ショッピングモールの一角。
袋を手にした一夏と一花が、次の店へ向かおうと歩いていた時だった。
「――あら?」
柔らかな声が響く。
振り向くと、そこには山田真耶と織斑千冬の姿があった。
「織斑くんに、一花さん」
山田がにこやかに手を振る。
一方で、千冬は無言のまま二人を見ていた。
その視線が、一花と交差する。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
言葉のないやり取りがあった。
「……」
「……」
互いに、理解する。
そして――
千冬が口を開いた。
「山田先生、先に頼んでいた物だが……一つ買い忘れた」
「え? あ、はい?」
唐突な話だった。
だが。
山田は一瞬だけ間を置き――
すぐに頷いた。
「じゃあ、織斑くん。ちょっと手伝ってくれる?」
「え? 俺?」
「はい、お願いしますね!」
半ば強引に腕を引かれる。
「ちょ、ちょっと待っ――」
一夏の声は、そのまま遠ざかっていった。
残されたのは、二人。
流星一花と、織斑千冬。
静かな空間が、そこに生まれる。
――――
水着売り場。
色とりどりの布地の中を、二人は並んで歩く。
まるで普通の買い物のように。
だが、空気はまったく違っていた。
「選んでくれるのか」
千冬が、ラックに並ぶ水着を眺めながら言う。
「ええ」
一花は自然な動作で一着を手に取る。
シンプルで機能性を重視したデザイン。
千冬の性格を理解している選び方だった。
「こういうのが好みでしょう?」
「……悪くない」
短く答える。
そのまま、話は本題へと移る。
「クラス代表戦」
千冬が切り出した。
「お前は、どう見た」
一花は少しだけ視線を落とし、そして答える。
「所属不明のIS……あれは“偶然”じゃないわ」
当然の結論だった。
「外部からの介入。それも、かなり計画的なもの」
言葉を選びながら、しかし核心には触れない。
「ただ……」
少しだけ間を置く。
「出処までは、まだ掴めていない」
嘘ではない。
だが、全てでもない。
千冬は何も言わない。
ただ、次を促すように視線を向ける。
「じゃあ、タッグマッチトーナメント」
「ラウラの件ね」
一花はすぐに理解する。
「ISの異常進化……というより、“侵食”に近いわね」
手に取っていた水着を戻し、別のものへと視線を移す。
「恐怖が引き金になって、内部の何かが暴走した」
淡々と語る。
まるで、実際に見てきたかのように。
「……技術的なものか?」
千冬の問い。
「可能性はあるわ」
一花は曖昧に答える。
「でも、それだけじゃ説明がつかない」
ここでも、核心は避ける。
「少なくとも、“普通のIS”ではない」
その言葉に、千冬の目がわずかに細くなる。
沈黙。
数秒。
売り場のざわめきだけが、遠くに聞こえる。
そして――
千冬が、静かに口を開いた。
「なら」
一歩、踏み込む。
その視線は、教師のものではない。
「流星としてではなく」
言葉に重みが乗る。
「『スターレイル社』CEO……流星一花として聞く」
完全に、対等な立場での問い。
「お前は一体、どこまで知っている」
空気が変わる。
周囲の喧騒が、まるで遠のいたかのように。
その問いに対して。
一花は、ゆっくりと振り向いた。
そして――
笑った。
いつもの、柔らかな微笑み。
だが、その奥にあるものはまるで違う。
「全て……」
静かに。
はっきりと。
「何もかも、全て知っているわ」
一歩、近づく。
視線を合わせる。
逃げ場はない。
「織斑千冬さん」
その言葉は、宣言だった。
隠す気のない、圧倒的な“優位”。
千冬は、しばらく何も言わなかった。
ただ、その目で一花を見続ける。
そして――
小さく息を吐いた。
「……そうか」
それ以上は、何も聞かない。
聞く必要がないと判断したのか。
それとも――
これ以上は、聞くべきではないと理解したのか。
二人の間に流れる沈黙は、もはや先ほどまでとは別物だった。
単なる会話ではない。
探り合いでもない。
これは――
確認だった。
互いが、どこに立っているのかを。
そして。
どれだけ危険な場所にいるのかを。
静かに理解するための。