休日の昇降口、反抗的な一人の生徒を待っていたのは、漆黒のボディースーツに身を包んだ「女王」だった。
阿久津真矢×ドロンジョ。
冷徹な教師による、あまりにも過激で甘美な「教育」が始まる。
『聖ドロンボ・サーガ Episode I:性の覚醒』
※本作は、『聖ドロンボ学園6年3組』のアナザーストーリです。
休日の校舎。西日が長く伸びる昇降口の空気は、どこか埃っぽく、そして甘美な緊張感を孕んでいた。
呼び出されたのは、進路指導で反抗的な態度を取り続けていた男子生徒、翔太(しょうた)だった。「社会のルールなんてクソくらえだ」と嘯く彼を、真矢は「補習」と称して呼び出したのだ。
気だるげに昇降口に入ってきた翔太は、その光景を見て息を呑んだ。思考が停止した。
いつもの無機質なスーツ姿ではない。そこにいたのは、黒光りするエナメルのボンテージスーツに身を包んだ「女王」だった。
大胆にカットされたハイレグから伸びる、白く陶器のような太もも。それを締め付けるサイハイブーツ。豊かな胸元を強調するビスチェのライン。そして、感情を一切読み取らせない鋭利なマスク。
紛れもなく、あのアニメの女ボス、ドロンジョ様だ。だが、その佇まいから発せられる絶対零度の威圧感は、紛れもなく阿久津真矢そのものだった。
「遅いわね。時間は守りなさいと言ったはずよ」
マスク越しに響く声は、いつもの冷徹なトーンだ。しかし、その姿で言われる言葉は、翔太の脳髄を痺れさせるような奇妙な色気を帯びていた。
「な、何なんすか、その格好……」
後ずさりしようとする翔太。しかし、真矢は手に持っていた髑髏のステッキを、コツン、と床に打ち鳴らした。その音だけで、翔太の足は縫い止められたように動かなくなる。
「あなた、今の社会に不満があるようね。ルールを破ることがカッコいいと思っている。……幼稚ね」
真矢はゆっくりと、ヒールの音を響かせながら翔太に近づいていく。エナメルが擦れる微かな音が、翔太の鼓膜を刺激する。彼の目前まで迫ると、真矢はステッキの先端を、翔太の喉元に突きつけた。
ひやりとした金属の感触に、翔太は喉を鳴らした。至近距離で見る彼女の肌は完璧なまでに滑らかで、マスクの奥の瞳は、獲物を定める猛禽類のように冷酷だ。
「い、いや、俺はただ……」
「口答えは許しません」
真矢はステッキの先を滑らせ、翔太の胸板をなぞり、そしてベルトのバックルあたりで止めた。翔太の体がビクリと跳ねる。
「あなたが憧れている『アウトロー』なんて、所詮は社会の寄生虫。本当の『悪』とは、そして本当の『支配』とはどういうものか、体が震えるほど教えてあげるわ」
真矢の纏う空気が変わった。冷徹な教師の仮面の下から、ドロンジョの衣装が持つ加虐的なエロスが滲み出してくる。
「跪(ひざまず)きなさい」
「え……?」
「聞こえなかったの? 地べたに這いつくばって、私を見上げなさいと言っているのよ」
拒否すればどうなるか分からないという本能的な恐怖と、目の前の圧倒的な「女」に対する抗いがたい屈服欲求が、翔太の中で渦を巻いた。彼は震える膝を折り、冷たいコンクリートの床に両手をついた。
視線が低くなる。目の前には、黒いエナメルのブーツが聳え立っている。見上げると、ハイレグのレオタードが作る鋭角なラインと、マントの裏地の鮮血のような赤が目に焼き付いた。下から見上げる阿久津ドロンジョ真矢は、まさに手を触れることすら許されない、残酷な女神だった。
「いい眺めね。それがあなたにお似合いの場所よ」
真矢は冷ややかに言い捨てると、ブーツのつま先で、翔太の顎をクイっと持ち上げた。屈辱と興奮で、翔太の顔は赤く染まる。
「よくお聞き。社会に出れば、理不尽なルールや、あなたを搾取しようとする人間ばかり。今のあなたのままでは、ただ食い物にされるだけ」
彼女の声は、教育的な指導のようでありながら、下僕に言い聞かせる女主人のそれだった。
「生き抜くためには、力を持ちなさい。あるいは、絶対的な力の前で賢く傅(かしず)くことを覚えなさい。中途半端な反抗心は、身を滅ぼすだけよ」
真矢はブーツを離すと、ステッキで翔太の頬を軽く叩いた。ペチ、ペチ、という乾いた音が、静かな昇降口に響く。それは体罰というよりは、愛玩動物への躾(しつけ)のようだった。
「……今日はこれくらいにしておくわ。でも覚えておきなさい。私の教室(ここ)では、私がルール。私の言葉は絶対。次に私に逆らったら、この衣装に似合う『お仕置き』が待っていると思いなさい」
真矢はマントを翻し、踵を返した。
「立ちなさい。そして、さっさと帰りなさい。……イメージトレーニングの邪魔よ」
翔太は、しばらく立ち上がることができなかった。遠ざかるヒールの音を聞きながら、残されたエナメルと香水の混じった残り香に、心臓が早鐘を打っていた。
恐怖と屈辱、そして自分の中に眠っていた被虐的な悦びを、あの冷酷な教師に暴力的にこじ開けられた。
(……はい、先生)
誰もいない昇降口で、翔太は誰に聞かれるでもなく、小さく呟いた。それは、新たな「教育」への、完全なる敗北と服従の誓いだった。
(聖ドロンボ・サーガ Episode I:性の覚醒 完)