【焦土の王】
北側諸国の最果て、標高5000メートルを超える「絶火連峰(ぜっかれんぽう)」。そこはかつて魔王軍さえも進軍を断念したと言われる、文字通りの地獄だった。
地表は常に赤く熱し、大気には毒性の火山ガスが立ち込めている。そしてその頂には、人類が魔法を手にする以前の時代から生き続ける、伝説の**「古の炎龍(アーシェント・フレアドラゴン)」**が棲まっていた。
「……フリーレン様、これ以上は……! 防御魔法のマナが持ちません!」
フェルンが悲鳴に近い声を上げる。彼女たちが展開している多層防御結界は、炎龍が放つ「ただの熱気」によって、端から蒸発するように削り取られていた。
この世界の魔法において、熱を防ぐには「逆位相の魔力で冷やす」か「物質的な障壁で熱を遮断する」しかない。しかし、炎龍の周囲の温度は数千度を超え、魔法で作り出した氷など、結界を抜ける前に水蒸気爆発を起こして霧散してしまう。
「……厳しいね。この熱は、もはやマナによる攻撃じゃない。この場所の『理(ことわり)』そのものが、生命を拒絶しているんだ」
フリーレンの額からも、滝のような汗が流れている。彼女はすでに数時間のあいだ、超高密度の耐熱結界を維持し続けていたが、その疲労は限界に近かった。
炎龍が、ゆっくりとその巨大な顎(あぎと)を開く。
その喉の奥には、太陽の核を思わせるような、白熱したマナの奔流が渦巻いていた。
「来るよ……! 最大出力の防御魔法を!」
フリーレンの叫びと同時に、炎龍が「劫火(ごうか)のブレス」を放った。
それは炎というよりは、物理的な質量を持った「熱の塊」だった。フリーレンの防御魔法に衝突した瞬間、視界はすべてが白に染まり、衝撃波だけで周囲の岩山が溶け落ちていく。
「……くっ……ああっ!!」
フェルンが膝をつく。結界に亀裂が入り、そこから入り込んだ熱風が、彼女たちの衣服を焦がし、肺を焼こうとしたその時。
カイルが、静かに二人の前に躍り出た。
「……耐えるだけの魔法は、もういいだろ。ここからは、俺の『設定』に任せてもらおうか」
【概念の断熱材】
カイルは杖を使わず、空を仰いで深く息を吸い込んだ。
彼の脳内で、ドラクエの戦闘ログが高速で流れる。対象:炎。種別:ブレス。必要なのは、属性耐性という「数値」の上書きだ。
「フバーハ……!!」
カイルの両手から放たれたのは、淡い翡翠色の風だった。
その風は、フリーレンの展開していた防御魔法の外側へ、薄い膜のように広がっていく。
瞬間、劇的な変化が訪れた。
それまで結界をミシミシと押し潰していた暴力的な熱圧が、嘘のように消え去ったのだ。
「……え? 熱くない……?」
フェルンが驚き、顔を上げた。
結界のすぐ外側では、依然として炎龍のブレスが激しく渦巻いており、岩石がドロドロの溶岩へと変わっている。しかし、カイルの放った翡翠の風に触れた瞬間、その「熱」という現象だけが、まるで最初から存在しなかったかのように無効化されていた。
「カイル、これ……何をしたの? 周囲の温度は下がっていない。なのに、私たちに届くエネルギーだけが……遮断されているなんてレベルじゃない。消えている(ロストしている)……!」
フリーレンが、目を見開いて風の境界線を観察する。
「フバーハ。……ブレスという攻撃概念を、一定割合で無力化する守護の風だ。これは熱を冷ましているんじゃない。俺たちの周りだけ、『炎の影響を受けない』というルールに変更したんだよ」
カイルはそのまま、さらに呪文を重ねる。
「マジックバリア。」
今度は紫色の幾何学模様が風に混ざり、炎龍がブレスの合間に放つ、超高位の追尾魔法をも霧散させていく。
カイルの「呪文」は、この世界の魔法使いが一生をかけて行う「術式の相殺」というプロセスを、たった一言で「無効」という結果に置き換えてしまった。
「……信じられません。これなら、あの炎龍の懐まで……無傷で近づけます」
フェルンが確信を持って杖を構える。
「フリーレン様、カイル様。……やりましょう」
「……そうだね。こんなに快適な火山観光は、千年生きてきて初めてだよ」
フリーレンの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
【二つの理の共鳴】
三人は、猛火の中を悠然と進み始めた。
炎龍は、自身の最大火力のブレスの中でも平然としている人間たちに、本能的な恐怖を感じたのか、その巨体を震わせて咆哮した。
「フリーレン、俺が『バイキルト』をかける! 最大の攻撃魔法を叩き込め!」
カイルが叫び、フリーレンの背中に紅い光を送り込む。
それと同時に、カイルは自分の魔力を極限まで振り絞り、最強の攻撃呪文の詠唱に入った。
「フェルンは足止めを! 左右の翼の関節を狙って!」
「了解です!」
フェルンの『一般攻撃魔法』が、これまでにない連射速度で炎龍の翼を撃ち抜く。本来、龍の鱗には魔法耐性があるが、カイルが事前に放っていた**「ルカナン」**の効果で、その鱗は脆いガラス細工のようになり、フェルンの魔力弾を次々と通していく。
炎龍が激痛に悶え、最後の一撃を放とうと喉を膨らませた。
だが、それよりも早く、二人の魔法使いがその「理」を解き放った。
「ギガデイン!!」
カイルが放ったのは、神罰の蒼い雷。それは炎龍の頭上から、空を裂いて一直線に突き刺さった。
ドラクエにおいて、雷(デイン系)は龍族に対する特効を持つ。炎龍の巨体が、電気を帯びた衝撃で硬直する。
「……終わらせるよ。ゾルトラーク。」
そこへ、フリーレンの放つ「魔王を殺す魔法」が重なった。
バイキルトによって破壊力を倍加させ、さらにギガデインによって魔力抵抗を剥ぎ取られた炎龍の胸元に、漆黒の魔力弾が吸い込まれていく。
――ズガァァァァァァァン!!
