【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.41「概念付与」

(ゆい)使いの異能で、あの魔物に『死の概念』を結ぶ」

 

 四月(しづき)レンのその言葉に蘇芳(すおう)レイヴンが声を荒げた。

 

「待って待って。オレは剣技で戦うって決めてるの!!」

 

 レイヴンは必死に叫ぶ。

 

「そういやお前、なんでも対象に出来るって……」

 

 紅桔梗志紀(べにききょう・しき)がレイヴンとの会話を思い返し言った。

 その頬を冷や汗が伝い落ちる。

 

「それ出来たら強くね?」

 

 紺野爪戯(こんの・つまぎ)も冷や汗をにじませながら言った。

 

「ってか出来るの?」

 

 黒川玄(くろかわ・くろ)もレイヴンへ視線を向けて言った。

 レンは特級過去視の異能によって、すでに情報を把握していた。限定的ではあるが、レイヴンにそれが可能であることを。

 

「流石にそうホイホイと出来るもんでもないよ。でもまあ、あの魔物一体くらいなら……」

 

 レイヴンは右手を額に当て、頭を抱えるような仕草を見せた。

 

「でも……問題がある。オレが異能で結ぶには、対象を『理解』している必要がある」

 

 レイヴンは右手を額から離し言った。

 

「『死』に対しては……まあ、いろいろ経験もあるから『理解』はしてる……けど、あの魔物に関しては斬撃が効かない、黒い靄から出来たってことしか分からんわけよ」

 

 レイヴンの脳裏に、凄惨な記憶の断片がフラッシュバックする。

 黒髪の長い女性の柔らかな笑顔。そしてそれが無残にも奪われた、血塗られたあの日。死の概念そのものは、彼の内側に深く刻み込まれていた。

 

「あの魔物のことさえ『理解』出来れば、出来るか」

 

 六大路辛は眼下の巨大な魔物を見据えて言った。

 

「そもそも! オレはやるとは言ってないからあああ!」

 

 レイヴンは左手で拳を握り言った。

 

「あんたは何故、剣を取ったんだ?」

 

 辛は魔物から目を離さず言った。

 

「それは……」

 

 レイヴンが口ごもる。

 レンと宮中潤(みやうち・じゅん)は無言のまま、彼らのやり取りを静観していた。

 

「もし守る為なのならば、蘇芳……あんたのチカラを貸してくれ」

 

 辛は振り返り、レイヴンの瞳を真っ直ぐに見据えて言った。

 

「オレには出来ない。でもあんたの異能なら、あの魔物を消せる……だったらオレに、オレ達にチカラを貸してくれ」

 

 辛は力強く言葉を紡ぐ。

 爪戯、玄、志紀の三人も、静かなる同意を含んだ視線をレイヴンへと向けていた。

 

「……オレは……はー……」

 

 レイヴンは深く息を吸い込み、そして吐き出した。ゆっくりと口を開く。

 

「分かった分かった。やりますやります。でも、『理解』はどうすれば……」

 

 レイヴンは降参を示すように両手を上げて言った。

 

「それに関しては、私の過去視で知っていることを伝えよう」

 

 レンはそう言うや否や、間合いを詰め、レイヴンの顔面を右手で無造作に鷲掴みにした。

 

「!?」

 

 その場の全員が驚愕に目を見開いた。

 

「電気信号を、直接ぶち込む」

 

 レンが冷酷に言い放つ。

 それを聞いた全員の脳裏に、確実な死のビジョンがよぎった。

 

 空気を震わせる重低音が響く。

 合体を完了させた巨大な魔物が、破壊の意思を持って動き出そうとしていた。

 

「紅桔梗!」

 

 レンの短い指示が飛ぶ。

 志紀が即座に異能を励起させた。

 魔物の周囲の空間が歪み、極限まで圧縮された重力が対象の動きを地面へと縛り付ける。

 

 レンはレイヴンの頭部へ直接電流を流し込み、すぐさま手を離した。

 レイヴンは糸の切れた操り人形のようにその場へ倒れこむ。

 

「大丈夫?」

 

 玄が駆け寄り、声をかける。

 

「……悪趣味」

 

 レイヴンはうめき声と共に身を起こした。

 魔物の構造、魔という存在の本質、そしてこの世界の成り立ち。莫大な情報量が脳のシナプスを強制的に書き換えられた結果、彼の口から出たのはただその一言だった。

 

 その言葉の意味を測りかね、玄と爪戯は首を傾げる。

 だが、レイヴンは対象の構成要素を完全に『理解』していた。

 

「行くぞ! 雷で削ったら宮中、蘇芳を魔物のところへ!」

 

 レンが冷徹な指揮を執る。

 彼女は右手の人差し指を天へと突き上げた。

 指先から虚空へ向かって、膨大な熱量を伴う異能の波動が奔る。

 

 辛は魔物の周囲を覆い尽くすほどの金属を生成すべく、足元から構造式を組み上げていく。

 

 雷鳴が轟いた。

 天から降り注いだ圧倒的な閃光が、巨大な魔物の直上へ叩きつけられる。

 

 辛が生成した金属の壁が避雷針となり、膨大な電流を受け止めて回路を形成する。

 爪戯は即座に大気中の水分を凍結させ、金属を極低温まで冷却して電気伝導率を跳ね上げた。

 制御を外れ、街へ漏れ出ようとする余剰の電流は、玄が展開した暗黒の影がすべて吸い尽くす。

 

