ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~   作:八月森

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16話 信じる根拠

 夜を徹して森を抜け、あたしたちはエルモ村へ辿り着いた。

 

 クレアとセシリアの二人は、ヴィルヘルムたちが運ばれた神殿へ向かうということで一旦別れ、あたしは村に一つだけある冒険者の宿で部屋を取って眠ることにした。気持ちはぐちゃぐちゃだったけど、疲れが溜まって(加護のおかげで体力はすぐ回復するはずだけど、身体の奥に溜まる疲労はまた別なのかもしれない)いたのか、ベッドで横になっていたら、いつの間にか意識を失っていた。

 

 翌朝。

 

 こんな状況でもいつも通り明け方に目を覚まし、朝の祈りを済ませたあたしは、宿の食堂で朝食を済ませ、外に出た。

 

 

「いい天気……」

 

 

 普段なら気持ちの良くなる晴天も、今のあたしには皮肉に感じられた。人の気も知らないで明るく照らしてきて……

 

 あたしはそのままあてもなく、村の中を散策し始めた。といっても、そこまで大きな村でもない。散策はすぐに終わり、あたしは村の中心を一望できる位置で足を止め、手近にあった木の柵に身体を預けていた。

 

 村の中を行き交い荷を運ぶ人。農作業に精を出す人。駆け回る子供たち。平和な光景。けれど、あたしの脳裏に浮かぶのは……

 

 

(……ステラ……)

 

 

 首筋から血を吸われ、ぐったりと力をなくし身体を預ける彼女の姿。血の味に驚き、次にはおかしそうに笑う魔女デュエッサ。あたしが動揺する様に喜び、そのままステラを連れ去って……

 

 デュエッサは自身を『虚偽』の魔女と名乗っていた。その名の正確な意味は分からないが、発言に嘘を混ぜてくる可能性は高い。昨夜クレアが言ったように、信じるに値しないものかもしれない。

 

 けれどあたしの直感は、あの言葉に――ステラが魔女だという発言に、嘘はなかったと感じてしまっている。あれは心から驚き、虚偽ではなく真実の刃をこちらに突き付けるものだった、と。

 

 

(ステラが、魔女……)

 

 

 普通の人間だと疑わなかった。怪しむ余地もなかった。魔女と戦う様は頼もしく、こちらを心配する優しさに好意さえ抱いていた。なのに、彼女自身が、魔女……?

 

 裏切られた、という思いがないわけじゃない。けれどそれ以上に、ただただ驚き、混乱している。

 

 それに、それが真実だとするなら、彼女はウィッチスレイヤーを名乗りながら自らの手で同胞を始末していたことになる。だからますます混乱する。

 

 いや、そもそも彼女が魔女だというなら、ここまで交わした言葉の全てが嘘だった可能性まで出てきてしまう。彼女の本性はあのデュエッサと同じで、邪悪で狡猾だとしたら……そんなことを考えてしまうと、これからどうしたらいいのか。どう思えばいいのか。気持ちの置き所も分からなくなって――

 

 

「ィア――……――ティア!」

 

「っ!?」

 

 

 あたしの名を大きく呼ぶ声で、我に返る。

 

 声をかけてきたのは、クレアだった。いつの間に近づいていたのか、腰に手を当て、(とが)めるような視線でこちらを見ていた。

 

 

「ク、クレア? びっくりしたぁ……」

 

「びっくりした、ってあんたねぇ……さっきから何度も呼びかけてたのに、気づかなかったの?」

 

「ごめん、全然……考え事してたから……」

 

「ふぅん?」

 

 

 興味があるようなないような声を漏らしてから、彼女はあたしの隣に並び、同じように柵に身体を預ける。

 

 

「いやー、しかし参ったわね。まさか自分が魔女にされるなんて想像もしてなかったわー。いいように使われたのは腹立つけど……あの時、無詠唱で魔術を扱えてたのは、どういう理屈なのかしら」

 

 

