【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
無機質な室内は、職員たちの足音と交錯する報告の声で喧騒に包まれていた。
「各地で魔物が出現しています!」
「
「到着しました!」
その報告と時を同じくして、四月レンは実験棟の敷地内へと到達していた。
地上では、黒い靄から構成された異形の魔物たちが跋扈している。
レンが指先から放った一条の電撃が夜闇を切り裂き、魔物たちを正確に撃ち抜いて地に伏せさせた。
そこで、レンは一度足を止める。
特級過去視の異能を励起させ、
しかし、網膜に結ばれるはずの映像は、砂嵐のような激しいノイズによって完全に遮断された。
「裏側の存在にはたどり着けない、か」
レンは冷ややかに呟き、視線を前方へと戻す。
電撃によって機能を停止したはずの魔物たちが、焦げた部位を再生させ、再び立ち上がり始めていた。
此処から予想出来ること、そしてやるべきこと……。
レンの脳内で、複数の情報が高速で演算されていく。
導き出された最適解に従い、彼女は端末を取り出し、
第二地区。
「これ、他のところでも発生してるんかね?」
爪戯が額に冷や汗を浮かべ、警戒を口にする。
「兎に角、今は……やるしかない!」
玄は即座に思考を切り替え、足元の影を刃の形状に固定して射出した。
鋭利な影の刃が魔物の右腕を根元から切断する。
だが、切断面を黒い靄が覆ったかと思うと、失われた腕が瞬く間に結合し、完全な再生を果たした。
「まじ!?」
玄が目を丸くして驚愕の声を上げる。
爪戯は間髪入れずに大気中の水分を凝縮させ、大量の水を魔物へと叩きつける。
そのまま温度を急激に低下させ、対象を氷の塊へと変えた。
しかし、完全凍結の直前、魔物の脚力が氷殻を内部から粉砕して跳躍した。
砕け散る氷の破片と共に、空中の魔物が玄と爪戯の頭上から急降下を仕掛ける。
アスファルトが抉れる轟音。
二人は紙一重でその一撃を回避した。
第三地区。
空気を震わせる咆哮を合図に、レイヴンは迷いなく肉薄する。
抜刀の軌跡が弧を描き、魔物の首を正確に刎ね飛ばした。
「!!」
だが、レイヴンと志紀の視界に信じがたい光景が映る。
切断された頸部から黒い靄が溢れ、瞬く間に新たな頭部が形成されたのだ。
「山登りの時みたいに核があるんか?」
レイヴンは刀を中段に構え直し、推測を口にする。
「どうだろうな……出現時には見当たらなかったけど?」
志紀が冷や汗を流しながら答える。
海皇高校の生徒から噴出した靄が集束した際、生命活動の核となるような物質は確認できなかった。
宿泊研修で遭遇した魔物とは、根本的な構造が異なる可能性が高い。
第六地区。
「土」の異能を行使し、強固な壁で魔物を四方から包囲する。
周囲で倒れ伏す海皇の生徒や一般人への被害を抑えるための隔離措置。
その直後、「火」の異能を励起させ、密閉空間の内部を灼熱の業火で満たした。
土壁の内側から、凄まじい熱量と破壊音が周囲に響き渡る。
やがて炎が収束し、もうもうと立ち込める煙の中、辛は冷徹な視線で標的の動向を監視し続けた。
咆哮が壁を震わせる。
魔物は自身の身体を焼かれながらも、周囲の土壁を強引に破壊して上空へと跳躍した。
辛は視線を上へと追う。
「『火』でもダメか……」
辛の口から、感情を排した分析結果がこぼれる。
ビルの屋上に着地した魔物は、辛へ反撃するのではなく、頭部を動かして全く別の方向を見据えた。
「?」
敵対行動を放棄した魔物の異常な挙動に、辛は僅かに眉を寄せる。
魔物は屋根から屋根へと跳躍し、明確な意思を持って走り出した。
「待て!」
辛は短い声を上げ、追撃のために駆け出す。
その進路上に、空間の歪みと共に宮中潤が現れた。
「六大路、来い!」
宮中の指示と同時に、召喚・喚起の異能が発動する。
辛は抵抗することなくその術式に身を委ねた。
視界が切り替わる。
辛が転送されたのは、実験棟の屋上であった。
「此処は……」
辛は周囲の状況を瞬時に解析する。
「私が宮中に言って、お前たち
背後からの声に振り返ると、四月レンが静かに立っていた。
辛の隣には、爪戯、玄、レイヴン、志紀が次々と宮中の転送によって姿を現す。
各地区へ分散したはずの戦力が、再び一点に集約された。
「何? 何が起こってるの?」
玄が首を傾げ、状況の説明を求める。
「アレだ」
レンは短い言葉と共に、前方へ視線を向けた。
その視線の先。市街地の中心部に向かって、各地区に発生した魔物たちが一箇所へと集結していく光景が広がっていた。
「戦っている途中で、急に別方向に走り出した……それはこれだったのか」
辛が先ほどの魔物の挙動と現状をリンクさせる。
その異常な撤退行動は、爪戯と玄、レイヴンと志紀の戦闘エリアでも同様に発生していた。
「魔物が集まっていく……」
志紀が喉を鳴らし、眼下の光景に戦慄を覚える。
「それで、なんでオレ達を?」
爪戯がレンへ向き直り、核心を突く。
現象の理由は理解した。だが、なぜ自分たちがこの場に再結集させられたのか。
眼下では、集結した複数の魔物が黒い靄となって互いに融合を開始している。
「ちょっ……!」
玄が冷や汗を流し、思わず声を上げる。
複数の個体が合体し、巨大で禍々しい一体の魔物へと変貌を遂げようとしていた。
「今からこいつを
レンは前を見据えたまま、氷のような声で宣言した。
「でもあの魔物、斬っても再生するし……核も見当たらなかったぞ?」
志紀が焦燥を隠しきれずに反論する。
「燃やしてもみたが無理だった」
辛も自身の戦闘データを共有し、破壊の困難さを提示する。
レンも自身の電撃が決定打にならなかった事実を思い返し、静かに頷いた。
「ああ、そこでお前たちのチカラを借りたいと思ったんだ」
レンは視線を魔物へ固定したまま、淡々と告げる。
「チカラを借りたいって……でもどうするの?」
爪戯が魔物とレンを交互に見比べ、作戦の全貌を求める。
「まず、紅桔梗の重力で足止めする。そして私の雷を落とす。雷による周囲への被害を減らすために、六大路の金属を利用する……金属は紺野の冷気で冷やし伝導性を上げる。零れた電流は黒川の闇が吸い上げる」
レンの口から、各々の異能をパズルのピースのように組み合わせた、精密な演算結果が提示される。
「電流の方向をある程度操って、街に被害を出さなくするのか……」
辛が作戦の意図を正確に読み取る。
レンの圧倒的な雷撃。それを周囲に拡散させず、魔物という一点へ完全に収束させるための巨大な回路の構築。
「で、蘇芳君は?」
玄が、作戦に組み込まれていないレイヴンへ視線を向ける。
「
レンは右手を前方に差し出し、無機質な声で最終工程を宣告した。
「なっ……」
志紀が驚愕に目を見開く。
「まああああああって!!」
レイヴンが悲鳴のような声を上げ、両手を大きく振って抗議する。
その混乱の輪の中へ、転送作業を終えた宮中が静かに合流した。