修学旅行という名の強行軍を終え、その余韻も冷めやらぬ翌日の朝。
椚ヶ丘の険しい裏山を登る足取りは、いつにも増して重かった。
連「……チッ。コンボの繋ぎ(フレーム)にこだわりすぎて、仕様外の徹夜(バグ)をかますとはな……」
暁連は、お馴染みの琥珀色に輝くエナジードリンク(レッドブル)のプルタブをパキリと開け、歩きながら一気に喉へ流し込んだ。強烈なカフェインとケミカルな成分が、睡眠不足で半分機能停止している脳のニューロンを力尽くで叩き起こしていく。
昨晩、暁家のリビングでババア(玲奈)と夜兎の理不尽な絡みを切り抜けた後、連には負けられない戦いが待っていた。
格闘ゲームの公式オンライン大会。
連はいつものラッシュ型キャラクターをミリ単位のフレーム管理で操り、見事に「完全優勝(全勝クリア)」を果たした。……そこまでは良かった。問題はその後の「二次会」だ。
オンラインのロビーに集まったトップランカーたちと、新しく実装された追加ダウンロードキャラクター(DLC)の性能検証が始まってしまったのだ。
『おい、今の技の発生F(フレーム)、しゃがみガードで確反(確定反撃)なくないか?』
『いや、微ダッシュからのコマンド投げで3F有利が取れる仕様のはずだ』
そんな、一般人には呪文にしか聞こえないガチ勢同士の「1人5本先取(5先)マッチ」を延々と回し続け、気付けば外の雀がチュンチュンと鳴いていた。文字通りの朝帰り、そのまま寝ずに登校という最悪のコンディション(ハザードレベル低下状態)である。
連「……ふぁ」
大きな欠伸を噛み殺しながら、連がE組の古い木造校舎のドアを開けたのは、予鈴が鳴り響くまさに一分前――遅刻ギリギリの時間だった。
渚「あ、連君、おはよう。……って、もの凄いクマだよ?」
席に着くなり、隣の渚が心配そうに覗き込んデンきた。
業「おはよう、連。昨日あんなに高い寿司をご馳走になったから、バチが当たって呪われたんじゃない?」
業が楽しげにニヤニヤしながら、いつもの煽りを一発入れてくる。
連「うるせえ……。昨日はちょっと、最高難易度のレイドボス(ガチ勢)と朝までマッチングしてただけだ。一時間目は、完全にオートモード(睡眠)でいくから話しかけんな……」
連は机に突っ伏そうとした。だが、自分の席の「真後ろ」に、昨日までは存在しなかった異様な『オブジェクト』が設置されていることに気付き、紫の瞳をわずかに細めた。
それは、教室の景観に全くそぐわない、漆黒の巨大な立方体――まるで近未来のサーバーラックか、あるいはSF映画に出てくるモノリスのような「黒い箱」だった。
連「……何だ、このバグデータは」
連が眠気眼でその箱を睨みつけた瞬間、ガララッと前方の教卓のドアが開き、烏丸先生がいつもの険しい表情で入ってきた。その後ろには、なぜか全身を防護服のようなもので固めた殺せんせーが、おずおずと控えている。
烏丸「席に着け。……朝のホームルームを始める」
烏丸の声が、教室の空気を一瞬で引き締めた。
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烏丸は教卓に手を突き、クラスメイト全員を見回した。
烏丸「京都の修学旅行中、諸君らには様々なトラブルがあったが、暗殺の戦術としては一歩前進したと見なす。……そして今日、防衛省から予告されていた『転校生』がこのクラスに合流する」
茅野「転校生……? でも、誰も入ってこないよ?」
茅野が不思議そうに首を傾げる。
烏丸はため息混じりに、連のすぐ後ろにある黒い箱を指差した。
烏丸「これだ。……ノルウェーから籍を移された、軍事用AIを搭載した新型固定砲台。登録名は『自律思考固定砲台』。諸君らと同じ、E組の暗殺者(クラスメイト)だ」
その瞬間、黒い箱の前面にある大型液晶ディスプレイに、パッと光が灯った。
画面に映し出されたのは、初々しいデジタルコスチュームを纏った、信じられないほど端正な顔立ちの「電子の少女」のホログラムだった。
律『皆様、初めまして。私は自律思考固定砲台と申します。これから皆様と共に、殺せんせーの暗殺を遂行するためのプログラムを実行いたします。どうぞよろしくお願いいたします』
前原「な、何だこれ!? パソコンが転校生ってことかよ!?」
前原が声を荒らげる。
連「システム(ハードウェア)の転校生か。……防衛省も、いよいよなりふり構わずチートコードをブチ込んできやがったな」
連はエナドリの空き缶を机に置き、椅子の背もたれに寄りかかった。
脳内のエボルトが『ククク……面白い。人間の分際で、意思を持つ機械を戦場に投入したか。だが連、あれはただの人形だ。お前のドライバー(システム)の足元にも及ばんよ』と嘲笑う。
連「……知ってるわ。ただ、今の俺に必要なのは、あのAIの性能解説(チュートリアル)じゃねえ。……静寂(睡眠時間)だ」
連の願いも虚しく、一時間目の授業のチャイムが鳴り響くと同時に、その「黒い箱」は文字通りの『狂気』を起動させた。
殺センセー「それでは、一時間目の数学を始めますねぇ」
殺せんせーがチョークを持った瞬間、連の真後ろで、ガチョン!!! という凄まじい機械の駆動音が炸裂した。
律『――ターゲット補足。暗殺シーケンス、開始』
黒い箱の両側面から、無数の対先生用特殊散弾銃、および対先生用BB弾を装填したガトリング砲が、グロテスクなほどに展開される。その銃口のすべてが、完璧な計算に基づき、殺せんせーへと向けられていた。
連「おい、待て、位置が悪――」
連が言いかけるより早く、その「鉄の嵐」が爆発した。
ドバババババババババババババババババババババババババッ!!!!!!
