■1日目①
気づけば主様の故郷、ライカードにいた。
キャリーとモーブはいる。主様の姿だけがない。
まずは街の様子を確かめようと大通りへ出たが、右も左も宿屋の看板ばかり並んでいる。道行く者に訊くと、この街では冒険者は宿屋以外に泊まれない決まりだそうだ。なんと家を持つ権利すらないらしい。
■1日目②
宿を探す。3軒回ったが、どの宿屋も客室は空いていて裏の馬小屋だけ満員である。藁の上に探索者が何十人も重なるように寝ていて、馬のほうが少ない。馬小屋は銭を取らないらしい。だから満員なのだろうとおもったが、ライカードで客室に泊まるようなものは軽んじられるとの事。主様からある程度話を聞いていたものの、やはり実際に接してみると文化の違いに驚くばかりである。
■2日目①
寺院に行ってみる事にした。酒場より先に寺院の場所を覚えておけと主様から言われていたからだ。これから先何度も何度もお世話になるらしい……。大通りの中央にある寺院へ赴くと、朝から血塗れの担架がいくつも運び込まれている。司祭を捕まえてこの国の法神の御名と教義について訊ねたら、死体からの蘇生と灰からの蘇生それぞれの寄付金の額が返ってきた。この国の拝金主義は徹底している様だ。
■2日目②
宿へ戻るとキャリーがお昼寝をしていた。かなり馴染んでいる。ただ、私はどうも慣れそうにない。今夜はベッドで眠りたい所だが、お金がないので私も馬小屋で寝る事になるだろう……。
■3日目①
飢えて死ぬ前に、街の北にある初級探索者向けの迷宮へ入って稼ぐ事にした。第1階層は湿った石壁の通路が続くばかりで、アヴァロンの第1階層とさして変わらない。小さい鬼のような魔物が2匹出たが、モーブが一太刀で斬り伏せた。特に問題はない。
■3日目②
通路の先に兎がいた。白くて耳が長く、丸い目でこちらを見ている。他の魔物たちと違って襲いかかってこない。モーブが捕まえて食べる事を提案してきた。良い案だと思う。かわいそうだが何せ二日も何も食べていないのだ。酒場かどこかへ持って行けば調理してくれるかもしれない。
でも──。
気付いた時には私たちは寺院にいた。
モーブと私、二人そろって死んでしまったらしい。キャリーが私たちを運んでくれたのかと思ったが、流石に二人は運べなかったとのこと。それに逃げるのが精いっぱいだった様だ。話を聞くと、どうやら私たちはあの兎に殺されてしまった様で、首を跳ね飛ばされたのだとか。そういえば主様は迷宮には首狩り兎が出てくるから気を付けろといっていたような気がする。私たちを寺院に運んでくれたのは、迷宮入口を守っていた衛兵たちらしい。浅い階層ならば死体を引き上げてくれるのだそうだ。冒険者はライカードの資産とのこと。蘇生の費用も初回は無料らしく、まさに到れり尽くせりである。キャリーと衛兵の皆さま、そして司祭様に感謝を。
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と、ここまで書いた所でわたくしは筆を置いた。
ここはライカードの中央区画にあるそこそこ小奇麗な宿屋である。馬小屋は──ない。冒険者向けではなく、一般市民向けの宿だ。お金もそれなりに掛かるが、ここ最近は連日迷宮を探索して多少懐の余裕もあり、私はこの宿を常宿とすることにした。モーブやキャリーはそれぞれ別の宿をとっている。彼らは馬小屋でも平気だそうだが、私は結局いつまでたっても余り慣れなかった。
まあお互い何処にいるかは何となく分かるため問題はない。この辺は理屈ではなく、主様が仰っていた精神の感応によるものだと思う。
それにしても蘇りの奇跡がこの街──いや、この世界では一食分の費用で行使されるだなんて。『命が安い』とは聞いていたが、いざその身に降りかかってみると、なるほど、主様の独特な死生観にも納得できる部分が多々ある。
わたくしもこれから何度も何度も死ぬのだろう……死にたくはないが、初心者向けの迷宮でいきなり死んでしまった身としては、今後は死なないなどとはとても言えない。
冒険者は己の死骸を積み重ねた分だけ強くなるそうだが、それも死に方次第だろう。気づいたら死んでいました、では強くなりようがない。せめて身になる死に方をしなければ。
……身になる死に方?
なんだか私も、主様に染まってきたのかもしれない……