Fate CROSS strange FAKE 作:N40
爆発が収まると大穴が開いた館の壁から風が吹き抜け、舞っている粉塵を散らす。
「すまない。助かった」
札による爆発に巻き込まれたシグマは無傷であり、彼を守った偽アサシンに礼を言う。
「助けた訳ではない。お前にはまだ聞きたいことがあっただけだ」
礼を言われた偽アサシンは素っ気なく返すと水晶化している皮膚を元に戻す。
髪に刺さった札が爆発する瞬間、咄嗟に髪を伸ばしつつ別の髪でその髪を根本から切断していた。これにより爆発が届くまでの時間を稼ぐことができ、僅かに出来た時間で己の皮膚を硬質化させる『断想体温』を使用し、衝撃に備えたのだ。
表面上はダメージ無しのように振る舞うが、実際は爆発の衝撃を近距離で受けたせいで聴覚にかなりのダメージを負っており、平衡感覚に異常が生じている。それでも紙一重で重傷は免れた。
歪む視界に微かに顔を顰めながら偽アサシンは外に出た扉間を追う。
扉間は逃げる様子もなく館の外で腕組みをして偽アサシンを待っていた。
(あれを防ぐか。──まあ、驚くことでもないか)
扉間の中では英霊の基準がアルケイデスやギルガメッシュになっているので偽アサシンが起爆札でも無傷なことは驚くに値しない。
偽アサシンは地に降りることはせず、館の壁面や木々を縦横無尽に移動して扉間を攪乱する。
(早いな……上忍クラスか)
自分の知る一流の忍たちとも遜色ない偽アサシンのスピード。だが、裏を返せば扉間にとって見慣れたもの。
扉間は偽アサシンを目で追うことはせず立った場所から一歩も動かずに相手の動きを読み取る。
偽アサシンもまた攪乱しながらも自分の動きが追われていることを感じ取っていた。
動き回りながら扉間を観察する。クラスは自分と同じアサシンなのは間違いない。アサシンとしてはやや重武装に見える。
狙われていると分かっていても堂々とした姿と静か過ぎる気配。それを見ていると偽アサシンの中の記憶が蘇ってくる。
(一体何者なんだこの英霊? あの英霊が纏う気配……少し似ている。歴代のハサン──)
そこまで考えかけ強制的に思考を止めた。これ以上考えることは信仰への侮辱と不敬になる。
(何を考えている、私は!)
戦いの最中に無駄なこと考えてしまった自分の修業不足を恥じ、改めて扉間を倒すことを強く決意する。
無数に生み出される偽アサシンの残像。それに取り囲まれながらも動じることはせず、不動を貫く扉間。
対照的な両者であったが遂に事態は動く。
「襲撃か!?」
館の方から聞こえてきたセイバーの声。銃声の後に爆発が起こればやって来るのは必然。この時、扉間の視線がセイバーの声がする方を一瞬見た。この瞬間を偽アサシンは見逃さなかった。
壁を蹴り、一気に距離を詰める。扉間も待ち構えるのを止め、偽アサシンから離れようとする。
「『
偽アサシンの背から伸びる第三の手。赤く染まった手が扉間の胸に伸び、その心臓を掴み取り──
「!?」
『妄想心音』から伝わってくる筈の心臓の感触が無い。いくら英霊とはいえ心臓もとい霊核が存在する筈。
すると、心臓を掴まれている扉間の体が色を失い、透明になる。形が崩れ、液体となってバシャリと地面に広がった。
(偽者!? いつの間に!?)
水を媒体とした扉間の分身の術に驚く偽アサシン。偽アサシンが扉間を追って館の外に出た時には既に入れ替わっていた。
まんまと欺かれたことに偽アサシンは屈辱を覚えるが、すぐに扉間を探す為に素早く周囲を観察する。
少なくとも視界内には扉間の姿は無い。ならば、と偽アサシンは新たな御業を使用。
「『
魔力や水、電気などエネルギーの流れを完全知覚する為の技。これにより知覚された情報が偽アサシンの目に映し出される。
視界内に扉間と思わしき魔力はない。だが、あるものが偽アサシンの目に入る。
それは先程まで扉間だった水の分身。地面に広がる水には偽アサシンも知らない未知なるエネルギーが残留している。
そのエネルギーが何なのか凝視する偽アサシン。『瞑想神経』の能力で可視化したことで気付く。
地面の下。そこに渦巻く未知なるエネルギー。二つあるそれは混ざり合い、異なる力へと変化する。
今立っている場所に危険が迫っていると分かり、偽アサシンは跳び上がって木の枝に乗った。
偽アサシンが立っていた場所は土が水気を含んだかと思えば一瞬にして泥と化す。半径数メートルの小さな泥の沼であるが、泥化した土に生えていた木が泥の中に沈んでいき、完全に見えなくなる。少なくとも見た目に反してかなり深く、一度はまれば脱出は困難と思われた。
即席で作り上げられた底なし沼。その中心が盛り上がり、中から全く汚れていない扉間が現れる。
扉間は偽アサシンがこの沼が発生する前に動いたのをちゃんと感知していた。
(黄泉沼が出来る前に動いたか。探知する能力でもあるのか?)
