小逆転!ベレリアンド戦争! ~if キャメロット王国参戦す~ 作:koe1
星歴877年3月1日11時50分
第二軍より大鷲族の伝令と第三軍司令部を経由して、ノグロストにキャメロット海軍が襲来したことが知らさせた。
しかも事前にエルフィンド軍のスパイが浸透していたのか、第一軍や第三軍の戦域でも多用されるようになっている魔術通信妨害がおこなわれ、指揮系統が大混乱している内に港内に逼迫していた民間船を徹底的に攻撃したが、キャメロット海軍はそれのみで引き揚げたとのこと。
ただ偵察のために上がって大鷲族とコボルトから『軍艦の後方に民間船多数』という報告があり、総軍司令部の海軍参謀がその位置を計算した結果、水平線上のかなり向こう側に民間船団が隠れていることが判明し、当初は逆上陸も覚悟された。
しかしその様なことはなく、艦隊は北方に引き揚げていった。
おそらく北の港町ノァトゥンか、西にある孤島のアレッセア島を策源地として行動しているのではないかと推測されているが、今の私達にはそれを調査する能力すら残されていなかった。
参謀の中には『アレッセア島へ大鷲族に飛んでもらおう』という意見が出たが、大鷲族側より『目印になるものが一切ない海上で自分の位置がわかるか!』と猛反対されて引っ込めることとなった。
肝心のクラインファス奪還だが、現状では断念されている。
無理して奪還するよりも、補給に不安はあるものの第一軍、第三軍を北上させていき、ティリアンを包囲占領、女王を捕虜とし、エルフィンドの完全敗北という形で解放させようということで落ち着いている。
第二軍はノグロストの保持並びにクラインファス包囲戦力の抽出のみとなっている。
これは『クラインファスを占領された』ではなく、逆に『クラインファスにエルフィンド軍精鋭、二個ないし三個師団を閉じこめている』と考えた結果だ。
孤立しかけているノグロストへの補給もモーリアからシルヴァン河を使った河川船舶輸送でまだ何とかなっているというのも判断の理由の1つになっている。
これはグレーベン閣下が決断したのだが、もちろん各所より非難が殺到した。
ただゼーベック参謀総長閣下がそれを認め、首都ヴィルトシュヴァインにお戻りになられた我が王も承認されたとのこと。
なので現状ではクラインファスは包囲に留まっている。
クラインファス市民の1/5ほどは脱出できたが、残りは取り残されてしまった。
ただ時折脱出してくる者や大鷲族の高度偵察では、キャメロット側が盛んに食料を始めとする生活物資を揚陸し、一部は配給ではあるものの、市場にも商品は出回っていて、エルフィンド軍も特にこれといった乱暴狼藉も働いておらず、市中は平穏だとのこと。
市行政も『エルフィンド軍からの命令』で協力しているらしい。
国内の一部新聞はクラインファス市民が抵抗活動をしないことに対して非国民的であるという論調を掲げたが、我が王が『非難されるのは市民達ではなく、ただこの私一人である』と談話を発表したことから論調を引っ込めることとなった。
そしてたった今第三軍司令部より、元帥に叙任される予定である、第二軍総司令であるシュヴェーリン上級大将自らしたためた電文で、ゼーベック参謀総長閣下宛に短く
『前線の各師団長並びに軍司令より"キャメロットグレネーダーズ"の歌や曲が聞こえたとの報告あり、私自身もそれを前線にてそれを確認』
という内容が届いた。
最初、総軍参謀の誰もがその意味がわからなかったが、その電文を受け取って読んだゼーベック参謀総長だけは、昨年の3月におこなわれた師団対抗演習と第五次修正検討図上演習の時にアンダリエル少将閣下に我が軍の魔術通信の漏洩を伝えられたときのように頭を抱えて座り込んだ。
そして呟くように仰った。
「キャメロット陸軍が来た・・・」
もしかすると先ほどあったノグロストへの遠慮じみた艦砲射撃は、キャメロット本国から輸送中の、追加の陸軍部隊を護衛していた艦隊がついでにおこなったものではないかと私は考えてしまった。
もはや一刻の猶予もない・・・
しかしキャメロット陸軍のベレリアンド半島派遣に関する情報が全くないというのは流石におかしくないか?
