ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
さて、前回入れておいた
「感謝の言葉の一つも出てこないとは、相当に感動しているようね」
ヴェルダンディはそう言って、周囲を見渡すトムの手を引いた。リドル邸は綺麗に掃除され、そして新たな主のために準備されていた。
「……どうやって、ここを」
「マグルから何かをかすめ取るのは魔法使いの得意技の一つよ。邸宅周りの呪文であるとかマグルとの書類関係については、ある条件と引き換えにブラック家やマルフォイ家にそれなりに借りを作ったのよ?」
「で、君はそれを踏み倒すつもりだと」
「そんなはしたないことはしないわよ。もちろん、トムがそうするなら最大限の支援をするけれども」
ヴェルダンディの言葉にトムは深い息を吐いた。
「……それで、ここに住んでいたやつらはどうなったんだ」
「使用人は辞めて、三人は療養院送り。そして新しいこの屋敷の若旦那が、正当な相続人であるということは周囲の人はみんな知っているわ」
「用意周到だな」
「昔会ったフランク・ブライスという庭師がいたでしょう。彼が色々と手を貸してくれた。そしてあなたはどこかの
「君はどうなるんだ。ただの契約代理人ではないだろ」
トムの言葉に、ヴェルダンディは微笑んだ。
「それがブラック家やマルフォイ家から課せられた取引なのよね。それができないならこの話はなし、一帯に忘却魔法をばらまいて何もなかったことにされるでしょうね」
「具体的に言え」
「トム・リドルの枷となれ、と。あなたが暴走し、純血を自認する皆様を裏切ることがないように監視をし、そして縛りつけろ、と」
トムはそれを聞いて小さく肩を震わせ、そして大きな声で笑い出した。
「馬鹿じゃないのか?」
「狼に羊の見張りをさせるようなものよね。よかったわねトム、あとは書類に少し署名を貰って手続きをしてもらえば、あなたがホグワーツの教授となることに異を唱えられる者はいなくなるわ」
そう言って、ヴェルダンディは何枚かの紙を取り出した。
「……これは?」
「魔法省に出す婚姻の書類。マグルのほうだと公示期間だの証人だの手数料などがうるさいけれども、こっちの方だと関係者にパイの一つを渡して書類を頼むぐらいで終わるのは楽でいいわ」
「……ヴェルダンディ。質問だが」
「なぁに?」
「もしここで、僕が署名を拒んだら?」
「特に何もないわよ、この屋敷の件は消えるし、あなたに向けられた純血の皆様からの疑いは強くなるけれども、ホグワーツの教授になれば住むのは向こうになるわけで、この屋敷は必要ないでしょう?」
そう言われて、トムは自分の計画を周到に邪魔されていることを理解できた。トムがやろうとしていたことのうち抜けていた部分をヴェルダンディは揃えてしまっていたし、それを拒むことで崩れるものがあることをトムは把握できてしまった。
「……この種の罠は、他にもあるのか?」
「もちろん。魔法大臣の椅子について。大臣が何らかの方法で業務を行えなくなったときについて。危険思想の取り締まりについて。ホグワーツ魔法魔術学校とイギリス魔法省の相互不干渉および独立性について。国際的な内政干渉の基準について。十年間私が魔法省にいたから、あなたがなにをしようとも大抵は対応できるようになっている」
それらはトムが気にしていなかった、あるいは魔法の力で突破しようと考えていたものだった。そしてもしヴェルダンディの手を借り、それらが無視できるなら、トムの立てていた計画の多くはより容易になるものだった。
「あと、地下室も用意してある。魔法を扱うならそこにして。それ以外の場所は来客に見せたり、あるいは地域の人に使わせたりするから」
そう言って、ヴェルダンディは階段の先の空間を見せた。各種の拡大呪文が魔法省の微妙な許可を通して施され、研究にも社交にも使える場所となっていた。
「ここをマグルに使わせるのか?」
「疑われないようにするためよ。幽霊屋敷と呼ばれてもいいけどそうすると逆に好奇心旺盛な子供たちが入ってくるわよ?」
「……わかった。まあ、荷物を置くぐらいには使わせてもらう」
「それは何より」
ヴェルダンディはそう言って、小さく微笑んだ。
というわけでこれ以降、トムが自由にカスタマイズできる秘密基地が生まれることになります。ここに
あと魔法界は色々と進んでいるので婚姻後も妻の法的人格が夫の法的人格に上書きされなかったり、妻が夫とは別の姓を名乗ることも珍しくなかったりします。今のグレンジャー大臣もグレンジャー・ハーマイオニー名義ですからね。子供はグレンジャー゠ウィーズリーの複合姓を持っています。
そう考えると魔法界における男女平等ってかなり進んでいたんですよね。そりゃまあコーヴァス系のレストレンジ家とかは男系の血を重視していましたけどあれはサリカ法典の系譜にある男系継承が元の話ですし、あとは魔法界では複雑な遺伝様式を持つ血の呪いとかあるわけで。まあ逆に言えば魔法の力で男と対等になれなかったマグルの女性が近世においてどういう扱いを受けていたかを示してしまっているってことなんですがやめときますか。
さて、あとはトムくんが普通に丁寧な服を着て就職面接に行く話です。史実では落とされるの前提の記念受験みたいな所ありましたが今回はかなり真面目にやってますからね。これで落としてきたら相当まずいですよ。
……おや、仕事中のヴェルダンディさんのところに来客ですね。なんだろうな。
「久しぶりじゃの、ヴェルダンディ」
