機動戦士ガンダムF91 パン屋の俺が宇宙海賊になって、最推しのヒロインを処刑台から奪い去る話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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帰還の航跡、あるいは日常への再起動

「……キンケドゥ。見て。地球が、あんなに小さく見える」

 

Cecily Fairchild(セシリー・フェアチャイルド)の、震える声がヘルメットの通信越しに届く。宇宙世紀0133年。木星帝国(ジュピター・エンパイア)との、文字通り命を削るような最終決戦。僕——Kinkedo Now(キンケドゥ・ナウ)は、満身創痍となったCrossbone Gundam X1(クロスボーン・ガンダムX1)のコクピットの中で、彼女の機体を寄り添わせていた。

 

公式記録 U.C.0133年。歴史の教科書には、木星総統Crux Dogatie(クラックス・ドゥガチ)の野望が、宇宙海賊クロスボーン・バンガードの手によって阻止された年と記されることになるだろう。でも、そんな大きな歴史なんて、僕にはどうでもよかった。僕の目の前には、今、戦火を潜り抜け、ようやくBerah Rona(ベラ・ロナ)という重い仮面を脱ぎ捨てた一人の少女がいる。それだけで、僕が名前を捨て、海賊として生きた10年の歳月には、お釣りが来るほどの価値があったんだ。

 

「——キンケドゥ、聞こえる? こちらリズ! 補給艦の準備ができたよ! 早く戻ってきて。お兄ちゃんの焼いたパン、みんな待ってるんだからね!」

 

Reece Arno(リズ・アノー)の、どこか泣き出しそうな、でも精一杯明るく振る舞う声。僕はこの10年間、彼女を戦場という名の過酷な揺り籠で育ててしまった。かつて「ひまわり饅頭」を欲しがっていた小さな妹は、今やMother Vanguard(マザー・バンガード)のメカニックを束ねる、立派な海賊の娘だ。僕は、リズに、そしてこの船で出会ったすべての人たちに、一つの区切りをつけなきゃいけない。

 

「……リズ。今まで、ありがとな。僕は、もう大丈夫だ」

 

僕は、機体のBio-Computer(バイオ・コンピュータ)のメインスイッチを切った。漆黒の闇の中で、X1のツインアイが静かに消灯する。X1(型式番号:F97)は全高15.9m、出力5280kW。この機体がGundam F91(ガンダムF91)の系譜を受け継ぎながらも、高重力圏での格闘戦に特化したのは、当時の地球連邦軍が宇宙世紀0100年以降の「安定」を優先し、Anaheim Electronics(アナハイム・エレクトロニクス)社との利権構造に安住する中で、Strategic Naval Institute(サナリィ)が木星帝国の脅威という「不都合な真実」にロジカルに対処しようとした結果だった。それは戦士としてのキンケドゥ・ナウが、その役割を終えた瞬間だった。

 

「セシリー。いや、もうセシリーって呼んでいいんだよな」

「ええ。長かったわね、シーブック君。私、もう一度だけ、あの学校の屋上で食べた、あなたの不器用なサンドイッチが食べたいわ」

 

セシリーの言葉に、僕は思わず吹き出した。宇宙を救った英雄の最初の願いが、サンドイッチだなんて。でも、それこそが僕たちが命懸けで守り抜いた、ただの人間としての生活の正体なんだ。

 

公式設定によれば、この戦いの後、クロスボーン・バンガードは解散し、表舞台から姿を消す。Zabine Chareux(ザビーネ・シャル)は狂気の中に沈み、Europe Dogatie(エウロペ・ドゥガチ)もまた、木星の闇へと消えていった。生き残った僕たちに許されたのは、歴史に名前を残す名誉ではなく、名もなき市民として、誰にも邪魔されずにパンを焼く自由だけだ。

 

僕は、X1のコクピットから外を見た。遠くで、木星帝国の最終兵器ディビニダドの残骸が燃え尽き、星の屑となって散っていく。10年前に母、Monica Arno(モニカ・アノー)から託された「自分を捨てなさい」という言葉。僕はその通りに自分を殺し、そして今、ようやく新しい自分として息を吹き返そうとしている。

 

「——さあ、帰ろう、セシリー。リズ。僕たちの、新しい家へ」

 

僕は、愛機の操縦桿を静かに倒した。かつてのF91が残した質量を持った残像は、もうどこにもない。あるのは、ただ一歩ずつ、大切な人の隣を歩んでいく、確かな足跡だけだ。

 

宇宙世紀0133年。燃え尽きた翼を捨てて、僕は今、一人のただの男として、明日という名の扉を開ける。

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