機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

6 / 13
コバヤシはんの記事はカスや

U.C.0092年10月。ロンデニオン港、東西新聞支局。

 

その月最初の号外は、私にとって決して愉快なものではなかった。帝都新聞側の覆面評論家――署名は「舌聖」とだけ――が、私の連載「究極のメニュー、サイド1篇」を名指しで酷評したのだ。

 

「東西の記者は現場に酔いすぎている。塩むすび1つに人生を重ねすぎだ。コバヤシはんの記事は、率直に言うてカスや」

 

支局は静まり返った。エル・ビアンノが真っ先に椅子を蹴って立ち上がる。

 

「なにそれ、キッカさんの記事のどこがカスなんですか!! 舌聖とか名乗っといて匿名でよく言うよ!!」

 

「エル、落ち着いてください。感情で反論すると、向こうの思う壺です」

 

リィナ・アーシタが冷静に、酷評記事の論拠を1つずつ表に整理していく。彼女の指摘は的確だった。「舌聖」の批判の8割は感情論、しかし残り2割には、確かに一理あった。私の記事は、取材対象への思い入れが強すぎて、時に客観性を欠いていたのだ。

 

「悔しいけど、その2割は認めるしかないですね」

 

私がそう漏らすと、ブライト・ノアが珍しく穏やかな声で言った。

 

「至高を追う者に、批判は避けられない。海原――いや、私も昔、似たような言葉を浴びたことがある。だがな、キッカ。カスかどうかを決めるのは、他人の舌じゃない。お前がその記事に、何を賭けたかだ」

 

私はその言葉に、しばらく何も言えなかった。

 

翌週、私は「舌聖」への反論記事を書いた。感情論ではなく、これまでの取材で積み上げた数字と証言だけで構成した、徹底的に地味な記事だった。塩の横流し事件の顛末、冷凍設備の部品不足の実態、配給の按分計算。派手さはなかったが、読者の反応は予想外だった。

 

「派手じゃないけど、これが本当の現場の記事だ」

 

そんな声が、コロニー内の掲示板端末に次々と書き込まれていった。

 

数日後、「舌聖」から短い返信が届いた。

 

「――認める。今回の記事は、カスやない。続けや」

 

たった1行だった。だが私は、それを丸1日、手帳に貼り付けたまま眺めていた。至高でも究極でもなく、ただ、悔しさをバネにした記事が、初めて誰かの心に届いた瞬間だった。

 

エルとリィナは、その日の夜、こっそり私のために配給外の乾燥果物を分けてくれた。ファ・ユイリィは何も言わず、ただ塩むすびを2つ、机の端にそっと置いていった。私はそれを1つずつ、ゆっくりと味わった。

 

絶妙な塩加減と、わずかに残る温もり。その素朴な味の中に、文字や数字だけでは語り尽くせない現場の熱量が、確かに詰まっていた。

 

画面の向こうで誰かがどれほど毒を吐こうと、このコロニーの片隅で懸命に生き、飯を食う人々がいる。その営みがある限り、私のペンが止まることはない。

 

手帳を閉じ、冷めたお茶を飲み干す。

 

「カス」と言われた記事のその先へ。東西新聞文化部キッカ・コバヤシの現場取材は、まだまだこれからだ。




お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。