葬送のフリーレン × DQ:異界の呪文使い   作:紫山拾弐

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『移動魔法の革命』

【徒歩の美学と現実】

秋の気配が混じる北側諸国の峠道。切り立った崖の合間を縫うように続く未舗装の道は、人間が歩くにはあまりに過酷だった。

一行の先頭を歩くフリーレンは、大量の魔導書を詰め込んだリュックを背負い、今にも地面にめり込みそうな足取りで一歩ずつ進んでいる。その後ろでは、フェルンが巨大な杖を杖代わりにし、規則正しいリズムで歩を進めていた。

 

「……フリーレン様。休憩しましょう。もう三時間は歩き通しです」

「……あと、少し……。この先の崖を越えたところに、千年前に枯れたはずの薬草が自生している……っていう噂の場所があるはずなんだ……」

 

フリーレンは息も絶え絶えになりながら、もはや執念だけで足を動かしている。彼女たちエルフにとって、数ヶ月、数年の徒歩移動は「魔法収集」というライフワークの一部であり、退屈ではあっても回避不能な「コスト」だった。

 

しかし、最後尾を歩く転生者、カイルの忍耐は限界に達していた。

(……いや、これ無理だろ。前世の感覚からすれば、一駅分歩くのにも渋るレベルだぞ)

カイルは空を仰ぐ。目の前には険しい山脈が壁のように立ちはだかっている。

 

「なあ、フリーレン。その『噂の場所』を越えた先にある、次の目的地はどこだ?」

「山を二つ越えたところにある……ターフェン村だよ。順調に行けば……三日後には着くんじゃないかな」

 

カイルは足を止め、深く溜息をついた。

「三日か。……よし、わかった。その三日、俺が五秒に短縮してやる」

 

【空を駆ける光】

カイルの言葉に、フェルンが不審なものを見る目を向けた。

「カイル様、何を……? 高速移動の魔法なら、消費マナに対して移動距離が割に合いません。それに、魔力の風圧で私たちの体が持ちません」

「いや、走るわけじゃない。文字通り『跳ぶ』んだ」

 

カイルは二人に近づくと、その肩を強引に引き寄せた。

「俺の体にしっかり触れてろ。離れたら、この世界のどこかに置き去りになるかもしれないからな」

 

「えっ、ちょっ、カイル様!? 近いです!」

赤面するフェルンを余所に、フリーレンは目を輝かせた。「座標転移? でもそれには莫大な術式と、あらかじめ設置した魔道具が必要なはずだけど……」

 

カイルは目を閉じ、精神を集中させる。イメージするのは、一度訪れたことのあるあの村の、賑やかな中央広場。ドラクエの呪文システムが、彼の記憶にある風景をキーとして、因果律に干渉を始める。マナが爆発的に膨れ上がり、カイルを中心に蒼い火花が散った。

 

「ルーラ!」

 

――ドォォォォン!!

 

凄まじい衝撃音が山々に響き渡り、三人の体はロケットのように垂直に打ち上げられた。

「きゃああああああああああ!!」

フェルンの絶叫が空に消える。雲を突き抜け、眼下に山脈がミニチュアのように広がる。

 

「すごい……! 重力の束縛が完全に消えてる! それにこの、空間を無理やり繋ぎ止めるようなマナの奔流……フェルン、見て! 世界が縮まってるよ!」

絶叫する弟子とは対照的に、フリーレンは空中での重力負荷に耐えながら、狂喜に近い好奇心で周囲を観察していた。

 

【魔法使いの絶望と希望】

閃光が走る。

次の瞬間、三人は何事もなかったかのように、ターフェン村の中央広場にふわりと着地した。

周囲では村人たちが、空から急に現れた三人に驚き、腰を抜かしている。

 

「……着いたぞ。ここがターフェン村だろ?」

カイルが平然と言う。

フェルンはその場にへたり込み、スカートを必死に押さえながら「死ぬかと思いました……」と震えている。

 

一方、フリーレンは呆然としたまま、村の石畳を指でなぞり、次に自分たちがさっきまでいたはずの遠くの山脈を振り返った。

「……カイル。今の魔法、消費魔力はどれくらい?」

「ん? ほんの微々たるもんだ。朝飯一回分くらいか」

 

その回答に、フリーレンは膝をついた。

「……バカな。人類の魔法史が、音を立てて崩れていく。私たちが一生懸命、一歩ずつ歩いて、土地の風土を感じて、時間をかけて辿り着く……その『旅の情緒』を、君はたった五秒で、しかも最小限のマナで蹂躙したんだよ」

 

彼女は震える声で続けた。

「この魔法があれば、魔王軍との戦いだって一年もかからなかった。補給路の確保も、奇襲も、全部思いのままだ。……ねえ、これ、私にも教えてくれる? 100年……いや、200年かけてもいいから習得したい」

 

「悪いが、これは理屈じゃない。俺の魂に刻まれた『コマンド』なんだよ」

カイルの言葉は、この世界の「魔法」を愛するフリーレンにとって、残酷なほど甘美で、絶望的な響きを持っていた。

 

【リレミトの衝撃】

その日の夕方、一行は村の地下にある古びた迷宮(ダンジョン)へ潜った。フリーレンがお目当ての「銅像の錆を綺麗に落とす魔法」の魔導書を見つけるためだ。

数時間の探索の末、最深部で宝箱を確保した三人だったが、帰り道は複雑に入り組んでおり、歩いて戻るにはまた一時間以上の労力が必要だった。

 

「ふう、ようやく見つけた。さあ、フェルン。暗い道を頑張って戻ろうか」

フリーレンが杖を掲げようとした時、カイルが静かに前に出た。

 

「おい、フリーレン。まさか帰りも歩くつもりか?」

「え? でも、ルーラは空が開けてないと使えないんでしょ?」

「ああ、だが『ダンジョン専用』がある」

 

カイルが印を組むまでもなく、一言呟く。

「リレミト。」

 

視界が歪み、一瞬の浮遊感。

気づけば三人は、洞窟の入り口――沈みかけた夕日が差し込む、地上に立っていた。

 

「…………」

フリーレンは、手にした魔導書をポロリと落とした。

伝説の魔法使いとして、あらゆる事象を解明してきた自負。それが、目の前の「利便性の化身」によって、塵のように吹き飛んでいく。

 

「カイル。……もう認めざるを得ない。君は、魔法使いにとって最悪の毒であり、最高の夢だ」

 

フリーレンは真顔でカイルに詰め寄り、その服の袖をぎゅっと掴んだ。

「お願い、もう一回だけさっきのルーラやって。次は、術式の流れを、私の魔力の半分を解析に回してでも見極めるから……!」

 

「……フリーレン様、みっともないですよ。さあ、カイル様、次は宿屋の前までお願いします」

結局、フェルンもその便利さには抗えなかった。

三人の旅は、かつてないスピードで、そしてかつてないほど「歩かない」方向へと加速していく。




嘘次回予告:第3話『バイキルト、それは前衛の夢』
立ち寄った村で再会したアイゼン。彼の斧は、カイルの補助呪文によって、この世のあらゆる物質を断ち切る「概念の刃」へと変貌する。
アイゼン「……カイル。俺、また魔王を倒しに行ける気がしてきたぞ」
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