葬送のフリーレン × DQ:異界の呪文使い   作:紫山拾弐

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『賢者の石と不老の夢』

【枯れた魔法使いの執念】

北側諸国の深い山間に、薬草の香りとカビの臭いが立ち込める古い村があった。一行がその村を訪れたのは、フリーレンがかつてこの地に預けたという、古い魔導書を回収するためだった。

 

村の端にある、崩れかけた塔。そこに住んでいたのは、齢150歳を超える人間の老魔導師、エルンストだった。人間としては驚異的な長寿だが、その体はもはや枯れ木のように細く、生命の灯火は今にも消え入りそうだった。

 

「おお……フリーレン様。お久しぶりです。あなたが最後にここを訪れてから、もう80年になりますか」

エルンストは濁った瞳でフリーレンを見上げ、震える声で言った。

「私は、あなたが預けていった魔導書を守り抜きました。……ですが、それももう限界のようです」

 

フリーレンは、埃を被った魔導書を受け取りながら、悲しげに目を伏せた。

「エルンスト、無理をしすぎだよ。君の魔力回路はもう、ボロボロだ」

 

「わかっております……。ですが、私は死ぬわけにはいかないのです。この村の地下に眠る、汚染された水源を浄化する術式を完成させるまでは……。私が死ねば、この村は数年で干死(ほし)てしまう」

 

エルンストが取り組んでいたのは、高度な浄化魔法だった。しかし、その行使には莫大な生命エネルギーが必要であり、今の彼にはその対価を支払うだけの「余命」が残されていなかった。

 

フェルンが痛ましそうに呟く。

「この世界の魔法は、奇跡ではありません。高度な浄化には、それ相応のマナの消費と、肉体への負荷が伴います。……彼が魔法を完成させる前に、器(からだ)が持たないでしょう」

 

カイルは、ベッドに横たわる老人の姿をじっと見つめていた。その傍らには、使い古された「回復の魔法瓶」が転がっていた。この世界の回復魔法や薬は、あくまで「自然治癒力を爆発的に高める」ものであり、欠損した生命力そのものを無から作り出すことはできない。

 

「……なあ、フリーレン。この世界の理屈じゃ、『対価なしの救済』は存在しないのか?」

 

カイルの問いに、フリーレンは首を振った。

「魔法は等価交換だよ、カイル。何かを得るためには、何かを消費しなきゃいけない。マナか、時間か、あるいは命そのものか。それがこの世界の、揺るぎないルールだ」

 

カイルは、自分のアイテム袋――転生時に与えられた、無限の容量を持つ空間――に意識を向けた。

「ルール、か。……なら、そのルールを壊す『石』を見せてやるよ」

 

【永久の輝き】

カイルが取り出したのは、鈍い金色の光を放つ、掌に収まるほどの滑らかな石だった。

その石が現れた瞬間、部屋の中のマナが、まるで磁石に引き寄せられるように静かに波打った。

 

「……何、それ。魔力結晶? いや、違う。マナの密度が……一定のまま、微塵も減っていない?」

フリーレンが、椅子から飛び上がらんばかりの勢いでカイルの手に詰め寄った。

 

「これは**『賢者の石』**。俺の世界では、神話の時代に作られたとされる究極の道具だ」

 

カイルが石を掲げ、エルンストの胸元にかざす。

「ベホマラー。」

 

カイルが呪文を唱えたわけではない。ただ、石に意志を込めただけだ。

瞬間、石から溢れ出したのは、この世の美しさをすべて凝縮したような黄金の波動。それはエルンストの痩せこけた体に入り込み、細胞の一つ一つ、魂の欠片の一つ一つを、完璧な状態へと書き換えていく。

 

「なっ……なななっ……!?」

フェルンが絶句して後ずさった。

エルンストの顔に赤みが差し、深い皺が魔法のように消えていく。止まりかけていた心臓が力強く鼓動を始め、枯れ果てていた魔力回路が、まるで大雨の後の小川のように、清らかなマナで満たされていく。

 

「馬鹿な……ありえない。対価は!? この膨大なエネルギーをどこから持ってきたの!?」

フリーレンが叫ぶ。彼女の視点は、回復した老人ではなく、カイルの手の中にある「石」に釘付けだった。

 

「対価なんてないさ。この石は、使うだけで『癒やし』という現象を無限に引き出す。何度使っても減らないし、使った奴の魔力も消費しない」

 

「無限……!? 質量保存の法則はどうしたの!? エントロピーの増大は!? カイル、それ、物理法則を根底から否定しているよ! 魔法は、世界に存在するエネルギーを形に変える技術なんだ。でもその石は、虚無からエネルギーを汲み出している!」

 

フリーレンの興奮は、もはや恐怖に近いものだった。

彼女にとって魔法は「積み上げられた理」だ。しかし、カイルが平然と使う道具は、その理の土台である「リソースの有限性」を無視していた。

 

【不老という名の毒】

エルンストは、信じられないという様子で自分の手を見つめ、立ち上がった。

「おお……体が軽い。まるで、50年前の自分に戻ったようだ。……これで、術式を完成させられる。村を救える!」

 

彼は涙を流してカイルに感謝し、そのまま狂ったように机に向かい、ペンを走らせ始めた。

しかし、その光景を見つめるカイルの表情は晴れなかった。

 