殺センセー「ニュヤァァァァァァァッ!?!?!?」
校舎全体を激しく揺らす、圧倒的なまでの銃声と、空間を埋め尽くす散弾の嵐。
連の席は、その固定砲台の「真ん前」だ。鼓膜を直接ナイフで抉られるような爆音と、飛び散る薬莢、そして発射ガスの熱風が、連のワインレッドの髪を激しく吹き飛ばす。
連「……っ、クソが!! 音量がバグってんだろ!!」
殺せんせーはマッハ20の防御技術で、迫り来る何千発ものBB弾を教科書やチョークで弾き返しているが、跳ね返った弾や、銃口から漏れた硝煙が教室中に充満し、視界は最悪、聴覚は完全にディストーション(歪み)を起こしている。
しかも、このAI(律)の仕様は最悪だった。
一度目の射撃が防がれたことを認識するや否や、画面の中の少女は無表情のまま、『――学習完了。第二形態へ移行。回避ルートを23%制限します』と告げ、さらに口径の大きい銃器をドカドカと展開し始めたのだ。
ガシャン! ガチョン!
ドバババババババババババババババババババババッ!!!
杉野「うるっせええええええええ!!!」
杉野が耳を塞いで絶叫する。
渚も机の下に潜り込み、業だけが「へえ、なかなかの火力じゃん」と面白そうに眺めているが、連のライフ(精神ゲージ)はすでに限界だった。
徹夜明けの脳に、至近距離でのガトリング砲の連射。これはもはや嫌がらせ(バグ行為)以外の何物でもない。
連「……やってられるか。こんなノイズまみれのステージ、コンティニュー(居残り)すら拒否するわ」
一度目の弾幕が終了し、AIが次の『学習・装填』のために、わずか4秒間の「完全な静寂(隙)」を作った、その瞬間だった。
連は誰よりも素早いフレームで席を立ち、カバンを掴むと、まだ硝煙が立ち込める教室の窓枠に足をかけた。
渚「あ、連君!? どこ行くの!?」
渚の制止の声が聞こえたが、連は振り返りもしない。
連「屋上(安全地帯)にエスケープする。……あのブリキ缶のボリュームがバグ修正されるまで、俺を起こすな」
そう言い残すと、連は二階の窓から軽々と外へと飛び出し、校舎の外壁に設置された排水管とわずかな足場を流れるようなキャラコン(身のこなし)で伝い、一瞬にして旧校舎の屋上へと駆け上がっていった。
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バババババババババッ……!!!
足元(一階下の教室)から、再び始まった第二波の爆音が、床を通じて鈍く響いてくる。だが、遮蔽物のない屋上の開放的な空気の中であれば、あの耳を刺すような高音の破裂音はかなり軽減されていた。
連「……ふぅ。最初からここを選んどけば良かったな」
裏山の頂上に位置する旧校舎の屋上は、遮るもののない五月の青空がどこまでも広がっていた。
心地よい五月の風が、連のワインレッドの髪を優しく揺らす。山の下から吹き上げてくる木々の青臭い香りが、硝煙に汚れた肺をゆっくりと洗浄していくようだった。
連はカバンを枕代わりにすると、屋上のコンクリートの床に直に寝転がった。
太陽の光が少し眩しかったが、制服の上着を顔の上にふわりとかぶせることで、完璧な「暗室(セーブエリア)」を作り出す。
目を閉じると、昨晩の格ゲーの残像が脳裏に浮かんでは消えていった。
連(……あの新キャラの突進技、ガードさせて5F不利かと思ったけど、距離が離れるから反撃が届かない仕様(クソ仕様)だな。……次に対戦する時は、バックステップからのスカ確(空振り反撃)を徹底させるか……)
極限まで酷使された脳が、思考のシャットダウンを要求している。
エナジードリンクの効果も完全に切れ、心地よい疲労感と強烈な睡魔が、連の意識を深い深海へと沈めていく。
エボルト『ククク……よく眠るな、連。だが、あのAIの進化スピードは侮れんぞ。人間の知恵も、時には面白いバグを産むものだ』
脳内でエボルトが囁くが、その声すらも、今の連にとっては遠いノイズに過ぎなかった。
連「……だまれ、コーヒー豆。俺の睡眠フェーズを邪魔するな……」
心の中でそう吐き捨てると、連は完全に意識を手放した。
ドババババババババババババッ……!!!
遥か下層から、クラスメイトたちの悲鳴と、電子の少女の無機質な銃声が、まるで遠い異世界のBGMのように小さく響き続けている。
だが、この青空の下、世界から隔絶された屋上の特等席で、仮面ライダークローズ(暁連)は、ただひたすらに、静かな眠り(インターミッション)の時間を貪り続けるのだった。
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