葬送のフリーレン × DQ:異界の呪文使い   作:紫山拾弐

4 / 12
私自身は「葬送のフリーレン」は過去にニコニコで数話読んだだけで、
アニメも見ていないニワカ中のニワカなので、完全にGemini任せです。


『ザラキの恐怖、死を運ぶ言葉』

【軍勢の影と魔法使いの算段】

北側諸国の険しい峡谷を抜けた先、一行の目の前に広がったのは、美しくも絶望的な光景だった。

夕闇に染まり始めた平原を埋め尽くすのは、数百におよぶ魔族の軍勢。規則正しく並んだ槍の穂先が、沈みゆく陽光を反射して冷たく光っている。

 

彼らは、かつて七崩賢「断頭台のアウラ」が支配していた領域の周辺で力を蓄えていた、**『虐殺のヴィリアム』**率いる私兵集団だった。アウラの死後、力の空白地帯となったこの地を蹂躙し、さらなる南下を目論む彼らにとって、街道を歩く三人(と一人)の魔法使いは、格好の「小手調べ」に過ぎなかった。

 

「……フリーレン様。これは少し、分が悪すぎます」

フェルンが杖を強く握り締め、冷静に、しかし隠しきれない緊張を声に混ぜて告げた。

「敵は個々が高度な魔法の使い手です。前衛にアイゼン様がいればまだしも、今の私たちの構成では、数に押し潰される前にすべての術式を相殺しきれません」

 

フリーレンは、いつもの眠たげな瞳を少しだけ鋭くして、軍勢の最奥を見つめていた。そこには豪華な装飾が施された輿に座り、ワインを傾ける魔族、ヴィリアムの姿がある。

「そうだね。フェルンの言う通り。魔法戦は突き詰めれば手数の奪い合いだ。一人で百の魔法を同時に相手にするのは、効率が悪すぎる。……広域攻撃魔法で先制して、陣形を乱してから個別に撃破するのが定石だけど、相手も防御魔法の陣を組んでいる。解析して突破口を作るのに、最低でも三十分はかかるかな」

 

フリーレンの言葉は、裏を返せば「三十分耐え抜く必要がある」ということだ。しかし、魔族の軍勢はすでに詠唱を開始している。大気が震え、数百ものマナが渦を巻き、破壊の奔流となって解き放たれようとしていた。

 

その時、これまで沈黙を守っていたカイルが、一歩前へ出た。

「効率、か。……フリーレン、あんたの言う『効率』ってのは、いかに少ないマナで相手を倒すかってことだろ?」

 

「そうだよ。魔法使いはマナを節約して戦わなきゃいけないからね」

 

「俺のやり方は少し違う。俺にとっての『効率』は……いかに工程を省いて、『死』という結果に辿り着くかだ」

カイルの声は、戦場の喧騒の中で驚くほど静かに響いた。

 

【冒涜の呪文】

「……全軍、放て。ゴミ掃除だ」

ヴィリアムの冷酷な合図と共に、数百の攻撃魔法が放たれようとした瞬間――。

 

カイルは杖さえ掲げず、ただ両手を広げ、天を仰いだ。

彼の内側で、ドラクエのシステムが稼働する。それはこの世界の魔法使いのように、マナを火に変えたり、衝撃波に変えたりする「変換」のプロセスを一切必要としない。ただ、対象のリストを選別し、一つの「確定した結末」を上書きする作業。

 

「ザラキ。」

 

その言葉は、詠唱ですらなかった。ただの、決定だった。

瞬間、戦場を支配していたあらゆる音が消失した。

爆発も、光も、突風もない。ただ、凍てつくような「無の色」をした波動が、カイルを起点として平原全体へと、目にも止まらぬ速さで波及していく。

 

「……え?」

フェルンが小さく声を漏らした。

彼女の視界の中で、今まさに強力な炎を放とうとしていた魔族の魔術師たちが、糸の切れた人形のように、あるいは電池を抜かれた機械のように、その場に崩れ落ちた。

 

