お試し倉庫   作:ケツアゴ

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獅子身中の鬼の王(仮)19

「今日は龍洞ちゃんにお願いがあって来ました。大婆様のお願いを聞いてくれますか?」

 

 それは未だ坂田家が壊滅するよりも前。龍洞が既に比較的容易だと判断された任務をお守り付きで任され始めた頃にダンボールを抱えた酒呑童子が屋敷を訪ねて来た。

 

 返事を聞く前に屈みながら箱の中身を見せれば入っていたのは毛も生え揃っていない鎌鼬の赤ん坊。

 小さな声でキィキィと鳴いて自分を見上げる姿に幼い心は直ぐに夢中になった。

 

「実はこの子達のお世話をお願いしたいんですよ。茨城童子が育てていた鎌鼬達の所で沢山生まれてお世話しきれなくて。それでどうです? やってくれますか?」

 

「うん! 大婆様のお願いですから頑張る!」

 

「良いお返事です。このお屋敷内ならある程度は時間に縛られませんが、外で遊ぶなら裏界まで来るのですよ? 小鬼には言い聞かせておきますし、それで襲ってきたなら殺して良いですから」

 

 元より幼児だ。小動物を飼う事の大変さなど理解せず、赤子を可愛いと思ったり絶対に逆らわずに従えと教えられた酒呑童子ものお願いだった事もあり、龍洞は直ぐに引き受けた。

 

 この頃は恐ろしさを理解しておらず、可愛がってくれる相手だからと素直に慕っていた事もある。

 

「じゃあ、この子はスナズリで、こっちの子はフリソデで……」

 

「さては最近焼き鳥に夢中ですね? 皮の塩で一杯やりたくなっちゃいました」

 

 それからの日々は慌ただしい物だった。普段の勉強に加えて幼い鎌鼬のお世話、全部で十五匹分だ。

 

 勿論幼い子供のみに任せる事はないものの、酒呑童子から任されたのが龍洞である以上は主な世話は彼に任せなければ恐ろしい相手の機嫌を損ねない為もあるが、幼い子の心にはそれは己を信用して任されたと受け取る物だ。

 

「ハツにツクネにセセリ〜、お風呂の順番だよ〜」

 

 汚れた体を洗い、餌をやり、遊び相手になります住処を整える。最初はぎこちなかったものの慣れていけば手際も良くなり、偶に顔を見せる酒呑童子配下の者達以外で良い遊び相手にもなった。

 

 そんな彼に鎌鼬達も懐き、姿を見せれば体を我先にと駆け上る。これは坂田家での幸せな記憶の一つであり、龍洞はこの日々がずっと続くと信じて疑わなかった。

 

 十五匹の鎌鼬と過ごす楽しい日々。暑い日には川まで一緒に遊びに行くも流れる水が怖いのか川辺で震えて飛び込もうとしない。

 仕方が無いので龍洞が一人で遊ぼうと飛び込んだ瞬間、慌てた鎌鼬達も後を追って飛び込んだ。

 溺れていると思ったのか十五匹は彼の体を咥えて川岸まで引っ張って泳ぐ。

 

 此れが楽しい日々の一幕。後に狐の少女と出会うまで鎌鼬達だけが彼の友達だったのだ。

 

「君達は妖怪だから普通の鼬の何十倍も生きるからずっと友達だね」

 

 この言葉を信じていた。

 

 

 出先から帰ると庭で鎌鼬達が殺し合いをしているのを目撃するその日まで……。

 

「うん? ああ、すまぬすまぬ。妾の物だった故に世話を任せていたお主にも最初から見せるのを忘れおったわ。ほれ、膝に乗せてやるから許すのじゃ」

 

 ぶち撒けられた大量の鬼の血の上で繰り広げられる共食い。食い付き切り裂き命を奪い合う。肉を食われながら自らも肉を食い荒らす悪夢。

 つい昨日まで仲良く戯れていた姿が夢幻だったかの様な地獄絵図を前にするのは隻腕の鬼。

 

 下は黒袴、上はサラシをキツく巻き付けるも大きな双丘がミチミチと押し上げ、それを押さえ付ける為か更に鎖を巻き付けている。

 肌は日に当たらないにも関わらず健康的な小麦色であり、金色の瞳は蛇のそれに近く、謝りながらも悪びれる様子無くケラケラ笑う口の中には肉食獣と同じ牙が生え揃っていた。

 

 肘から先が血の様に赤黒い左腕で手招きした彼女は呆然として近付いた彼を膝に乗せると頭をゆっくりと撫で始めた。

 