「……カイル。君、自分が何をしたかわかってる?」

フリーレンの声は、先ほどまでの興奮が嘘のように冷え切っていた。

 

「……ああ。老人を一人、現役に戻した」

 

「違うよ。君は、彼に『死という救い』を奪い、代わりに『無限の労働』を与えたんだ」

フリーレンは、書き物に没頭するエルンストの背中を指差した。

 

「彼は今、若返った喜びで動いている。でも、この世界の肉体は、魂の寿命に引きずられる。いくら『賢者の石』で器を修復しても、中身の魂は摩耗し続けるんだ。……君がその石を使い続ければ、彼は死ぬことさえ許されず、壊れた魂のまま働き続ける機械になってしまう」

 

カイルは言葉を失った。ドラクエのゲーム中では、賢者の石は最強の便利アイテムだ。何度使ってもパーティを癒やし、全滅を遠ざけてくれる。しかし、この「時間が残酷に流れる」フリーレンの世界において、リソースを無視した回復は、自然の摂理に対する冒涜に他ならなかった。

 

「フェルン。……君はどう思う?」

カイルが弟子の少女に問いかけると、彼女は悲しげに首を振った。

 

「……カイル様。私は、エルンスト様が元気になったことは嬉しいです。ですが、その石を見ていると、背筋が寒くなります。……それは、神様の領域です。人間が手にしていい対価ではありません。……ハイター様なら、きっとこう仰ったでしょう。『地道な努力と適切な休息こそが、女神様が人間に与えた最高の癒やしです』と」

 

カイルは、掌の中の石を見つめた。

黄金に輝くその石は、ただ静かに、持ち主の命令を待っている。

 

「……そうか。俺はまた、この世界のルールを無視して、結果だけを急いだんだな」

 

カイルはエルンストに近づき、その肩に手を置いた。

「……エルンスト。浄化の術式を完成させたら、もう休め。この石は、これ以上は使わない」

 

「え……? ああ、わかっております。……ですが、この力があれば、もっと多くの人を……」

 

「ダメだ。……これは、この世界にちゃっかり居座っている俺みたいな奴が、たまに使うから許される『ズル』なんだよ。あんたみたいな、真面目に生きてる人間が背負っていいもんじゃない」

 

カイルは石を、再び空間の裂け目へと隠した。

 

【等価交換の向こう側】

数日後。

若返った(正確には全盛期の肉体を取り戻した)エルンストの見事な手腕によって、村の地下水脈は完全に浄化された。

村人たちの歓声に見送られながら、一行は再び北への旅路につく。

 

「……ねえ、カイル」

並んで歩くフリーレンが、ふと口を開いた。

「その『賢者の石』。……解析させろとは言わない。でも、もし私が死にそうになったら、一回だけ使ってくれる?」

 

「……なんだよ、さっきはあんなに否定したくせに」

 

「だって、死ぬのは怖いもん。それに、まだ集めたい魔法がたくさんあるしね」

フリーレンは悪戯っぽく笑い、それから少しだけ真面目な顔になった。

 

「君の道具や呪文は、たしかにこの世界の理を壊す。でも……その『ズル』のおかげで救われる今日があることも、否定はしないよ。……ただ、次に使う時は、ちゃんと私に相談して。魔法使いとして、副作用を計算してあげるから」

 

「……ああ。頼りにしてるよ、師匠(せんせい)」

 

「……誰が師匠だよ」

 

フェルンが横で「もう、お二人とも仲がいいですね」と呆れながら、一行は夕暮れの街道を進んでいく。

カイルのアイテム袋には、まだ他にも「この世界の常識を粉砕する」道具が眠っている。

それをいつ、どのように使うべきか。カイルは、この世界の一員として、少しずつその「重み」を学び始めていた。




【カイルの現在のステータス】
カイル:Lv 28

【じゅもん】
攻撃: メラミ、ベギラマ、ヒャダルコ、バギマ、ライデイン、ザラキ
補助: スカラ、ルカナン、バイキルト、マホトーン、ピオリム
回復: ベホイミ、キアリー、ザメハ
移動: ルーラ、リレミト

【どうぐ】
賢者の石(NEW): 全員の体力を大幅に回復する。何度使っても壊れない。
魔法の聖水: 魔力(マナ)を少量回復させる。

【今話の呪文・道具詳細】
賢者の石:
ドラクエシリーズにおける伝説のアイテム。戦闘中に使用することで、味方全員にベホマラー(広域中回復)の効果をもたらす。この世界においては「マナを消費せずに、負の因果(ダメージや衰え)を正の因果(健康)へと強制変換する」という、熱力学第二法則を無視した存在。フリーレンはこれを「虚無からエネルギーを生成する永久機関」と見なし、極めて危険視している。

ベホマラー(石の効果):
対象を絞らず、一定範囲内のすべての友好的存在を同時に癒やす。フリーレン世界の回復魔法が「個別の傷への干渉」であるのに対し、これは「範囲内の生命エネルギーの総量を底上げする」というアプローチを取る。


嘘次回予告:第6話『パルプンテ、予測不能の混沌』
窮地に陥ったカイルが、最後の手段として放った「何が起こるか分からない」呪文。
空が割れ、時間が止まり、現れたのは……?
フリーレン「……カイル、もう怒る気も起きないよ」
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