【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
「
「待って待って。オレは剣技で戦うって決めてるの!!」
レイヴンは必死に叫ぶ。
「そういやお前、なんでも対象に出来るって……」
その頬を冷や汗が伝い落ちる。
「それ出来たら強くね?」
「ってか出来るの?」
レンは特級過去視の異能によって、すでに情報を把握していた。限定的ではあるが、レイヴンにそれが可能であることを。
「流石にそうホイホイと出来るもんでもないよ。でもまあ、あの魔物一体くらいなら……」
レイヴンは右手を額に当て、頭を抱えるような仕草を見せた。
「でも……問題がある。オレが異能で結ぶには、対象を『理解』している必要がある」
レイヴンは右手を額から離し言った。
「『死』に対しては……まあ、いろいろ経験もあるから『理解』はしてる……けど、あの魔物に関しては斬撃が効かない、黒い靄から出来たってことしか分からんわけよ」
レイヴンの脳裏に、凄惨な記憶の断片がフラッシュバックする。
黒髪の長い女性の柔らかな笑顔。そしてそれが無残にも奪われた、血塗られたあの日。死の概念そのものは、彼の内側に深く刻み込まれていた。
「あの魔物のことさえ『理解』出来れば、出来るか」
六大路辛は眼下の巨大な魔物を見据えて言った。
「そもそも! オレはやるとは言ってないからあああ!」
レイヴンは左手で拳を握り言った。
「あんたは何故、剣を取ったんだ?」
辛は魔物から目を離さず言った。
「それは……」
レイヴンが口ごもる。
レンと
「もし守る為なのならば、蘇芳……あんたのチカラを貸してくれ」
辛は振り返り、レイヴンの瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「オレには出来ない。でもあんたの異能なら、あの魔物を消せる……だったらオレに、オレ達にチカラを貸してくれ」
辛は力強く言葉を紡ぐ。
爪戯、玄、志紀の三人も、静かなる同意を含んだ視線をレイヴンへと向けていた。
「……オレは……はー……」
レイヴンは深く息を吸い込み、そして吐き出した。ゆっくりと口を開く。
「分かった分かった。やりますやります。でも、『理解』はどうすれば……」
レイヴンは降参を示すように両手を上げて言った。
「それに関しては、私の過去視で知っていることを伝えよう」
レンはそう言うや否や、間合いを詰め、レイヴンの顔面を右手で無造作に鷲掴みにした。
「!?」
その場の全員が驚愕に目を見開いた。
「電気信号を、直接ぶち込む」
レンが冷酷に言い放つ。
それを聞いた全員の脳裏に、確実な死のビジョンがよぎった。
空気を震わせる重低音が響く。
合体を完了させた巨大な魔物が、破壊の意思を持って動き出そうとしていた。
「紅桔梗!」
レンの短い指示が飛ぶ。
志紀が即座に異能を励起させた。
魔物の周囲の空間が歪み、極限まで圧縮された重力が対象の動きを地面へと縛り付ける。
レンはレイヴンの頭部へ直接電流を流し込み、すぐさま手を離した。
レイヴンは糸の切れた操り人形のようにその場へ倒れこむ。
「大丈夫?」
玄が駆け寄り、声をかける。
「……悪趣味」
レイヴンはうめき声と共に身を起こした。
魔物の構造、魔という存在の本質、そしてこの世界の成り立ち。莫大な情報量が脳のシナプスを強制的に書き換えられた結果、彼の口から出たのはただその一言だった。
その言葉の意味を測りかね、玄と爪戯は首を傾げる。
だが、レイヴンは対象の構成要素を完全に『理解』していた。
「行くぞ! 雷で削ったら宮中、蘇芳を魔物のところへ!」
レンが冷徹な指揮を執る。
彼女は右手の人差し指を天へと突き上げた。
指先から虚空へ向かって、膨大な熱量を伴う異能の波動が奔る。
辛は魔物の周囲を覆い尽くすほどの金属を生成すべく、足元から構造式を組み上げていく。
雷鳴が轟いた。
天から降り注いだ圧倒的な閃光が、巨大な魔物の直上へ叩きつけられる。
辛が生成した金属の壁が避雷針となり、膨大な電流を受け止めて回路を形成する。
爪戯は即座に大気中の水分を凍結させ、金属を極低温まで冷却して電気伝導率を跳ね上げた。
