「盛り盛りミックスグリルプレートご飯大盛り二つにカツサンドにシーザーサラダ三つに……マルゲリータピザで」
五人で集まった私達が向かったのは寮から自転車で数分の距離のファミレス。
全国チェーンで安心して長居出来る上に、八咫烏学園の生徒の妙に凝ったコスプレ衣装っぽい仕事着にも慣れたのか視線が気にならないと人気の店だ。
「……カレー、サラダ付きで」
「サイコロステーキセットのパンで」
『海鮮雑炊セットにします』
注文はタブレットかコードを読み込んでスマホから。Wi-Fiも完備で椅子の座り心地は普通だ。
「私はえっと、冷製パスタ全種類と小エビのサラダとミネストローネとジャンボパフェを……」
風呂で掻いた汗を流してサッパリした後は勿論腹拵え。運動もした事で体は空腹を訴え、後で追加を頼む事も考えて注文すれば雪山さんも後に続く。
成る程、彼女は食欲が増幅されるタイプか。常に霊力のコントロールを心掛けなければ幾らでも腹が減る。それが成長期なら尚更で、他の三人が頼んだのは普通の量ばかり。
「あやせ君、カレーだけで足りますか? ハンバーグとかの追加トッピングも無し?」
「心配してくれてありがとうね、せんぱい。凄く嬉しいな」
「何時の間に名前呼びに……」
「「色々あって」」
性癖は合致しないが声はハモる。まさか乳と尻の話をして仲良くなれたとは言えずに黒八木さんの言葉を誤魔化した。
さて、服装の方は慣れているから良いとして会話の方は誤魔化しておかないと大変だ。
基本的に情報漏洩は厳禁。厨二集団だと思われるのなら問題無くとも、聞いた者が妖の起こした事の片鱗を感じ取った際に会話を思い出して僅かにでも結び付ければ縁が結ばれる。
場所や時間に縛られる存在ではあるものの抗う力の無き者が関わらない様に結界で会話内容を誤魔化すのは封魔士のエチケット。
そもそも外でするな? 誤魔化せるので私達はセーフ。寧ろ普通の仕事でも情報流出は問題なので此方の方が……。
「それで詳細は食事中との事ですが、つまりは性急の事態では無いのですよね?」
「うん。夢に入り込む道を作る力は強力だけれどターゲットを誘導したり干渉を防ぐ術は力任せなだけで対処は楽だったよ。だから丑宮さんを孕ませに来るバイ淫魔を迎え撃てる」
私の問い掛けに黒八木さんは力強く頷く。座学の授業で一通りの知識は得ていても餅は餅屋、異国の魔への対応は魔女の修行を積んだ彼女が上だ。
「孕ませ……」
「だ、大丈夫ですよ先輩。インキュパスの性液は何処かの誰かから絞った後で時間が経っていて着床率は低いらしいですから」
それでも妊娠する場合はするのが本当に面倒な話だ。DNA検査で托卵だと判明するのも迷惑だが、今回は別の意味でも厄介な点が一つ。
「そもそも知らない人に夢の中とはいえ抱かれるのはちょっと……あれ? 迎え撃つって言いました?」
不安そうにしていた 丑宮さんも対抗手段がある事に気が付いたのか少しばかり落ち着いた様子だ。
そう、夢の中に現れる怪異への対抗手段はそれなりにある。結界や護符の類い、一番確実なのは入られる前に捕まえて叩き潰す。
『ところで嬢ちゃんはパパ活とか二股とかやってんの?』
「してませんけれど!?」
本来インキュパスが夢に入り込むには浮気や売春と性に関して何らかの理由で心に蟠りがある場合が殆どだ。
身に覚えの無い被害者が騒いで行動が発覚するのを防ぐ為にもでもあるし、そもそも隙が無ければマーキングは出力が足りない。
つまり今回は力任せにそれが可能な相手な上に此方に喧嘩を売る気満々。
此方の迎撃に備えているって事で……。
「あっ、来た来た。相手はそれなりに力に自信が有るらしいので腹拵えはしっかりしませんとね」
配送ロボによって運ばれて来た料理をテーブルに広げて行く。腹が減っては戦は出来ぬとも言う事だ。
「おっと……」
咄嗟に口に手を当てる。ああ、口元が吊り上がるのを抑えられそうにない。
悪因悪果、悪い事をしていれば進む道に悪い未来が待っている。例えば鬼に出会す……とか。
何が裏に控えて居るのかは断言出来ない状況だが……その自信を叩き壊し心を殺し尽くし身も心も犯し喰らい尽くしてやろう。
勝負事や売られた喧嘩を前にすれば血が騒ぐ。何代も何代も重ねて薄くなって行った大婆様の血が、大江山の大悪鬼の血が。
闘争を求め、本能のままに暴れ、欲する物は殺してでも奪え。それが幼い頃から受けた教えなのだから。
……それとどうせ死ぬなら気ままに生きた末に闘争の果てに派手に、
とも。
「それで黒八木さん。決行の日は何時ですか?」
一ヶ月後か一週間後か、とても待ち遠しい。滾る、血が! 本能が!
