潮騒を追う夜雨   作:竹河参号

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第六幕 千里の猛襲(4)

 三人を急かしながら走る忌炎(キエン)によると、あの大彫像は“無相燹主(ムソウセンシュ)”本体ではなく、その力の端末だという。

 “無相燹主(ムソウセンシュ)”はかつて湾刀の戦いで重傷を負い、大彫像を水底に沈めた。それが再び顕現したということは、“無相燹主(ムソウセンシュ)”が力を取り戻しているということだろう。いよいよ、時間の猶予はない。

 そうして駐屯地に辿り着いた四人を、意外な人物が出迎えた。

 

 

「将軍殿。お帰りなさい」

「――鑑心(カンシン)さん!? なぜここに……」

 

 

 黒白陰陽を象った道士服に、黒い髪を二つ結びにした若い女――鑑心(カンシン)である。人探しを終えて今州城に戻ったはずの彼女が、どうしてここにいるのか。

 

 

「鑑心(カンシン)は補給部隊の護衛として前線に来てくれたのだが、それ以外にも色々と助けてもらっている」

 

 

 忌炎(キエン)の説明に、鑑心(カンシン)は「どういたしまして」と返答した。

 どうやら前線を直に見た衝撃、そして致遠(チエン)との問答は、彼女を戦場へと駆り立てたらしい。道士としての教えもまた、死せる者たちの救済を渇望させたようだ。ただでさえ逼迫している最前線、さらに治癒と防御に優れた共鳴能力を有する彼女は、あらゆる場面で重宝する。献身的な彼女の性格も相まって、将たる忌炎(キエン)の信頼を勝ち取ることに成功したらしい。

 忌炎(キエン)は鑑心(カンシン)を含めた四人を伴い、駐屯地の屋内に入った。

 

 

「先の戦いで、北落野原の残像潮に異常を確認した。華胥(カソ)研究院が出した結論は、『自然発生したものではなく、外部の力によって生成された』というもの。そのパターンを分析した結果、その力の源はあの彫像だと判明した。

 “無相燹主(ムソウセンシュ)”の力が完全ではない今こそ、その秘密を明かす好機――だが、これまでの戦いでの軍への被害も決して小さいものではない。そこで今後の計画の修正を行おうと思っている。是非お前たちの意見も聞かせてくれ」

 

 

 忌炎(キエン)の依願に、四人とも思わず面食らった。彼らはあくまでも個々の力を振るう戦士であり、多数の兵士を動員して指揮する経験などない。余計な差し出口が、足を引っ張ることになりはしないか。

 

 

「俺たちは、ただの戦士だ。帥(すい)は素人だぞ」

「それでいい。定石に囚われては、怪物狩りなど出来はしない」

 

 

 四人の不安を代表した追跡者の言葉を、しかし忌炎(キエン)は受け付けなかった。彼ら自身の命を懸ける大戦として、その決断に関わらせる――つまり否が応でも中核人物として巻き込んでやる、という威圧感があった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 忌炎(キエン)の案内で導かれた作戦室には、多数の幕僚たちが集まっていた。“無相燹主(ムソウセンシュ)”の大彫像とそこに至る崖を映したホログラムの地図を前に、部隊の配置を検討している。将たる忌炎(キエン)の入室にいち早く気付くと、一糸乱れず敬礼した。

 ちなみに漂泊者の予測に反し、追跡者はホログラムに何の疑問も示さなかった。円卓の備品の一つに“写身の地図”という秘宝がある。時空の歪んだリムベルドへと出撃するにあたり、来訪のたびに姿を変える地形と建物の配置を正確に映し出すことができる秘宝であり、即興で行程と作戦を組み立てるのに重宝した――それと同じようなものだろう、と理解していた。

