真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
夏目煌だったものが顔を上げる。
歩いてくるのは、此処で知恵を引き渡した存在。ルシファーだった。既にアティルト界で再生し、そしてまたここに来た。
座を奪いに来たのではない。
時を告げに来たのだと分かる。
「大変であったな。 どうやら、座の役割が終わる時が来たようだ」
「そうか……」
煌は立ち上がる。
寝転んでいたイチロウも半身を起こす。
何かの本を読んでいたユヅルも、同じく立ち上がっていた。
側にいたわーが、おおと手をかざして嬉しそうに向こうを見る。戻ってきた眷属達。マーメイドもフィンもアマノザコも。
その後、各地に送り出して、帰ってきた眷属達も一緒だ。
アティルト界の深奥。
至高天が、溶けていきつつある。
それは深層意識の最深奥である至高天が、必要なくなったことを意味していた。
人間がよりどころを必要としなくなったのだ。
あれからどれくらいの時が経過したのか。
人類はついにダイソンスフィアの建造に成功し、他の星間文明と接触もした。それらは平和裏に行われた。
他の星間文明は、凶暴極まりない攻撃的種族として地球人類を知っていたようなので。いざ接触してきた地球人類が、非常に理性的で客観的だったことに驚いていたようである。
そして、数多の異星人と接していくうちに。
地球人は、よりどころを必要としなくなったのだ。
意識の世界は「ただの意識の世界」に変わっていく。
元々信仰への依存はどんどん弱まり。
信仰に依存しなければ自我を保てなかった人間達は、ほとんどがもういない。その結果、人間が依存する都合が良い中心点である至高天は、瓦解して。そして意識の海に溶けていくのだ。
あれから新しい創世は起きなかった。
何度か桁外れの悪党が出現して問題を起こそうとしたが。それも全て、神魔とともに暮らすようになった人間が皆解決した。
煌達が出るまでもなかった。
今ではYHVHも、他の神々と同じように。座にいた頃の妄執からは解放された、一神格として存在している。
四大天使も同じだ。
人間の想像した存在は。
神魔ともに、人とともに。そう「友に」ある。
人を戒め。
人の規範とはなるが。
もはや依存の対象ではない。
だからともに生きていけるのだ。
「愚かしいマントラの理は解体された。 全ての平行世界が救われたわけではない。 数多の平行世界の中には、まだ愚行を続けている場所だってある。 だが、それでも、そなたらが為したことは途轍もなく大きい」
「ようやく終わったんだな。 俺、そろそろゆっくり出来るかな」
「そうだな。 僕もたまにはただのんびりとだけするとしようか」
ルシファーに、イチロウとユヅルがそう答える。
煌も頷くと、全てが溶けゆき。美しい花畑の世界に変わりつつある意識の世界へと歩み出していた。
本来人間の精神はこうだった。
人間があまりにも愚かしすぎたから、楽園は消えて失せ。支配のためのシステムが逆に構築された。
人間を楽園から追放したのは神なんかじゃない。
人間を支配する神の存在。それが人間にとって都合が良かった。そういう悪辣な人間そのもの。
つまり人間が楽園から人間を追放する神を作った。早い話が自分で自分を追放したのだ。
知恵の実を食らったのは、蛇にそそのかされたからではない。
蛇はただ人間の側にいただけ。
人間は知恵の実を、クロマニヨン人の頃から。いやもっと古くの時代から、ずっと培ってきた。
そうして得た知恵の実を、一部の支配者を気取る人間が独占することを考えた。
だから、知恵の実を失ってしまったのだ。
ある意味、楽園はついに完全な形で戻った。
座は消失し。
また現れることはないだろう。
煌は既に人ではない。
イチロウもユヅルもだ。
だが、それが何か問題でもあるのだろうか。
宇宙に進出し、極めて理性的で平和な文明を構築するに至った人類は、今も銀河系で他の種族と更新しながら、文明をより良く進めている。
それは人間だけの手だけではなく、良き隣人である神魔とともに。他の宇宙人や、数多の生物とともに。
そう考えられるようになり。
人間を万物の霊長などと考える妄想から解き放たれた今だからこそ。
本当に人間は、楽園に帰還できたのだ。
「ルシファー。 貴方も、ルシフェルに戻ってはどうか」
「いや、私は既にこの姿が似合っている。 私は大魔王で構わない。 それよりも、これからどうするのかな」
「そうだな……」
積み残していた本は全て読み終わってしまった。
今更人間には手を貸さなくてもいい。
特別大きな問題が起きている平行世界は、救える限りは救った。
少なくとも、手の届く範囲では、やることはやりきったのだ。
「しばらくは、昼寝でもするさ」
「そうか。 ではどこででも、好きに昼寝をしているといい。 問題が起きたら、声を掛けに来よう」
「頼む」
ルシファーが行く。
煌は本当の美しさを取り戻した、本当の楽園の中で。
静かに眠りを楽しむのだった。
座は終わり。
本当の人間の時代が、今始まる。
(真女神転生VV二次創作、牛蛇相克・完)
はい。かくして完結となります。
座を巡る戦いを経た夏目煌くんは、その役割が終わるまで座を守り、愚かしいマントラの理を終わらせることが出来ました。
人類は次の段階に進み、そしてこの世界の成功は平行世界に波及していくことでしょう。
それは破滅よりも遙かに良いこと。
そう自分は思うのです。
最後に。感想評価などよろしくお願いします。励みになります。