【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

4 / 19
case.4「五行使い」

 夜。六大路(ろくおおじ)家。

 帰宅した(かのと)を迎えたのは、珍しく先に帰り着いていた父、北王(ほくおう)であった。

 

「すまんな、辛。オレにもっと権限があれば……」

 

 顔を合わせるなり、北王の口から苦渋に満ちた言葉がこぼれる。

 ⅩⅢ(サーティーン)の医療班、実質的な軍医の地位に就く彼であっても、組織の強大な力の前では一個人に過ぎない。

 (ひのと)が連行される際、北王は抗い、拒絶の意思を示した。だが、その抵抗は悉く無力化され、親子は強制的に引き裂かれた。

 

「別に……父さまのせいじゃない」

 

 辛は窓の外、一切の光を吸い込む夜闇を見つめたまま返す。

 責を負うべきは北王ではない。憎悪の対象となるべきⅩⅢの暗部は、すでに辛の思考内で標的として確定している。そして同時に、現状の己の無力さも正確に測っていた。

 

「しかし、このままって訳にもいかないな。なんとかしてみる」

 

 北王が強く拳を握り込む。

 過剰な力が込められた指の関節が白く変色し、手の甲の血管が微かに浮き上がっていた。

 辛の内部にある意思もまた、北王のそれと完全に同調している。表情を変えないまま、脳の奥底でただ冷徹な決意だけを固めていた。

 

「辛、無茶はするなよ」

 

 息子の身を案じる声。

 辛は無言のまま、短く一度だけ頷いた。

 

 ◇

 

 翌日。刃ケ丘(はがみおか)異能高等学校。

 入学式における予期せぬ混乱により延期されていた異能測定テストが、本日実行される運びとなっていた。

 一年A組の生徒たちは、学園の地下に広がる広大な異能演習施設へと集められている。

 

「先日の異能測定テストは残念ながら中止となった訳だが……今から行う。E判定の者は即退学とする」

 

 担当教師の冷徹な宣告が、無機質な空間に響く。

 

「複数の可動式標的や、障害物を抜けながらいかに早く破壊してゴールできるかというタイムアタック形式の『基礎能力測定』だ」

 

 可動式標的として配置されているのは、自律行動型のドローンやゴーレムといった兵器群である。

 

「やってやる!」

「燃えてきた」

「自信ない」

 

 生徒たちから、それぞれの心情を映した声が漏れる。

 

「一番、大空蒼(おおぞら・そう)

「ふぁ~い」

 

 名前を呼ばれ、極めて気の抜けた返事をした少年が開始位置につく。

 測定が開始されると、蒼は空気を圧縮して透明な足場を空中に作り出し、上空から最短経路を歩いていく。迎撃システムもまた、圧縮空気の壁によって容易く無力化された。

 

「何の異能?」

「同じ中学だったけど、(から)使いだって」

 

 生徒たちがその光景を眺めながら情報を交わす。

 

「次、強矢翠柳(きょうや・すいりゅう)

「はっ!」

 

 鼻筋の傷が特徴的な少年が、過剰な声量で応じた。腰には刀帯が巻かれている。

 

「うおおおおお、真白さん見てて下さい!」

 

 特定のクラスメイトの名を叫びながら、自身の身体能力を異能で引き上げ、抜刀した刃で標的群を真っ二つに両断していく。

 

「馬鹿そう」

「煩い」

「なんだと!?」

 

 生徒間のまとまりのない声が交錯する。

 

「次、黒川玄(くろかわ・くろ)

「はいは~い」

 

 ウルフカットの少年は、口調と同様に緩い足取りで位置についた。

 歩調を乱すことなく、自身の影を物理的な干渉力として操り、標的を次々と沈黙させていく。労力を最小限に抑えたクリアだった。

 

「次、紺野爪戯(こんの・つまぎ)

「はい!」

 

 前髪で右目を覆った爪戯が歩み出る。

 直前、辛の座席へと視線が向けられたが、辛はそれに一切の反応を返さない。

 爪戯は高圧の水の刃を生成し、標的の装甲を的確に切断してゴールへ到達した。

 

