ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~   作:八月森

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17話 あの星の輝きを

 ステラにどういう気持ちを抱けばいいか分からない。どれだけ考えても、彼女を信じる根拠が見つからない。

 

 そう弱音を吐いたあたしに向けて、隣に立つクレアはジト目で睨みつけてきた。

 

 

「あんた、それ本気で言ってる? というか、自分で気づいてないの?」

 

「え、え? 何が?」

 

 

 あたしが本気で分からないという顔をすると、クレアはなぜか深々とため息をついてみせ、「柄じゃないのに、なんでうちがこんなこと……」とかなんとか呟いてから鋭く問いかけてくる。

 

 

「あんた、昨日自分がなんて言ったかも憶えてないわけ?」

 

「き、昨日言ったこと? ……どれのこと?」

 

 

 まずい、本気でなんのことか分からない。

 

 そんなあたしに、彼女は眉間にしわを刻みながらこう言う。

 

 

「『あの子が魔女かもしれないって話は、他の人には秘密にしててほしい』。あんたはうちらにそう言ったのよ。それって、つまりどういうこと!?」

 

「どういう、って……」

 

 

 言葉通りの意味でしかないんじゃ……

 

 

「あーもー! あんたほんとに考えるの苦手みたいね! 他の人には秘密にっていうのは、つまりは帰ってきた後の心配でしょ!? ――()()()()の心配でしょ!?」

 

「――!」

 

 

 頭に、稲妻が走ったような心地だった。

 

 

「それって、もう助けに行くことは決まってるから出てきた台詞でしょ!? 違う!?」

 

 

 ぐちゃぐちゃになっていた気持ちがほぐされ、熱を発し始めていた。そうだ。それはつまり――

 

 

「……違、わない……うん。――違わない」

 

 

 視界が開けた気がする。胸のモヤモヤが消え去り、代わりに湧き出してきた熱い想いが、あたしの身体に熱を入れていく。

 

 

「根拠なんてどうだっていい。あたしの直感は、最初からステラを信じてた。彼女なら信頼できるって、そう感じてたんだ」

 

 

 熱が全身を巡っていく。重かった手足が軽くなっていく。今ならどこにでも行けそうな気さえしている。

 

 

「本当に魔女だとしてもどうでもいい。過ごした時間が短いのも関係ない。だってあたしにとっては、あたしが見たステラが全てなんだから。それを信じるって決めたなら……もう、迷わない」

 

 

 消えてしまっていた星に再び光が灯り、あたしを導いてくれる。そうだ、あたしは、あの星の輝きを取り戻すんだ!

 

 揺るがぬ決意を固めたあたしは、この日、初めてクレアの目を真正面から捉える。彼女は少し呆れた様子を見せつつも、口元は微笑んでいた。

 

 

「考えるの苦手なあんたが、無理に考え込んだってしょうがないでしょ」

 

「昨日は、『ちょっとは考えなさい』って言ってたのに?」

 

「うるさい。考えが変わったのよ。あんたはきっと、直感に従って感情で動くくらいがちょうどいいのよ」

 

「そうかな。そうかも。……ありがとね、クレア」

 

 

 あたしの感謝に、クレアは赤くなった顔を背けながら返答する。

 

 

「ふん。しょぼくれたあんたを見てると調子が狂うってだけよ。さぁ、もう戻りましょ。あの子を助けに行くなら、準備が必要でしょ?」

 

「うん!」

 

 

  ――――

 

 

「え! 二人とも、ついてきてくれるの!?」

 

 

 クレアと二人で宿に帰り着いたところ、外でセシリアが待っていた。そもそもあたしを訪ねて二人で宿に来たが、外出したと聞いてクレアだけあたしを捜しに出向いたらしい。

 

 クレアとセシリアの二人は、揃って旅荷物(あたしたちが回収して馬車に運び込んだやつだ)を手にしていた。どこに行くのか不思議に思い尋ねたところ、先の台詞に繋がったのだ。

 

 

「はい。ステラさんが連れ去られたのは私たちの責任でもありますから。その罪を償う機会を与えていただきたいのです」

 

「それにあんた、これが初めての旅なんでしょ? 一人じゃ何をしたらいいかも分からないんじゃないの?」

 

「う」

 

 

 クレアの指摘に口ごもる。それはそう、なんだよね。ホルツ村を出る時はステラと一緒だったし、本格的に一人で旅をするのはこれが初めてだから、不安な部分が大きかった。二人がついてきてくれるなら正直助かる。でも……

 

 

「でも、いいの? あたしについてきて。ヴィルヘルムとゴルドーの容体は……」

 

 

 というか、この村で治療は間に合ったんだろうか? それとも次の街に運ばれたんだろうか?

 

 

「あの二人なら、この村の神官が四節まで法術を授かった人だったから、怪我の治療は問題なくやってくれたみたいよ。ただ……」

 

「ただ、失った血が多かったので、しばらくは療養が必要とのことでした。なのでその間、彼ら二人は動けません」

 

「だから、あんたの手助けするのはその暇潰し。ついでよ、ついで」

 

 

 クレアのその言い訳に、微笑ましいものを感じる。さっきあたしの迷いを晴らしてもらった時といい、つんけんしてはいても基本的にいい子なのかもしれない。そんな顔で見てたら、「分かってんの?」と睨まれたけど。

 

 

「それに、あのステラって子の事情を知ったうえであんたの旅についてくような変わり者、うちら以外にいないでしょ?」

 

「そう、だね」

 

 

 ステラが魔女だと知れば、問答無用で始末しようとする手合いは多いだろう。迂闊(うかつ)に事情を話すことはできない。だから一人で捜そうと思っていたけれど……

 

 

「クレアはともかく、『うちはともかくってどういう意味よ』セシリアはいいの? ステラは、もしかしたら本当に魔女かもしれなくて……神官にとっては、排除する対象じゃないの?」

 

 

 同じ神官であるあたしが言うのもなんだけど。

 

 

「……仰る通りですし、正直に言えば迷いはあります。けれど、私たちが貴女がたに救っていただいたのも、事実なのです。ですから、彼女が本当に邪悪な存在なのかどうか、この目で確かめたいと、今は、そう思っています」

 

 

 そう言うとセシリアは、こちらをまっすぐに見つめ、改めて口を開く。

 

 

「旅を続けるにしろ、情報を集めるにしろ、人手は多いほうがいいでしょう? どうか、同行させてくれませんか?」

 

「あくまで暇潰しよ。ヴィルヘルムたちが動けるようになるまでのね」

 

 

 その二人の申し出に、あたしは――

 

 

「……うん。お願い、します」

 

 

 頭を下げ、申し出を受け入れるのだった。

 

 魔女の気配を感じ取れるステラがいない以上、ここから先はか細い手がかりだけを頼りに彼女らの行方を捜し出さなければならない。それは皮肉なことに、あたしが憧れた冒険者本来の在り方でもあった。

 

 あたしは冒険者として、どんなに手がかりが少なかったとしてもステラを捜し出すと誓う。そして彼女を連れ去った『虚偽』の魔女デュエッサを倒し、その手から取り戻すのだ。

 

 待ってて、ステラ。絶対に、あなたまで辿り着いてみせるから。




次回からしばらくステラの過去回想です。
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