【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.31「陰謀者」

 朝の刃ケ丘(はがみおか)異能高等学校。

 一年A組の教室には、始業前の特有の喧騒が満ちていた。

 

「先日の事件見た〜?」

「また暴れたらしいね」

 

 錆御納戸雫(さびおなんど・しずく)青藤葵(あおふじ・あおい)が、教室の出入り口で顔を合わせるなり声を潜めて語り合う。

 

「『魔』による暴走のやつか……切ノ札(きりのふだ)学園の近くだったんでしょ?」

 

 黒川玄(くろかわ・くろ)が、手元のスマートフォンへ視線を落としたまま教室へ足を踏み入れた。

 

「あ、黒川君おはよー」

「おはよー」

 

 雫と葵からの挨拶に、玄は画面から視線を外さずに緩く応じる。

 そのまま淀みない足取りで自身の席へと向かい、着席した。

 

「第二地区にてⅩⅢ(サーティーン)が一人で制圧。しかもそのⅩⅢは高校一年生」

 

 玄の席へ紺野爪戯(こんの・つまぎ)が歩み寄り、机に手をついた。

 

四月(しづき)レン……やっぱ同い年なんだ」

「ん?」

 

 玄の口から自然にこぼれ落ちた名前に、爪戯が反応を示す。

 

「いやさ〜前に制圧現場を生で見たことあってさー」

 

 玄はスマートフォンを制服のポケットへ滑り込ませながら答える。

 宿泊研修の前、六大路辛(ろくおおじ・かのと)と立ち寄ったショッピングモールでの記憶。

 四月レンという名は、その際に辛から提示された情報だった。

 

「にしても……なんで高校生やってるんだろう?」

 

 玄は窓の外へ視線を向け、ぽつりと呟いた。

 

「んー?」

 

 爪戯が聞き返す。

 

「ⅩⅢの四月レン……高校一年生なんでしょ? ⅩⅢやりながら高校生?」

 

 玄は首を傾げ、純粋な疑問を口にする。

 

「しかも切ノ札学園だってね」

 

 爪戯が情報を補足した。

 

「切ノ札学園……」

 

 玄は微かに目を細める。

 路地裏で遭遇した、他校の生徒の姿が脳裏にフラッシュバックした。

 短く刈り込まれた黒髪。黒縁の眼鏡。指先を黒く染め上げた異質な爪。光を反射しない漆黒の瞳には、感情の機微が一切欠落していた。

 あの少年もまた、切ノ札の制服を身に纏っていた。

 

「同い年でⅩⅢってことは、選ばれし子供達の一人ってこと!?」

 

 机に突っ伏していた蘇芳(すおう)レイヴンが、弾かれたように顔を上げて声を張り上げた。

 彼の下敷きになっていたノートのページが、無残に折れ曲がっている。

 

「選ばれし子供達って悪い噂もなかったか?」

 

 紅桔梗志紀(べにききょう・しき)が、広げていた教科書から視線を切り、レイヴンへ問いかける。

 中間テストが迫る中、彼らなりに学習のポーズはとっているようだった。

 

「悪い噂……?」

 

 雫と葵が互いの顔を見合わせ、揃って首を傾げる。

 

「訓練が厳しすぎて全滅したって……」

 

 志紀は腕を組み、声のトーンを落とした。

 

「一家に支払われた報酬は手切れ金。関係は途切れ、連絡を取ることは許されない……生きてⅩⅢになれたのか、はたまた途中で死んだのか……元家族には知りようがない……ってこと!?」

 

 玄が表情から緩さを消し、神妙な面持ちで推測を重ねる。

 

「でも、一人はⅩⅢやってるっぽいんなら、全滅じゃないんじゃね?」

 

 爪戯が自身の席へ腰を下ろし、頬杖をつきながら至極真っ当な指摘を入れる。

 

「でも確かに活躍は聞かないかも」

 

 葵が右手の指先を頬に当て、記憶を探るように言った。

 

「案外噂も本当ってこと?」

 

 雫が自身の両腕を抱え込み、微かに肩を震わせる。

 

「選ばれてようが、選ばれてなかろうが、全員倒す! 私が一番になる!!」

 

 教室の空気を物理的に破壊するように、火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)が勢いよくドアを開け放ち、高らかに宣言した。

 

「味方倒すの?」

 

 玄が目を瞬かせ、的確なツッコミを入れる。

 その喧騒の隙を突くように、灰塚(はいづか)こころが反対側のドアから音もなく教室内へ滑り込んだ。

 

「何? 朝から騒がしい」

 

 続いて色波樹(しきなみ・いつき)が教室へ到着する。

 入り口で朱美と視線が交差し、互いに顔をしかめて同時に「げっ」と声を漏らした。

 

「そうだ色波! お前も学力テスト勝負に参加しろよ!」

 

 志紀が唐突に標的を変え、樹へ提案を投げかける。

 先日カフェで持ち上がった、テストの最下位が告白の罰ゲームを受けるという不毛な遊戯。

 玄が「駄目だよ」と呆れ混じりに小さく口を挟む。

 

「え……普段の学習態度から三馬鹿に負けるヤツ想像する方が無理」

 

 樹は歩みを止めず、冷ややかな視線と共にキッパリと言い捨てた。

 