 余談が、過ぎた。

 忌炎(キエン)によると、破陣営の兵力を三つに分ける方針らしい。支援射撃ができる遠隔戦中隊、近距離の戦闘に長ける近接戦中隊、そして忌炎(キエン)・漂泊者・追跡者・秧秧(ヤンヤン)・鑑心(カンシン)からなる突撃小隊だ。交代役の中隊を用意せず、危険度が高い突撃小隊を採用するのには理由がある。“無相燹主(ムソウセンシュ)”は消滅した残像周波数を組み直す権能を有するため、どれだけ戦おうと残像の数が減ることはない。むしろ『戦争という行為』を通じて“無相燹主(ムソウセンシュ)”に糧を与えてしまうことを鑑みると、持久戦はまず不可能、短期決戦が求められるのだ。

 さて、戦場となる北落野原――大彫像とその正面の大きな崖。巨大な砲撃で丸ごとくり抜かれたような峡谷の先に、旧時代の廃墟が足場のように浮遊しているらしい。“無相燹主(ムソウセンシュ)”を打倒するには、遠隔戦中隊と近接戦中隊の援護を受けながら主力突撃小隊を突入させ、確実に速やかに大彫像の中心部へと送り出す必要がある。

 作戦室は、忌炎(キエン)の意見と幕僚たちの補佐を交えながら、漂泊者の案を具体化していった。遠隔戦中隊は峡谷両側の高い位置に陣取り、戦場全体に射撃支援を行き渡らせる。近接戦中隊は峡谷の正面を塞ぎ、残像潮を堰き止めながら圧をかける。そうして生まれた隙を突撃小隊が集中突破し、そのまま“無相燹主(ムソウセンシュ)”を仕留める――危険ではあるが不可能ではない、安定と挑戦を天秤にかけた、絶妙な作戦だ。特に異論も出ず、各中隊の指揮官は速やかに編成を整え始めた。

 だが――

 

 

「――……いいや。駄目だ」

 

 

 それまでずっと沈黙を守っていた追跡者が、ふと口を開いた。

 作戦室の視線が、一斉に追跡者へと集中した。彼はホログラムの地図を食い入るように見つめている。それが断じて物珍しさによるものではないと、誰もがすぐに気付いた。

 

 

「と言うと?」

 

 

 忌炎(キエン)の問いかけに、追跡者はホログラムの地図の一点――“無相燹主(ムソウセンシュ)”の大彫像を指差した。

 作戦室の端に立っていた彼は、大彫像の背後から戦場を俯瞰することができた。そこから主戦場となる峡谷を、『裂空』なる巨大な砲を、夜帰軍の基地をも一望できた。で(・)き(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 

「この崖は――このルートは、鳴式の真正面を通る。奴にとっては、格好の的だ」

 

 

 追跡者は、誰(・)か(・)が酒の席で話していたことを思い出しながら、少しずつ言語化していった。

 今にして思えば、『酒の席』などというのは、かの人物にはいささか不似合いなように感じる。別(・)の(・)誰(・)か(・)に強引に連れ出され、案の定べろんべろんに酔った姿で、めずらしく饒舌に語ってくれたのを思い出す。

 ――暗殺に最も必要なのは、類稀な技術でも驚異的な視力聴力でも、ましてや未曾有の霊感でもない。辛(・)抱(・)強(・)さ(・)なのだと。「標的が緊張を解き、『絶対に攻撃が当たる瞬間』まで待つ根気強さなんだ」と、呂律の回らない舌で教えてくれた。

 

 

「このルートは見晴らしが良すぎる。鳴式からは、突撃してくる俺たちの姿がよく見えることだろう。

 奴からすれば、蠅たたきを振りかぶっている最中に、当の蠅が真正面から突撃しているようなものだ。簡単に撃ち落とせる」

「そうだ。だからその蠅たたきを振り下ろされる前に、懐に飛び込もうと――」

「何も、万全の力で振るう必要はない」

 

 

 忌炎(キエン)の言葉を、追跡者は静かに、しかし力強く遮った。

 ――彼ら夜渡りが相対してきたのは、“夜の王”という具象化された脅威ではない。“夜(・)”と(・)い(・)う(・)理(・)不(・)尽(・)そのものだ。尋常な軍略、尋常な発想は当てにならない。「相手も襲撃するための準備を要し、それが予測可能かつ相応の時間を費やすため、味方が迎撃準備するための時間的余裕がある」などという、悠長な定石は当てにならない。