制御を外れ、街へ漏れ出ようとする余剰の電流は、玄が展開した暗黒の影がすべて吸い尽くす。
魔物は肉を焼かれる激痛に、咆哮とも悲鳴ともつかない音波を撒き散らした。
表層が削り取られ、黒い靄が欠損を埋めようと過剰に密集していく。
「蘇芳!」
レンの鋭い声が響く。
宮中が口元を覆う黒いマスクを引き下げ、自らの舌を噛み切って鮮血を垂らした。
その血を触媒とし、『召喚・喚起』の異能が起動する。
空間が反転し、レイヴンの身体が巨大な魔物の中央、がら空きになった胸元へと転送された。
レイヴンは右手に握る刀の柄を強く握り込む。
対象と現象を結びつける力。彼は刀身に確固たる『死の概念』を付与した。
そのまま、魔物の黒い靄の中心へと刃を深く突き立てる。
絶対的な死の法則が、魔物の存在そのものに結びつけられた。
宮中が間髪入れずに異能を再駆動させ、自身の身体をレイヴンの元へ跳躍させる。彼を抱え込み、三度目の転送によって屋上へと帰還した。
直後、巨大な魔物の身体に亀裂が走る。
死の概念を強制的に結びつけられた異形は、もはや欠損を再生する機能を失い、内側から崩壊を開始した。
巨大な質量が塵となり、夜風に乗って収束していく。
「終わった……?」
玄が息を吐き出し、安堵の言葉を漏らした。
レイヴンと志紀は互いの健闘を称えるように、無言で拳を突き合わせた。
「師、封印局長を頼れば良かったのでは?」
宮中はレンの方を向き、
「封印しても根本的な解決にはならない。今回
レンは街の夜景を見据えたまま、冷淡に言った。
宮中はⅩⅢの代表者として、居並ぶ刃ケ丘の生徒たちへ深く一礼した。
「って、敵の狙いはこれだったわけ?」
爪戯が疑問を口にする。
「
レンは低く告げた。
「海豚を奪取したい海皇高校の生徒は利用された、ってところか」
辛が事態の全貌を演算し、結論を述べる。
海皇高校の生徒たちは、ⅩⅢの戦力を分散させるための暴動の引き金に過ぎない。そして、彼らの負の感情を増幅させて魔物を生み出すことこそが、背後の黒幕の真の狙いだった。
「ただ、黒幕は私の過去視に捕捉されない……個人なのか組織なのか、人数は真の目的は……そこは分からなかった」
レンは静かに事実を紡ぐ。
「まあ……とりあえず、なんとかなったんなら良いんじゃね?」
志紀が張り詰めた空気を弛緩させるように言い、レイヴン、爪戯、玄の三人も同意するように頷いた。
ひとまずの平穏が訪れ、生徒たちが帰路につこうと背を向ける。
その背中へ向け、レンが改めてⅩⅢを代表する形でもう一度、静かに頭を下げた。
◇
夜の帳が下りた市街地。ⅩⅢの実験棟を後にした五人は、並んで歩いていた。
「は~つっかれた~」
志紀が両腕を天へ突き出し、盛大に背伸びをする。
「流石に糖分とるか」
レイヴンは脳の疲労を訴えるように眉間にしわを寄せた。
「あんま食べたくないけど」
「奢ろうか?」
「要らん」
レイヴンが眉間を押さえながら言うと、玄が軽い調子で提案するが、即座に却下された。
「ってか二人は、なんで特別対策部に入らなかったの?」
爪戯が歩調を合わせながら、素朴な疑問を投じる。
「六大路と仲良かったわけじゃないしな、あとめんどくさそう」
レイヴンが合理的な理由を口にする。
「遊ぶ時間なくなりそうだったから」
志紀も私欲に忠実な回答を返した。
爪戯は呆れたように首を左右に振り、玄はいつもの緩い笑顔を浮かべる。
「今回、みんながいてくれて助かった。ありがとう」
辛は足を止めず、真っ直ぐに前を向いたまま真摯な感謝を伝えた。
その率直な言葉に、他の四人の顔に自然と笑顔がこぼれた。
「よーし! コンビニ寄って買い食いじゃあ! 祝いじゃ~」
玄が声を上げ、先陣を切って走り出す。
残された四人も、呆れながらもその後を追って夜の街を駆け出した。
◇
所在不明の結界内部。
一切の装飾を排した無機質な部屋の中には、夥しい数の資料が積み上げられ、複数のモニターが冷たい光を放っていた。
そこは、特級過去視の能力すらも弾き返す、完全に隔離された空間。
「祈りは熱、熱は魔、魔は力」
暗がりの中、不気味な笑顔を浮かべた何者かの唇が、その呪詛のような言葉を微かに紡いだ。