一人ではない。十人、五十人、百人――。

カイルの波動が通り過ぎた後には、物言わぬ肉塊の山だけが残された。

彼らは防御魔法を展開していた。それも、この世界の常識では鉄壁とされる、幾重にも重なる多層結界だ。しかし、カイルの呪文はその結界を「破壊」したのではない。結界の有無に関わらず、その内側にいる生命の「期限」を強制的にゼロへと書き換えたのだ。

 

「な……何をした!? 傷一つない……魔法の残滓すら感じられないぞ!」

生き残ったヴィリアムが、輿から転げ落ちて叫んだ。

彼の周囲にいた精鋭たちも、ただ「死んだ」のだ。苦悶の表情すら浮かべる暇もなく、魂を異次元へと抜き取られたかのような、あまりに唐突で無慈悲な終焉。

 

「反転術式か? 呪い(エーリカ)か!? 答えろ、人間!」

ヴィリアムが狂ったように杖を振り回す。魔族にとって、理解できない現象は恐怖そのものだ。彼は自身の全マナを練り上げ、カイルを焼き尽くすための極大魔法を編み始めようとした。

 

だが、カイルはその隙さえ与えない。

「お前たちの魔法は、饒舌すぎるんだよ。……少し黙ってろ。マホトーン。」

 

カイルが指先をパチンと鳴らす。

瞬間、ヴィリアムの周囲の空気が凝固した。

ヴィリアムは口をパクパクと動かすが、言葉が出ない。いや、言葉を出そうとする「意志」が、マナという形に変換される回路そのものが、見えない鎖で縛り付けられたかのように機能しなくなっていた。

 

「が……あ、あ……!?」

魔法という唯一の武器を奪われた魔族は、もはや羽をもがれた虫に等しい。

カイルは無表情に歩み寄り、腰の短剣を抜いた。ライデインの残り香である蒼い雷光を纏わせた刃が、絶望に染まったヴィリアムの喉元を、一息に貫いた。

 

【理(ことわり)の崩壊】

静寂が平原を支配した。

数百の軍勢を相手に、戦闘時間は一分にも満たなかった。

足元に広がる死体の山を眺めながら、フリーレンの顔からは血の気が引いていた。彼女はゆっくりと、自分の杖を握る手を震わせながら、カイルを振り返った。

 

「……カイル。今の魔法……君は、何を、どこにぶつけたの?」

フリーレンの声は、恐怖というよりは、自分の愛する世界が壊されたことへの「拒絶」に近かった。

 

「……ザラキだ。対象の魂に直接、死という結果を叩き込む。成功すれば死ぬ。失敗すれば何も起きない。それだけだ」

 

「それだけ……? カイル、君は魔法を何だと思っているの」

フリーレンが一歩、詰め寄る。その瞳には、かつてないほどの感情が渦巻いていた。

 

「魔法は、積み重ねだよ。イメージして、術式を編んで、試行錯誤して、ようやく辿り着くものなんだ。……でも君のそれは、工程をすべて無視している。相手がどれだけ努力して魔法を極めても、どれだけ強い意志で防御を固めても、君がその一言を呟くだけで、すべてが無意味になる。……それは魔法じゃない。ただの……冒涜だよ」

 

「……そうかもしれないな」

カイルは視線を逸らした。

ドラクエの世界において、ザラキは強力だが不確実な呪文の一つだ。しかし、この「魔法が理論として確立された」フリーレンの世界において、その不確実性と、理屈を無視した即死という結果は、あまりに異様だった。

 

「カイル様……」

フェルンもまた、複雑な表情で彼を見つめていた。

「私は、魔族を慈しむつもりはありません。ですが……今の倒し方は、あまりに救いがありません。戦いという対話すら拒絶して、ただ命のスイッチを切る。……そんな力を持ってしまったら、魔法を愛することなんて、もうできない気がします」

 