執務室への来客に、ヴェルダンディは立ち上がった。
「
「昔のようにダンブルドア教授と呼んでくれていい、ヴェルダンディ。儂も君のことを名前で呼ばせてもらおう」
決闘以来老け込み、髪も多くが白くなった男がヴェルダンディの前に立っていた。
「それでは教授、何の御用でしょうか。
「それはない。儂は権力を持つには向いていない男だ。……本題に入ってもいいかの?」
「ええ。私の友人についてでしょうか?」
「夫についてそのような言い方をするものではないぞ、ヴェルダンディ」
「愛の形はそれぞれでしょう。マグルのほうではウルフェンデン卿の委員会であれこれ言われているようですが、未だ犯罪となる愛はあるのです。もしそうなら、当人以外が愛の形について外から何かを言うのは少なくとも敬意ある振る舞いとは言えないでしょう」
ヴェルダンディの言葉に、ダンブルドアは小さく頷いた。
「そうじゃったの。では、君の友人のトム・リドルについてじゃ。あるいは
「生徒の名前ぐらいちゃんと呼んであげましょうよ、学生時代につけた恥ずかしいあだ名ではなく」
「おや、儂としてはなかなか格好のいい響きだと思っておったのじゃが」
ヴォルデモー、ヴォルデモーとダンブルドアは何回か繰り返して呟いた。
「それで、いいのですか? 今はあなたの同僚になるかもしれない人物の面接中の時間のはずですが、ディペット校長に意見具申をする必要はないのですか?」
「彼が子供を教えることの難しさに折れ、あるいは教えることの立場に溺れることは恐れておるが、それは優れた若者に老人が向けるちっぽけなものに過ぎんよ。儂はもっと大きなことを恐れておる。彼が何を教えるのか、彼に教わった者たちがなにをしでかすか、とな」
国際魔法界において事実上最高の地位に立つ男は、魔法省のしがない職員の一人をきらめく目で見た。そしてトム・リドルの妻も、かつて変容術を教わった教授に視線を向けた。
「あなたもトムの本性は知っているでしょう。そして人は本性を隠して生きていられるのだ、ということも」
「しかしそれは永遠に隠れているわけではない。ここぞという時に顔を出し、そして破滅へと人を引きずり込むのだ」
「そうならないために教育と制約があるのです。そして見たかもしれませんが、旅をしている間にトムはそこまで大きな問題を起こしてはいませんでしたよ」
「
「おや、では彼が危険な行為をしたという証拠でもあるのでしょうか?」
「噂にすぎぬ。関係者はみな口を閉ざしておるからの」
ダンブルドアはそう言いながら、トムの危険性がかつて見た幼い少年のときから大きく変わったわけではない、むしろ悪化していることを勘づいていた。しかし、それを裏付け、トムを法廷に送るだけの根拠も、それをするだけの残酷さも、彼は持ち合わせていなかった。
「……断っておきますが、私はトムを愛していますよ。相手が道を進んだ時に共に同じ道を歩むのも、それを止めようとするのも、同じように人間の愛です。選べなかったものを惜しむのはわかりますし、きっと私はどこかで自分の選択を後悔するのでしょう」
「……彼は、悔恨を持っていた。もし儂があの時にともに進むことを選んでおれば、少なくとも彼を救うことはできたのかもしれん、と思うとな」
「結果として救うことができたもの、そして眼の前にあるものをまずは見るべきではないでしょうか?」
「それは良い目を持っている人物にとって、ふさわしい言葉ではない」
ヴェルダンディに対し、ダンブルドアが言った。
「……視座を持つ者が持たない者に正しい道を示すというのは、しばしば傲慢になります」
「しかし見える者はその責務を果たさねばならない。意味はわかるかね?」
「トムが目の前のものしか見えない考えなしの馬鹿だからといって教師としての能力がないとは思いませんよ、それにホグワーツにはいい教授たちが多くいる。だからこそ欠点ばかりの最初の四人はうまくできたし、一人が抜けた後も彼の弟子たちを一つの寮として残し続けたのですから」
「……しかし、彼らはその男を追放した。避けられぬ対立も、避けられぬ処遇もある」
「ならば、その時までは友として、その時には抑止者となるほかないでしょう。善や悪とそれらを呼べるほど、世界は単純ではないのですから」
ダンブルドアは深く頷いて、執務室から去っていった。ヴェルダンディは椅子に戻り、崩れ落ちるように腰掛けて、深く息を吐いた。少し遅れて、彼女の膝と肩が解けた緊張のせいで震え始めていた。
うーんこういう方向で釘を刺してきましたか。いやまあ確かに止められる危険人物の方を見てくるのはわかるんですけどね。結局は現状共有と相互の方針確認で終りました。あと多分色々と覗かれたな。まあ別にそこまで悪いことをしているわけではないのでいいのですが。
だって史実だとグリモールド・プレイス12番地を手に入れる時にブラック家は当時の住人のマグルを「説得」して家を譲ってもらったわけですし、マルフォイ家は宮廷魔術師として受けた正当な報酬みたいなところありますからね。いわゆるマグルいじめではありませんよ。何も問題はない。そもそもこの手のやつを問題にするなら
さて、まあトムくんは普通にホグワーツの教授になったわけです。教える科目は当然闇の魔術に対する防衛術。その分野では一流ですし、教え方も上手。これはきっと人気教師になること間違いなしですよ。そうしてトムに心酔した学生たちが秘密組織に入っていってスラグ・クラブとはまた別のネットワークを築いていく。いやぁ新しい世代というものの力が楽しみですね。