扉間は偽アサシンが己のチャクラを見て危険を察知したことに薄々勘付いている。チャクラとは体の細胞一つ一つから出る『身体エネルギー』と脳から発生する『精神エネルギー』を練り合わせることで作り出されるエネルギー。チャクラという言葉は知っていても、その性質を知らない偽アサシンには謎のエネルギーにしか見えない。
そのチャクラと指の組み合わせによる印により扉間の世界の忍は忍術を発動させる。
「おおっと。随分と荒らされているな」
「休まる暇もないな」
偽アサシンへの対応に手古摺ったせいで館からセイバーとシドが姿を現す。アヤカも危険は承知で付いてきていた。何だかんだ言ってもサーヴァントの傍が一番の安全地帯である。
「気を付けろ。その男、恐らくはアサシンだ。妙な術を使う」
「貴様が言うか、それを」
偽アサシンが忍術を妙な術と言ったので扉間もチクリと嫌味を返す。
「……忍者?」
隅っこで隠れるように見ていたアヤカは、扉間の姿を見てアニメや漫画に出て来る忍者を連想する。
「言われてみればそう……なのか?」
シドも一瞬納得しかけたがすぐに首を傾げる。シドの世界にも『忍者』は存在する。だが、シドの中の忍者の姿と扉間は上手く重ならない。どちらかと言えば『侍』という職種に似ていた。
「おおっ! まさかこの目で生きた忍者に出会えるとは! 何という僥倖! 何という奇跡!」
前にバンドハウスでバンドマンたちに様々なサブカルチャーを見せてもらっていたセイバー。その中には日本の──かなり誇張された──忍者も存在していた。
「戦う前に一つ、俺にサインを書いてくれないか!?」
セイバーが目を煌かせながらとんでもないことを扉間に頼んでくる。セイバーの発言には扉間だけでなく彼の仲間たちも呆れた様子であった。
「貴様、中々に天然だのぅ。時と場合によっては一筆書いていたかもしれん」
「じゃあ!」
「残念ながらその時と場合ではない」
サインが貰えないことを知り、シュンとなったセイバーであったが流れるような自然な動作で近くにあった木の枝を折る。
「なら仕方がない! 一戦交えようか!」
目に宿っていた好奇の輝きが戦闘者としての危うい輝きに変わる。その素早い切り替えに扉間はセイバーへの評価を改めた。
「──どうやら貴様は中々に危険なようだ」
言葉の終わりと同時に扉間はセイバー目掛けて複数の苦無を投げる。セイバーは避けるどころか自分から苦無へ突っ込んで行く。
苦無がセイバーに突き刺さるかと思われた直前にセイバーの影から矢が飛び出し、苦無を真上に全て弾き飛ばす。
仲間が防いでくれると信じていたセイバーは神速の踏み込みで扉間に斬り掛かる。扉間は輝きを帯びる木の枝に目を細めながら残像が生じる速度で指を組む。
「『
″土遁・土流壁″
扉間が地面を踏み締めるとセイバーの足元から岩で出来た壁が発生し、セイバーを突き上げる。
「うおっと! これが忍術か!」
足がひしゃげていてもおかしくない衝撃だった筈なのにセイバーは扉間の忍術に感動する余裕を見せる。実際、不意を衝いての攻撃だったにもかかわらずセイバーは突き上げる土流壁のタイミングに合わせ、力の流れに逆らわずに跳躍することでダメージを最小に抑えていた。
「もっとあるのか! 見せてくれ!」
戦いの最中でも子供ような好奇心と感動を忘れないセイバー。しかし、だからといって気を抜いている訳ではなく戦いそのものを楽しんでいる。
戦いを楽しむ手合いは厄介なのは扉間の昔の経験から嫌でも知っていた。