兵要地地誌局長であるローテンベルガー少将殿に、臭わせるような情報がなかったか確認をとろう・・・。
星歴877年3月2日6時50分
大して大きくないが重要な石炭積み出し港であるオルクセンのブラウヴァルド州東端にあるアハトゥーレンの港に、俺が乗っている『白銀樹号』はそろそろと近づいている。
もっとも港といってもオルクセン海軍が壊滅してから出入りする船は皆無だ。
『クラインファス沖海戦』『ドラッヘクノッヘン沖海戦』で、最後のオルクセン側の水上戦力が消滅してから、うちの海軍が沿岸航行している内航船ですら拿捕しまくったせいで、オルクセンの船はみんな港に引きこもっちまったからな。
もっとも漁船だけは見逃している。
で、そんなオルクセンの港にそろそろと近づいているこちらは、もちろんいつでもトンズラできるように覚悟と準備している。
マストにはグロワール旗を掲げているが、先ほどから一心不乱に手旗信号と発光信号で繰り返し
『我、非武装。我、非武装。行政に関わる責任者送られたし。行政に関わる責任者送られたし』を送り続け、旗旒信号で入港許可を要請する旗も揚げている。
ちなみに機関員として乗っている白エルフのじょーちゃん達には魔法の使用は禁止させて、逆にオルクセン側が魔法を使っているかだけを探知させている。
しかし今のところオルクセン側からは発光信号も手旗信号も旗旒信号も喇叭でも一切の応答がない。
そして魔法を使っている様子はあるが、距離があるのではっきりとは聞き取れないが、どちらかというと混乱しているような感じだという報告が上がってきている。
ただ港の様子自体は気持ち悪いぐらい静かな有様だ。
港に据え付けられている数門の砲が静かにこちらに照準を合わせているだけだ。
『これは別な港に向かうべきか?』と考え始めたところで、1隻の蒸気ダクボートが接近しているとの報告があった。
俺は船内に隠れている海兵隊に最悪の場合に備えた準備を指示しつつ、この『高速外交連絡船 白銀樹号』こと『秘密外交船 白銀樹号』のブリッジで緊張していた。
さてさてどうなりますか・・・。
翌日俺達は何故か、オルクセン首都であるヴィルトシュヴァイン行きの列車の一等車にグロワール人一行という名目で乗っていた。
ヴィルトシュヴァインまでは後わずかなようだ。
秘密外交1回目の今回は、色々なところより集まったグスタフ王陛下宛とビューロー外務大臣閣下宛のお手紙を渡すだけだったつもりだったんだがな…
アストン卿がもしかしたらと予想されていた通りだった。
『念のためにあなたの甥である私の弟子を連れて行った方がよいでしょう』と言われたので、いざという時の身元保証人替わりにと思っていたが、いきなり外交官が必要になるとは…。
お手紙渡したから、さぁ帰りましょう…と思っていたら、首都と連絡を取るから待って欲しいと言われたので、まぁ仕方ないかと思っていたらあれよあれよという間に、首都ヴィルトシュヴァインに行くことになり、慌てて白銀樹号乗り込みの海兵隊の指揮官である中尉に護衛役として一緒にきて貰うことにし、馬車で駅に連れて行かれ、おそらく俺達3人のために待たせていたであろう『車両点検のため』に発車時刻をとうに過ぎているのにまだ停車していた列車に乗せられた。
そして列車は首都ヴィルトシュヴァインの駅に遅れて到着した。
俺達は私服を着ているが雰囲気は軍人間違いなしという連中の出迎えを受けた。
俺達はそれぞれ大事な物が入った鞄だけは各自で持ち、私物が入った鞄だけはオークの赤帽…こいつも変装している軍人な気がするが…に持ってもらい、出迎えの案内で改札に向かおうとしたが、大事なことを思い出し「ちょとだけでいいので時間をくれ」といい、乗っていた列車の機関車に小走りで向かった。
