魔装機神ヴェネフィルディア   作:深雪ソーマ

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第四話 鐘の鳴る街

 警戒鐘は、低く重い音を何度も街門へ叩きつけていた。

 

 門の上の見張りたちが一斉に動き出し、石壁の上を兵士が駆ける。街の内側では人のざわめきが遠く広がり、普段の喧噪とは明らかに違う緊張が空気に滲んでいた。

 

 エリシアが即座に振り返る。

 

「アッシュ隊長!」

 

「聞こえている」

 

 緑の魔装機の外部スピーカー越しに返る声は落ち着いていた。だが、その落ち着きは悠長さではない。迷いを切り捨てた後の静けさだ。

 

「門を開けろ。第三警戒で突入する」

 

 すぐに門上から返答が飛ぶ。

 

「内側で位相異常発生! 南市場区画、二重裂け目を確認! 一般市民の退避が間に合っていません!」

 

 その報告で、隊列の空気が一段と重くなる。

 

 二重裂け目。

 

 さっき街道で見たものより、さらに悪い。水湊にもそれはわかった。街の内側から伝わってくるざわつきが、薄いどころではない。空間が何枚も無理に重ねられて、どこかで軋んでいる感じがする。

 

 胸の奥へ、冷たい意志が落ちる。

 

 内側の方が深い。

 

 ヴェネフィスだ。

 

 短い。それだけなのに、水湊の背筋が自然と伸びた。

 

 アッシュがこちらを見た。

 

「事情聴取は後回しだ。久遠水湊」

 

 いきなり名前を呼ばれ、水湊は少しだけ目を見開く。

 

「いまは戦えるか?」

 

 問いは単純だった。

 

 疑いも警戒も、その声の中から消えたわけではない。だが少なくとも、いまこの瞬間はそれより優先すべきことがあるという判断が透けて見える。

 

 水湊は一瞬だけ考えた。

 

 ここで断る理由はない。むしろ断ったところで、状況は悪くなるだけだ。何より、街の中に裂け目が開いているのなら、放置できるはずがなかった。

 

「戦える」

 

 答えると、アッシュは一拍だけ置いて頷いた。

 

「なら協力しろ。エリシア隊は住民保護を優先。私と第一小隊で中心部を押さえる。所属不明機――」

 

 そこで彼はわずかに言葉を切り、水湊へ目を向けた。

 

「……いや。ヴェネフィルディアは私と来い」

 

 エリシアがすぐに口を開きかけた。

 

「隊長、それは――」

 

「嫌ならここで縛っておくか?」

 

 アッシュの返しは淡々としていた。

 

「だが、その間にも裂け目は広がる。選ぶなら今だ」

 

 エリシアは奥歯を噛むように沈黙し、そして大きく息を吐いた。

 

「……了解。責任は取ってもらいます」

 

「当然だ」

 

 石の軋む重い音とともに、街門が開き始めた。

 

 内側から熱を帯びた風が吹き込む。焦げた匂い、砂埃、そして濃い魔力の匂い。門の隙間が広がるにつれ、街の様子が見えてきた。

 

 南市場区画と呼ばれたあたりだろう。石造りの建物が並び、広場には屋台や荷車が散乱している。その中央付近で、空間が縦に裂けていた。

 

 しかも一つではない。

 

 大きな裂け目が一本、その脇にやや小さな裂け目がもう一本。互いに干渉し合うように明滅し、その周囲の建物の輪郭までぐにゃりと歪ませている。逃げ遅れた人々がまだいる。子どもを抱えた女、足を怪我した老人、倒れた荷車の陰にしゃがみ込む商人たち。

 

 そこへ、すでに魔物が出ていた。

 

 街道で見た灰色の異形よりさらに鈍重で、だが明らかに大きい。四足の獣に近いが、背中から人の腕のようなものが何本も突き出している。口にあたる部分は横に裂け、青い燐光を垂れ流していた。

 

「うわ……」

 

 思わず漏れた声に、ナインが影の中で低く返す。

 

