銀英伝世界で生きるマ・クベ成り代わり   作:Calく

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おぼろげながら浮かんできたんです。銀河英雄伝説世界にいるマ・クベという発想が



馬一族の若き当主

 帝都オーディン。冬の光は薄く、石造りの回廊に差し込むそれは、あらゆる色彩を奪い去っていた。

 軍務尚書府の一室。簡素にして無機質、装飾を拒絶するかのような空間に、一人の男が佇んでいる。

 

 ――パウル・フォン・オーベルシュタイン。

 

 その義眼は、光を受けてもなお何も映さぬかのように冷たく、訪問者の到来を既に計算済みの事象として受け入れていた。

 

 扉が開く。

 

 入室した男は、場違いなほどに優雅な所作で一礼する。軍服の着こなしは隙がなく、しかしどこか芝居がかった気配を帯びている。

 

 ――マ・クベ。

 

 名を告げるまでもなく、二人は互いの情報を頭の中で照合し終えていた。

 

「お初にお目にかかる。閣下がオーベルシュタイン大将であられるか」

 

 マ・クベは、わずかに口角を上げた。礼節と皮肉、そのどちらとも取れる声音である。

 

「形式は不要だ。用件を述べよ」

 

 応じる声は平坦だった。そこに歓迎も拒絶もない。ただ必要とされる言葉だけが並べられる。

 

 沈黙が一拍。

 

 その間に、両者は互いの“価値”を測っていた。

 マ・クベはゆっくりと室内を見回し、装飾の一切ない空間に小さく息をついた。

 

「いやはや、実に趣味の良い部屋だ。無駄がない。私も見習いたいものだな」

 

「不要なものは排除する。それだけのことだ」

 

「結構。では私も、無駄を省いて話そう」

 

 マ・クベの眼が、わずかに細められる。

 

「閣下は、秩序を好む。しかも“結果としての秩序”をな」

 

「……続けろ」

 

「そして私は、“秩序を演出する側”の人間だ。混沌を恐れはしないが、放置する趣味もない」

 

 オーベルシュタインの義眼が、ほんのわずかに焦点を変えた。

 

 それは興味か、あるいは警戒か。

 

「つまり、貴官は協力を申し出ているのか」

 

「協力、と言うと聞こえが良いが……まあ、利害の一致だ。

 閣下は帝国を整えたい。私は、その過程で“無駄に消える駒”になる気はない」

 

 言葉の端に、微かな笑みが滲む。

 

 それは挑発ではない。

 あくまで、対等な交渉者としての距離の提示だった。

 

 数秒の沈黙。

 

 やがてオーベルシュタインは口を開く。

 

「――自己保存欲が強いな。悪くない」

 

「生憎、自分の命の方が高価でね」

 

「評価は保留する。だが一つ言っておく」

 

 義眼が、正確にマ・クベを捉える。

 

「帝国において価値があるのは、結果のみだ。過程も意図も、必要とあらば切り捨てられる」

 

「心得ている」

 

 マ・クベは即答した。

 

「だからこそ私は、“切り捨てられない結果”を用意するつもりだ」

 

 再び、沈黙。

 

 今度のそれは、先ほどとは質が違っていた。

 

 観察から、評価へ。

 そして、利用可能性の検討へ。

 

 オーベルシュタインはわずかに頷く。

 

「……面白い。しばらくは見てやろう」

 

「光栄だな。期待は裏切らない主義でね」

 

 形式的な敬礼が交わされる。

 

 だがそれは、忠誠の証ではない。

 互いに相手を“道具として使う”ことを了承した合図に過ぎなかった。

 

 帝国の冷たい廊下に、再び静寂が戻る。

 

 その静寂の中で、二つの理性が静かに噛み合い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国貴族社会において、彼らは常に“例外”として語られてきた。

 

 ――馬一族。

 

 その家名は、他の諸侯が誇る「フォン〜」の称号とは異なり、どこか異質な響きを持っている。にもかかわらず、その家が公然と帝国貴族の列に連なっている事実は、誰も否定できない。

 

 彼らの系譜は、銀河帝国の成立以前――銀河連邦時代にまで遡るとされる。

 さらに古い記録を紐解けば、地球時代の東方、すなわち中国における旧貴族階層にその源流を求めることができるという。

 

 もっとも、そうした由来を示す史料の多くは散逸し、あるいは意図的に改竄された形跡もある。帝国成立の過程において、血統とはしばしば政治の道具となるからだ。

 

 だが一つだけ確かな事実がある。

 

 馬一族は、ルドルフ大帝の覇業に際して決定的な貢献を果たし、その功により爵位を授けられた――という点である。

 

 すなわち彼らは、「血」によってではなく、「功」によって帝国貴族となった一門であった。

 

 この事実は、二重の意味で彼らを孤立させた。

 

 古来の門閥貴族にとっては、由緒正しき血統を欠く成り上がり。

 かといって新興貴族の中にあっても、あまりに古すぎる出自ゆえに同類とは見なされない。

 

 加えて彼らは、その出自を完全に捨て去ることを良しとしなかった。

 

 帝国風の礼節と帝国的教養を完璧に身につけながらも、家中には異国の書画や陶磁器が密やかに伝えられ、時にそれが当主の嗜好として表に現れる。

 

 それは単なる趣味ではない。

 彼らにとって文化とは、己の存在を証明する最後の拠り所であった。

 

 ゆえに――

 

 馬一族の当主は、しばしばこう評される。

 

 「最も帝国的でありながら、最も帝国的でない男たち」と。

 

 そんな馬一族の若き当主、マ・クベには、帝国貴族の装いを完璧に纏いながらも、なお拭い難い異質さがあった。

 

 軍装は規定に忠実であり、礼法もまた非の打ち所がない。

 立ち居振る舞いにおいて、彼をもって「帝国貴族にあらず」と断じることのできる者は、おそらく存在しないだろう。

 

 だがなお――

 

 その佇まいには、見る者に言いようのない違和を抱かせる何かがあった。

 

 例えば、視線の運び方。

 あるいは、沈黙の取り方。

 さらに言えば、言葉を選び取る際の、わずかな“間”。

 

 それらは帝国の作法に適合していながら、同時にどこか異なる規範に従っているかのようであった。

 

 それは、異国の風である。

 

 遠い過去――地球という惑星において培われた文化の残滓が、幾世代もの時間を経てもなお、彼の内に微かに息づいているかのように。

 

 無論、それを明確に言語化できる者はいない。

 ただ、門閥貴族の幾人かは本能的にそれを嗅ぎ取り、説明のつかぬ不快と警戒を覚えた。

 

 一方で、理性を重んじる者たちは別の評価を下す。

 

 曰く――あれは“演出”である、と。

 

 すなわち、自らの出自という曖昧さを、逆に個性として際立たせるための計算。

 他者に理解されぬ余白をあえて残すことで、容易に踏み込ませぬ距離を作り出す技術。

 

 もしそれが事実であるならば、彼はすでに一流の政治家であった。

 

 だが、真相は誰にも分からない。

 

 当のマ・クベ自身が、それを語ろうとしない限りは。

 

 そして彼は――決して語らない。

 





同盟側にするか帝国側にするか悩んだ結果、とりあえず帝国側にします。同盟亡命ルートか、ifとして同盟出身マ・クベも良いなと思いつつ
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