機関車の運転台ではまだ2人の機関士…コボルトとオークの機関士が次の準備をしていたので「ちょっといいかい?あんたらがアハトゥーレンかせここまで運転してきてくれたいのかい?」と帽子をとりながら尋ねると、オークの方がぶっきらぼうに「ああ、そうだが?」と答えてくれたので「アハトゥーレンでは俺達のせいで『車両点検』をさせて申し訳なかった。こいつは詫びだ。許してくれ。俺は船乗りだから『荷主』の勝手な都合で運行が乱されるのが腹をたつのがわかっていてな・・・」といってオルクセン基準でも2人で2、3杯は呑める金を手渡そうとした。
2人は顔を見合わせたあと、2人とも作業帽を取ってから「あんたが直接遅らせた訳じゃねえ。気にするな。ただこいつは有り難く頂いておく。なにか知らねが気をつけてな」と言って、コボルトの方が受けってくれた。
どうやらコボルトガ運転役の機関士で、オークの方が石炭焚べの補助機関士だったようだ。
俺は「ありがとよ。いい運転だったぜ」と言い残してから、待ってくれている連中の元に戻っていった。
待ってくれていた皆の元に戻ると、出迎えの中で筆頭と思われるオークに「何をされていたのですか?」と尋ねられたので、隠すこともないので「俺達のせいで『車両点検』なんていう嘘をつかせて列車を遅らせちまったんだ。こっちは海であっちは陸だが、荷を運ぶ者には守らなきゃならない仁義がある。なんで遅らせた詫びに一杯呑んでくれと、な」。
オークはそうですかとだけ言い、こちらですと改札に向かって歩き始めた。
もちろん俺の言うことなんか信じずに、あとであの機関士達に話を聞きに行くだろう。
だが俺は本当に金しか渡してない。
なので本当かどうか、なにか預かってないか、伝言はないか?と聞きに行っても『気前の良い人間族から、列車を遅らせた詫びといって呑み代を貰っただけだ』とだけ応えるだろう。
それ以外に答えようがない。
だがあの機関士達に『アハトゥーレンで嘘までつかさせて列車を遅らせて待っていた原因は人間族だった』という記憶は植え付ける事が出来た。
『どんな人間族だった』かまでは、俺達がなかなかオークの見分けがつかないようにこちらの見分けがつかないだろうから期待できないが、人間族というのは間違いなく植え付けられた。
なのでもし俺達が『行方不明』になっても、向かうオルクセンの港の順番も決めているので『戦後の調査』がしやすくなる。
少なくとも俺達がアハトゥーレンへの到着予定日に、アハトゥーレン駅で嘘の理由まで作って首都行きの列車を遅らせた原因は人間族というのは調べやすくなったと思う。
まぁそんな事にならない様に祈りたいが、俺の心の中で最近のオルクセン株は安値安定なので、保険という感じだ。
弟と次男の2人がオルクセンで行方不明で、少なくとも首都に向かった形跡はあると知った兄貴が、ささやかなものだろうが報復をしてくれる判断材料になる。
考えすぎだといいがな。
駅から出ると俺達は3台の目立たない馬車に分乗して、これまた驚く事に国王官邸に向かうと告げられた。
正直、向かう先は外務省かと思っていたが、またも予想外だった。
しかしそうなると正面からは目立つし、馬車の格も高くないから裏からこっそりかな?と考えていたら大当たりで、グスタフ王が傷病兵見舞いに行って戻ってくる時間に合わせて裏から入るとのこと。
つまり新聞屋を正面に集めさせている中でこっそりと入れようという訳だ。
そして俺達一行はコソコソと裏から入っていった。
広いには広いが、王の住まいとしては狭い部類に当たる国王官邸に連れて行かれ、とある部屋に案内されると、迫力のある片眼鏡のオークが待ち構えていた。
こいつがオルクセン外務大臣クレメンス・ビューロー閣下か・・・と当たりをつけた。