『あれは見た目からして近づきたくないね』

 

「同感だ」

 

 アッシュの指示が飛ぶ。

 

「第一小隊、右へ展開! エリシア隊、避難路確保! ヴェネフィルディアは中央の大裂け目側を抑えろ!」

 

 ラングラン軍の魔装機が一斉に散る。さすがに動きが早い。街道での小隊戦よりずっと洗練されている。濃紺の機体が前へ出て、左側から迫っていた魔物の進路を塞ぎ、後続の機体が建物の陰へ走る人々を庇うように位置を取った。

 

 エリシアは杖を振り上げ、鋭く叫ぶ。

 

「南通りを開けなさい! 動ける人は負傷者を連れて下がって!」

 

 その声が意外なくらいよく通る。恐慌に呑まれかけていた人々が、少しだけ動きを取り戻した。

 

 水湊はヴェネフィルディアを前へ出す。

 

 門をくぐるその瞬間、空気が変わった。

 

 外から見ていた時より、裂け目のざわつきがはっきりと皮膚の裏を刺してくる。視界のあちこちで建物の輪郭が揺れ、地面の石畳がところどころ別の角度に重なって見えた。これはまずい。時間が経てば経つほど、街そのものが壊れる。

 

 そして大裂け目の奥から、さらにひとつ、重い気配が立ち上がる。

 

『来る』

 

 ナインが短く告げる。

 

 同時にヴェネフィスの意志が落ちた。

 

 先に人を退かせろ。

 

「エリシア!」

 

 外部スピーカー越しに水湊が叫ぶと、女魔術師が即座にこちらを見る。

 

「なんで――」

 

「大きいのが来る! 市場の真ん中を空けろ!」

 

 根拠を説明している暇はなかった。だが、エリシアは一瞬迷っただけで、水湊の声に乗った。

 

「中央広場を捨てる! 東側へ退避、急いで!」

 

 兵士たちが動く。避難の流れがずれ、市場の中央がわずかに空く。そのタイミングを狙ったように、大裂け目が大きく開いた。

 

 現れたのは、異様な上半身だった。

 

 まるで鎧を着込んだ人型の上半身だけが、巨大な獣の胴へ無理やり縫い付けられているような姿。両肩には刃のような突起があり、腕は四本。顔はなく、頭部中央に縦長の穴だけが開いている。その奥で深い青い光が蠢いていた。

 

 市場の中央へ落ちるように着地したそいつは、建物を揺らしながら身を起こす。

 

 高い。

 

 ヴェネフィルディアより、ほんの少しだけ大きい。

 

 背後で誰かが息を呑んだ気配がした。ラングラン側の兵でも、これは想定外なのだろう。

 

 だがアッシュの声は乱れない。

 

「中央目標をヴェネフィルディアと私が取る! 他は裂け目周辺の小型を押さえろ!」

 

 緑の魔装機が滑るように前へ出る。その動きは鋭く、無駄がない。装甲こそ落ち着いた色だが、中身はかなり機敏だ。右手に短槍のような武装を展開し、巨獣型の脇を狙って踏み込む。

 

 だが敵も鈍くはない。四本の腕のうち二本が、まるで見えていたかのように槍を弾いた。残る二本がそのままアッシュの機体を掴みにかかる。

 

「させるかよ!」

 

 水湊は反射的に前へ出た。

 

「転界《シフト》!」

 

 景色が白く抜ける。次の瞬間には、ヴェネフィルディアが敵の真横へ滑り込んでいる。間髪入れず右拳の前に小さな門が開く。

 

「穿門打《ゲートナックル》!」

 

 白銀の拳が光輪へ沈み、敵の脇腹すぐ横から現れる。轟音とともに拳がめり込み、巨体が大きくよろめいた。掴みかけていた腕が外れ、アッシュの機体が自由になる。

 

「……助かった」

 

 短い礼が通信越しに届く。

 

「そっちも頼む!」

 

「言われなくても!」

 