 “夜”は予告なく襲い来る。夕暮れとともに襲い掛かり、驟雨とともに全てを焼き尽くし、朝日とともに消え失せる。何もかもが唐突で、何もかもが常識外れ。呆れるほどに理不尽で、忌々しいまでに暴力的。もしもそれが、鳴式にも適用されるのであれば――

 

 

「何も今すぐ、今州全体を滅ぼす力が必要なわけではない。俺たち五人を叩き潰すのに、奴はほんの指先程度の力があれば充分だろう。

 ――そしてそれだけの力は、もう溜まっている。それをほんの少し零すだけで、この作戦は総崩れになる」

「つまり、力を溜めているのを中断して、私たちの迎撃を優先する可能性が高いと?」

「そうだ」

 

 

 漂泊者の推測に、追跡者は深く頷いた。

 「そんな……」と顔面蒼白になった秧秧(ヤンヤン)を皮切りに、作戦室は騒然となった。これまでの戦線とて、決して人間同士の戦争における定石に従ってきたわけではない。無秩序に発生する残像潮の、しかし生成パターンを特定して発生源を突き止め、作戦を組み立てて兵力を配置し、適切に指揮して凌いできたのだ。それすら通用しないとなると、作戦難度は一気に跳ね上がる。

 

 

「しかし、他のルートなど――」

「それこそ時間が――」

「待て」

 

 

 焦燥のあまり興奮する幕僚たちを、忌炎(キエン)の一言が鎮めた。なるほど将器、難題を前にしても冷静さを失わない大人物だ。

 

 

「……それで? 異論を唱えるからには、何か代案があるのだろうな?」

 

 

 忌炎(キエン)はぎろりと追跡者を睨み据えた。百戦錬磨の将軍は、兵士たちとは異なる視座をもって戦場を睥睨し、彼らの死闘と犠牲に責任を持つ。その重責に懸けて、浮足立った戦士の戯言に流されはしない――そんな忌炎(キエン)の気迫に対し、しかし追跡者は怯まず、ただ己を落ち着かせるように、長く深呼吸をした。

 ――これは賭けだ。一歩間違えれば、全てが破綻する。

 だが迷っている暇はない。今動かなければ、“無相燹主(ムソウセンシュ)”が全てを押し潰す。かつて“夜”が、風鳴り丘の遊牧民を、彼らの一族を滅ぼしたように。

 ゆっくりと息を吐き、そして大きく吸うと、追跡者は顔を上げた。

 

 

「――信号塔があるだろう? あれの周辺に、陣地を張っていたはずだな」

「ああ」

 

 

 追跡者の確認に対し、忌炎(キエン)は首肯した。

 ブラックショアによって開発された信号塔は、共鳴能力に干渉して肉体を治癒する浄化結界の他、付近の残像を追い払う排斥結界を展開している。正確には、残像の行動ルーチンを解析し、その無意識に干渉する音波を発生させ、圏内を避けるように行動させる。つまり『その気になれば容易く突破できるが、何となく近寄りたくなくなるバリア』を張っているような状態だ。今回のような大規模な残像潮に対しては、決して有効と言い難い結界だが、それと引き換えに『そもそも攻撃されない』という極めて強力な耐久特性を有するため、平時の軍事行動の起点とするには非常に都合がよく、各国でも広く活用されている。

 であれば、防衛の要も信号塔に集約される。リムベルドに点在する“祝福”のようにはいかないかも知れないが――背に腹は代えられない。

 

 

「信号塔の周辺まで、防衛線を下げてくれ。すぐに補給と治療ができるように。自分たちの安全を確保するよう、全軍に徹底してくれ」

 

 

 追跡者の決断的な指示に、幕僚たちはがやがやと動揺した。

 

 

「しかし、それでは残像潮に突破されてしまう!」

「本末転倒だ! 残像から身を守るために、残像の突破を許すなど!」

「必要ない」

「――理由は?」

 

 

