【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
第一訓練場。
互いの陣地である白線で囲まれた正方形の空間を背に、A組とB組が対峙する。
A組からは
「問題は天竜の異能が何か、か」
「あっちは花緑青か……」
「中間のペナルティで異能が制限されている以上、攻撃には加われんからな……妥当じゃね?」
「各クラス、VIPが選出され位置についたな。では始める」
B組の担任が開始を宣告すべく、右手を上げる。
「A組の皆さん、お手柔らかにお願いします」
「やめとけ天竜。お相手さんは、そんな余裕ないって」
天色は困ったような苦笑を作り、ゆっくりと右手を下ろした。
A組の生徒たちの視線は、既にその二人へと固定されていた。
「天竜、朱殷……始めるぞ。位置につけ」
「はーい」
担任の短い制止を受け、二人は前線から僅かに後退する。
張り詰めた空気が、訓練場を満たしていく。
「それでは、VIP護衛戦始めっ!!」
号砲のような声が響いた。
辛の身体が爆発的な速度で駆動する。
左手に金属生成で構築した刀を顕現させるのと同時、彼の眼前に朱殷が肉薄し、鋭利な剣を振り下ろしていた。
硬質な金属音が鳴り響き、辛の刀が朱殷の剣を正確に受け止める。
「へえ……反応するんだ?」
鍔迫り合いの至近距離で、朱殷が嗜虐的な笑みを浮かべる。
激突の余波が広がり、A組の生徒たちが一歩遅れて事態を認識した。
「速っ……!」
朱殷は辛の刀を剣で弾き流すと、脚力を解放して上空へと飛翔した。
辛は即座に『土』の異能を励起させ、足元の地面を隆起させて自身を空へと射出し、追撃を図る。
朱殷の背部に、炎で構成された片翼が出現した。
重力から解き放たれた二人は、そのまま空中での高速戦闘へと移行する。
「辛!」
「上ばっか見るな! オレ達も動く!」
レイヴンが爪戯の意識を地上へ引き戻し、地を蹴る。
二人の進路上に、B組の
「来いよA組ぃ!」
ゴウが自身の皮膚を鋼鉄の強度へと硬化させ、攻撃を受け止める構えを取る。
「迎撃」
冷徹な声と共に、真白が形成した光の珠から高圧縮のレーザーが放たれた。
閃光が空気を灼き、ゴウの巨体を正確に撃ち抜く。
「っ!?」
装甲を貫通する衝撃に、ゴウの身体が後方へと弾き飛ばされた。
その光景を前にしても、天色は微動だにせず、ただ微笑みを保っていた。
「ゴウ! 何やってんの!」
西森シルヴァが叫び、自身の異能を励起させようと構える。
だが、身体能力を極限まで強化した翠柳が瞬時に距離を詰め、刀の峰打ちでシルヴァを無力化した。
レイヴンが『結使い』の能力で自身の剣を引き寄せ、対象を天色に定める。
踏み込みと共に放たれた斬撃。
その軌道上に位置する天色の肉体が、瞬時に竜の鱗へと変貌を遂げた。
刃が鋼のように硬い鱗に弾かれ、火花が散る。
「おわっ!?」
想定外の反動に、レイヴンが体勢を崩す。
その隙をカバーすべく、玄が天色の足元の影を操作し、その動きを拘束した。
そこへ真白の追撃の光線が叩き込まれる。
しかし、竜化した天色の装甲は、その熱量を完全に乱反射させた。
「駄目か……」
玄が推測を口にする。
天色は小春の陣地の直前に陣取り、強固な盾として機能し始めていた。
レイヴンと翠柳は天色の突破を一時放棄し、左右から回り込んで背後の小春を狙う軌道を取る。
しかし、天色の背部から巨大な竜の翼と尾が顕現し、回り込もうとした二人を力任せに薙ぎ払った。
「こいつをどうにかしないと、届かないか」
地面を転がりながら、レイヴンが戦況を再評価する。
A組陣地。
灰塚こころは、胸の前で両手を固く握りしめ、顔面から絶えず冷や汗を流していた。
彼女の視界の端で、空間が不自然に歪んだ。
B組の
自身の影を極限まで薄めることで隠密性を高める異能。彼女は完全に気配を消し、こころの至近距離まで肉薄していた。
こころの瞳孔が収縮する。
その瞬間、猛烈な炎の壁が二人を分断した。
「トロ子! あんた立候補したんだから、ちゃんと戦いなさい!」
こころは震える息を吐き出すと、自身の『念』の能力を励起させ、御影の身体を後方へと弾き飛ばした。
「色波ももっとちゃんと守りなさいよ!」
「ああ、もう! 煩い!」
朱美の叱責に、
真白は展開する光の珠の数を増殖させ、天色へ向けてレーザーの雨を降らせる。
だが、強固な鱗は貫けず、着弾の衝撃で巻き上がった土煙が視界を遮る。
真白が微かに目を細めた。
「佐倉さん! 任せて!」
レーザーの威力を減衰させるブルーミング現象を未然に防ぐための戦術的サポート。
「私の時使いが、範囲広かったらなあ……」
彼女の異能は効果範囲が狭く、後方支援の位置から天色や小春まで干渉することは不可能だった。
「近づく? でもそうすると、灰塚を守る手段が減るか……」
志紀が戦力の再配置を思案するが、防御網の低下リスクがそれを躊躇わせる。
上空。
辛の刀を捌いた朱殷が、翼を畳んで急降下を開始した。
その直線上の標的は、陣地内に固定された灰塚こころ。
爪戯が瞬時に大気中の水分を凍結させ、こころの頭上に分厚い氷の盾を形成する。
落下する朱殷の剣が氷を穿つが、貫通には至らず弾かれた。
「ちっ」
朱殷が露骨な舌打ちを漏らし、再上昇へ転じようとする。
その軌道を予測したレイヴンが、跳躍して朱殷へと斬りかかる。
刃が交錯するが、朱殷は空中で姿勢を捻り、レイヴンの剣を巧みに受け流した。
レイヴンが着地するのと同時。
空中で辛が金属の足場を生成し、それを蹴って朱殷の頭上を取った。
重力を乗せた一撃が振り下ろされる。
朱殷は迎撃の態勢を取り、剣を交差させて辛の刀を受け止めた。
「……半妖!」
朱殷の口から、敵意を孕んだ言葉が吐き出される。
空中で再び、激しい刃の衝突音が連続して響き始めた。
「上のあいつは一旦良いか……オレ達は目の前の天竜君をどうにかしないと、だね」
玄が上空の戦闘を視界から外し、防衛線を維持する天色へと集中する。
玄と真白のもとへ、レイヴンが駆け戻ってきた。
「結びつけは出来たよ。後はタイミング!」
レイヴンは口角を上げ、親指を立てて合図を送る。
そして再び、B組の陣営へと向けて地を蹴った。