忍術を出し惜しめるような相手ではない上にまだ偽アサシンとシドもいる。手札を見せるのは気が乗らないが、温存して勝てる相手ではない。
扉間はチャクラを練り、印によってチャクラの性質変化を起こす。チャクラは火、水、風、土、雷に性質を変化させることができ、通常の忍なら生まれた忍の里により得意な適正を持つ。
水遁を多様する扉間だが、彼は水以外でも他の性質変化の適正を持ち、それだけの素質を持つ者は忍の中でも一握りであった。
″水遁・水龍弾の術″
渓谷での戦いでも見せた水の龍を作り出す術。しかも、今回はアレンジが加えられている。
水場やチャクラによって生成された水を使用する術だが、扉間は『土遁・黄泉沼』によって生み出された泥の水を利用した。
それにより黄泉沼がせり上がり、一匹の龍が生まれる。
作り出された泥の龍は空中にいるセイバー目掛けて体を伸ばす。
「東洋のドラゴンか!」
危機的状況でも感動を表すセイバー。その感動ごと呑み込もうと龍が大口を開ける。しかし、寸での所でセイバーは空中を横滑りして躱した。
(飛べるのか)
扉間は龍でセイバーを追撃するが、セイバーは仲間の魔術により空中を自由自在に動いて龍を翻弄する。通常の水龍弾と比べて多くの泥を含んでいる水龍弾の動きは遅い。一度でも喰らい付けば底なし沼同然の体の中に引きずり込めるのだが、当たらなければそれも叶わない。
「ね、ねえ。今なら攻撃出来ない?」
アヤカは小声でシドに話す。セイバーを相手にしている扉間は彼女には隙だらけに見えた。
「──いや、ダメだ。奴は我々を誘っている」
シドはそれが扉間の罠だと見向いていた。木の枝から扉間を見下ろしている偽アサシンも簡単に飛び掛かれないのは扉間の隙に悪寒を感じるからだ。
「──とはいえセイバー一人に全てを任せるのは騎士として名折れ」
シドはアヤカを見る。
「すまんが少し離れる」
「大丈夫。ちゃんと隠れているから」
その返答に満足したように頷き、シドはエクスカリバーを抜きながら前に出る。途端に濃密な殺気がシドへと当てられる。扉間は視線を向けずともシドの動向を把握していた。
(凄まじいな……)
鋭く、心臓を貫くような冷たい殺気。だが、狂気は感じられない。数多の修羅場を潜り抜けきた手練れの殺気であった。
全身を切り裂かれるようなイメージを叩き付けながらシドは更に踏み込む。シドが完全に扉間の射程内に入った瞬間、沼からもう一匹の龍が飛び出す。
シドはエクスカリバーを構えるが、何故か振るわず龍のあっさりと呑まれてしまう。
「嘘っ!?」
シドがあまりに簡単に攻撃を受けてしまったことに動揺するアヤカ。扉間の方はその呆気無さに逆に警戒を強める。
その時、扉間の耳が微かな声を捉えた。
「死ぬも生きるも剣持つ定め──地獄で悟れ!」
シドを呑み込んだ龍の上顎を突き破って伸びる日本刀のような剣気。
「暗の剣!」
伸ばされた剣気が内側から龍を両断。中から無傷のシドが出てくる。
ただ斬るだけでは問題無かった。沼がある限り龍は生み出し続けられる。しかし、シドの剣は対象を斬るだけに留まらない。
泥の龍は体を真っ二つにされた直後、体から急速に水気を失って乾いていき、最後には乾いた土に戻ってしまう。
その現象はシドを襲った龍だけに終わらず、龍と繋がっていた沼も一瞬にして乾いた土となり、セイバーを追い回していた龍もまた体が崩れ、土塊となって落ちていく。
(こやつ! チャクラを吸収したのか!?)