「「誰が三馬鹿だ!」」

 

 志紀とレイヴンが息の合った抗議の声を上げる。

 朱美は深くため息をつき、自身の席へと向かった。

 

 遅れて、佐倉真白(さくら・ましろ)が教室へ入ってくる。

 足音すら立てず、機械的な動作で自身の席へと腰を下ろした。

 直後、強矢翠柳(きょうや・すいりゅう)がドアを乱暴に開け、彼女を追うように飛び込んでくる。

 

「おはようございます! 真白さん!」

 

 翠柳は腰を深く折り曲げ、大声で挨拶をした。

 だが真白の視線は黒板へ固定されたままであり、顔の筋肉が動くことさえなかった。

 

「強矢はいつも元気と言うか……」

 

 樹が席につきながら振り返り、ため息交じりに呟く。

 

「馬鹿なだけでしょ」

 

 朱美が腕を組み、冷酷な評価を下す。

 

 そして、ホームルーム開始の直前。

 六大路辛が静かに教室へ姿を現した。

 毎朝、自身の肉体の数値を測定し、ⅩⅢへデータを送信するという義務。

 その工程が存在する以上、彼の登校時刻はどうしても遅れがちになる。

 

「辛君おはよ~」

「辛おはよう!」

 

 玄と爪戯が歩み寄り、声をかける。

 

 辛は視線を合わせず「ああ」と短く返した。

 

「辛君は四月レンのこと何回か見たことあるんだよね?」

 

 玄が問いを投げる。

 辛は自身の席に腰を下ろし、静かに頷いた。

 

「その話に戻るの?」

 

 爪戯がすかさずツッコミを入れる。

 

「なんかちょっと気になるんだよね~なんで高校生やってて、しかもそれが切ノ札学園なのか」

 

 玄は辛の机に上半身を預けるように突っ伏し、首を傾げた。

 

「刃ケ丘じゃなくて切ノ札ってのが引っかかると?」

 

 爪戯が玄の肩を掴み、机から引き剥がそうと力を込める。

 

「だって刃ケ丘は卒業後ⅩⅢに入れるけど、切ノ札は訓練校挟むんでしょ~?」

 

 玄は机にしがみつき、爪戯の力に抵抗しながら言葉を紡ぐ。

 

「訓練校挟む分、切ノ札からⅩⅢに入った場合は、ちょっと上からのスタートになるらしい」

 

 爪戯はさらに力を込め、玄の体を引き起こそうとする。

 

「刃ケ丘と切ノ札は、ⅩⅢのスタートラインが違うってこと!?」

 

 玄はついに机から引き剥がされ、体勢を崩しながらも声を上げた。

 

 治安維持組織ⅩⅢ。その内部構造には厳格な序列が存在する。

 刃ケ丘の卒業生は直接ⅩⅢへ配属されるが、扱いは最下層からのスタートとなる。

 対して切ノ札は、卒業後に訓練校での過程を経ることで、より上位の階級からキャリアを開始できる。

 

 さらに頂点には、十三傑と呼ばれる最上位の者たちが君臨している。

 四月レン、宮中(みやうち)潤、封印局長、総指揮官など。

 その中にも序列はあり、一番下が宮中潤、一番上が総指揮官と規定されている。

 

「……」

 

 辛の脳内で、情報が静かに演算される。

 

 仮に四月レンが刃ケ丘に所属していた場合、どのような変数が発生していたか。

 現状でも、刃ケ丘にはⅩⅢの関係者が過剰に集積している。

 そこに特級過去視の保持者まで加われば、学園内のパワーバランスは大きく崩れていたはずだ。

 

「実は誰かの陰謀だったりして?」

 

 レイヴンが会話に割って入り、根拠のない憶測を口にした。

 

「陰謀!?」

「陰謀論者!?」

「いや、ないない」

 

 クラスメイトたちが各々に反応を示し、教室の喧騒が一段と増す。

 辛はその騒ぎから意識を切り離し、静かに首を左右へ振った。

 鞄から文庫本を取り出し、活字の世界へと沈降していく。

 

 ◇

 

 同時刻。

 切ノ札学園の校舎内。

 

「師はどうして切ノ札へ? 師ほどの実力なら刃ケ丘でも活躍は簡単だったでしょうに……」

 

 宮中潤が、前を歩く四月レンの背中へ問いかける。

 校則や試験の基準において、切ノ札は刃ケ丘よりも緩く設定されている。

 

 レンは歩調を変えず、振り返ることもなく口を開いた。

 

「あんな息の詰まるところお断りだな」

「そう……ですか」

 

 想定外に俗っぽい返答に、宮中は拍子抜けしたように相槌を打つ。

 

「それに所属を決めたのは『あいつ』だからな。私が居て解決がスムーズでは面白くないのだろう」

「あいつ?」

 

 レンの口から出た代名詞に、宮中の眉間に微かな皺が寄る。

 

「そもそも切ノ札の面子を決めたのは『あいつ』……」

 

 レンは足を止めず、視線だけを天井へと向けた。

 それ以上の情報が開示されることはない。宮中もそれを理解しており、追及を諦めて静かに後を追った。

 

 ──刃ケ丘異能高等学校で中間テストが始まる。

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