 幕僚たちの反対に構わず、断言する追跡者。それに対し、忌炎(キエン)は静かに問い詰めた。

 

 

「兵士の命、ひいては今州そのものの存亡に関わる重大事だ。本当に有効なのか、はっきりさせておきたい。

 防衛線を下げ、その代わりに何をする? 迫りくる残像潮に対して、どんな策を採る?」

 

 

 忌炎(キエン)の詰問に対し、追跡者は少し言葉に迷った。これからの行動は、おそらく前代未聞だ。ソラリスの根底を揺るがす大事件となる。それを舌先三寸で誤魔化すことができるほど、彼は弁舌に長けていない。

 

 

「……詳しくは言えない」

 

 

 仕方なく、あるがまま言うことにした。げっと目の色を変える漂泊者の様子は見なかったことにする。

 馬鹿正直に説明してはいられない。そもそも、彼にとっても大博打の一手だ。吉と出るか凶と出るかは、打ってみなければ分からない。

 

 

「俺の――共鳴能力とやらに関するものだ。全開にすると、敵(・)味(・)方(・)関(・)係(・)な(・)く(・)被害が出る。

 おそらく、兵士たちは戦っている場合ではなくなる。前線維持どころではなくなる。被害を少しでも軽減するために、治療に専念させてくれ」

 

 

 馬鹿な、と幕僚の誰かが呟いた。無理もない、と漂泊者たちは思った。世情に疎い鑑心(カンシン)でさえ、手放しには信頼しかねる暴論だと分かった。黙したまま聞き続ける忌炎(キエン)ただ一人に向かって、追跡者は言葉を続けた。

 

 

「合図をしたら、一斉に撤退を命じろ。そして、拠点の堅守と兵士たちの治療を最優先にしてくれ」

 

 

 その言葉を最後に、追跡者は口を閉じた。ここから先は、戦士の役目ではない。兵士の役目でもない。兵士たちの命を預かり、右から順に使い潰し、もって今州の鎮護を果たす夜帰軍将の役目だ。

 作戦室中の、縋るような視線に射抜かれながら、忌炎(キエン)は静かに瞑目し、息を吸って、吐いた。それだけが、彼に許された唯一の躊躇だった。

 

 

「――分かった」

 

 

 忌炎(キエン)は決断した。この異邦の戦士に、全てを託すと。

 追跡者はその一言を聞き届けると、「詳細な配置は任せる」と言い残し、作戦室を出ていった。後に残されたのは、前代未聞の作戦に狼狽する幕僚たちと、忌炎(キエン)の隣で静かに覚悟を決めた漂泊者、その姿を見て息を整える秧秧(ヤンヤン)と鑑心(カンシン)。

 趨勢は決まった。前代未聞の大敵を前に、前代未聞の死闘を演じなければならない。その末路がどう語られるかは――その語り手を守ることができるかどうかは、始まってみなければ分からない。

 

 

 

 

 合図はただ一つ――「青く燃える雨を待て」。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 作戦室を出た追跡者は、その足で砦を出、北東に聳え立つ崖へと突き進んだ。鉄筋コンクリートでできた頑丈な砦は、彼の記憶にも珍しい建物として映ったが、見物している場合ではない。物見遊山は、全てが落着した後にしよう。あるいは、忌炎(キエン)将軍直々の案内も期待できるかもしれない。それを実現するには、何を措いてもこの一戦が肝要だ。

 北落野原を望む切り立った崖は、その眼下の峡谷と同じく、巨大な砲撃によって抉られたような、歪な地形をしている。これが三年前の湾刀の戦いによるものなのか、もっと前のものなのか、はたまた鳴式すら関係のない戦禍によるものか――彼には推測する術がないし、そんな興味もない。

