魔装機神ヴェネフィルディア   作:深雪ソーマ

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第十八話 初接触

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了解です。

第十八話を、原作キャラの口調を意識して書き直します。

今回は特に、

 

ミオは明るく、反応が早く、女の子らしい軽さを残す

マサキはぶっきらぼうだけど素直で、言葉を飾りすぎない

テュッティは落ち着いていて、丁寧だけど冷たすぎない

 

このあたりを意識して整えます。

 

第十八話 初接触

 

 西側監視線から戻った翌朝、水湊はいつもより早く起こされた。

 

 まだ眠気の残る頭で扉を開けると、そこにいたのはエリシアだった。もう完全に仕事の顔で、開口一番、短く言う。

 

「準備して。呼ばれてる」

 

「朝からか」

 

「朝だからでしょ。向こうも暇じゃないの」

 

 そう言って、廊下の方へ顎をしゃくる。

 

 急ぎなのかと聞こうとして、水湊はやめた。エリシアの顔を見れば、急ぎではないにせよ、待たせていい相手ではないことくらいはわかる。

 

 手早く支度を整え、部屋を出る。足元ではナインがいつも通り影に潜んでいる。

 

『緊張してる?』

 

「少しな」

 

『少しで済んでるなら、まだ大丈夫だね』

 

 そういう問題なのかは怪しい。

 

 案内されたのは、王城外縁の応接室だった。謁見の間ほど大げさではないが、私的な話をするには広く、公的な話をするには近すぎる。こういう部屋がいちばん落ち着かない。

 

 中には、すでにアッシュとセレニアがいた。壁際にはレオンの姿もある。

 

「座れ」

 

 アッシュに促され、長机の片側へ腰を下ろす。

 

 水湊が口を開く前に、セレニアが簡潔に告げた。

 

「西側の件、先方にも共有したわ」

 

「先方、ね」

 

「隠しても意味のない相手、ってことよ」

 

 それなら名前を出さなくてもわかる。

 

 風の魔装機神。

 その操者。

 

 水湊は小さく息を吐いた。

 

「で、俺は何をする」

 

「顔を合わせる」

 

 アッシュの答えは短かった。

 

「それだけ?」

 

「今のところはな」

 

 それだけ、と言うにはずいぶん重い。

 

 レオンが腕を組んだまま言う。

 

「西側の異常が、向こうの動きと無関係とは言い切れなくなった。なら、現場に出る側同士で一度は顔を繋いでおいた方がいい」

 

「主戦線に混ぜる気はないんだろ」

 

「ない」

 

 アッシュが即答する。

 

「そこは変わらん。だが、何も知らんまま別々に動く方が危ない」

 

 そこまでは理解できる。

 

 王城の都合。軍の都合。裂け目案件の都合。全部をまとめれば、今がその時なのだろう。

 

 けれど、水湊の中では別のところが少しざわついていた。

 

 会うのか。

 とうとう。

 

 神の前でこの世界を選んだ時から、いつかはそうなると思っていた。むしろ、いつまで会わずに済むんだろうと思っていたくらいだ。けれど、実際にその時が近づくと話は別だった。

 

 知っている名前が、知っているはずの人物が、現実の向こうから歩いてくる。

 

 その感覚は、思っていたより落ち着かなかった。

 

『顔、固いよ』

 

 ナインが言う。

 

「うるさい」

 

『でも楽しみなんでしょ』

 

「それだけじゃない」

 

『だろうね』

 

 そこで、扉が二度叩かれた。

 

 セレニアが「どうぞ」と応じる。

 

 最初に入ってきたのは、見覚えのある落ち着いた顔だった。

 

 テュッティ・ノールバック。

 

 その後ろから、ぱっと明るい空気が部屋へ入ってくる。

 

「失礼しまーす」

 

 ミオ・サスガだった。

 

 小柄で、軽くて、部屋の空気に遠慮しない。けれど無神経というほどでもない。その加減が、いかにもミオらしかった。

 

 そして最後に入ってきた人物を見た瞬間、水湊の息が一瞬止まる。

 

 黒髪。少し吊り気味の目。気負いのない立ち方なのに、そこにいるだけで空気が変わる。

 

 マサキ・アンドー。

 

 知っていた。

 知っていたけれど、目の前にいるとまるで違う。

 

 ゲームの向こう側にいた名前が、ちゃんと人としてそこに立っている。

 その現実感が、思ったより重かった。

 

 ミオがいちばん最初に水湊を見た。

 