普通なら真っ先に挨拶と握手をするのだろうが、状況と立場的に双方共にそれを控えている。
ただ当然のことながら全員帽子は取り、敬意は示している。
向こうはこちらが敬意を示したことを受け入れたように小さく頷いた。
ただ双方共にそれ以上のことは国家間の現状から控えることにした。
挨拶すらしていない。
雑談もしない。
着席も勧められない。
ただこちら側の誰もがそれを当然と思っていた。
まずこれはまともな外交じゃないのが理由の1つ。
そしてもう1つの理由は、部屋の広さからこの後すぐに『魔王』が来ると踏んでいたからだ。
つまり自己紹介等は『魔王』がやって来てから。
もっともこっち側はまともに自己紹介は出来ねーんだがな(笑)。
そうしている内に10分もしない内に廊下に人の気配がしてきた。
そして最初に赤・・・いや紅い変わった眼鏡を掛けた闇エルフが入ってきた。
続いて数人同じような紅い眼鏡を掛けた闇エルフ達が入って、俺達に対して『少しでも動いたら殺す』という殺気をぶつけまくってきた。
とはいえ俺は慣れているし、護衛の中尉は度胸のある奴が選ばれているので動じていない。
そして意外なことに我が甥も平然としている。
秋津洲で修羅場でもくぐってきたのか?
そんなことを考えていると、体格の良いオークが「お待たせして申し訳なかった」といいながら、何頭もの軍服を着たオークを引き連れて入ってきた。
『魔王』の登場だ。
さてさて俺達は魔王の城から無事にお家に帰ることが出来るかな?
まず魔王が「お初にお目にかかる。私がグスタフ・ファルケンハイン、オルクセン国王をやっている」と意外この上ない自己紹介をされた後、「こちらの笑うと野盗のような顔になるのが私が頼りにしている外務大臣クレメンス・ビューローだ」と紹介し、改めてビューロー閣下が自己紹介をされる。
で、こちらはと言うと・・・無礼この上ないがまともな自己紹介が出来ないし、してはならない。
なにせこの『第1回秘密外交』は、当初の予定ではお手紙を届けるだけだったからだ。
つまり下手な交渉をしてはならない。
もしくは交渉ととられることをしてはいけない。
交渉が可能な相手とみなされてはならない。
なので俺が挨拶をすることにした。
俺が片膝をつくと、甥っ子と中尉も片膝をついた。
「オルクセン国王陛下とその忠実なる家臣である外務大臣閣下と側仕えの皆様、そして護衛の美しい闇エルフの皆様のご尊顔を拝し奉ることが出来、恐悦至極でございます。私めは『二角帽』と申します、しがない郵便配達夫でございます。そして後ろの2人は私が魔王の城に手紙を届けることを心配に思い、ついてきてくれた勇者でございます」
と挨拶をすると、笑い声が聞こえたあと、愉しそうな声で
「魔王の城にやってくる者はすべからく皆勇者だ。それでは二角帽殿と共の勇者御2人、どうぞこちらに」といって、着席を促してくれた。
俺達はグスタフ国王陛下とビューロー閣下が先に座られた後、テーブルを挟んで席に着いた。
もっともそのテーブルを紅い眼鏡を掛けた闇エルフのじょーちゃん達が取り囲んでいるが。
距離はとってくれているが、その気迫はまるですぐ脇にいるようだし、特にグスタフ国王陛下のすぐ後ろにいるじょーちゃん達は特に怖い。
下手な動きをすれば躊躇なく俺達を殺しに来るだろう。
俺はまず自分の鞄を脇に置き
「こちらの鞄の中身が私がグスタフ陛下に届けるべき手紙が入っております」
というと、闇エルフのじょーちゃんが1人やってきて、俺から鞄を受け取り、部屋の端で中身を確認してから「問題ございません」といって、中に入っている手紙数通をグスタフ国王陛下に手渡した。