カイルは、自分の持ち込んだ「転生特典」の真の恐ろしさを、初めて理解した。

これは便利さなどというレベルではない。この世界の住人が千年以上かけて築き上げてきた「魔法という文明」を、根底から否定する劇薬だったのだ。

 

【倫理と好奇心】

その日の夜。一行は平原を離れ、小さな村の宿屋に身を寄せていた。

食堂の空気は重く、カイルは一人、隅の席で冷めたスープを啜っていた。

 

「……カイル。隣、いいかな」

フリーレンが、大きな魔導書を抱えてやってきた。彼女の表情は、昼間の険しさは消え、いつもの「魔法オタク」のそれに半分ほど戻っていた。

 

「……怒ってるんじゃないのか」

「怒ってるよ。半分くらいはね。……でも、あとの半分は、やっぱり魔法使いとしての好奇心に勝てないんだ」

 

フリーレンは机に魔導書を広げ、カイルを真っ直ぐに見つめた。

「君の『ザラキ』、術式は見えなかったけど、マナの波形だけは少しだけ記録できた。……ねえ、これって『魂の構造』をあらかじめ知っていないと打てないよね? 君のいた世界では、魂は目に見えるものだったの?」

 

「……いや、そんなことはない。ただ、唱えれば当たる、そういうルールだったんだ」

 

「ルール……か。神様が決めたシステムそのものをハッキングしているみたいだね」

フリーレンは少しだけ寂しそうに笑った。「カイル。私はやっぱり、君の呪文は嫌いだよ。でも、君がその力を持ってここにいることには、何か意味があるのかもね」

 

「意味、か。俺にはただの、生きるための手段にしか思えないけどな」

 

「それでもいいよ。……あ、でもね。さっきのマホトーンってやつ。あれは興味深い。魔力の振動を完全に停止させるなんて、クヴァールの封印魔法の応用にも使えそうだし。……明日、ちょっと詳しく教えて?」

 

「……ああ。あれなら、ザラキほど後味は悪くないだろ」

 

少しだけ、空気が和らぐ。

フェルンが厨房から追加のパンを持ってきて、カイルの前に置いた。

「カイル様。……次は、あんなに怖い顔をしないでください。ザラキを使う時のあなた、まるでもう、この世界の人間ではないみたいでしたから」

 

「……ああ。気をつけるよ」

 

カイルはパンを手に取り、この世界の味を確かめるように噛み締めた。

異界の呪文と、この世界の魔法。その境界線で、カイルは自分が何者であるべきかを探し続けていた。




【カイルの現在のステータス】
カイル:Lv 24

【じゅもん】
攻撃: メラ、ギラ、ヒャダルコ、バギマ、ライデイン、ザラキ(NEW)
補助: スカラ、ルカナン、バイキルト、マホトーン(NEW)、ピオリム
回復: ベホイミ、キアリー、ザメハ
移動: ルーラ、リレミト

【今話の呪文詳細】
ザラキ:
ドラクエシリーズにおける集団即死呪文。フリーレンの世界では「死」は「魔法による物理的な破壊」や「呪いによる腐食」の結果として訪れるものだが、ザラキは「生存している」というステータスを「死亡している」というステータスへ直接変換する、システム介入型の呪文である。マナの防御壁を透過し、魂に直接作用するため、通常の魔法防御は無効に近い。

マホトーン:
対象の周囲のマナを「沈黙(サイレス)」の状態に固定する。魔法の構成に必要なマナの微細な振動を完全に封じるため、どれほど高位の魔法使いであっても、その発動を阻害される。呪文の詠唱を必要とする魔族にとっては致命的な弱点となる。


嘘次回予告:第5話『賢者の石と不老の夢』
立ち寄った村で出会った老魔法使いが求めたのは、伝説の治癒アイテム。
カイルが取り出したのは、何度使ってもすり減ることのない、温かな光を放つ石だった。
フリーレン「……待って。それ、質量保存の法則を無視してない?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。