小逆転!ベレリアンド戦争! ~if キャメロット王国参戦す~ 作:koe1
第2話です。
正史との差が…
「神よ…神よ…」
私は神への祈りを口にしながら、最新型の小型写真機を首からさげ、手には荷物を詰め込んだトランクを持って、通訳の白エルフと共にオルクセン軍の激しい砲撃を受けたモーリアの街を撮影やメモをとりつつ彷徨っていた。
昨日、ここモーリアにある唯一の人間族向け設備が整っているホテルの食堂で夕食をとろうとした瞬間、私は軍にいた頃散々聞いたことがある砲声と少し遅れて砲弾が炸裂する音を聞いた。
その瞬間、私は片言のアーヴル語で
「フセロ!フセロ!テーブル!シタ!テーブル!シタ!」
そう叫びながら、隣のテーブルで私の方を見て呆然としている白エルフの手を無理やりとり、私と共にテーブルの下に押し込んでその上に覆いかぶさった。
そしてその様子をみた他の白エルフ達もテーブルの下に慌てて隠れた。
つい数分程前に、周りの白エルフ達が一斉に急に慌てだし、なにがおきたのか全くわからなかったが、給仕の白エルフが「オルクセンがエルフィンドに宣戦布告したらしい」と教えてくれた。
どうも周りの白エルフ達は魔法の力で宣戦布告のことを知ったらしい。
魔法の力を持たない人間族の私は給仕の彼女から教えてもらわなければ、宣戦布告のことを知ることはできなかっただろう。
砲声と砲弾が炸裂する音を聞いたのは、戦争になったのならば、まだ到着して1週間程だが仕事を切り上げて帰国するべきだなと考えつつ、料理に手をつけようとした瞬間のことだった。
テーブルの下で伏せてから1分もしない内にすぐ近くで砲弾が炸裂する音と共にありとあらゆる物が壊れる音がした。
沢山の悲鳴も聞こえた。
「ウゴク!ダメ!ウゴク!ダメ!!」
私はテーブルの下に押し込めた白エルフに覆いかぶさったまま、片言のアーヴル語で叫び続けた。
10分もかからないうちに、砲声は相変わらず聞こえ続けていたが、砲弾が炸裂する音はだいぶ遠のいた。
私はそろそろと立ち上がると、この食堂は3階建てホテルの1階にあるにもかかわらず、窓ガラスは割れ、テーブルや壁、床にかなりの弾痕もあった。
榴霰弾で攻撃されたのかと思いつつ、市街地を無警告で砲撃するとは…と驚いた。
伏せたままの白エルフ達を見回すと、幸いな事に怪我をした者はいない様子だったが、私や彼女達が隠れているテーブルには弾痕が沢山あり、もし隠れなかったら、もし貫通していたらとゾッとした。
「ウゴク。ダメ!ウゴク。ダメ!」
私は相変わらず同じ片言のアーヴル語を口に出しつつ、厨房やエントランスホールを見て回ったが、幸いな事に支配人や給仕達、料理人達は一部にかすり傷はあったが、見つけられた白エルフ達は全員命に別状はなかった。
私は彼女達に声をかけつつ、食堂に集め、窓から離れた壁沿に彼女達を集めた。
そしてその周りにテーブルを集めて簡単な遮蔽物にしてから「ウゴク。ダメ。ウゴク。ダメ」と改めて言った。
彼女達は真っ青な顔のまま頷いた。
私は辛うじて残っていた階段で3階に上がると、酷い有様だった。
部屋を一つ一つ確認していくが、どの部屋も無人だった。
続いて2階に降りて1部屋ずつ確認していくと、部屋によっては3階よりも酷い有様だったが幸いな事にどの部屋も無人だった。
おそらく食事の時間だったので、宿泊者は皆食堂に降りていたからだろうと私は考え、その奇跡を神に感謝した。
最後に私が泊まっていた部屋に入ると、やはり酷い有様だったが、幸いな事にトランクと写真機は無事だった。
私は再度各部屋を周り、持てるだけの毛布等を集めて食堂に戻り、みんなに配った。
すると、白エルフ達はある程度落ち着いたのか、ホテルの従業員達を中心にして食堂を片付けはじめた。
私はもう一度毛布を集めようと階段を上がって行くと、外から沢山の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて壊れている窓に駆け寄って外を見ると、オルクセン軍と思われる黒い軍服を身に纏った武装したオーク、コボルト、ドワーフ達が北の方へ向けて駆け抜けていた。
私は慌てて下に降りると、外からの悲鳴を聞いたせいか片付けの手を止め、また1箇所に集まって震えている白エルフ達に向かって「ソト、オルクセン、タクサン!キケン!」と言って、今の片言のアーヴル語で白エルフ達に意味が伝わっていることを祈りつつ、テーブルを持って食堂をでて、エントランス入口の表通りに面しているドアの前にテーブルを置いた。
