こういう感じでネタに困っていました、という冒頭になります。
「きゅーくつ」
今日のクズ二人の朝(厳密に言えば起床時間はもう昼)はクレマンティーヌの文句の一言から始まった。
不貞腐れた顔で、口をとがらせて、眉間に皺を寄せて、明らかに嫌気が差しておりますといった顔つきである。
主語が抜けているため何を言いたいのか最初は分からなかったが、少年は数秒考えたのち頭上に電球が光った。
即ち、現状の生活が窮屈でしょうがないのだろうと。
確かにそれは少年もうすうす感じていたことである。
バハルス帝国はとても統治された住みよい政治の敷かれた国家であり、アウトローからしてみればやりにくいことこの上ない、とても素晴らしい国なのだ。
クズ二人とは水と油とも言えた。
両者ともある程度は法治の行き届いた国家の出身であり、そういうお国柄に慣れようと思えば慣れられるはずなのだが、そこはそれ。
人は一度極上の甘味を味わうと、定期的にそれを摂取しなければ我慢ができなくなるという。
要するに既に
それを期待して王国に戻っては見たものの、既に帝国の占領下にあり、浄化され始めている様を見てこれは駄目だと、とんぼ返りしてきた事もあった。
以来、両者とも
それが“窮屈でしかたない”という形で表面化したのだろう。
一人納得した少年をクレマンティーヌはつまらなそうに睨めつけている。
いかにも不機嫌ですといった顔つきだ。
これはほうっておくとそのうち爆発するだろうと少年は考えた。
ので、なにか代案を提案することにした。
曰く、闘技場で暴れてみてはどうだろうかと。
「闘技場ゥ? あぁ~、あれはダメ」
却下が出された。
何故だろうか。
少年は説明を求めた。
「だって、衆人環視の中でゆっくりじっくり虐殺なんかしてみ。ブーイング以前に指名手配よ、そんなん」
いわれてみればそうである。
良くて“さっさと次の試合に行け”とドヤされるか、悪くてその場でお縄であろう。
聞けばチャンピオンと言う存在もいるそうであるが。
「ザコを瞬殺したところでなんの慰めにもなりゃしねーのよ」
いわれてみればそうである。
既にレベル100かつガチ装備のクレマンティーヌに敵うチャンピオンというのがいるのなら、少年もお目にかかってみたいものであった。
さぞやガゼフちゃん(未だに想像)のごとく益荒男のようなご尊顔をしていることであろう。
というか、冷静に考えてみればそんなデカい存在を瞬殺したら、それはそれでまた面倒事に巻き込まれるのではないか。
次代のチャンピオンに就任させられたり、軍からスカウトが来たり、等々。
それは少年からしてもあまりに面倒くさい出来事なのではっきりとノーを突きつけたいところである。
それにしても、クレマンティーヌはちゃんと
だから文句を言ったのだろうか?
少年はそう尋ねてみた。
「いやぁ、楽しめているか楽しめていないかで言うと楽しめているんだけどさぁ。わざわざ死体をどっか適当な場所に捨ててくるとか、血の跡も完全に綺麗に処理するとか、今までにない行程が入ってきて正直面倒くささが勝りつつあるっていうか」
なるほど。言い得て趣味とはそういうものである。
パーフェクトに自分好みの楽しみが出来ているからこそ趣味なのであり、そこに余計な雑念が入り混じってしまえば趣味足り得なくなるのではないだろうか。
そんなクレマンティーヌの苦悩をヨソにのうのうと夜這いやらなにやらを楽しんでいる少年であるが、逐一目撃者が現れるとかそれに対処しなければならないとか面倒事が加わってくると考えると、確かに少々嫌気が差してくるものかもしれないなと考えていた。
では一体これからどうすればいいか。
そこまで考えが行き届いて、ようやく思考のどん詰まりであることに少年は気づいた。
何度も繰り返すようだが、クズ二人の趣味は“誰か他人がいなければ成立しない趣味”である。
統治国家にいることが窮屈だからとて、はいでは誰も居ない場所に行きましょうね、とは行かないのだ。
なので仕方なく妥協案で趣味を楽しんでいるが、その妥協案でやっていくのがもはや窮屈になったと。