術の根源たるチャクラがシドの放った『暗の剣』により根こそぎ奪われ、そのせいで術が崩壊した。
セイバー共々侮れない相手と予想していたが、思っていた以上に手強い。
そして、扉間は思案する間もなく頭上の輝きと熱を感じ取る。
「『
木の枝の一振りから繰り出される光の斬撃。そこら辺に生えている木の枝でこれだけの攻撃を出せるのは理屈に合わない。
セイバーの斬撃が発する光に顔を顰める扉間。空から降り注いだ斬撃が大地を焼き切る。
扉間が光に呑まれたように見えたが、セイバーは「やったか?」とは思わなかった。こんなものでは終わらないだろう、という確信があった。
その確信が正解だと示すように視界の端で何か鈍い光を反射する。
セイバーが視線をそちらへ向けた時、苦無を持った扉間がセイバーに斬り掛かる。
「おおっと!」
咄嗟に木の枝で防ごうとするが、先程の一撃で炭化していた木の枝は防ぐ前にセイバーの手の中で崩れてしまう。
防ぐ手段を失ったセイバーの喉元に迫る刃。
「はっ!」
届く前に両手を左右から打ち付け、苦無を挟んで止める。
「これが真剣白刃取り──なのか?」
「ワシに聞くな」
緊張感が欠けたセイバーの言葉を素っ気なく流し、苦無を引き抜こうとするがすぐに無駄だと悟った。
岩山に深く突き刺さったような感覚。扉間の筋力ではセイバーの筋力に敵わない。
しかも、それだけではない。セイバーは挟んでいた苦無を握り締め──
「『永久に──』」
そのまま反撃に転じようとしてきた。
先程の様子からしてセイバーは得物に関係無く一定の威力を持つ光の斬撃が出せる。恐らくそれがセイバーの宝具であり、今まさに扉間の苦無でそれを行おうとしている。
「ちっ」
扉間は早々に苦無を諦め、懐からもう一本の苦無を取り出して地面に投げ放つ。セイバーが握った苦無が光ったタイミングで扉間は消え、投げ放った苦無の先に出現した。
扉間の瞬間移動に誰もが目を見張る。
「それも忍術なのか!? ん? 空間跳躍? おいおい、あまり夢のない──逆に夢にような技なのか?」
滞空しているセイバーが誰かと会話している。恐らくは彼の見えない従者の一人である魔術師が今起きたことを説明している様子。
(テレポか? 今のは? まさか魔導士のような技も使うとは)
シドの世界でも瞬間移動する技は存在する。だが、それは時間や空間を操る時魔導士にしか習得出来ないもの。しかも、必ずしも成功する技ではない。緊急時にも躊躇無く使用出来るということは、それだけ成功する自信があると思われる。
余談だが確実に成功するダテレポというテレポの上位能力が存在するが、それを習得している者たちは全て人外であった。その経験からシドの扉間への評価と危険度はその人外たちに近いくらいまで上がる。
(この男、底が知れん……!)
忍術という未知なるエネルギーを使用して発動させる偽アサシンの知らない技。その一端を見ただけだが脅威の一言。その上まだ本気を出しているようにも見えない。そして、それを操る扉間にも隙らしい隙は見当たらず、何処までも冷めた目でこの戦場を見ている。
攻め方が見つからない。
(──だが、それは私が戦いを止める理由にはならない)
逃走という選択肢は偽アサシンにはない。初心貫徹のまま聖杯戦争を壊す為に立ち塞がるものは全て滅する。
「『狂想閃影』」
髪を操り、真っ向から扉間へ突っ込んで行く。
偽アサシンのアサシンらしくない行動に扉間は一瞬虚を衝かれた表情をした後、溜息を吐く。
「この戦争に参加している娘は猪突猛進ばかりなのか?」
真ライダーことヒッポリュテを思い出させる。
最初に襲撃された時よりも本数が増えた髪が扉間を囲うように絡みつこうとするが、扉間は最小の動きで印を結ぶと息を吸い込む。
″水遁・水断波″
扉間が吐き出したのは直線状に伸びる細い水。首を動かし、偽アサシンの髪に向けると迫る髪をまとめて切断し、薙ぎ払う光景は水圧カッターそのもの。
大理石を粘土のように抉り、人体を紙のように裂くことが出来る切れ味を持つ偽アサシンの髪が扉間の水の鋭さの前に完敗する。
偽アサシンにとってこれは酷い屈辱であると同時に一度ならず二度までも先代の御業を辱めてしまったことに胸が締め付けられる程の悔恨の念を抱く。
自分が未熟だから修業不足だから、と自らを責めても今起こっていることを取り消すことは出来ない。
上空のセイバー、地上のシドと偽アサシン。好奇、警戒、敵意の三種の視線が扉間へと注がれる。
だが、その視線は命取りになる。ましてや相手が忍ならば。
扉間は指を組み、その術を放つ。
″幻術・黒暗行の術″
この瞬間から三人の光が奪われ、世界が黒一色に塗り潰される。
原作だと扉間は水遁ばっかり使っていましたが、ステータス的には他の性質も使えるようなので使わせてみました。
使うのは木の葉隠れの忍が使っていた忍術限定にします。