長命種パーティ、命と引き換えに守ったら千年後も病んでる   作:広路なゆる

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05.胃の負担

 死霊魔術の代償である痛みを、苦しみを全て請け負った。

 

 突き刺すような耐え難いと形容されるような激痛が全身を駆け巡った。

 

 だが、シオンにとって、それはとても吊りあうものではなかった。

 ミレアルナが自分のために費やした千年の重みに吊りあうなんて微塵も思えなかった。

 

 

 ぎぃええええええええ!!

 

 

 でも、痛いものは痛い。

 

 ◇

 

 ……!

 

 シオンの意識が浮上する。

 

 目を開けると、目の前には、ミレアルナの顔があった。

 死んだ魚のような目で見つめている。

 

 シオンは慌てて、飛び起きる。

 どうやら意識を失っている間に、膝枕をされていたようだ。

 

「あ、あなた、もしかして…………」

 

 そんなシオンにミレアルナは語り掛ける。

 

 死霊魔術の代償に他者が介入し、引き受けるなど普通は不可能だ。

 だが、その不可能を可能にするスキルをミレアルナは知っていた。

 自己犠牲スキル。

 事象の結果を挿げ替える。

 (ことわり)を歪める程の奥義と称されるスキル。

 そんな奇跡とも呼べる技が使える者など、生涯に渡って一人しか知らなかった。

 だから……、

 

「シオン……なの?」

 

 ミレアルナはそう尋ねた後で、我に帰ったように視線を逸らす。

 

「……ごめんなさいッ! そんなわけ……、魔物をシオンだと思うなんて、どうかしてるわ」

 

 ミレアルナはうな垂れて、両手で顔を覆う。

 

「本当に……どうかしてる」

 

 ……。

 

 そんなミレアルナの様子を見て、シオンは決断した。

 

 シオンは黒い粒子で構成された手の平で、ミレアルナの美しい髪にそっと触れる。

 

 ミレアルナは拒否反応を示すことなく、不思議そうに顔を上げた。

 

【ミレアルナ、もうこれ以上、苦しまなくていいんだ】

 

「え……」

 

 ミレアルナは目を丸くして、口はぽっかりと空いていた。

 ミレアルナの目に入ってきたものは、シオンが魔力を込めて、(くう)(つづ)った文字であった。

 シオンは続ける。

 

【だって、君の死霊魔術は既に成功しているのだから】

 

 異形の姿であっても、

 それが本当の幸せになるのかはわからなくとも、

 伝えなくてはいけないと思った。

 

【俺がシオンだ】

 

「っっ……!!」

 

 ミレアルナは両手で口を押える。

 

「シオン……、シオンなの? 本当にシオン? シオン、シオン、シオン、シオン、シオン……」

 

 涙が溢れ、頬は紅潮していた。

 眉は下がり、美しい顔はくしゃくしゃになる。

 

 そして、その瞳にはわずかに光が……、

 

「ごめんなさい、シオン」

 

 戻らなかった。

 

 え……? ごめんなさい……?

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私の死霊魔術が不完全なせいで、シオンがこんな醜い姿にッ。どうして? どうしてシオンばかりがいつもいつもいつもいつもいつもこんな残酷な扱いを受けるの?」

 

 あ、いや、確かに最初は驚いたけども、この姿も意外と悪くないかなと……。

 

「違うッ! それを引き起こしたのは紛れもなく私。魔術の才能もないゴミ以下の汚物」

 

 あの、不滅の魔女さん?

 あまり自分を責め過ぎずに……。

 

「しかも、前世であれほど後悔した自己犠牲スキルをまたしても使わせてしまうなんて」

 

 それは、なんか申し訳ない……。

 

「え、というか私、シオンに気付くこともできず、あまつさえ危害を加えようと……」

 

 いや、流石にそれは仕方ないかと……。

 

「ごめん、ごめんね、ごめんなさい、本当にごめんなさい、シオン」

 

 ミレアルナがシオンにしがみついてくる。

 なので、シオンは急いで、もう一度、メッセージを送る。

 

【俺は君に会えて嬉しい。ありがとう】

 

「…………こひゅっ」

 

 こひゅっ?

 

「こひゅっ、こひゅっ、こひゅっ」

 

 ミレアルナは正しい呼吸の吸い方を忘れてしまう。

 シオンは慌てて背中をさする。

 

「こひゅひゅっ」

 

 逆効果であった。

 

 シオンは吸う力を抑えるべく、ローブの襟でミレアルナの口元を覆う。

 

「…………すーはー、すーはー、すーはー」

 

 ミレアルナはローブに顔をうずめ、なんとか呼吸法を思い出す。

 

「なにからなにまで本当にごめんなさい……。でも、必ず……必ずあなたを元の姿に戻す方法を探し出すから。どんな手段を使っても、どんな犠牲を払っても、どれだけ時間が掛かっても……必ず見つけ出すからッ!」

 

 ミレアルナは必死の形相でシオンを見上げてきた。

 

 元の姿。

 シオンは必ずしも戻らなくてもいいかなと実はちょっぴり思ったけれど。

 

【僭越ながらご一緒させていただきます】

 

「ッ……! 本当に、本当にシオンだぁ……」

 

 ミレアルナの目尻からまた一粒の涙が零れ落ちる。

 シオンはまたミレアルナを泣かせてしまったことを少し後悔する。

 

 泣かせてしまった理由も理解していた。少し気障(きざ)だっただろうか。

【僭越ながらご一緒させていただきます】

 その返答は、千年前、ミレアルナに旅への同行に、誘われた時に返した言葉だったから。

 

 確かに未踏破ダンジョンへの挑戦前や、難敵との決戦前など、

 心労は絶えなかったけれど、

 旅はいつも新鮮だった。

 

 確かに俺の姿は少しばかり変わってしまったけれど、

 千年の時を超えて、新しい旅が始まる。

 そんな気がした。

 

【なぁ、ミレアルナ、楽しみだな。千年も経って、世界も結構、変わってるんだろう?】

 

 シオンは世界の諸行無常に思いを馳せる。が……、

 

「え? ……知らないけど?」

 

 ん?

 シオンは自身の耳を疑う。

 

「知らない。だって、千年間、ずっとここにいたのだもの」

 

 ミレアルナはさも当然のように、曇りなき曇った(まなこ)でシオンを見つめる。

 

 ……。

 前回の旅よりも更に胃の負担が大きそうだ。

 ……果たして胃はもつのだろうか。

 




【Tips】
胃痛ちゃん「ニガサナイヨ……」
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