機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年10月。ロンデニオン港、東西新聞支局。
その月最初の号外は、私にとって決して愉快なものではなかった。帝都新聞側の覆面評論家――署名は「舌聖」とだけ――が、私の連載「究極のメニュー、サイド1篇」を名指しで酷評したのだ。
「東西の記者は現場に酔いすぎている。塩むすび1つに人生を重ねすぎだ。コバヤシはんの記事は、率直に言うてカスや」
支局は静まり返った。エル・ビアンノが真っ先に椅子を蹴って立ち上がる。
「なにそれ、キッカさんの記事のどこがカスなんですか!! 舌聖とか名乗っといて匿名でよく言うよ!!」
「エル、落ち着いてください。感情で反論すると、向こうの思う壺です」
リィナ・アーシタが冷静に、酷評記事の論拠を1つずつ表に整理していく。彼女の指摘は的確だった。「舌聖」の批判の8割は感情論、しかし残り2割には、確かに一理あった。私の記事は、取材対象への思い入れが強すぎて、時に客観性を欠いていたのだ。
「悔しいけど、その2割は認めるしかないですね」
私がそう漏らすと、ブライト・ノアが珍しく穏やかな声で言った。
「至高を追う者に、批判は避けられない。海原――いや、私も昔、似たような言葉を浴びたことがある。だがな、キッカ。カスかどうかを決めるのは、他人の舌じゃない。お前がその記事に、何を賭けたかだ」
私はその言葉に、しばらく何も言えなかった。
翌週、私は「舌聖」への反論記事を書いた。感情論ではなく、これまでの取材で積み上げた数字と証言だけで構成した、徹底的に地味な記事だった。塩の横流し事件の顛末、冷凍設備の部品不足の実態、配給の按分計算。派手さはなかったが、読者の反応は予想外だった。
「派手じゃないけど、これが本当の現場の記事だ」
そんな声が、コロニー内の掲示板端末に次々と書き込まれていった。
数日後、「舌聖」から短い返信が届いた。
「――認める。今回の記事は、カスやない。続けや」
たった1行だった。だが私は、それを丸1日、手帳に貼り付けたまま眺めていた。至高でも究極でもなく、ただ、悔しさをバネにした記事が、初めて誰かの心に届いた瞬間だった。
エルとリィナは、その日の夜、こっそり私のために配給外の乾燥果物を分けてくれた。ファ・ユイリィは何も言わず、ただ塩むすびを2つ、机の端にそっと置いていった。私はそれを1つずつ、ゆっくりと味わった。
絶妙な塩加減と、わずかに残る温もり。その素朴な味の中に、文字や数字だけでは語り尽くせない現場の熱量が、確かに詰まっていた。
画面の向こうで誰かがどれほど毒を吐こうと、このコロニーの片隅で懸命に生き、飯を食う人々がいる。その営みがある限り、私のペンが止まることはない。
手帳を閉じ、冷めたお茶を飲み干す。
「カス」と言われた記事のその先へ。東西新聞文化部キッカ・コバヤシの現場取材は、まだまだこれからだ。
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