機動戦士ガンダムF91 パン屋の俺が宇宙海賊になって、最推しのヒロインを処刑台から奪い去る話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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コスモ・バビロニアの落日、あるいは一輪の花

「……見つけた。やっと、見つけたよ、セシリー」

 

僕の指先が、震えながらBeam Shield(ビーム・シールド)のスイッチを切った。

モニターの向こう側、漆黒の宇宙(そら)に漂う一輪の花。

それは、大破したXM-07(ビギナ・ギナ)から投げ出された、Cecily Fairchild(セシリー・フェアチャイルド)の姿だった。

 

宇宙世紀0123年3月。

Frontier Ⅰ(フロンティア1)を舞台にした断罪は、一機の巨大な化け物——XMA-01(ラフレシア)の爆発とともに、幕を閉じた。

出力31650kW、推力合計も計測不能なほどの怪物を操り、実の娘さえも「間引く」対象としてしか見られなかったKarozzo Rona(カロッゾ・ロナ)の狂気は、Gundam F91(ガンダムF91)の放った「質量を持った残像」の中に消えた。

 

F91が限界稼働時に見せるM.E.P.E.(金属粒子剥離現象)は、単なる放熱の結果ではない。Bio-Computer(バイオ・コンピュータ)による機体制御がパイロットの感情と完全に同調した際、MCA(マルチ・カセット・アクチュエーター)の表面から剥離した高熱の金属粒子が、敵の目視さえも欺く分身を形成する。これはサナリィの技術陣さえ予想し得なかった、バイオ・コンピュータという論理の籠が生んだ、ある種の奇跡だった。

 

代償はあまりにも大きかった。僕のバイオ・コンピュータは、オーバーヒート寸前の悲鳴を上げ、視界は真っ赤な警告音で埋め尽くされている。脳を直接焼かれるような激痛。それでも、僕はガンダムのハッチをこじ開けた。

 

「……シーブック……君……?」

 

通信機越しの、消え入りそうな声。

僕はノーマルスーツの噴射ノズルを使い、彼女のもとへと跳んだ。

無重力の空間で、僕の腕が彼女の細い腰を抱き寄せる。

ヘルメット越しに伝わってくる、微かな、けれど確かな彼女の鼓動。

バイオ・センサーを介さなくても分かる、セシリーという一人の少女の温もり。

 

「——バカだよ、シーブック君。あんなバケモノ相手に、死ぬかもしれなかったのに……」

「……死なないよ。僕には、守らなきゃいけない妹と、連れ戻さなきゃいけない『お姫様』がいるからな」

 

僕の言葉に、セシリーが僕の胸に顔を埋めて、子供のように泣き出した。

ロナ家の重圧も、高貴な者の義務(ノブレス・オブリージュ)も、今はここにはない。ただ、広い宇宙の中で迷子になっていた二人が、ようやく出会えた。それだけの、あまりにも純粋で、剥き出しの再会。

 

その時、遠くから一筋の光が近づいてくるのが見えた。

Reece Arno(リズ・アノー)たちが乗るSpace Ark(スペース・アーク)だ。

サーチライトの光が、僕たちの影を宇宙に長く伸ばす。

 

「お兄ちゃーん! セシリーさーん!」

 

外部スピーカーから、リズの泣き叫ぶような声が響く。

僕は、空いた方の手で、大きく手を振った。

リズ。僕は、帰るよ。

君の作った、あの不恰好だけど温かい夕食のある日常へ。

母、Monica Arno(モニカ・アノー)の遺した「狂気」を乗り越えて、僕は僕の人生を取り戻したんだ。

 

「……終わったんだね、全部」

セシリーが、僕の腕の中で空を仰いだ。

「いいや、これから始まるんだよ、セシリー。僕と、君と……リズの、新しい日常が」

 

なぜこの時代、これほどまでに過酷なMSの小型化競争が起きたのか。それは、形式化した地球連邦という組織を、ブッホ・コンツェルンという新興勢力が技術によるパラダイムシフトで打倒しようとしたからだ。だが、どれほど優れた数値を誇る兵器も、そこに宿る人間の意思までは計算できなかった。

 

宇宙世紀0123年3月下旬。

フロンティア・サイドに、束の間の、けれど本物の平和が訪れる。

僕はもう、ガンダムという名の「仮面」は必要ない。

これからは、自分の足で、大切な人たちの隣を歩いていくんだ。

 

宇宙の闇の中で、僕たちの繋いだ手が、どんな星よりも眩しく輝いていた。

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