ではどうすればいいかと言われても代案は特に無く、考えれば考えるだけ思考もネガティブ寄りになっていく。
そうしてとうとう片割れから文句が表出したということだ。
これには少年もマイった。
頭の中で立派なヒゲを蓄えた紳士が、
『逆に考えるんだ。クレマンティーヌを暴走させちゃってもいいさと考えるんだ』
と囁いてくるが、少年的にはノーである。
確かにお互いレベル100。
国家の代表戦力だと言われていたガゼフちゃんがだいたいレベル30強前後だという情報を加味すると、仮にクレマンティーヌが自由奔放に天下の往来でどこでも殺戮マシーンになったところで、彼女を止められる者はどこにもいないだろう。
それこそ国ごと敵に回しても問題はないはずだ。
だが、その後に待っているのは恐怖の象徴としての厄介者扱いである。
その片割れであることを知られてしまえば、夜な夜な夜這いをしたりナンパを楽しんだりなど夢のまた夢になってしまうだろう。
いくらクレマンティーヌを大事に扱っているとは言え、自分の趣味を完璧に潰されてしまうような行為は辞めてほしいと思う少年であった。
だからこそ彼女にも証拠隠滅を頑張ってもらっているわけであり、その努力を無にするのも申し訳ないという気持ちもあり。
一体全体これからどうすればいいか。
もともと中卒で就職してからひたすら会社の言うことを聞くだけの機械と化していた少年(元青年)にとっては重すぎる議題である。
どこかに困っている時にチラッと眺めるだけで意見をサッと出してくれる便利な参謀でも居ないものだろうか。
一人で“この世界”に転移してきた少年には過ぎた望みであった。
本来こういう時に意見を出してくれるシリアルキラー一名は今もぶー垂れてベッドの上でローリングしている真っ最中であり、頼れそうもない。
とはいえ一人で悩んでいても答えが出ない議題である。
今回ばかりは致し方ない。
とりあえず保留、各々なにかいい案を考えるように。
少年はクレマンティーヌにそう伝えるだけに留めておくことにした。
「……ま、そーなるか。しゃーない」
彼女も彼女で最初から頭が淫魔に支配された性欲マンになにかしら解決策が導き出せるとはあまり期待していなかったのか、頭を掻きながら起き上がって嘆息した。
一応は窮屈でも趣味の時間を楽しむことにしようと、その日も一時解散してお互いの趣味時間に充てるのであった。
◆
どーしたものか、どーしたものか。
頭を捻り、うんうんと唸りながら少年は街をぶらついていた。
趣味のナンパも控えて問題解決のために思考に耽るとは、この少年なんだかんだで真面目な一面もあるものである。
流石は元社会人だと言った所か。
もしくは、年端もいかない幼い少年の姿に擬態しているため、無垢な性格の部分が出ているのかもしれない。
ちなみに少年は土地勘もない場所を宛もなくふらふらとさまよい続けているため、周囲からは怪訝な目で見られているが、気付いていない。
犬も歩けば棒に当たる、というが、文字通り歩き回っていればなにか思いがけない出来事にでもであるのではないか。
少年の考えがそこまで及んでいたところ、本当に何かにぶつかってしまった。
はたしてそれは硬い感触であった。
とうとう自分もボサッとしていたら壁にぶつかるレベルに落ちたか、と内心舌打ちをしつつ前を向く。
「……下を向きながら歩いていたら、危ないですわよ」
などと思っていたら、ぶつかったのは女性の鎧であった。
というか、ここは帝国の宮廷の門の入口であった。
こんなところまでさまよい続けていたのか、と驚きつつ、少年は頭を下げて無礼を詫びた。
いつだって女性に失礼を働くのは淫魔的にはNGである。
夜這い? 相手が気持ちよくなれば失礼ではないのでOKです。
女性からは適当にあしらわれ、すぐここを離れるように言われたが、そこでふと気付いてみればこの人かなりの美人さんである。
長い金髪で片目隠れになった妙齢の女性であった。
女性に失礼なことはしない? 知らんなあ。
むしろ美人をナンパしないことのほうが失礼だと少年は開き直っている。
なので、ナンパした。
美人なお姉さん、警備なんてタリィことやめてお茶しない?