「次、色波樹(しきなみ・いつき)

「うっす」

 

 樹は開始前、視界の端に灰塚(はいづか)こころを捉え、すぐに前を向き直った。

 彼の異能は反射。自発的な攻撃手段を持たない特性上、標的からの攻撃を待ってカウンターを成立させる必要があり、結果として大幅な時間の浪費を生んでいた。

 

「自分から行かないのかよ」

「使えない感じ?」

 

 見学する生徒たちから、その欠点を指摘する声が上がる。

 

「次、佐倉真白(さくら・ましろ)

「了解」

 

 色素の薄い少女が定位置に立つ。

 

「真白さ~ん! 応援してます!」

「煩い!」

「なんだと!?」

 

 翠柳の不必要な大声に対し、火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)の鋭い声が即座に飛ぶ。

 真白の掌から収束された光線が放たれ、直線上の標的群が悉く貫かれた。

 

「討伐完了」

 

 彼女は淡々と結果のみを口にする。

 

「次、灰塚こころ」

「は……はい……」

 

 消え入るような声を出したのはこころだった。

 その背後で、朱美が小さく舌を打つ。

 こころの基礎身体能力は極めて低かった。念動力を用いて対処を試みるものの、出力が安定せず、効率的な破壊には程遠い。多大なタイムロスが計上される。

 

「だからトロ子なのよ」

「火乃宮さん、そこまで言わなくても……」

 

 朱美は他者の言葉を意に介さず、鼻を鳴らして目を逸らした。

 

「次、火乃宮朱美」

「はい」

 

 開始位置についた朱美は、圧倒的な熱量を持つ炎を放出した。標的は即座に融解したが、制御を欠いた熱波は演習施設の壁面までをも黒く焦がし、安全を確保するための不要な時間を要した。

 

「なんだよ、あいつも大したことねーじゃん」

「だよねえ」

 

 周囲の冷ややかな評価が耳に入り、朱美の顔が朱に染まる。彼女は唇を噛んで俯いた。

 

 進行が進み、ついに辛の番が回ってくる。

 

「次、六大路辛(ろくおおじ・かのと)

「……」

 

 辛は一切の感情を排した面持ちで開始位置に立った。

 彼に向けられる生徒たちの視線には、前日の決闘で見せた金属と火の複合行使を期待する色が含まれている。

 

 測定開始のシグナルが鳴った直後、辛はタイムを極限まで削るための最適化された演算を実行に移す。

 

 初動。高速で三次元機動を行う飛行標的に対し、床面から瞬時に樹木の蔦を成長させて物理的に捕捉、地面へと叩き落とす。

 

 前傾姿勢を維持したまま地を蹴り、正面から照射された迎撃レーザーには、床の土砂を隆起させて構築した土の防壁で熱量を完全に遮断。

 

 火炎放射機構を備え熱源を帯びる標的に対しては、先ほど爪戯が演習場に残した水分を触媒として操作し、瞬時に完全鎮火させる。

 

 最終関門である巨大なゴール標的に到達した瞬間、掌から金属の刃を生成。同時に火の異能による爆発的な推進力を付与し、絶対的な運動エネルギーをもった一撃で標的の装甲を粉砕した。

 

 木、土、水、金、火。

 一切の躊躇や思考の遅れを伴わず、事象の解決に最も適した異能が冷徹に選択され、展開された。

 

「木……土に水まで……?」

「あいつ、金属と火だけじゃなかったのかよ!」

「五つの属性……五行使いかよ、マジの化け物じゃねえか」

 

 A組の生徒たちの間に、戦慄を伴うどよめきが伝播する。

 

 樹の眉間に険しい皺が寄り、玄は想定を超えた光景に引き攣った笑みを浮かべる。爪戯からの視線はより強い熱を帯び、朱美は露骨な警戒心を剥き出しにしていた。

 

 周囲の騒めきというノイズを、辛は一切処理しない。

 ただ前方の破壊された標的の残骸を冷たく見据える。

 

 ……父さま、オレは丁を必ず取り戻す。

 

 思考領域の最深部に刻み込まれたその目的だけが、辛という存在を静かに、そして強固に立たせていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。