ちなみにもちろんというべきだが、この国王官邸に入る際も身体検査を受け、鞄は徹底的に調べられ、武器も取り上げられたが『秘密外交』なのでなにも言わない。
『普通の外交』と全く違う。
当然の処置だからだ。
グスタフ国王陛下とビューロー閣下は、はっきりと差出人すら書いていない手紙を2人で確認しながら「これらはどちらの方達からかな?」と尋ねられたので、
「6つの海を支配する国の王とその下僕の長。さらに下僕の長が任ずる外にいずる臣を束ねる者と海を統べる者。そして貴くも美しい突耳を持つ白き御方と、その方の下で外つ国と話す者より」
と、はっきりは言わないが、わかる方にはすぐにわかるようにいう。
ぶっちゃけて言うと、我が国王陛下、首相閣下、外務大臣閣下、海軍大臣閣下、エルフィンドの女王陛下と外務大臣閣下からだ。
もちろん手紙の中にははっきりとそれぞれの身分を示すことは記されていないはずだが、やはりわかる者にはわかるように記されている。
ちなみにそれぞれ全て直筆。
最初の1回目はこんな感じ、双方様にバレたときに備えて身分を一切明かさない形でのお手紙からスタートとなる。
しかしよくもまぁエルフィンドの女王様が手紙を書けたもんだ。
教えられて、自分でも調べたエルフィンドの内情は、女王陛下は徹底的に政治より遠ざけられていて、内閣から上がることの追認のみとか。
まぁ女王陛下ご自身も積極的に政治に関与するのを避けられているような感じだがな。
ただ無能じゃない。
能力は間違いなくある。
その上で関与をしないようにしている感じだ。
グスタフ国王陛下とビューロー閣下は一心不乱に手紙を読まれている。
で、気がつくとコボルト族の侍従が俺達には紅茶、グスタフ国王陛下とビューロー閣下にはコーヒーをだし、更に全員に菓子も出してくれた。
あまりも自然な凄い動きに感心しちまった。
明日にでも我が国の国王陛下の侍従長だって務まる動きだ。
俺は一切遠慮せずに紅茶と菓子に手を出したが、菓子はともかく、紅茶はこの前の女王陛下とのお茶会ででた奴の方が上だなと感じている。
いや、白エルフ4人に囲まれたお茶会だから、更に美味く感じただけかもしれねーな(笑)。
1時間半ほど掛けて手紙を読んだグスタフ国王陛下とビューロー閣下は何かしら相談し、そしてグスタフ国王陛下が「この手紙を書かれた皆様にお返事を出したいので、郵便配達夫殿は明日の昼まで待って頂けるかな?」と仰られたので「手紙があればそれを受け取り、届けるのが郵便配達夫の勤めでございます」とだけ返した。
そして俺が甥っ子と中尉に向かってうなずくと、2人が持っている鞄を黙って持ち上げた。
俺は一呼吸置いてから「なおこちらにも沢山の手紙が入っております。如何なさいますか?」と尋ねると、グスタフ国王陛下は少々戸惑ったように「その手紙はどちらからかな?」と尋ね返されたので、俺は気合いを入れてこう言った。
「矢玉尽き、刀折れた、魔王の忠実なるのしもべの皆様からその家族への手紙でございます」
グスタフ国王陛下とビューロー閣下は表面上は何ら反応を示さなかったが、空気が変わった。
これはオルクセン捕虜達からの手紙の一部だ。
他の手紙はまだ大量にあり、『白銀樹号』で厳重に保管している。
ぶっちゃけて言うと、赤星十字社が『捕虜家族がオルクセン政府によって虐待される危険性がある』と判断して、捕虜名簿や手紙のオルクセン側への引き渡し仲介を拒否しているからだ。
その理由は、今回の戦争で色々と積み重なったオルクセンのやらかしと、ネヴラス戦線で暴れ回っている闇エルフ部隊のやらかしだ。
はっきり言う。
開戦初期に闇エルフ部隊が捕虜をとっている形跡が少ない上に、明らかに投降した者や負傷兵を虐殺をしたであろう痕跡が時折発見されているからだ。
