【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
ボクという人間は、空っぽだ。
何もない。
勉強もスポーツも普通。
上には上が沢山いるし、下もいる。
趣味も特にない。
何かに熱を上げ、のめり込める人間が正直羨ましい。
いつも退屈だ。
あくびをして、寝て、ただやり過ごすだけの日々。
ある日、『魔』の声が聞こえた気がした。
空っぽなボクと同じにしてしまえ、と。
だからボクは人を襲った。
熱を上げる人々の異能を、空っぽにしてやった。
◇
空気の壁に阻まれ、合流できずにいる
異能のメカニズムは未解明だが、魔力的なエネルギーが原動力として使われていると定義されている。それが枯渇状態に陥れば、当然異能は使えなくなる。
しかし、時間と共にエネルギーは自然回復し、再び異能が使えるようになる。
「『一時的』に使用不可というのは……そういうことか」
玄はぽつりと呟いた。
背後の廊下にはB組の面々も姿を見せていたが、状況が掴めないのか、誰もが静観の構えをとっていた。
破壊された天井の向こうに広がる夜空。
蒼は空気を極限まで圧縮して不可視の足場を構築し、虚空に直立していた。
「かかって来いよ、半妖」
蒼は手招きをして
辛の精神は極めて冷静であった。しかし、この混沌とした状況を収束させるには、蒼を無力化する以外の選択肢は存在しない。
五行のうち『土』の異能を励起させ、地面の一部を隆起させる。
それを足場として強く地を蹴り、上空へと跳躍した。
空中で『金』の異能を介して刀を生成し、一閃を放つ。
しかし、蒼は圧縮した空気の壁を展開し、その斬撃を容易く弾き返した。
辛は空中に金属の足場を瞬時に生成して軌道を変え、再び蹴り込む。
死角から何度も蒼に肉薄しては刀を振るう。
だが、そのどれもが強固な空気の層に阻まれ、刃が対象に届くことはない。
……しかし、何故この場の全員に
辛は超高速での三次元機動と斬撃を繰り返しながら、思考の演算を走らせていた。
条件がある。この場での
「その顔、どうやら気づいたみたいだね」
辛の表情筋に特別な変化はなかったが、蒼は彼の僅かな挙動から察し、口を開いた。
「ボクの異能『空使い』は、対象の異能を空にする。けれど、誰でも良いってわけじゃない」
不可視の防壁に守られた蒼は、両手を広げて嬉々として語る。
「ボクはね、熱を上げる人々が羨ましいよ」
辛は蒼のその言葉を受信し、演算の最終解を弾き出した。
一定の出力に到達すれば対象になる、か……。
一方、地上。
雪崩れ込んでくる魔物の群れに対し、
魔物を正確に射抜くと同時に、上空の蒼へも照準を合わせる。
「制圧対象」
真白は機械的に宣告し、光線を放つ。
だが蒼は、破壊された建材の塵や埃、土煙を含んだ空気を凝縮し、真白と自身の間の空間に固定した。
真白の眼がわずかに見開かれた。
ブルーミング現象。高密度の微粒子を含んだ大気の層によって光が屈折、散乱させられ、照準が致命的に狂う。
結果として、真白の放った高火力の光線は空間で分散し、蒼の直前で霧散した。
「キミ達の攻撃は届かないよ」
夜空を背負った蒼が、不敵な微笑を浮かべながら言い放つ。
「何故こんなことをする?」
斬りつけながら、辛が問う。
「『魔』がそう囁いた気がしたから」
蒼は答えながら、空気の塊を不可視の弾丸として撃ち出す。
辛は空中に金属の足場を展開し、瞬時に軌道を変えてそれを回避する。
「そして今日! この近くに来ている! そう確信している!」
蒼は両手を広げ、高らかに宣言した。
「近くに来ている……?」
辛がわずかに眉を動かし、情報を要求する。
「そう、だから張り切って皆をボクと同じにしようって思ったんだ」
蒼は無邪気な狂気を孕んだ声で、言葉を続けた。
「同じ……?」
「そうだよ」
辛の問いに、蒼はすかさず答える。
「一か月程度じゃ理解できないのも無理はないよ。ボクっていう人間はね、空っぽなんだ。何も出来ない、何者にもなれない……何をやってもすぐ冷める」
蒼の表情から、すっと笑顔が消え失せた。
「クラスメイトは決闘までしてるのに、ボクと来たら……」
蒼は一度腕を下ろしたが、すぐに両手を顔の前で組んだ。
「でも、あの日の決闘は面白かったな。あんなに熱上げちゃって……でも空っぽにしたとたん、倒れちゃって」
蒼は再び笑顔を作り、無邪気に言い放つ。
辛は蒼の言葉を処理しながらも、戦術の再構築を進めていた。
奴は自ら攻撃を仕掛けてくる気配が薄い。おそらく、空気の壁を突破するために、こちらが出力を上げることを狙っている……。出力を限界まで上げれば、異能を
蒼の真の狙いは、辛の異能を強制的に枯渇状態へ追いやること。そのための強固な防御陣形だ。
地上では、真白が天を仰ぎながらも、群がる魔物を撃ち抜き続けていた。
だが、真白と蒼の間にある淀んだ空気の層が、致命的に光線の威力を殺している。
「こ、こんなの」
「どうしたら」
傍らには、異能を喪失して倒れ伏す
真白は雫と葵を背後に庇うように立ち、口を開いた。
「錆御納戸、懇願」
その唐突な言葉に、雫が「えっ」と思わず声を漏らした。
真白は一瞬だけ、目線を雫たちへと向ける。
「ええ……言っておくけど、私の浄化は原理が分かってないと使えないよ? 原理不明だから、異能を消すみたいな芸当はとても……せいぜいドローンの電波くらいがギリギリ……」
雫は俯きながら、自身の能力の制約を早口で説明する。
彼女は浄化使い。呪いを解き、清める力を持つ。応用すれば電波を無効化しドローンを無力化できるが、構造や原理を理解していないと発動できないため、未知の異能そのものを無力化することは不可能であった。
毒に対しても同様で、成分を理解していなければ効果を発揮できない。
真白はその制約を完全に理解していた。
だからこそ、彼女は別の対象を提示した。
「空気の浄化」
真白は静かに、端的にそれだけを発した。