彩葉が8000年間の記憶をみたシーンのうち、琵琶を弾いている男性(権中納言藤原敦忠)が「逢ひ見ての後の心にくらぶれば~」と和歌を詠んでいる場面から妄想した話。
▼二人のやり取りを伝え聞いた誰かが歌物語にした物の一部……みたいなイメージです。
前半は擬古文で、後半に意訳した文をのせています。
なお、この作中で登場する枇杷中納言(敦忠の別名)の和歌は実際に彼が詠んだ歌です。
それ以外の和歌は私が詠んだものです。
※私は古語のネイティブスピーカーではないので、誤りがあるかもしれませんがお許しください。


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閲覧いただき有難う御座います。

もともと私が趣味としている短歌には、推しについて短歌を詠む“推し短歌”というジャンルがあります。
超かぐや姫!をみて以来、脳内に溢れかえった妄想をもとにヤチヨをテーマにした推し短歌を詠んだりしていたのですが、今回思い立って歌物語に仕立ててみました。

過去の権中納言藤原敦忠とのやり取りを伝え聞いた後世の誰かが書いた歌物語という設定です。

前半は古語で書いた擬古文、後半がその意訳文となっております。


古事拾遺物語逸文

 今は昔、はるかなる後の世より来たりし女ありけり。女、後の世に思ふ人を残して来にけり。行くへなくあり渡るとも、後の世に至りて、またその人に逢はむとぞ願ひをる。

 

 京にありければ、音羽川の水を(まか)する別業(べつぎょう)に、琵琶を弾き、歌など詠みて暮らしける心ある友なむ一人ありける。

 世の人、枇杷中納言となむいひける。

 ある時、枇杷中納言、西四条斎宮にて(さかき)の枝にさしておきける歌をおぼしいでて、女に聞かせけり。

 

 伊勢の海の千尋の浜に拾ふとも今は何てふかひ(貝/甲斐)があるべき

 

 聞きて女、しばしはもの言ひ()れぬさまにて、返しにもおよばざりけり。

 ややありて、涙のたへがたきをおさふるが如く、

 

 貝拾ふ千尋の浜に寄る波に濡れてを待たむ幾代()ぬとも

 

 とわななき詠みて返しけり。

 枇杷中納言、このさまをおぼえなく見つるに、いささか(あわ)つ。

 げに歌さへあはれ、心苦しとや思ひけむ。

 また枇杷中納言、

 

 物思ふと過ぐる月日も知らぬまに今年は今日に果てぬとか聞く

 

 しかうして、我は命短き(ぞう)なれば、いかでかあらむずらむ。そこの願いの満つを見る方なしといひけり。

 

 女、

 

 なよ竹の長き()に置くたまゆらの露の光の尊くもあるか

 

 詠みて、またいひけるに、ただひとたびの世にあればこそ、花の咲きては散るがごとく美しけれ。まいて、我忘れじ。後の世の人に種々(くさぐさ)おぼし語らむ。

 

 枇杷中納言、うち赤みたる目見のわたりに袖押しあてつつ、そこの思ふ人は、いかなる人ならむ。といひけり。

 女の歌どもを聞きて、ふとゆかしがりけむ。

 

 女、世と共に心のうちに耀(かがよ)ふて、我をさるべき方へみちびき給ふ。たとへば北辰の星ならむ。とやさしがりつつこたへけるとや。

 

 

 


 

 

 

 以下は意訳です。

 

 

 今は昔、はるかな未来からやって来た女がいた。

 その女は、未来に愛する人を残してきてしまったのだった。

 行くあてもなく古の時代から生き続けていたが、いつか未来でもう一度その人に会いたいと、強く願っていた。

 

 都に住むようになってから、音羽川の水を引き込んだ別荘で琵琶を弾いたり歌を詠んだりして暮らしている雅な友人が一人できた。

 世間の人はその人を「枇杷中納言」と呼んでいた。

 ある時、枇杷中納言は、自身が西四条斎宮で榊の枝に添えておいてきた歌を思い出し、女に聞かせた。

 

 伊勢の海の千尋の浜に拾ふとも今は何てふかひ(貝/甲斐)があるべき

 

(どれほど広い伊勢の浜で探し回っても、もう価値のあるものなど見つかるはずがない——失われたものは、もう取り戻せないのではないか)

 

 それを聞いた女は、しばらくは何も言えないようすで、返事もすぐにはできなかった。

 やがて、こらえきれない涙を押しとどめるような震えた声でこう詠んだ。

 

 貝拾ふ千尋の浜に寄る波に濡れてを待たむ幾代()ぬとも

 

(貝を拾う広い広い浜に寄せる波に濡れながら、涙に濡れながらでもずっと待つのです——たとえどれほどの年月が過ぎようとも)

 

 枇杷中納言は、思いがけないその様子を見て、少し慌てた。

 歌のあまりの切なさに、胸が締めつけられる思いがしたのだろうか。

 そして、さらにこう詠んだ。

 

 

 物思ふと過ぐる月日も知らぬまに今年は今日に果てぬとか聞く

 

(物思いにふけっているうちに月日の流れにも気づかず、気がつけば今年も今日で終わりだと聞く——人の時間はあまりに早く過ぎてしまう)

 

 そして言った。

 自分はただでさえ寿命の短い人間の中でも、とくに短命な一族の生まれだから、どうしてよいものか。あなたの願いが叶うところを、この目で見る術はないのだ、と。

 それに対して女は、こう詠んだ。

 

 なよ竹の長き()に置くたまゆらの露の光の尊くもあるか

 

(なよ竹の長い節のように長い世に宿る、ほんの一瞬の露の光——その儚い輝きのどれほど尊いことでしょう)

 

 そしてさらに、

「人の命は一度きりだからこそ、咲いては散る花ように美しい。だから、忘れない。そして未来であの人に、いろいろな思い出を話そうと思う」と言った。

 

 枇杷中納言は、少し赤くなった目元を袖で押さえながら言った。

「あなたが思っているその人とは、どんな人なのだろう」

 女の詠んだ歌たちを聞いて、ふと知りたくなったのだろうか。

 

 女は恥らいを含んだ柔らかな声で、

「いつもいつでも、絶えることなく私の心の中で輝いて、私をゴールまで導いてくれる存在。たとえるなら、北の空で輝いて旅人に道を示す北極星のようなもの——」と答えたという。

 


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