 アッシュの機体が姿勢を立て直し、今度は低い軌道から敵の脚部へ槍を突き込んだ。狙いが的確だ。動きを止めるための刺突。敵が体勢を崩したところへ、水湊は裂界剣を引き抜く。

 

 胸の奥へ、短い意志。

 

 浅い。

 

 すぐに理解した。いまのまま斬っても装甲だけで止まる。

 

「ナイン!」

 

『了解!』

 

 影の中から白銀の残像が三つ、四つと散る。市場の屋根、崩れた荷車、石柱の陰。小さな白い影が瞬時に敵の周囲へ位置取り、青白い座標点を刻んでいく。

 

 同時に、ヴェネフィスの冷たい感覚が流れ込む。

 

 繋ぎ目を裂け。

 

 敵の身体のどこかではない。位相の継ぎ目。装甲と異形の肉が噛み合っている、その境界だ。

 

 水湊は剣を構え直した。

 

「開門《ゲート》、小規模連結!」

 

 剣の軌道の先に、細い門がひとつだけ開く。刃先がそこへ入り、敵の肩口、座標点のひとつから現れる。

 

「裂界剣《スプリットセイバー》!」

 

 一閃。

 

 白銀の刃は肩装甲を断つのではなく、その下にあった“継ぎ目”を裂いた。敵の右上腕が付け根からねじれるように外れ、青い火花を撒き散らして落ちる。

 

 巨獣型が初めて声らしきものを上げた。

 

 咆哮ではない。裂け目そのものが鳴くような、不快な金属音だった。市場の窓ガラスが一斉にひび割れる。

 

 その音に煽られたのか、小裂け目の方から灰色の小型が二体、三体と滲み出した。

 

「数が増える……!」

 

 ルーミアの悲鳴じみた声が飛ぶ。

 

 アッシュが即座に指示を飛ばす。

 

「第二列は小型を止めろ! 中央をヴェネフィルディアから離すな!」

 

 その声に合わせてラングラン側の機体が動く。濃紺機が前へ出て小型の一群を受け止め、エリシアの魔法が上から落ちる。炎ではない、青白い圧縮光だ。魔法体系の違いはわからないが、少なくとも威力は高い。

 

 水湊は巨獣型へ集中しようとして――そこでひやりとした。

 

 敵の残る三本の腕のうち一本が、こちらではなく東側の避難列へ向いている。

 

 まだ退避しきれていない子どもが二人、石壁の陰で立ち尽くしていた。

 

「しまっ――」

 

 考えるより先に、ヴェネフィルディアが動く。

 

 いや、動かされたのではない。胸の奥の冷たい意志と、自分の焦りがぴたりと重なったのだ。

 

 守る。

 

 その一念だけで、世界が狭まる。

 

「シフト!」

 

 短距離座標移動。ヴェネフィルディアが子どもたちの前へ滑り込み、同時に位相障を展開する。振り下ろされた腕が透明な膜を叩き、耳障りな音とともに逸れて石畳を砕いた。

 

 衝撃が腕から胸へ伝わる。

 

 重い。さっきまでの敵より、明らかに一撃が深い。

 

 それでも押し切らせない。子どもたちが悲鳴を上げながらも後ろへ転がる気配があった。間に合った。

 

『水湊! 正面!』

 

 ナインの警告と同時に、巨獣型の頭部中央が大きく開く。縦長の穴の奥に、濃い青が渦を巻いている。砲撃が来る。

 

 回避に回すか、防ぐか。迷った一瞬を、ヴェネフィスの意志が刺し貫いた。

 

 挟め。

 

「……っ!」

 

 水湊は咄嗟に右手を開く。敵と自分の間ではなく、敵の口元とその少し先。二枚の小さな門を斜めに噛み合わせる。

 

「位相障……いや、門で逸らす!」

 

 放たれた青い奔流が、最初の門へ突き刺さる。まともに受ければ抜かれる。だが門は盾ではない。流れを少しだけ曲げるための位相の継ぎ目だ。

 