未就学児が考えたようなクソみたいなナンパセリフで女性を誘うも、何故か女性の額には青筋が浮かんでいかにもキレている顔をされてしまった。
「……美人? 誰が?」
声音も明らかにキレている。
確かに顔の半分が隠れてはいるが、その半分から除く尊顔は明らかに美形のものである。
なにが地雷だったのかわからない少年は困るばかりであった。
ナンパしたらいきなりキレられるというのも、流石にちょっと理不尽な話であるし。
もう少しこう、迷惑です、やめてください、などといった拒絶から入って欲しかった。
そっちなら心の準備ができているのだが、唐突にキレられるのは準備ができていなかった。
少年はいや……そんな事言っても美人じゃないですか……と困惑することしか出来なかった。
「はぁ…………。子供だから見逃しますが、今すぐ消えてください、不愉快ですわ」
褒めれば褒めるほどキレ度が増していく。
こりゃなにかあるな、と勘づいた少年はさらに質問を深堀りしようと決めた。
とはいえこの調子で根掘り葉掘り聞き続ければいくらガチンチョとはいえ手にした槍が黙っていないことだろう。
なので、ここは淫魔らしく淫魔のスキルに頼ることにした。
淫魔(インキュバス・サキュバス同様)の種族固有スキル【異性魅力:レベル1】。
普段、クソみたいなセリフでのナンパに失敗した時に頼っているスキルである。
要するに普段遣いしているスキルである。
【YGGDRASILL】時代は性別なしの種族には全く効果がなかったり、異性判定されても魅了の状態異常を付与するだけだったり、レベル1~5まであっても全部魅了の強弱でしかなかったり、それすらも状態異常無効の装備で完全に無効化されてしまったりなど、ハッキリ言ってスキル欄を圧迫するだけのゴミスキルであったのだが、“こちらの世界”に来てからは神スキル万歳と両手を上げて賛美したくなるような便利スキルと化していた。
その証拠に、今までハッキリとキレていた女性の顔が次第に柔和な顔つきに戻っていく。
「────…………まあ、良く考えたら、そんなに怒ることでもなかったですわね……?」
これなら大丈夫だろうと少年は質問を再開する。
何をそんなにキレていたのやら、と。
「……いえ、それは、話すほどのことでは……」
【異性魅力:レベル2】。
「……じ、実は、顔の半分が魔物から呪いを受けて醜いものになってしまいまして……」
ほうほうそれでそれで?
【異性魅力:レベル3】。
「そ、その呪いは第六位階魔法でも直すことが出来ないものでして……、ああ、何故初対面の少年にここまでの事をペラペラと……?」
女性はもはやとろんと蕩けたような顔になりどんどん白状してくれる。
これが淫魔の力だと少年はドヤ顔でいた。
しかし、大抵の市井の女性はレベル1でホイホイナンパに乗ってくれることを考えると、この人はかなり身持ちが固いことが分かるものである。
とはいえ呪いとは。
少年は異種姦でもイケるクチなので、よっぽどのことがない限り顔の半分がグロくてもイケてしまうが、どの程度なのだろう。
見せてほしいと少年はそうお願いした。
「いえ……流石に初対面のお方にお見せすることは」
【異性魅力:レベル4】。
「どうぞ」
なるほど、こりゃグロい。
さすがの少年もちょっとしなしなになってしまうレベルのグロであった。
なので、治してあげることにした。
此処であったのもなにかの縁であろう。
ちょっと“この世界”ではオーバースペックな物を使用するため、少し物陰に女性を寄せてから、状態異常も回復する最上級の
ぶっかけるってなんか卑猥だな、と下らないことを考えつつ、これで治らなかったら魔法だなと思っていたが、無事に溶かすような煙を上げて顔面の修復には成功した。
いきなり
状態異常が治るということは魅力も治ることになるが、タイミング的にぶっかけてから治ったのか、そこはなんとか都合良くいったようだった。
唐突な
「────────────」
そのまま固まってしまわれた。
どうしたのだろうと思っていたら、すぐに再起動し、確かめるように顔を触りだした。
そして、そのまま泣き出してしまった。
これには少年も焦るものである。
正直キレられるより泣かれる方が困るものがあった。淫魔的に。
キレられるなら諌めればいいが、泣かれてしまっては慰め方がパッとでてこないのだ。
そうして少年が困っていたところ、女性は泣きながら叫んだ。
「あ……」
あ?
「愛します!! 一生どこへでも付いていきます!!」
……………………。
きいたかクレマンティーヌ!
さっきまで死ぬほどキレていた女が!
女の心変わりは恐ろしいのぉ!!