このままでは抑えられるかどうか分からないな! 早く戦いたい!!
「今夜です」
「早っ!?」
中途半端に激った状態で戦う事になるとは……。
「これで準備は完了です。丑宮さん、早速寝て下さい」
「寝ろと言われても……」
床に獣の血を混ぜた塗料で描いた魔法陣、周囲には髑髏を模した真っ赤な蝋燭が燭台に設置されて部屋の中を照らし、漂うのは魚臭いお香。
尚、丑宮さんの寝室。暫くは臭いが取れないが、寝室を使う事に意味があるので仕方が無いのである。
せめて換気出来れば良いのだが、周囲の部屋の住人から苦情が来るので出来なかった。
「ほれで、ろーするんですか?」
あまりの臭さに鼻栓装備。見た目の悪さは気にしたら負けだ。実益優先、見栄えを気にして死ぬ方がダサい。鼻栓もティッシュで十分だ。
「夢と繋がる力を利用して夢の中に引っ張り込むの。私は此処で魔法を維持するから戦闘力皆無の丑宮さんを守る人を送り込むわ。相性的に男の子の方が良いから」
「わたひれすね。まかひてくだひゃい」
不測の事態に対処するのも任務の内。裏側や関わる事項を見抜けず力量以上の事態に陥った場合、自分で助っ人を雇う。
それが嫌なら固定給で公僕でもすれば良い。表向きの仕事をしつつ回された任務もこなせば家庭はギスギス、だから安定よりも自由を求めてフリーになるか何処かの家に入り込めば良いだけだ。
今回の場合、他を頼れば評価に響く。序列が下がれば一人部屋は没収で、掃除の免除等の他の特典もおじゃんだ。
私は琴音との爛れた日常を失いたくなく、他の理由を挙げるなら叔父さんが気軽に来られない。
一年生だって訓練場の優先権が欲しいだろう。寧ろ裏にある何かの情報を得られれば評価にプラスになる可能性だって。
問題は鬼の血が関わっているという事。
鬼とは理解不能な恐ろしい物の象徴。故にこの国では鬼の血は特別な触媒となる。
猛毒であり同時に魔の属性を持つ存在の力を一時的に底上げするものの、その身と精神を犯す。
放置していても淫魔程度では勝手に死ぬだろうから今日戦うのは悪くない話ではあるものの……。
鬼……鬼かぁ。大獄丸だの手洗い鬼だの大江山とは無関係な鬼が居ない訳じゃない。一山幾らの小鬼の血を集めて煮詰めた物を合わせればそれなりの物にはなる。
まあ、五級品程度? ギリギリ……。
なので酒呑童子一派が関わって無ければ良いけれど。
「じゃあ丑宮さんは私の調合した薬で眠ってもらうとして、坂田君は夢に入る為の準備をお願い。方法は知ってる?」
「ええ、もひろん」
「夢の中に……あの、どうやるの? もしかして今後ずっと夢の中で一緒に……」
『いや、今晩だけだな。だからりゅーちゃん、この嬢ちゃんと繋がっていてくれ』
「繋……がる? も、もしかして。ううん、仕方無いよね。インキュパス退治の為だし。は、初めてだから優しくしてくれれば嬉しい……」
いや、別に手で良いけれど。妄想ワールドに入っている彼女に誰が教えるのやら。
よし! 此処は一年生に任せよう!