 光が曲がる。

 

 そのまま二枚目の門を抜け、砲撃は斜め上へ跳ねた。市場の塔の上部を抉り飛ばしながら、空しく岩盤の方へ消えていく。

 

 アッシュの声が通信越しに響いた。

 

「いい判断だ!」

 

 褒められている余裕はない。だが、その一言でこちらのやり方を理解しているのがわかった。

 

「いま、頭が空いた!」

 

「ならもらう!」

 

 アッシュの緑機が深く踏み込み、短槍を敵の喉元へ突き込む。装甲ではなく、開いたばかりの口の下。そこに走っていた継ぎ目へ、槍が正確に食い込んだ。

 

 巨獣型が大きく仰け反る。

 

 水湊は逃さない。

 

「ナイン、中央固定!」

 

『もうやってる!』

 

 白い残像が一瞬だけ九つに見えた。

 

 錯覚か、それとも出力の一瞬の跳ね上がりか。市場のあちこちへ散っていたハイ・ファミリアの座標点が、敵の胸部中央へ一斉に収束する。

 

 そこだ。

 

 そこが、裂け目とこの怪物を繋いでいる核だ。

 

 胸の奥の冷たい意志が、静かに落ちる。

 

 断て。

 

 水湊は剣を振りかぶった。

 

 白銀の刃が、空間そのものを噛んで唸る。門がひとつ開き、刃先が半歩だけ別位相へ沈む。次の瞬間、それは敵の胸部中心へ真っ直ぐに現れた。

 

「――裂界剣!」

 

 振り下ろした刃は、装甲ではなく存在の継ぎ目そのものを断った。

 

 巨獣型の身体が止まる。

 

 胸の中央から、青白い亀裂が一気に全身へ走った。腕が、胴が、獣の脚が、別々の位相へずれていくようにほどける。

 

 最後に、音もなく崩れた。

 

 巨体が灰と光の粒になって消えると同時に、大裂け目が激しく揺れた。

 

 水湊は息を整える暇もなく両手を広げる。

 

「ゲート、閉鎖補助!」

 

 ナインの座標点が裂け目の縁を囲み、ヴェネフィルディアの位相がそこへ噛み合う。さらにアッシュの機体からも、緑の魔力線が一本だけ伸びてきた。閉鎖を補助する術式だろう。

 

 それでようやく、裂け目は細く痩せていった。

 

 最後に小裂け目の方も、ルーミアと濃紺機の一撃で崩れ、ざらついていた空気がようやく静まる。

 

 市場区画に、重い沈黙が落ちた。

 

 瓦礫の軋む音。遠くで泣く子どもの声。兵士たちの荒い息。ようやく戻ってきた現実の音だけが、少しずつ街へ戻り始める。

 

 ヴェネフィルディアの中で、水湊は大きく息を吐いた。

 

 疲労が一気に押し寄せる。倒れるほどではないが、腕と背中の奥がずしりと重い。さっきまでの戦いより、明らかに負荷が大きかった。

 

『無茶したね』

 

 ナインが言う。

 

「おまえもな」

 

『褒め言葉として受け取っとく』

 

 そこでようやく、水湊は外の様子へ意識を戻した。

 

 市場では兵士たちが住民の安全確認に走り、エリシアが負傷者のいる方へ駆けていく。アッシュの機体は少し離れた位置でこちらを見ていたが、さっきまでのような露骨な探る視線ではなかった。

 

 やがて通信が入る。

 

「……とりあえず、礼は言っておこう」

 

 短い声だった。

 

「助かった。あれが街の中心まで進んでいたら、被害はもっと大きかった」

 

 水湊は一瞬、どう返すべきか迷ってから答えた。

 

「そっちが時間を作ってくれたからだ」

 

「謙遜か?」

 

「事実だよ」

 

 アッシュは少しだけ黙り、それから本当にわずかに笑ったようだった。

 

「なるほど。少なくとも、嫌いな手合いではない」

 