これも戦線が上がったり下がったりを繰り返しているから判明したことだ。
なので赤星十字社としては『オルクセンも協定を結んでいるが、実際には捕虜をとるという風習がないのではないか?更にそれは自身にも適用されるのではないか?』と過剰な心配をし、捕虜名簿や捕虜からの手紙のオルクセン側への引き渡し仲介を拒否している。
実際にはちゃんと捕虜をとっているし、エルフィンド兵の負傷兵も救護しているし、闇エルフ部隊のやらかしも最近は殆ど確認されなくなったそうだが、白旗と赤星十字旗を狙って打っちまったりと、一度疑われるとなぁ。
それに闇エルフ部隊のやらかしは、俺も最近知った『レラーズの森事件』が原因だと踏んでいる。
オルクセン側の発表が話半分だとしても、報復したくなる気持ちもわかる。
そして俺はそれが話半分どころか、オルクセンの発表ですら、その事実に対して全く不足していると言うことも知っている。
エルフィンドの外務省の、なんか垢抜けないけど、覚悟だけは決まっている目をしたじょーちゃんが教えてくれた。
どのぐらい覚悟が決まっているかというと、戦列歩兵の先頭で旗手が出来るぐらいの目をしていた。
たとえ後ろにいる戦列歩兵がいなくなっても平然とし敵に向かって進み続けるぐらいの目だ。
今回の配達で用意したエルフィンドの外務大臣の手紙もそのじょーちゃんが用意させたそうだ。
ちなみに女王陛下からの手紙は、俺へのお茶会のお礼状に混ぜる形で、侍従武官であるファラサール大将閣下が直接届けてくれた。
秘密外交万歳だぜ。
グスタフ国王陛下は「是非とも受け取らせて頂きたい。手紙はその鞄の物が全てだろうか?」と尋ねられたので、俺は正直に「捕虜名簿もございます。今回この場に持参した捕虜からの手紙は、階級問わず戦争初頭に捕虜になった者からのでございます。この数倍の手紙が私達を待っている船に積んでおります」と答えた。
するとグスタフ国王陛下は手を俺の方に伸ばし、握手を求めてきて、俺がそのごっつい手を握ると「二角帽殿、オルクセン国王として貴君等の心遣いに感謝する」と言い、甥と中尉とも握手を交わした。
そしてビューロー閣下も「感謝する」といって握手を俺達としてくれた。
その後は、ちょっとした雑談でファルマリアでの戦いの様子を話してよい範囲で話したが、『白旗射撃事件』の話しでは流石に2人とも気分を害され、「その様なことを我が兵がしたとは思えない」と断言されたが、俺が申し訳なさそうだが、上から目線という白エルフみたいな感じで
「残念ながら真実です。私がその証拠です。私が通訳として同行していましたので」
と言うと、グスタフ国王陛下が
「つまり君がログレスタイムズに語った人物と言うことかな?」と尋ねられたので、そうですねと答えると、ビューロー閣下が「その時の様子を教えてくれ」と言われたので、事細かに説明すると、グスタフ国王陛下は片手で頭を押さえ、ビューロー閣下は天井を見つめた。
「ダンヴィッツ・・・第一軍と総軍司令部に調査するように連絡を。真実なら直ちに赤星十字社に謝罪をする・・・そして負傷したキャメロット兵とエルフィンド兵にも私が謝罪文を用意する・・・敵兵だと言っている時ではない・・・場合によっては我が軍将兵の処罰もおこなう・・・」
グスタフ国王陛下は後ろに控えていたオークの1人にそう指示すると、そのオークは静かだが急いで部屋を出て行った。
そして呟くように「開戦以来、世界中の悪意が私達にだけ向かっている気がしてならない・・・」と仰られた。
俺はこの様子から、ありとあらゆるすれ違いがこの戦争でオルクセンにだけ襲いかかっているのではないかと感じた。
そして戦争初頭に感じていた『オルクセンは国家として野蛮』を撤回してもいい気がしてきた。
ひみつがいこー!