【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
「半妖ゆえに対人間用の毒が効かない、か」
ⅩⅢの監視棟。白いスーツに身を包んだ総指揮官が、椅子の背もたれに体重を預けながら呟いた。
部屋の中央に設置された大型モニターには、
「そして鉄膚に対して金属と火で勝つか……面白い」
総指揮官は手元の端末を操作し、モニターの電源を落とした。
翌日の
毒の被害に遭った生徒たちも、幸いにして全員が無事に登校を果たしていた。
一年A組の教室内では、昨日の決闘が専らの関心事となっていた。
「毒霧の中一人で制圧、そして! あの決闘!」
一際声を張り上げていたのは
「まあまあ、落ち着いて」
「はん、なによ。ちょっと勝ったくらいで」
鼻を鳴らし、不満げに吐き捨てたのは
「なんだよ、
「はあ!?」
爪戯の言葉に、朱美の鋭い声が飛ぶ。玄は額に汗を滲ませながら二人の間に割って入った。
「トロ子、あんたからも何か言って」
矛先を変えるように、朱美は
「ひっ!? わ、わたし!?」
「ホントにあんたってトロいんだから」
こころの鈍い反応に、朱美は深い溜息を吐き、冷ややかな視線を浴びせる。こころは首を縮め、机に視線を落とした。
二人は同じ中学校の出身であった。朱美はこころの動作の遅さに日頃から苛立ちを募らせ、「トロ子」という呼称を定着させている。
その光景を教室の隅から観察している少年がいた。
……何故、あの子と同じ子が存在しているんだ?
樹の脳裏には、こころと瓜二つの少女の顔が浮かんでいた。しかし、彼の記憶にあるその少女はすでに殺されている。生存しているという仮説は成り立たない。
双子という可能性もあるが、姉妹の存在は確認されていない。
樹は静かに思考を巡らせる。
……なんだ? あの女、少し
樹が思考の海に沈んでいたその時、教室の扉が開かれた。
一瞬にして、室内の視線が入り口に集まる。
現れたのは辛であった。
彼自身、過度な注目を集める意図はない。表情は鉄面皮のままだが、内面では入学式当日の自身の立ち回りを精査し、無用な注目を浴びた事実を最適化の失敗として静かに反省していた。
「あ……」
玄が口を開きかけた瞬間、爪戯がその前に躍り出た。
「あんた凄いんだね!」
爪戯は玄を押し退け、辛へと歩み寄る。
「媚び売り」
「あ?」
朱美の口から漏れた棘のある言葉に、爪戯が即座に反応を示す。こころは依然として視線を下げたままだ。
辛は周囲の喧騒を無意味なノイズとして処理し、自身の席へと歩みを進める。背後では爪戯と朱美による口論が続き、玄がそれを収めようと奔走していた。
「オレは認めない」
辛が席に着くと同時、隣に座る樹が口を開いた。
「昨日のアレは何だ。お前、何か『熱い目的』があって戦ってるわけじゃないだろ。ただ言われた通りに動いてるだけの人形みたいで……反吐が出るんだよ。オレは仇を見つけるために、這いつくばってでも頂点に立つ。お前みたいな『空っぽ』な奴に、その席を譲る気はない」
明確な敵意と嫌悪を含む言葉。
だが、辛はその熱を帯びた言葉を浴びても、呼吸をわずかにも乱すことはなかった。
「オレはオレの『利益』のために動いている。お前が勝手に頂点を目指すのは構わない。だが、オレの進行
辛は一瞥をくれたのみで、淡々と事実を告げた。
教室が静まり返る。
爪戯は剥き出しの羨望を、朱美は隠しきれない敵意を、そして樹は明確な嫌悪を辛に向けていた。
様々な視線が交錯する中、こころは沈黙を保ったまま俯いている。
だが、彼女の机上に置かれた消しゴムが、外部からの物理的な接触がないにも関わらず、小刻みに振動を繰り返していた。