 魔物は肉を焼かれる激痛に、咆哮とも悲鳴ともつかない音波を撒き散らした。

 表層が削り取られ、黒い靄が欠損を埋めようと過剰に密集していく。

 

「蘇芳!」

 

 レンの鋭い声が響く。

 宮中が口元を覆う黒いマスクを引き下げ、自らの舌を噛み切って鮮血を垂らした。

 その血を触媒とし、『召喚・喚起』の異能が起動する。

 

 空間が反転し、レイヴンの身体が巨大な魔物の中央、がら空きになった胸元へと転送された。

 

 レイヴンは右手に握る刀の柄を強く握り込む。

 対象と現象を結びつける力。彼は刀身に確固たる『死の概念』を付与した。

 そのまま、魔物の黒い靄の中心へと刃を深く突き立てる。

 

 絶対的な死の法則が、魔物の存在そのものに結びつけられた。

 

 宮中が間髪入れずに異能を再駆動させ、自身の身体をレイヴンの元へ跳躍させる。彼を抱え込み、三度目の転送によって屋上へと帰還した。

 

 直後、巨大な魔物の身体に亀裂が走る。

 死の概念を強制的に結びつけられた異形は、もはや欠損を再生する機能を失い、内側から崩壊を開始した。

 巨大な質量が塵となり、夜風に乗って収束していく。

 

「終わった……?」

 

 玄が息を吐き出し、安堵の言葉を漏らした。

 レイヴンと志紀は互いの健闘を称えるように、無言で拳を突き合わせた。

 

「師、封印局長を頼れば良かったのでは?」

 

 宮中はレンの方を向き、ⅩⅢ(サーティーン)の最高戦力の一人である封印局長の不在を指摘した。

 

「封印しても根本的な解決にはならない。今回刃ケ丘(はがみおか)の生徒がいて助かったな」

 

 レンは街の夜景を見据えたまま、冷淡に言った。

 宮中はⅩⅢの代表者として、居並ぶ刃ケ丘の生徒たちへ深く一礼した。

 

「って、敵の狙いはこれだったわけ?」

 

 爪戯が疑問を口にする。

 

海皇(かいおう)高校の生徒の狙いは海豚悪天(いるか・あくてん)だが、その後ろにいる奴の狙いは……まあ、これだろうな」

 

 レンは低く告げた。

 

「海豚を奪取したい海皇高校の生徒は利用された、ってところか」

 

 辛が事態の全貌を演算し、結論を述べる。

 海皇高校の生徒たちは、ⅩⅢの戦力を分散させるための暴動の引き金に過ぎない。そして、彼らの負の感情を増幅させて魔物を生み出すことこそが、背後の黒幕の真の狙いだった。

 

「ただ、黒幕は私の過去視に捕捉されない……個人なのか組織なのか、人数は真の目的は……そこは分からなかった」

 

 レンは静かに事実を紡ぐ。

 

「まあ……とりあえず、なんとかなったんなら良いんじゃね?」

 

 志紀が張り詰めた空気を弛緩させるように言い、レイヴン、爪戯、玄の三人も同意するように頷いた。

 

 ひとまずの平穏が訪れ、生徒たちが帰路につこうと背を向ける。

 その背中へ向け、レンが改めてⅩⅢを代表する形でもう一度、静かに頭を下げた。

 

 ◇

 

 夜の帳が下りた市街地。ⅩⅢの実験棟を後にした五人は、並んで歩いていた。

 

「は~つっかれた~」

 

 志紀が両腕を天へ突き出し、盛大に背伸びをする。

 

「流石に糖分とるか」

 

 レイヴンは脳の疲労を訴えるように眉間にしわを寄せた。

 

「あんま食べたくないけど」

「奢ろうか?」

「要らん」

 

 レイヴンが眉間を押さえながら言うと、玄が軽い調子で提案するが、即座に却下された。

 

「ってか二人は、なんで特別対策部に入らなかったの?」

 

 爪戯が歩調を合わせながら、素朴な疑問を投じる。

 

「六大路と仲良かったわけじゃないしな、あとめんどくさそう」

 

 レイヴンが合理的な理由を口にする。

 

「遊ぶ時間なくなりそうだったから」

 

 志紀も私欲に忠実な回答を返した。

 爪戯は呆れたように首を左右に振り、玄はいつもの緩い笑顔を浮かべる。

 

「今回、みんながいてくれて助かった。ありがとう」

 

 辛は足を止めず、真っ直ぐに前を向いたまま真摯な感謝を伝えた。

 その率直な言葉に、他の四人の顔に自然と笑顔がこぼれた。

 

「よーし! コンビニ寄って買い食いじゃあ! 祝いじゃ~」

 

 玄が声を上げ、先陣を切って走り出す。

 残された四人も、呆れながらもその後を追って夜の街を駆け出した。

 

 ◇

 

 所在不明の結界内部。

 一切の装飾を排した無機質な部屋の中には、夥しい数の資料が積み上げられ、複数のモニターが冷たい光を放っていた。

 そこは、特級過去視の能力すらも弾き返す、完全に隔離された空間。

 

「祈りは熱、熱は魔、魔は力」

 

 暗がりの中、不気味な笑顔を浮かべた何者かの唇が、その呪詛のような言葉を微かに紡いだ。

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