「どうせ死んでも良いと世話を放り出したのじゃが、よくぞ立派に育ててくれたな。ほれ、存分に撫でてやろう」

 

 膝に乗せられ頭に胸を押し当てられながら撫でられる中、聞こえて来る断末魔の叫びにも血の飛び散る光景にも龍洞は大きな反応を示さない……示せない。

 

 耳を塞ぎ目を閉じれば自分を今可愛がっている腕が迷わず首の骨をへし折る事を本能で察したのだ。

 

「絆を結んだ友柄を食い殺し合う蠱毒の中で此奴等は立派な鎌鼬となろう。残った三匹は連れ帰る。今日まで大義であったぞ」

 

 その様な葛藤など気が付く様子も無く女鬼の手は頭をポンポンと軽く優しく叩き、声には親類に向ける様な親しみが混じる。

 

 鬼の名は茨城童子、茨木童子とも呼ばれる大鬼であり酒呑童子の側近中の側近。

 

 この日、少年は思い知った。鬼の理不尽な残酷さと両極端な側面を。鬼に関わって生まれた自分の人生が既に詰んでいる事を。

 

「そろそろ終わるな。気分が良いし風呂でも入るとしよう。龍洞よ、久々に頭を洗ってやるのじゃ」

 

 それでも鬼達は優しく親しみを持って接して来る。常に撫で続けているスイッチを押した瞬間に同じ笑みを浮かべ同じ声色のまま命を奪いに来るとしても……。

 

 

 

 

「この血の匂いは.……犬鬼灯ですね。大婆様の言い付けで優等生遠演じているのに、その態度が気に入らないと私を殺したがってましたしね」

 

 漂う鬼種の血臭に籠った霊力と自らへの呪詛から血の持ち主の見当を付け、理不尽だが鬼だから当然と納得する。

 

「オマケに金童子さんの術まで加えられている、と。こっちの場合は私への試練でしょうね。どうせ鼻でも穿りながらの思い付きでしょうが」

 

 同時に残った霊力から丑宮さんを狙った理由も判明だ。取り憑かれていた淫魔はどうせ問題を起こしていたらしいのでどの道叩き潰す相手だ、気にはしない。

 

 鬼は自由放埒だ。気に入らない相手は殺したいし、何なら不意に何かを食べたくなる程度の感覚で殺したくなる。殺したい意思を殺されるかもという心配で諦めはしない。

 

 その殺したいがお気に入りとか仲が良いとも両立するのが付き合い辛さ。

 

 まあ、鬼と関わるのなら一緒に遊んでいる最中に何となく殺しに来るので、それが嫌なら相手を殺せる位に強くなっておけば良いだけという簡単な話だ。

 

「我を貫くには強さが要るのですよね。じゃないと預かったペットすら守れない」

 

 あの日の事に恨みも嘆きも存在しない。私が弱かったという事実があるだけで、今現在も感動の再会で自我を取り戻す三匹……なんてご都合主義で使い許された展開なんで存在しない。

 

「「「キィイイイイイ!!」」」

 

 私との思い出が蘇ったのか数秒だけ動きを止めるも、鬼の血での狂化に加えて金童子さんの術によって私を獲物と見定めたボンジリ達は止まらない。

 

 不自然に吹き始める風。三匹は横1列に並んで姿勢を低くし前足の鎌を足元に食い込ませる前傾姿勢で力を溜め込み、跳躍と共に加速する。

 

 風が吹く中での空中歩行と加速。それが辻風と共に現れる姿無き切り裂き魔である鎌鼬の能力。

 この風も勿論金童子さんの物なれば自然に収まるのも今の私が止めるのも期待しない方が良い。

 

「丑宮さんは……清々しい程に興味が無しと」

 

 この状況でも寝たままの図太さに感心しながらも前方に向かい雷撃を放つ。

 先頭を駆けるのはスナギモ。他の鎌鼬が即座に甘えに来るのに対してクールな態度で遠巻きに見て来るも最後は我慢出来ずに戯れ付く中途半端ツンデレ。

 

 他の子を押し除ける独占欲にセセリや甘えん坊のボンジリはその後ろを駆け抜けて、このまま貫通して三匹とも骨の髄まで痺れるかと思いきや、スナギモは両前足の鎌を突き出す姿勢での回転。

 

 茶色の輪に見える程の回転数を加えた刃が私の雷撃を切り裂き四散させると後方の二匹が左右に分かれ飛び掛かる。

 

 風と共に二匹は駆け抜け、私の両腕が切り裂かれた。




茨城童子の絵はあるので明日加えます 服装の再現は無理だった
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