ここにクレマンティーヌはいないのだった。
少年は錯乱している。
キレられるより泣かれるよりも、理由もわからず愛される方がよほど恐ろしいのだと知った少年であった。
すわ魅了が行き過ぎたかと思ったが、魅了はさっきの
ということは素でこうなのだろう。
まだ魅了が効いていたほうが怖くなかった。
一体全体なにがどうしてそういう結論に至ったのか全く分からないので、少年は女性に説明を求めることにした。
◆
「…………という訳でして」
正気を取り戻した女性、レイナース・ロックブルズ曰く。
もともと呪いのせいで人生がイヤになるレベルで厭世的になってしまっていたこと。
路頭に迷いかけていた所を皇帝陛下に拾われたこと。
それからそれなりの身分を与えられたこと。
目下人生の目標は呪いを解くことであり、それさえ果たせれば義理も忠誠もクソもないこと。
なので解呪してくれた少年に忠誠を誓うことを即座に決めたこと、などなど。
クレマンティーヌに続く第二の携帯食料、ゲットだぜ!!
……と喜びたいところだが、少年はそういう忠誠とか堅苦しいのが苦手なのであった。
だからこそわざわざクレマンティーヌの性格まではイジらないで連れ回しているのである。
彼女の歯に衣着せぬ言い回しや態度が好ましいのであって、もしクレマンティーヌが跪いて忠誠の誓いなどしようものなら気持ち悪くなってしまうことだろう。
ちなみに堅苦しいのが苦手なのは、社会人時代にマナーだ礼儀だとあれこれ煩い上司のせいで半ばアレルギーになったからだが、どうでもいい。
さらに言えば、かなりの身分にいる騎士を引き抜くなど国からマークされてしまうだろう。
それも御免被る話である。
なのでその心は嬉しいが、付いてくるのはNO、とさせていただいた。
「そ……そんな! それでは私のこの気持ちはどうすれば!?」
そう言われても困る少年である。
なるべく女性の思いは無碍にしたくないが、かといってこれ以上自由が制限されるのはさらに困るからである。
そこで少年はふと思い出した。
今自分は自由が制限されていたことを。
もしかしたら、レイナースに相談すればなんとか出来るかもしれない。
とはいえ、正直に“我々クズ二人なんだけど犯罪行為が思うように出来なくて困ってるんだよね”などと白状すれば、相手は騎士なのでどうなるかわかったものではない。
念には念を入れて、【異性魅力:レベル5】まで引き上げてから相談することにした。
「何なりとお申し付けを、御主人様」
土下座通り越して土下寝になるレベルまで頭を地面にゴリゴリ擦り付けられてしまった。
これなら情報が漏れることもないだろうが、やはり堅苦しいのは苦手であると少年は再認識する。
そしていくら物陰だろうと誰かの目についたら大変なので、すぐに止めてもらう。
相手は身分の高い騎士なのだ。
それが土下寝など、あいつ何者だと噂になってもおかしくはない。
それは困る少年であった。
「それで、要件はなんでございましょう」
斯々然々、と少年は今困っていることをぶちまけた。
クレマンティーヌが窮屈だよーと苦情を訴えていると。
「成る程、思うように快楽殺人が出来なくて困っているのですわね」
そう言われるとそうなんだが、はっきり言われると困ったものである。
それではまるで殺人鬼の片棒を担いでいるようではないか。
まるでも何も言葉のとおりであったことを少年は気づいた。
だからといって特に気にはしなかったが。
「わかりました。では私の受け持つ警備担当の一角で“お楽しみ”いただけるようお伝えくださいな。そこでいくら虐殺死体を見かけようと、私が揉み消す事にします」
なんと、それはありがたい話である。
クレマンティーヌは死体の隠蔽がモヤモヤして窮屈だと言っていたので、それがなくなるのはとても感謝したい事だった。
これで問題は解決したも同然でさる。
同時に、帝国にとってとんでもない問題が出来たように思えたが、少年は気の所為だと流すことにしたようだ。
少年はレイナースの両手を取って感謝の意を伝えた。
「そんな……この顔の悍ましい呪いを解いてくださったことに比べれば、こんなこと……」
ほんのり顔を赤らめるレイナースがあまりにも扇情的だったので、ムラッときた少年はそのままレイナースを物陰に連れ込むことにした。
クズの魔の手が帝国にも広がっていく……。
どうなる、ハゲ。