 それはたぶん、最大限の好意的評価だったのだろう。

 

 直後にエリシアが戻ってくる。服の袖に埃がついていたが、怪我はしていないらしい。

 

「南区画の住民はおおむね退避完了。死者はなし、重傷者数名。……最悪は避けられたわ」

 

 そこで彼女はヴェネフィルディアを見上げた。

 

「あなたのおかげ、って言うのは悔しいけど」

 

「じゃあ言わなくていい」

 

「でも助かったのは事実だから、そこは認める」

 

 言ってから、少しだけ視線を逸らす。その不器用さに、水湊は思わず苦笑した。

 

 そのやり取りを聞いていたアッシュが、あっさりと言った。

 

「では決まりだな」

 

「何がです?」

 

 水湊が問うと、緑の魔装機はごく自然に答えた。

 

「君の扱いだよ、久遠水湊。もともとは所属不明の危険人物として連行するつもりだった」

 

 それはまあ、そうだろう。

 

「だが、いまの一件で話は少し変わった。危険人物であることに変わりはないが、同時に戦力でもある」

 

「褒めてないだろ、それ」

 

「もちろんだ」

 

 即答だった。

 

「だから正式な拘束ではなく、保護下での監視協力に切り替える」

 

 水湊は眉をひそめた。

 

「言い方を変えただけじゃないか?」

 

「受ける印象はだいぶ違うだろう」

 

「中身は同じに聞こえる」

 

「細部は拠点で詰める」

 

 まるで取り合う気のない口調だった。

 

 だが実際、最初に思っていたよりかなりましな扱いになったのは確かだった。街道で裂け目を閉じ、市場区画でも共闘した。その積み重ねが、かろうじて最悪を避けたのだろう。

 

 エリシアが肩をすくめる。

 

「歓迎はされないけど、門前払いよりはいいでしょ」

 

「……そうだな」

 

 少なくとも、いまこの場でヴェネフィルディアを取り上げられる気配はない。

 

 胸の奥で、静かな意志がひとつ落ちる。

 

 進んだな。

 

 ヴェネフィスだ。

 

 言葉というには短すぎる。けれど、それで十分だった。完全な承認にはまだ遠いとしても、少なくとも最初の試しは越えたのだとわかる。

 

 水湊は機体の中で小さく息を吐く。

 

 ラ・ギアスに来て、魔装機神に辿り着き、戦って、街を守った。

 その上で、ようやく拠点へ連れていかれる。順番としてはどうかと思うが、この世界はどうも最初から優しく説明してくれる類ではないらしい。

 

 市場区画の混乱が少しずつ収まり、兵士たちが周囲を固め始める。

 

 空を持たない地下世界の街並みが、揺れる灯りの中で静かに息を整えていた。

 

 その景色を見下ろしながら、水湊は思う。

 

 ここから先、自分はたぶん、この世界の誰よりも説明しづらい存在になる。

 異邦人。

 所属なし。

 空間の魔装機神を伴う、正体不明の男。

 

 けれど、だからといって引き返せるわけではない。

 

 選んだのは自分だ。

 辿り着くと答えたのも自分だ。

 

「……行くか」

 

 誰にともなく呟くと、ナインが影の中で小さく笑う気配がした。

 

『うん。まだ始まったばかりだし』

 

 アッシュの機体が向きを変える。

 

「では、来い。君の話を聞きたい人間は、私以外にも山ほどいる」

 

 それは歓迎ではない。だが少なくとも、次の扉ではある。

 

 水湊はヴェネフィルディアを静かに歩かせた。

 

 市場を抜け、兵士たちの列の中を進み、ラングランの拠点へ向かう。その先で待っているのが尋問か、値踏みか、それとも別の試練かはまだわからない。

 

 ただ、白銀の魔装機神は変わらずそこにいる。

 影の中にはナインがいる。

 胸の奥には、ヴェネフィスの冷たい灯が沈んでいる。

 

 それだけあれば、いまは十分だった。

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