 真っ先に気になる部分がそれだというのは、魔術師の彼女らしいのかもしれない。怒ってもいるみたいだけど。

 

 

「今はできないの?」

 

「ええ。同じように魔力と意識を集中してみせても、詠唱なしじゃやっぱりダメね。小さな明かりもつけられない。魔族は、肉体と精神と魔力の距離が近い、って話も聞いたことあるけど、魔女も同じってことなのかしら」

 

 

 あたしたちの身体は、肉体の内側に精神と魔力が閉じ込められていて、互いの距離が遠い、と言われている。肉体という檻から、魔力をエネルギーにして精神のイメージを開放させる――つまり、魔術を放つには、檻の扉を開く鍵である詠唱が不可欠になる。

 

 対して魔族(おそらくは、魔女も)は、肉体と精神と魔力の三つが重なり合って、互いの距離がとても近い存在、なのだと聞いたことがある(よくは分からないのだけど)。だから、わざわざ鍵を使わなくても魔術を行使できるし、精神や魔力の影響が肉体に及びやすいのだとか。

 

 

「うちらの身体も、一時的にその状態になってたから、無詠唱で魔術を使えたのかもね。そして、だから黒い魔力の影響を受けて、精神が変容してた、とか?」

 

 

 クレアはそこで視線を切り、空を見上げる。

 

 

「あのステラって子は……どういう状態なのかしらね」

 

「……」

 

「考えてたのは、あの子のことでしょ?」

 

「……うん」

 

 

 隠してたわけじゃないけど、なんとなく後ろめたさを感じながら、あたしは頷く。

 

 

「あの子は普通の人間に見えたし、魔女と敵対してた。魔力も普通で、魔女みたいな邪悪なものじゃなかったと思う。でもデュエッサは、あの子を魔女だと断言した」

 

 

 クレアは、いつの間にかこちらに視線を向けていた。

 

 

「あの子とは、どこで知り合ったの? あんたをうちらのパーティーから追い出して、まだ大して時間も経ってないけど」

 

 

 俯き、彼女からわずかに目を逸らして、あたしは答える。

 

 

「同じ日の夜、だよ。〈森の恵み亭〉にステラがやって来て、そのすぐ後に流れ星が落ちて……それを見たステラが宿を飛び出したから、あたしもそれを追いかけていって……」

 

「流れ星ならうちらも見たけど……もしかして、それがあの魔女、デュエッサだったの? 魔女は流れ星に乗ってやって来るっていうおとぎ話は、本当だった……?」

 

「そうみたい……ステラは、自分をウィッチスレイヤーって名乗ってた。魔女は全て自分が殺す――って」

 

 

 彼女のその怒りに、目を惹きつけられた。初めて見た際の穏やかな様子とはかけ離れていたから。同時に、初対面のあたしを本気で心配する優しさに、胸が温かくなった。彼女に強い興味が湧いた。眩い星の(またた)きのような彼女に。

 

 

「そのあと、逃がしちゃった魔女を追うってステラが言った時、あたしもついてくって頼み込んで……」

 

 

 あたしが、「ステラなら信じられる」と言った時の彼女の笑顔。あの顔を見て、さらに強く惹かれた。彼女のことを知りたいし、もっと助けになりたいと思った。

 

 でも……

 

 

「だから……あたしまだ、ステラのこと何も知らないんだよね……彼女がどんな人なのかをちゃんと知る前に(さら)われちゃって……そのうえ――」

 

 

 ――「なんで、どうしてあなたが魔女狩りなんてやってるの!? ――()()()()()()()!」

 

 

 ……

 

 

「……分かんなく、なっちゃった。ステラにどういう気持ちを持てばいいのか。あれからどれだけ考えても、彼女を信じるための根拠が見つからなくって――」

 

 

 そこまで口にしたところで――

 

 

「……はぁ?」

 

 

 クレアが、なぜか少しドスの効いた声でこちらの台詞を遮った。

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