【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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case.6「特別対策部」

「決闘に制圧、入学してまだ一週間も経っていないというのに……随分と元気だな」

 

 ⅩⅢ(サーティーン)の監視棟。

 冷ややかな空気が満ちる空間の中央で、六大路辛(ろくおおじ・かのと)は立たされていた。

 すり鉢状に配置された上層階から、組織の監査官たちが彼を見下ろしている。

 

「責務を果たしただけだ」

 

 辛は視線を逸らさず、淡々と事実のみを返した。その姿勢に萎縮の色は微塵もない。

 

「我々の管轄下の学園での勝手は困る」

「身の程をわきまえろ」

 

 頭上から降り注ぐのは、明確な敵意と冷笑を含む言葉の礫。

 

「あんた達の到着が遅い」

 

 辛は冷徹に言い放つ。

 

「貴様!」

「半妖の癖に人間に口答えを」

「何様のつもりだ」

 

 怒号が飛び交い、室内の空気が一気に張り詰める。

 その怒声を断ち切るように、一人の少女が静かに手を挙げた。

 

「彼は私と同じ一年生。そして、今『魔』による事件が多発しています。そこで私は、私の学校と同じ組織の結成を提案します」

 

 静謐でありながら、場を制する威圧感を伴う声。四月(しづき)レンである。

 

「四月レン、本気か?」

「しかしそれでは権限を与えるだけでは」

 

 監視棟の上層部がざわめく。

 辛は沈黙を保ち、思考を巡らせる。彼女の提示した「組織」の性質が、未だ不明瞭であったためだ。

 

「どうせ将来飼うつもりなのだろ? なら馴らしは必要だ。私……いや、私達は忙しい」

 

 レンは腕を組み、これまでの敬語を切り捨てて言い放った。

 

 彼女の通う切ノ札(きりのふだ)学園では、頻発する「魔」の暴走事象に対し、自衛組織として〈特別対策部〉──通称「十三部(じゅうさんぶ)」が結成されている。

 

 国家規模の治安維持機関であるⅩⅢの手が回らない領域、すなわち学園内の事案を処理するための、言わば学園版ⅩⅢである。

 

 レンの口にした「馴らし」という言葉。それは辛への侮蔑ではなく、彼を取り巻く現状を覆すための布石であった。

 

 異能の無許可行使は原則として禁止され、ⅩⅢの介入対象となる。

 たとえ正当防衛であろうと、現状のように責任を追及される事態を招く。

 しかし、学園内に正式な部が発足すれば、事件解決の枠組みとして合法的な異能行使権限が与えられる。

 今ここで彼が咎められる根拠を、完全に消滅させることができるのだ。

 

 レンは冷徹な眼差しで辛を見下ろす。

 辛もまた、彼女へと視線を返す。

 

 交差する視線に揺らぎはない。だが、辛の直感は、彼女が単なる組織の歯車ではないことを捉えていた。

 

「師の意見に賛成です。特別対策部の結成を要請します」

「私も同意です」

 

 黒いマスクで顔の下半分を覆った大男と、白いスーツを纏った男が即座に賛同の意を示す。

 上層部の者たちは苦渋の表情を浮かべながらも、反論の材料を持たず、徐々に首を縦に振り始めた。

 

「これより、刃ケ丘(はがみおか)異能高等学校にも特別対策部を設ける。辛は中心となって励むように」

「はっ」

 

 ⅩⅢ上層部からの決定事項。

 辛は短く返答し、微かに頭を下げた。

 こうして、理不尽な追及の場は強制的に収束へと導かれた。

 

 ◇

 

 翌日、刃ケ丘異能高等学校。

 掲示板に張り出された特別対策部結成の告知前に、人だかりができていた。

 

「なになに? 特別対策部って」

「ⅩⅢにあやかって十三部だって」

「異能で戦って良いってこと?」

 

 期待や戸惑いを含む声が交錯する。

 

「でも……」

「あの化け物がいるって」

「ヤバいよね」

 

 辛がその中心となるという情報が、生徒たちの熱に冷や水を浴びせる。

 当の辛はそれらの言葉をノイズとして処理し、教室へ向かって一定の歩調で廊下を進んでいた。

 

「か・の・と・く・ん~」

 

 歩みを遮るように、黒川玄(くろかわ・くろ)がいつもの緩い足取りで姿を現した。

 

「オレ、立候補するよ」

 

 玄の宣言。その気の抜けた口調の奥には、確かな意志が宿っている。

 

「けど!」

 

 辛の口から、無意識に声が漏れた。目がわずかに見開かれる。

 

 危険すぎる。異常な事件への介入は、命の危険を飛躍的に高める。

 学園内で唯一、自身に対して対等に接してくる玄を、そのような場へ引き込むことは、辛の行動原理に反していた。

 

「も~異能測定見てなかったの? オレ、割と出来るよ?」

 

 玄は辛の戸惑いを察知し、軽口で応じる。

 辛は拒絶の言葉を探そうと思考を巡らせた。しかし、その奥底に彼からの提案を喜ぶ感情が微かに芽生えている事実を、否定できなかった。

 

「こういうのは一人より二人、でしょ?」

 

 玄が笑みを深める。

 辛の口元はわずかに開いたまま、次の言葉を紡ぐことができない。

 表情は鉄面皮のままであったが、胸の奥に確かな熱が灯るのを感じていた。

 

「っても、入部試験的なのあるみたいだから……まずはそれをクリアしないとね」

 

 玄は即座に普段の脱力した調子に戻る。

 

 廊下の陰から、その二人のやり取りを観察している複数の視線があった。

 

 一つは紺野爪戯(こんの・つまぎ)。前髪の隙間から覗く目には、強い羨望が焼き付いている。

 

 もう一つは色波樹(しきなみ・いつき)

 隠そうともしない嫌悪を眼光に宿し、辛を鋭く睨み据えている。

 

「また点数稼ぎか」

 

 樹の解釈において、辛の行動はすべてⅩⅢへの所属を確約するための、機械的なポイント稼ぎに過ぎなかった。

 

 そして、最後の一つ。

 火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)

 彼女は自身が中心から外されている現状に対し、プライドを著しく傷つけられていた。

 

「絶対許さないんだから」

 

 奥歯を強く噛み締め、敵意に満ちた視線を一度だけ投げると、朱美は踵を返してその場を立ち去った。

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