インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第三十六話 知っている者たち

ショッピングモールの一角。

 

袋を手にした一夏と一花が、次の店へ向かおうと歩いていた時だった。

 

「――あら?」

 

柔らかな声が響く。

 

振り向くと、そこには山田真耶と織斑千冬の姿があった。

 

「織斑くんに、一花さん」

 

山田がにこやかに手を振る。

 

一方で、千冬は無言のまま二人を見ていた。

 

その視線が、一花と交差する。

 

一瞬。

 

ほんの一瞬だけ。

 

言葉のないやり取りがあった。

 

「……」

 

「……」

 

互いに、理解する。

 

そして――

 

千冬が口を開いた。

 

「山田先生、先に頼んでいた物だが……一つ買い忘れた」

 

「え? あ、はい?」

 

唐突な話だった。

 

だが。

 

山田は一瞬だけ間を置き――

 

すぐに頷いた。

 

「じゃあ、織斑くん。ちょっと手伝ってくれる?」

 

「え? 俺?」

 

「はい、お願いしますね!」

 

半ば強引に腕を引かれる。

 

「ちょ、ちょっと待っ――」

 

一夏の声は、そのまま遠ざかっていった。

 

残されたのは、二人。

 

流星一花と、織斑千冬。

 

静かな空間が、そこに生まれる。

 

――――

 

水着売り場。

 

色とりどりの布地の中を、二人は並んで歩く。

 

まるで普通の買い物のように。

 

だが、空気はまったく違っていた。

 

「選んでくれるのか」

 

千冬が、ラックに並ぶ水着を眺めながら言う。

 

「ええ」

 

一花は自然な動作で一着を手に取る。

 

シンプルで機能性を重視したデザイン。

 

千冬の性格を理解している選び方だった。

 

「こういうのが好みでしょう?」

 

「……悪くない」

 

短く答える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そのまま、話は本題へと移る。

 

「クラス代表戦」

 

千冬が切り出した。

 

「お前は、どう見た」

 

一花は少しだけ視線を落とし、そして答える。

 

「所属不明のIS……あれは“偶然”じゃないわ」

 

当然の結論だった。

 

「外部からの介入。それも、かなり計画的なもの」

 

言葉を選びながら、しかし核心には触れない。

 

「ただ……」

 

少しだけ間を置く。

 

「出処までは、まだ掴めていない」

 

嘘ではない。

 

だが、全てでもない。

 

千冬は何も言わない。

 

ただ、次を促すように視線を向ける。

 

「じゃあ、タッグマッチトーナメント」

 

「ラウラの件ね」

 

一花はすぐに理解する。

 

「ISの異常進化……というより、“侵食”に近いわね」

 

手に取っていた水着を戻し、別のものへと視線を移す。

 

「恐怖が引き金になって、内部の何かが暴走した」

 

淡々と語る。

 

まるで、実際に見てきたかのように。

 

「……技術的なものか?」

 

千冬の問い。

 

「可能性はあるわ」

 

一花は曖昧に答える。

 

「でも、それだけじゃ説明がつかない」

 

ここでも、核心は避ける。

 

「少なくとも、“普通のIS”ではない」

 

その言葉に、千冬の目がわずかに細くなる。

 

沈黙。

 

数秒。

 

売り場のざわめきだけが、遠くに聞こえる。

 

そして――

 

千冬が、静かに口を開いた。

 

「なら」

 

一歩、踏み込む。

 

その視線は、教師のものではない。

 

「流星としてではなく」

 

言葉に重みが乗る。

 

「『スターレイル社』CEO……流星一花として聞く」

 

完全に、対等な立場での問い。

 

「お前は一体、どこまで知っている」

 

空気が変わる。

 

周囲の喧騒が、まるで遠のいたかのように。

 

その問いに対して。

 

一花は、ゆっくりと振り向いた。

 

そして――

 

笑った。

 

いつもの、柔らかな微笑み。

 

だが、その奥にあるものはまるで違う。

 

「全て……」

 

静かに。

 

はっきりと。

 

「何もかも、全て知っているわ」

 

一歩、近づく。

 

視線を合わせる。

 

逃げ場はない。

 

「織斑千冬さん」

 

その言葉は、宣言だった。

 

隠す気のない、圧倒的な“優位”。

 

千冬は、しばらく何も言わなかった。

 

ただ、その目で一花を見続ける。

 

そして――

 

小さく息を吐いた。

 

「……そうか」

 

それ以上は、何も聞かない。

 

聞く必要がないと判断したのか。

 

それとも――

 

これ以上は、聞くべきではないと理解したのか。

 

二人の間に流れる沈黙は、もはや先ほどまでとは別物だった。

 

単なる会話ではない。

 

探り合いでもない。

 

これは――

 

確認だった。

 

互いが、どこに立っているのかを。

 

そして。

 

どれだけ危険な場所にいるのかを。

 

静かに理解するための。

 

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