 長い弧を描くような崖を登り切り、追跡者は“無相燹主(ムソウセンシュ)”の大彫像に向かい立った。夜帰軍の制圧領域では最も東端、見晴らしも良く、大彫像を攻撃するには最も都合のいい立地だ。しかしそれは同時に、最も“無相燹主(ムソウセンシュ)”に注目されやすく、真っ先に攻撃されやすい場所という意味でもある。それに最も近いとはいっても、大彫像まで数百メートルはある。それだけの射程距離を有する兵器を、彼は知らなかった。黄金樹さえ脅かしうる戦略兵器は、繧「繝ォ繧ソ繝シ鬮伜次よりもさらに北、蟾ィ莠コ螻ア蠍コに封じられた轣ォ縺ョ蟾ィ莠コ縺溘■の領分ではなかろうか。

 追跡者は後ろを振り返り、崖下の巨大な砲に視線を遣った。曰く『裂空』なる旧時代の兵器であり、大彫像が展開する障壁“地波の気障”を破壊する唯一の手段であるという。いわば城塞をこじ開ける破城槌というところか。あれをいかに守り抜くか、そしていかに機能を発揮させ“地波の気障”を穿つかも、この戦争の大きな焦点となるだろう。

 追跡者は少し視線をずらし、先ほど発ったばかりの砦に視線を向けた。武装した兵士たちが慌ただしく駆け回り、残像との戦いに備えている。彼らの奮闘は、将軍忌炎(キエン)をはじめとする首脳部によって細やかに積み上げられ、今州の安泰を守る防壁となっている。だがそれも、鳴式たる“無相燹主(ムソウセンシュ)”の一突きによって容易く瓦解するだろう。そうならないために、忌炎(キエン)は兵士たち全員の命運を、彼に託した。

 

 

(鳴式を――“無相燹主(ムソウセンシュ)”を斃す。これが、俺の使命なのか)

 

 

 追跡者は少しだけ考え込んだ。悲鳴という災いに晒され、鳴式という危機に怯える世界(ソラリス)……なるほど、数多の“夜の王”たちと相対した夜渡りに託すには、うってつけの使命だろう。その一つを討ち倒す――あるいは、相打ちとなって共に滅ぶ。『夜渡りという外来種』を呼び込んで得られる成果としては、まあまあ妥当といったところか。

 ――本当にそうなのか?

 他ならぬ自分の考えに、追跡者は違和感を抱いた。それこそ、彼(・)で(・)あ(・)る(・)必(・)要(・)は(・)な(・)い(・)。生き残っている夜渡りだけで候補は九人、あるいはそれ以外の資格者もいるかも知れない。彼らを押し退けてまで、成(・)り(・)果(・)て(・)た(・)自分が選ばれたのは、何か特別な意図があるのではないか。このソラリスの奥底に眠る『何か』が、遠大な計画を企て、ために彼を巻き込んだのではないか――……

 

 

(……余計なことは考えるな。今に集中しろ)

 

 

 追跡者はぶんと首を振った。彼が呼ばれた真の目的が何であれ、今この場を打破しなければ意味がない。余計なことに気を取られたまま戦えるほど、鳴式という相手は容易くはない。

 追跡者は、懐から銀色の塊を取り出した。掌の中でとくとくと小さく脈打つ、銀の胚――豌ク驕?縺ョ驛ス繝弱け繝ゥ繝?がに伝わる聖遺物。悪しき流星によって滅び、“狭間の地”の地下深くに沈んだそれは、今は砕かれしエルデンリングの権能によって完成され、真価を発揮するという。詳しい理屈は、何でもいい。それに相応しい成果があることは知っている。す(・)で(・)に(・)一(・)度(・)な(・)し(・)た(・)禁(・)忌(・)で(・)あ(・)る(・)が(・)ゆ(・)え(・)に(・)。

 追跡者は一度だけ大彫像に視線を向けると、“銀の雫”をぐっと胸元に押し込んだ。途端、ぐるりと内臓を捲り上げるような不快感に飲み込まれ、彼はその場にがっくりと頽(くずお)れた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 北落野原を望む断崖。

 天を遡る雨の中、そこには何もなかった。兵士の影はおろか、戦場を闊歩する残像すらいない。

 超常の雨すら降り注がず、あらゆる事物が存在しない空白の中に、ただ、銀色の闇だけが昏々と沈んでいた。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 彼は、

 

 

 

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