山全体が揺れるほどの爆発が起き、古の炎龍は、悲鳴を上げる間もなく光の塵へと還った。
後に残ったのは、静まり返った火口と、未だに翡翠色の風に守られた三人の姿だけだった。
【設定という名の壁】
戦いが終わり、カイルが「フバーハ」を解くと、一瞬にして猛烈な熱気が戻ってきた。
「うわっ、熱い熱い! ルーラで早く脱出するぞ!」
カイルが慌てて二人を抱き寄せ、瞬時に麓の涼しい草原へと転移した。
涼風が吹く草原。フェルンは草の上に座り込み、大きく息を吐いた。
「……カイル様。あの『フバーハ』という呪文。あれがあれば、魔族の使う広域殲滅魔法も、ただの風のようにやり過ごせるのではありませんか?」
「……理論上はな。だが、あまり頼りすぎるのも良くない。呪文の効果が切れた瞬間に、灰になるのは御免だ」
カイルが苦笑しながら答える。
フリーレンは、自分の手のひらを見つめていた。
「カイル。……今日の戦いで、確信したよ。君の力は、この世界の魔法の『上位互換』なんかじゃない。……もっと異質で、もっと決定的な何かだ」
フリーレンは、先ほど炎龍を倒した瞬間の感触を思い出していた。
「私のゾルトラークは、確かに強かった。でも、それは君が世界のルールを書き換えて、炎龍を『倒せる存在』に格下げしてくれたから届いたんだ。……君がいれば、どんな伝説の魔物も、ただの『設定された敵』に過ぎなくなる」
彼女の瞳には、カイルへの深い信頼と、それ以上の「魔法使いとしての畏怖」が混ざり合っていた。
「……私は、魔法が好きだよ、カイル。それが困難で、理不尽で、解明するのに一生かかるものだから。……でも、君の呪文は、その過程を全部『なかったこと』にする」
「……フリーレン。俺は、あんたの旅を台無しにするつもりはないんだ。ただ……」
「わかってるよ。君は優しいからね。……でも、少しだけ寂しいかな。私が一生懸命、熱に耐える魔法を研究してきた時間が、君の一言で追い越されてしまったみたいで」
フリーレンはそう言って、寂しげに、しかし慈しむように笑った。
「……さあ、行こう。炎龍がいなくなったおかげで、あそこの火口には千年に一度しか咲かない『焦熱の花』が咲いているはずだ。それを使って、新しい料理の魔法を作らなきゃ」
「……まだ魔法を集めるのか。あんたは本当にタフだな」
「当たり前でしょ。私は魔法使いなんだから」
一行は再び歩き出す。
カイルのステータスには、また新しい勝利の記録が刻まれている。
だが、彼が強くなればなるほど、この世界の「魔法」という物語が、少しずつ変質していくのを彼は感じていた。
クライマックスへの足音が、遠くから、しかし確実に響き始めていた。
【カイルの現在のステータス】
カイル:Lv 45
【じゅもん】
攻撃: メラゾーマ、ベギラゴン、マヒャド、バギクロス、イオナズン、ギガデイン
補助: フバーハ(NEW)、マジックバリア(NEW)、バイキルト、ルカナン、スクルト
回復: ベホマラー、ザオリク(封印中)、キアリー、シャナク
移動: ルーラ、リレミト
特殊: パルプンテ
【どうぐ】
賢者の石: 癒やしの光を放ち続ける不思議な石。
世界樹の葉: 生命を繋ぐ禁断の葉。(封印中)
不思議なボレロ(NEW): 呪文の使用による精神疲労(MP消費)を軽減する。
【今話の呪文・道具詳細】
フバーハ:
ドラクエシリーズにおける「ブレス耐性」を上げる呪文。フリーレンの世界では「熱」や「冷気」は物理的なエネルギーとして処理されるが、フバーハは「ブレス属性」というフラグを持つ攻撃に対し、一律でダメージを半減させる。そのため、物理的な断熱材や冷却魔法では防げない「概念的な高熱」をも平然と無力化する。
マジックバリア:
呪文耐性を高める障壁。フリーレン世界の魔法防御が「術式の構成」に依存するのに対し、これは「魔法的な攻撃による干渉そのもの」を確率で弾き飛ばす。
不思議なボレロ:
装備することで呪文の発動効率を高める魔法の衣。カイルがこの旅の中で、ある古城の宝物庫(空間転移で侵入)から手に入れたもの。カイルの持久力を飛躍的に向上させた。
嘘次回予告:第9話『メガンテ、自己犠牲の輝き』
絶体絶命の包囲網。フェルンとフリーレンを逃がすため、カイルが選んだのは、自身の生命すべてを魔力に変換する、最初で最後の自爆呪文。
フェルン「カイル様、ダメです! そんな魔法、絶対に認めません!」
カイル「……安心しろ。俺には、まだ『やり直す』方法があるかもしれないからな」