【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
「決闘に制圧、入学してまだ一週間も経っていないというのに……随分と元気だな」
冷ややかな空気が満ちる空間の中央で、
すり鉢状に配置された上層階から、組織の監査官たちが彼を見下ろしている。
「責務を果たしただけだ」
辛は視線を逸らさず、淡々と事実のみを返した。その姿勢に萎縮の色は微塵もない。
「我々の管轄下の学園での勝手は困る」
「身の程をわきまえろ」
頭上から降り注ぐのは、明確な敵意と冷笑を含む言葉の礫。
「あんた達の到着が遅い」
辛は冷徹に言い放つ。
「貴様!」
「半妖の癖に人間に口答えを」
「何様のつもりだ」
怒号が飛び交い、室内の空気が一気に張り詰める。
その怒声を断ち切るように、一人の少女が静かに手を挙げた。
「彼は私と同じ一年生。そして、今『魔』による事件が多発しています。そこで私は、私の学校と同じ組織の結成を提案します」
静謐でありながら、場を制する威圧感を伴う声。
「四月レン、本気か?」
「しかしそれでは権限を与えるだけでは」
監視棟の上層部がざわめく。
辛は沈黙を保ち、思考を巡らせる。彼女の提示した「組織」の性質が、未だ不明瞭であったためだ。
「どうせ将来飼うつもりなのだろ? なら馴らしは必要だ。私……いや、私達は忙しい」
レンは腕を組み、これまでの敬語を切り捨てて言い放った。
彼女の通う
国家規模の治安維持機関であるⅩⅢの手が回らない領域、すなわち学園内の事案を処理するための、言わば学園版ⅩⅢである。
レンの口にした「馴らし」という言葉。それは辛への侮蔑ではなく、彼を取り巻く現状を覆すための布石であった。
異能の無許可行使は原則として禁止され、ⅩⅢの介入対象となる。
たとえ正当防衛であろうと、現状のように責任を追及される事態を招く。
しかし、学園内に正式な部が発足すれば、事件解決の枠組みとして合法的な異能行使権限が与えられる。
今ここで彼が咎められる根拠を、完全に消滅させることができるのだ。
レンは冷徹な眼差しで辛を見下ろす。
辛もまた、彼女へと視線を返す。
交差する視線に揺らぎはない。だが、辛の直感は、彼女が単なる組織の歯車ではないことを捉えていた。
「師の意見に賛成です。特別対策部の結成を要請します」
「私も同意です」
黒いマスクで顔の下半分を覆った大男と、白いスーツを纏った男が即座に賛同の意を示す。
上層部の者たちは苦渋の表情を浮かべながらも、反論の材料を持たず、徐々に首を縦に振り始めた。
「これより、
「はっ」
ⅩⅢ上層部からの決定事項。
辛は短く返答し、微かに頭を下げた。
こうして、理不尽な追及の場は強制的に収束へと導かれた。
◇
翌日、刃ケ丘異能高等学校。
掲示板に張り出された特別対策部結成の告知前に、人だかりができていた。
「なになに? 特別対策部って」
「ⅩⅢにあやかって十三部だって」
「異能で戦って良いってこと?」
期待や戸惑いを含む声が交錯する。
「でも……」
「あの化け物がいるって」
「ヤバいよね」
辛がその中心となるという情報が、生徒たちの熱に冷や水を浴びせる。
当の辛はそれらの言葉をノイズとして処理し、教室へ向かって一定の歩調で廊下を進んでいた。
「か・の・と・く・ん~」
歩みを遮るように、
「オレ、立候補するよ」
玄の宣言。その気の抜けた口調の奥には、確かな意志が宿っている。
「けど!」
辛の口から、無意識に声が漏れた。目がわずかに見開かれる。
危険すぎる。異常な事件への介入は、命の危険を飛躍的に高める。
学園内で唯一、自身に対して対等に接してくる玄を、そのような場へ引き込むことは、辛の行動原理に反していた。
「も~異能測定見てなかったの? オレ、割と出来るよ?」
玄は辛の戸惑いを察知し、軽口で応じる。
辛は拒絶の言葉を探そうと思考を巡らせた。しかし、その奥底に彼からの提案を喜ぶ感情が微かに芽生えている事実を、否定できなかった。
「こういうのは一人より二人、でしょ?」
玄が笑みを深める。
辛の口元はわずかに開いたまま、次の言葉を紡ぐことができない。
表情は鉄面皮のままであったが、胸の奥に確かな熱が灯るのを感じていた。
「っても、入部試験的なのあるみたいだから……まずはそれをクリアしないとね」
玄は即座に普段の脱力した調子に戻る。
廊下の陰から、その二人のやり取りを観察している複数の視線があった。
一つは
もう一つは
隠そうともしない嫌悪を眼光に宿し、辛を鋭く睨み据えている。
「また点数稼ぎか」
樹の解釈において、辛の行動はすべてⅩⅢへの所属を確約するための、機械的なポイント稼ぎに過ぎなかった。
そして、最後の一つ。
彼女は自身が中心から外されている現状に対し、プライドを著しく傷つけられていた。
「絶対許さないんだから」
奥歯を強く噛み締め、敵意に満ちた視線を一度だけ投げると、朱美は踵を返してその場を立ち去った。