爆破する?」
爪戯が入部試練の記憶を引っ張り出し、提案する。
「爆破!? 物騒な!」
事情を知らない翠柳がすかさず突っ込みを入れた。
「爆破ってもオレの影が抑え込むんだよ~」
玄が緊迫感のない声で補足する。
「核の位置なら前回の戦いで分かっている。そこを貫く」
辛は前方を見据えたまま、別の戦術を提示した。
「あまり前と離れるのも良くない、早急に決めよう。オレと爪戯君が動きを止める、良い?」
「なんであんたが仕切って──……」
玄の指示に、爪戯が反射的に噛みつく。
「俺は前に行きそうなのを斬る! うおおおおお! 真白さあああん!」
翠柳は真白の名を叫びながら、前方へと突き進んでいく。
辛が短く頷くと、爪戯と玄が同時に異能を展開した。
凍てつく氷と、這い寄る影。
二つの異能が魔物の群れの機動力を完全に奪い、その場に縫い付ける。
辛は金属生成の異能を励起させた。
目標は固定された。あとは正確に核を貫くだけだ。
直後、地面から無数の金属の剣や槍が突如として隆起し、魔物たちの赤い核を容赦なく貫いていった。
一瞬の静寂。
核を破壊された魔物たちは、再生のプロセスに移行することなく霧散し、消滅していく。
「急いで合流するぞ」
辛は刀を消散させると、背を向けて駆け出した。
「「あ、待って!」」
玄と爪戯の声が見事に重なる。
列の先頭は真白が維持しているが、窮地を脱したとはいえ油断はできない。
辛は一気に距離を詰め、真白と並ぶ最前列へと出た。
「お前っ……」
樹が辛の合流を見て、思わず顔をしかめる。
辛は足を止め、地面を強く踏みしめた。
「あまり自然の地形を変えるのは好まないんだが……」
辛は自身の内にある五行の異能のうち、土と木を同時に解放した。
地響きとともに地面が平坦に均され、行く手を阻む木々や根が自ら退くようにして道を開いていく。
「すごっ」
背後のクラスメイトたちから、思わず感嘆の声が漏れた。
彼らの目の前に、安全で歩きやすい道が瞬く間に形成されていく。
最初からこの手段を取ればよかったと思うかもしれない。
しかし、管理地とはいえここは自然の山だ。地形を強引に作り変えれば、生態系に予期せぬ影響を及ぼしかねない。その論理的懸念があるからこそ、辛は最初からこの力を行使しなかった。
だが、魔物の暴走というイレギュラーが発生した今、緊急時の最適解としてこの選択肢を実行したのだ。
「このまま登頂する」
辛が簡潔に宣言し、真白と共に先頭を歩く。
足場の悪い獣道ではなく、地ならしされた平坦な道を、A組は駆け上がっていく。
「ってか五行使いってズルくね?」
「一瞬で切り開いちゃったよ」
「最初からやって欲しかったよなあ」
緊張の糸が少しだけ緩み、クラスメイトたちから各々の感想が漏れる。
「流石だね」
玄が笑みを浮かべて言うと、爪戯は大きく、力強く頷いた。