「へえ、この人がそうなんだ」

 

 ぱっとした言い方だった。

 

 テュッティがすぐにやわらかくたしなめる。

 

「ミオ、先に挨拶でしょう」

 

「あ、そっか」

 

 ミオは悪びれもせず、にっと笑って水湊へ向き直った。

 

「はじめまして、ミオ・サスガです」

 

 その明るさに少しだけ救われる。

 

 水湊も立ち上がり、軽く会釈した。

 

「久遠水湊です」

 

「うん、聞いてる聞いてる」

 

 そう言ってから、ミオは横目でマサキを見る。

 

「ほら、マサキも」

 

「急かすなよ」

 

 少し面倒そうに言いながら、マサキが一歩前へ出る。

 

「マサキ・アンドーだ」

 

 飾らない名乗りだった。

 

 その何でもなさが、逆に現実味を強くする。

 

「……よろしく」

 

 水湊はそれだけ返すのが精一杯だった。

 

 マサキはそこで少しだけ首を傾げる。

 

「おまえさ」

 

 嫌な予感がした。

 

「なんか、変な緊張してないか」

 

 鋭い。

 

 水湊は一瞬だけ言葉に詰まり、それから小さく息を吐いた。

 

「有名人に会ったら、普通こうなるだろ」

 

 嘘ではない。

 全部でもないけれど。

 

 マサキは数秒こちらを見て、それ以上は追及しなかった。

 

「まあ、そう言われりゃそうか」

 

 そこで止めてくれるあたり、妙に助かる。

 

 テュッティが長机の方へ歩み寄る。

 

「今日は顔合わせが主目的です。西側で発生した異常について、こちらと王城側で認識を揃えるために来ました」

 

 その言葉で、場の空気が仕事のものに戻る。

 

 やはり最初から近すぎる距離ではない。

 王城預かりの特殊案件操者と、現場で動いてきた側との初顔合わせ。

 それくらいが自然だった。

 

 セレニアが書類を机上へ広げる。

 

「西側監視線の件は共有済みよ。今日ここで確認したいのは、そちらが見たものと、こちらが見たものの差」

 

 レオンが記録を示す。

 

「風の魔装機神が動いた直後に、近傍で別の異常が出た。最初は余波かと思ったが、久遠水湊の確認で別種の綻びの可能性が高くなった」

 

 ミオが記録を覗き込みながら目を丸くする。

 

「じゃあ、サイバスターが原因ってわけじゃないんだ?」

 

「少なくとも、それだけじゃない」

 

 水湊が答えると、ミオは「ふうん」と小さく唸った。

 

 マサキがそこで初めて、少し身を乗り出す。

 

「どう違ったんだ」

 

 その聞き方はまっすぐだった。

 

 水湊は少しだけ言葉を選ぶ。

 

「風が通った感じはあった。でも、そのあとに別の歪みが重なってた」

 

「重なってた?」

 

「ああ。風の流れとは馴染んでない感じだった」

 

 マサキの目が細くなる。

 

「余波じゃなくて、後からそこに何かあったってことか」

 

「そんな感じだ」

 

 答えると、マサキは短く頷いた。

 

「なるほどな」

 

 テュッティが静かに引き取る。

 

「西側の件は、戦闘そのものとは切り分けて見るべきでしょうね」

 

「王城もそう判断してるわ」

 

 セレニアが頷いた。

 

「だから今日の場を作ったの」

 

 そこからしばらく、机の上で記録と確認が続いた。

 

 マサキ側が見た戦闘時の流れ。王城観測班が拾った術式反応。水湊が感じた“別の綻び”。完全には一致しない。けれど、ずれているからこそ見えてくるものがある。

 

 話が一段落したところで、ミオがふと水湊を見た。

 

「ねえねえ」

 

「何だ」

 

「なんかさ、さっきからちょっと変だよね」

 

 やっぱり来たか、と思う。

 

「どのへんが」

 

「緊張してるのはわかるんだけど、それだけじゃない感じ。なんていうか……会う前から知ってた人に会った、みたいな顔してる」

 

 鋭い。

 しかも言い方が妙にやわらかいぶん、余計に逃げにくい。

 

 テュッティがわずかに目を細めたが、口は挟まない。マサキも無言のままこちらを見ている。

 

 水湊は少しだけ視線を逸らし、それから苦笑した。

 

「……それは、まあ」

 

「まあ?」

 

 ミオが小首を傾げる。

 

「会う前から、名前くらいは知ってた」

 

