機動戦士ガンダムF91 パン屋の俺が宇宙海賊になって、最推しのヒロインを処刑台から奪い去る話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

11 / 25
断罪の円盤、あるいは母の狂気

「……嘘だろ。母さん、なんで、こんなところに……」

 

Space Ark(スペース・アーク)の格納庫。薄暗いライトに照らされたその場所に、僕がずっと追い続けていた答えが立っていた。Strategic Naval Research Institute(サナリィ)の研究着を無造作に着崩した、見覚えのある後ろ姿。僕とReece Arno(リズ・アノー)を置いて、ガンダムという名の「狂気」に没頭していた、僕の母親——Monica Arno(モニカ・アノー)。

 

「シーブック? ……ああ、Bio-Computer(バイオ・コンピュータ)の稼働データは確認したわ。素人のあなたがここまで同調率を上げられたのは、予想外の収穫ね」

 

振り向いた母の第一声は、息子の無事を喜ぶ言葉じゃなかった。

 

「……収穫? 僕やリズがどんな目に遭ったか、母さんは分かってるのか!? セシリーがロナ家に連れ去られて、僕は、あんな人殺しの機械を動かして!」

「分かっているわ。だからこそ、このF91が必要なのよ。……これを見て」

 

母が端末を操作すると、モニターに不気味な自律兵器の設計図が浮かび上がった。BUGB-01(バグ)——。人間だけを感知して、効率的に、そして徹底的に「間引く」ための、回転するカッターを備えた小型円盤。

 

「コスモ・バビロニアは、これを使ってFrontier Ⅰ(フロンティア1)の住民を粛清しようとしている。……シーブック。あなたが今、セシリーさんを救いたいと思うなら、その感情をガンダムの回路に流し込みなさい。それが、このバグを止める唯一の鍵になる」

 

母の瞳は、どこまでも澄んでいて、同時にどこまでも狂っていた。彼女は知っているんだ。バイオ・コンピュータが、人間の「愛」や「怒り」を物理的な戦闘力に変換する装置であることを。そして、自分の息子がその触媒として最適であることも。

 

「……最低だ。母さんも、この機械も」

 

僕は吐き捨てるように言って、Gundam F91(ガンダムF91)のコクピットへと跳ね上がった。F91は全高15.2m、出力4890kW。この機体が極限まで小型化された背景には、軍縮下の地球連邦軍が求めた「維持コストの削減」と、Anaheim Electronics(アナハイム・エレクトロニクス)の大型機を時代遅れにする「高機動化」という戦略的意図がある。その性能を極限まで引き出すためのデバイスが、母の設計したバイオ・コンピュータだった。

 

「お兄ちゃん! 待って、行かないで!」

 

格納庫にリズの悲鳴が響く。母の冷徹な態度に怯え、震える手で僕の機体にしがみつこうとするリズ。僕はバイオ・コンピュータを起動させ、システムをリンクした。

 

「ごめん、リズ。母さんのことは、君が守ってあげてくれ。……僕は、僕のやり方で、全部終わらせてくる」

 

ハッチが閉じる。バイオ・コンピュータが、僕の孤独を冷徹な「空間認識能力」へと変換していく。カタパルトから射出されたF91の視界に、無数の光が映った。それは殺人円盤バグの群れだ。

 

「……させるかよ!」

 

僕はV.S.B.R.(ヴェスバー:Variable Speed Beam Rifle)のグリップを握った。機体のジェネレーターから直接エネルギーを供給されるこの新型兵器は、ビームの収束率と速度を自在に可変させる。一撃ごとに、バイオ・コンピュータを介して鉄の断末魔が僕の脳を焼く。

 

「——アンナマリー。君も、あんなバグを認めるのか!」

 

通信回線に割り込んできたのは、投降したAnnamarie Bruge(アンナマリー・ブルージュ)の悲痛な叫びだった。彼女は自分が愛した貴族主義が虐殺に成り果てたことに絶望し、今はXM-02(ベルガ・ダラス)を駆って僕たちを援護している。

 

「シーブック……! ザビーネが来るわ!」

 

アンナマリーの警告と同時に、バイオ・センサーが背後から迫る殺意を感知した。黒いXM-05(ベルガ・ギロス)。エースパイロット、Zabine Chareux(ザビーネ・シャル)。

 

「セシリーを、返してもらうぞ!」

 

僕はフィン・ノズルを全開にした。F91の肩部放熱フィンから高熱の排気が剥離し、虚空に僕の影を作り出す。M.E.P.E.(金属粒子剥離現象)——質量を持った残像。物理法則を無視した加速の中で、僕の意識はついに、フロンティア1の空を飛ぶXM-07(ビギナ・ギナ)——Cecily Fairchild(セシリー・フェアチャイルド)の姿を捉えた。

 

宇宙世紀0123年3月24日。

フロンティア1は、断罪の炎に包まれる。僕は母の呪縛を振り切り、セシリーという名の光を掴むために、戦場の中心へと飛び込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。