空洞と火の粉 作:狐族だいすき坊や
「それで、あれからフォフォとはどうなったの?」
食事の約束をしていた同僚の寒鴉と最近出来た茶館へ向かっている途中、唐突にそんなことを聞いてきた。どうなったの──彼女の問いを頭の中で反芻する。何を訊きたがっているのかを文脈から推測する必要があった。
しかし、直前はフォフォが異例のスピードで出世したこと、それを受けて僕に次の任が命じられたことを話していただけだ。そこからどう繋がるのかがいまいち判然としない。
なので公的な師弟関係は解消されたと無難に答えた。
「そうじゃなくて……フォフォとはまだ会ってるの?」
この問いは簡単に答えられるので、僕は即座に否定した。
すると寒鴉は若干眉を顰めて口を開き、何も言わずにそっと閉じた。彼女の表情筋が仕事するのを初めて見た。姉といる時は結構喋ると聞いてはいたが、実際に目にするのは初めてだった。
「まさかあなた──」
彼女が何かを言いかけたその時、視界の端に見覚えのある緑を捉えた。フォフォ──名前を呼ぶと、彼女は肩をビクッと跳ねさせてゆっくりこちらを振り返った。少し表情が強張っているように見える。これから仕事があるのかもしれない。彼女の臆病かつ緊張しい性格は知っている。
「あ、き、きょ、教官……おひ、お久しぶりです……寒鴉様も」
どういうことだ、フォフォが38年前に初めて会った時くらいどもっている。飲み会からまだ一週間も経ってない。いったい何があったんだろう。それを訊ねても、フォフォは視線を彷徨わせて俯くばかりだった。それと呼応して寒鴉からの視線が鋭くなる。
この感覚には覚えがあるぞ。
また僕は何らかの社会的常識を見落としてしまっているらしい。70年経っても未だに同じ過ちを犯し続けているという事実に不甲斐なさを覚え、僕は溜息を吐いた。するとフォフォは弾かれたように顔を上げて怯えた表情を僕に向けた。
「ご、ごめんなさい……ごめん、なさい……」
瞳に薄い膜が張られていく。寒鴉が懐からハンカチを取り出して彼女に手渡す。フォフォはそれを受け取って、遂に目尻から零れ落ちた雫の痕を拭い、押さえ込むようにハンカチをぎゅっと両目に押し付けた。
いったい何が起きているんだ。
何か嫌なことでもあったなら遠慮せず言いなさい。
そう言ったところで、寒鴉が深い溜息を吐いて遮った。
「だいたい分かった」
なにがだ。
そう訊ねる前に、寒鴉はフォフォの肩に手を添え「少し話しましょう」と言って僕に背を向け歩き始めた。思わず呼び止めるも、寒鴉は振り返りもせず「今日の食事はキャンセルする」と言い残してその場を離れていった。
二人の背中が人ごみに紛れて見えなくなるまで僕はその場に立ち尽くしていた。
結局シッポは最後まで尻尾のままだった。