ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~   作:八月森

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11話 冒険者の心構え

「追い出した僕らを、恨んでいないのか?」

 

 

 ヴィルヘルムが投げてきたその問いかけに、あたしはわずかな間、口を閉ざす。けれど……

 

 

「別に、恨んだりとかはないよ。そりゃ、ちょっと、いや、かなり腹は立ったけどさ」

 

 

 ゴルドーに治癒術をかけながら、あたしは首だけをヴィルヘルムに向けた。

 

 

「でも、だからって助けない理由にはならないよ。能力は低くても、あたしだってこれでも神官なんだから」

 

「……」

 

 

 あたしの言葉に何か思うところがあったのか、彼は一度目を閉じ沈黙する。そうして再び開いた目の光は、あたしが知るそれより少しだけ柔らかいものになった気がする。

 

 

「……そうだな。君の心持ちは、間違いなく神官だ。エルフに対する偏見も、実力を見誤っていたことも認める。もっと総合的に見て判断すべきだったと、反省しているよ」

 

 

 だが――と、彼は前置く。

 

 

「だがそれでも、やはり僕のパーティーに君の居場所はない。僕には僕の理想がある。その水準に達していない者を、僕は仲間に迎えることはできない」

 

 

 わざわざそんなことを言うのは、正直というか頑固というか……種類は違うかもだけど、あたしがどうしても旅がしたかったように、彼にも譲れない強い想いがあるってことなんだろう。

 

 

「分かってるよ。あたしだって、今さらそっちに入ろうとか思ってないし。それに、今はあたしにも旅の仲間ができたから」

 

 

 そこで、ステラがこちらに近づいてくるのが見えた。

 

 

「ティアさん、こちらの作業は終わりました。そちらの方の治療は……?」

 

「とりあえずあたしにできることはやったし、傷も塞がったと思う。後は……」

 

「そうですね。馬車に乗せる許可は貰えましたので、高位の神官がいる場所まで運んでもらいましょう」

 

 

 あたしが頷くのを確かめた彼女は、次にヴィルヘルムに顔を向ける。

 

 

「貴方は先ほど、『魔族の女』がどうこうと言っていましたね。もしやそれは、金色の髪で赤いドレスを纏い、黄金の杯を持った女性ではありませんでしたか?」

 

 

 ステラの言葉に、あたしは反射的に彼女のほうを見る。それってもしかして――

 

 

「……ああ、その通りだ。……君は、知っているのか? あの女が、何者なのか」

 

「ええ。あれは、魔女です。私たちは彼女を追って旅をしているんです。――今度こそ、仕留めるために」

 

「魔女……おとぎ話の? いや、そうか……確かに、魔族にしては角がないのを疑問に思っていたんだ。なんらかの方法で隠しているのかとも思ったが、なるほど、魔女か……そして、あの傷を負わせたのが君たちだったということなんだな?」

 

「はい、ですから――」

 

「待ってよ!」

 

 

 そこであたしは声を上げ、彼女らの会話を遮った。だって、それじゃ……

 

 

「……つまり、あたしのせいで……ステラはすぐに追おうとしてたのに、あたしがステラを引き止めたせいで、ヴィルヘルムたちは襲われたってこと……?」

 

 

 ステラの身を案じるなら、夜に出歩くのを止めたのは正解だったと今でも思っている。だけど……あたしが止めていなかったら、ステラがあのまま現場に駆けつけていれば、ヴィルヘルムたちは襲われていなかった、ってことに――

 

 

「いえ、それはティアさんのせいじゃありません」

 

「いや、それは君のせいじゃない」

 

 

 ステラとヴィルヘルムの台詞が重なる。あたしはそれにキョトンとしていた。

 

 

「昨夜ティアさんに言った通り、あのまま夜闇の中で捜索を強行しても、あの魔女を見つけ出せる可能性は低かったでしょう。いえ、見つけ出せたとしても、ティアさんの言う通り返り討ちに遭っていたかもしれません。それに、私たち冒険者は――」

 

「冒険者は、自分の命は自分で護るのが鉄則だ。むしろ君たちがあれだけ弱らせた相手に容易く不意を突かれ、好き放題やられたのは、僕らの落ち度だよ。まったくもって不甲斐ない。君のせいでなどあるものか」

 

「……」

 

 

 二人の言葉は、あたしを慰めるためのものだろうか。それとも、本心からそう思って……それが、冒険者としての常識、心構えってことなのかな。……あたしも、そうなれるだろうか。一人前の冒険者に。

 

 

「話が逸れましたが、貴方は、あの魔女がどこに行ったのか、何かしらの情報をお持ちではありませんか?」

 

「すまない。僕は途中で意識を失っていたからね。伝えられるような情報は持っていないよ」

 

「そうですか……いえ、ありがとうございます。南に向かったのは分かっていますので、この先は自分たちで行方を探ってみます。――ティアさん。私たちは彼らを馬車に乗せておきますから、ティアさんは魔物の死体を浄化してきてもらえますか?」

 

「あ、うん。分かった」

 

 

 そうして立ち上がり、ステラたちが積み上げた死体の山に向かおうとしたところで……

 

 

「ティア」

 

 

 ヴィルヘルムが、あたしに呼びかけてきた。

 

 

「……君を追い出した僕がこんなことを頼むのは、厚かましいと自覚している。だから、できればで構わない。……クレアとセシリアを見つけたら、助けてやってくれないか。もうすでに殺されているのかもしれないが……もし、生きていたなら――」

 

「――助けるよ」

 

 

 あたしは即座に断言した。

 

 

「さっきも言ったでしょ? そんなのは助けない理由にはならないって。あたしは、神官なんだから」

 

 

 そして、あの人の背中を追っているんだから。困っている人を助けない、なんて選択肢はないんだ。

 

 

「……そうか。ああ、そうだな。任せたよ」

 

「うん。任された」

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