 それは本当だ。

 嘘ではないし、言いすぎてもいない。

 

 マサキがそこで肩をすくめた。

 

「俺のことなんか、わりと知られてるしな」

 

「そうだねー、有名人だもんね」

 

 ミオがあっさり乗る。

 

 そこで流してくれたのは、たぶん助け舟だった。

 

 水湊が少しだけ息を抜くと、ナインが影の中でぼそりと言った。

 

『危なかったね』

 

「うるさい」

 

 思わず小声で返してしまい、ミオがぱっと身を乗り出す。

 

「あ、いまファミリア?」

 

「ああ」

 

「やっぱりしゃべるんだ。いいなあ、ちょっと会ってみたいかも」

 

『元気な子だね』

 

「会わなくていい」

 

『冷たいなあ』

 

 それをそのまま口にすると、ミオがくすっと笑った。

 

「ほんとにしゃべるんだ。面白いね」

 

 その一言で、場の空気が少しだけやわらぐ。

 

 マサキが口元をわずかに動かした。

 

「変わったやつだな」

 

「そっちに言われたくない気もする」

 

 言ってから、しまったと思った。

 

 だがマサキは嫌そうな顔をせず、むしろ少しだけ笑う。

 

「それはそうかもな」

 

 意外だった。

 でも、そのやり取りで肩の力が少し抜けたのも確かだった。

 

 知っている名前だからといって、勝手に近づきすぎるのは違う。

 でも、必要以上に壁を作るのも違うのかもしれない。

 

 アッシュが話を戻す。

 

「とにかく、西側の件は今後しばらく共同で見る。主戦線はそちら、裂け目と位相異常はこっちが主に追う」

 

「役割分担ってことね」

 

 ミオが頷く。

 

「そうだ」

 

 アッシュも短く返す。

 

「混ぜるより、その方が早い」

 

 マサキも異論はないらしかった。

 

「こっちも、そっちの仕事に口出す気はねえよ」

 

 その言葉は、水湊にとって思ったより大きかった。

 

 張り合うでもなく、見下すでもなく、ただ役目が違うと受け取っている。

 それだけで十分だった。

 

 会談は長くは続かなかった。

 

 今日はあくまで初顔合わせで、細かい協議より“認識を揃える”ことが優先だったのだろう。

 

 席を立つ前、テュッティが静かに言った。

 

「久遠水湊」

 

「はい」

 

「あなたが何を知っていて、どこまで見えているのか、いま全部を聞くつもりはありません」

 

 穏やかな声だった。

 

「けれど、こちらも知らないものを相手にしているのは同じです。必要な時は、遠慮なく伝えてください」

 

 その言葉は、思っていたよりずっとまっすぐだった。

 

 水湊は小さく頷く。

 

「わかりました」

 

 最後に、マサキがこちらを見る。

 

「また会うだろ」

 

 当たり前みたいに言う。

 

 たぶん、本当にそうなのだろう。今日だけで終わる相手ではない。

 

「……だろうな」

 

「その時は、もうちょい力抜いとけ」

 

 そう言って、マサキは先に歩き出した。

 

 ミオがその後ろから手を振る。

 

「じゃあね、水湊くん。またねー」

 

 テュッティは静かに一礼し、三人は部屋を出ていった。

 

 扉が閉まると、ようやく静けさが戻った。

 

 水湊はその場で、小さく息を吐く。

 

『どうだった?』

 

 ナインが言う。

 

「思ってたより、ちゃんと現実だった」

 

『何それ』

 

「いや……もっと、こう」

 

 言葉にしづらい。

 

 知っていた名前。知っていた顔。

 でも実際に会ってみたら、知識の中の人物というより、もっと生っぽかった。

 

 強くて、気安くて、でもちゃんと現場の重さを背負っている。

 そんな当たり前のことに、いまさら少し驚いている自分がいた。

 

 エリシアが隣で呆れたように言う。

 

「だから言ったでしょ。変な顔するなって」

 

「してたか?」

 

「かなり」

 

「かなり、か」

 

「かなりよ」

 

 そこまで言われると、もう否定する気もなくなる。

 

 けれど、悪い初対面ではなかった。

 少なくとも、そう思えた。

 

 そして同時に、水湊はもう一つはっきり感じていた。

 

 サイバスターとマサキの物語は、ちゃんとそのままそこにある。

 自分はそこへ割り込むために来たのではない。

 ただ、別の場所で同じ世界の綻びに触れている。

 

 その線引きが、今日ようやく現実の中で確かめられた気がした。

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