機動戦士ガンダムF91 パン屋の俺が宇宙海賊になって、最推しのヒロインを処刑台から奪い去る話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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白き胎動、あるいは喪失のプロトコル

「……動け。動いてくれ、母さんのガンダム!」

 

僕は、まだ内装が剥き出しのコクピットで、必死にコンソールを叩いた。視界の端では、Reece Arno(リズ・アノー)がハッチの外で、今にも泣き出しそうな顔をして僕を見上げている。サナリィのドックで目にしたのは、神話から抜け出してきたような、白く鋭利な機械の塊だった。

 

Gundam F91(ガンダムF91)。

 

Bio-Computer(バイオ・コンピュータ)が起動し、コンソールのモニターが淡い緑色の光を放つ。その瞬間、僕の脳内に言葉ではない「何か」が直接流れ込んできた。機体の各部に配置されたセンサーが捉える、コロニー内の惨状。火災の熱、崩落する建物の振動、そして――。

 

「——シーブック君、危ない!」

 

Cecily Fairchild(セシリー・フェアチャイルド)の悲鳴が響く。ドックの天井を突き破り、XM-01(デナン・ゾン)の巨大な足が降りてきた。無機質なモノアイが、僕たちの避難場所を冷酷に照らし出す。

 

「……っ、こいつ!」

 

僕は反射的にレバーを引いた。F91が咆哮を上げるように姿勢制御バーニアを吹かす。

全高15.2m、出力4890kW。この数値は、従来の大型機であるRGM-89(ジェガン)の2倍以上のパワーを、より小さな体躯に凝縮していることを意味する。推力合計88400kg。MCA(マルチ・カセット・アクチュエーター)と呼ばれる、装甲自体に電子機器を埋め込んだ構造が、僕の「動きたい」という意思をタイムラグなしに巨大な鋼鉄の腕へと伝える。

 

なぜ連邦軍ではなくクロスボーン・バンガードが先にこの小型高機能化を実現できたのか。それは、AE(アナハイム・エレクトロニクス)との癒着に甘んじた連邦が、軍事予算縮小という現実から目を背けていたからだ。ロナ家はその隙を突き、既存のインフラに適合しつつ性能を極限まで尖らせるという、冷徹なまでのロジカルな解答を戦場に叩きつけたんだ。

 

「リズ、ロイ・ユング(ロイ)さん! セシリーを連れて避難してくれ!」

 

外部スピーカーから響く僕の声は、自分でも驚くほど冷徹だった。ガンダムに乗った瞬間、僕の中の「エンジニア」としての部分が、生存のための最適解を弾き出していた。

 

「お兄ちゃん! 行っちゃダメだよ、お兄ちゃん!」

 

リズが必死に手を伸ばすが、僕はスラスターを全開にした。ごめん、リズ。今、僕が戦わなきゃ、君のその手を一生握れなくなる。

ドックを飛び出した視界には、真っ赤な炎と黒煙に包まれたフロンティア4の街並みが広がっていた。そこにあるのは、萌えも日常も踏みにじる純粋な暴力だった。

 

「……許せない」

 

バイオ・コンピュータの表示が赤く染まる。デナン・ゾンがショット・ランサーを構えて突っ込んでくる。速い。でも、僕にはその動きがスローモーションに見えた。

 

「そこだ!」

 

ビーム・ライフルの一撃が、敵機の動力パイプを正確に撃ち抜く。衝撃波が神経を逆なでするように伝わってくる。これが、人殺しの感覚なのか。

その時、僕の直感が背後からの「意思」を感知した。モニターの中、黒い高級車から降り立ち、あの中世の騎士のような兵士たちに囲まれたセシリーの姿があった。

 

「セシリー……?」

 

彼女は抵抗していなかった。いや、抵抗できないほどの圧倒的な「血の重圧」に押し潰されていた。義父、Theo Fairchild(シオ・フェアチャイルド)が、勝ち誇ったような顔で彼女の肩を抱いている。

 

「シーブック君……さよなら」

 

通信機越しではない。脳内に直接、彼女の悲しげな声が響いた。これが、母のMonica Arno(モニカ・アノー)が言っていた、ニュータイプ的な「感応」なのか。

 

「待て! セシリー!」

 

ガンダムを向けようとしたが、行く手を3機のXM-05(ベルガ・ギロス)が遮った。クロスボーン・バンガードの精鋭、Black Vanguard(黒の部隊)。指揮官機であるベルガ・ギロスは出力3660kWを誇り、背部のシェルフ・ノズルによる圧倒的な旋回性能で僕の進路を封じる。

 

「セシリーを……返せ!」

 

僕は叫び、ビーム・サーベルを抜いた。けれど、彼女を乗せた車は、炎の向こう側へと消えていった。

 

宇宙世紀0123年3月16日、陽が傾き始めた午後。

フロンティア4は沈黙し、僕は一人の少女を失った。手元に残ったのは、母が遺した白い機械と、胸の中に空いた巨大な穴だけ。

 

「僕は……僕は、君を……」

 

F91のコクピットの中で、僕はただ無力さに打ち震えていた。バイオ・コンピュータが、僕の絶望を静かに戦闘データへと変換し続けていた。

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