私がなにをしているか気がついた白エルフ達はすぐに手伝ってくれ、ドアの前に色々な物を運び、積み上げ、外からオルクセン兵達が入ってこれない様にバリケードとした。
私は彼女達の力の強さに驚いた。
そしてそのバリケード作りが終わりホッとした瞬間、凄まじい爆発音が間隔をあけて2度ほど聞こえたが、それが何処から発した爆発音かはわからなかった。
その後、私達は集めた毛布にくるまり、オルクセン軍がこのホテルにやってこないことを祈りつつ、銃声や砲声が聞こえる中、食堂で一夜を明かした。
翌朝、砲声や銃声は止んでいた。
料理人達がスープを作ってくれ、みんなでそれを食べた後、私は皆が止めるにもかかわらず写真機と荷物をもって裏から外に出た。
表通りにでると酷い有様だった。
時折、白エルフの死体を目にしつつ、神への祈りをと彼女達への謝罪の言葉を口にしてから彼女達の無念の姿や破壊された街を撮影した。
オルクセン兵達が走って行った北に向かって進んで行くと、運の良いことに雇っていたこの街に住む白エルフの通訳と出会うことが出来、お互いの無事を喜び合った。
彼女は私のことが心配になり、ホテルに向かおうとしていたところだったらしい。
彼女には感謝しかない。
その後、鉄道線路沿いに北へ2人で進むと、所々でオルクセン兵達がいるのが目に入る様になったが、その姿は既に戦いが終わった後の兵士達の様子だった。
私達は特に彼らに誰何されることはなかった。
大きなトランクを持っていたから避難民と思われていたのかもしれない。
だがオルクセン兵達が緊張感をもたずにあちこちにいるのを目にするということは、この街を守っていたエルフィンド軍は敗北したということだ。
私達はようやくモーリア市の北はずれに到着すると、その先のシルバー河にかかっていたはずの鉄道橋がなくなっていた。
正確には途中からトラス構造の橋桁が折れて、シルバー河の中に落ちていた。
残った橋桁の上やシルバー河に浮かぶボートには沢山のオルクセン兵達がいて、橋桁を復旧させる準備をしいるようだった。
私はその様子も撮影すると市内に戻り、市内を西に向けて進んで行くと、鉄道橋以外に2本ある橋の内、東側の橋も損害をうけているようで、大量の木材等の建設資材を積んだオルクセン軍の馬車が集まっていた。
見たところ橋桁はどこも落ちていないようだが、どうも何処かに大きな穴が空いているらしく、通行にかなりの支障がでているようだった。
私はその様子も撮影すると、ここでも誰にも誰何されずにオルクセン軍の馬車列の間を抜けてさらに西へ進み、街の様子をさらに撮影してからホテルへ戻った。
ホテルに戻ると皆が私の無事を喜んでくれ、私は街の様子を話した。
皆が特に心配していたオルクセン軍による略奪や白エルフ達への暴行がおこなわれていないことを知ると、皆ホッとしている様子だった。
私は逆にオルクセン軍は規律正しく行動していることを、過去の自身の経験に基づき、通訳嬢を介して説明すると、皆一様に驚いていた。
私は自身の部屋だった場所に戻り、破片を片付け、テーブルと椅子をなんとか使えるようにすると、先ほどまで記していたメモを元に、通訳嬢が描いてくれた簡単なモーリア市の地図に砲撃痕を記していくと、怖ろしい結果となった。
オルクセン軍はシルバー河の向こうにあるエルフィンド軍施設に繋がる橋…そこに至るこのホテルを含む進路上の市街地を砲撃していることに気がついた。
つまり彼らは事前に軍事施設までの進路上の市街地を砲撃することで『掃除』し、通り易くしていたということだ。
私は恐怖で震えた。
現行の国際法では確かに『軍事施設を内包している都市』は保護の対象外なのは確かだ。
しかしここモーリア市は、通訳嬢の記した地図が正しければ『軍事施設を内包していない』。
シルバー河の対岸に『市街地から完全に独立して』軍事施設が設けられているのだ。
1、2発程度の砲弾が街に落ちたのならば、尊い犠牲がでていてもそれは誤射だと私も思っただろう。
しかし私が体験し、この目で見た街の被害は誤射で済まされるものではない。
『オルクセン軍は国際法を遵守するつもりが一切ない!』
私は恐怖で震えた。
なんとしてもこの怖ろしい事実をキャメロットの国民に伝えねばならないと決意した!
ログレスタイムズの記者である私がここエルフィンドの地に来たのはほんの偶然といえる。
ここ1年程前から急にキャメロット国内でエルフィンドブームが巻き起こり、過去にとある勇敢な女史が記したエルフィンド旅行記を出版した出版社が、版を改めて出版することをわが社に持ちかけてきたのだ。
と言っても、当然のことながら執筆内容そのものを変えるわけではない。
近年の技術進歩により写真を印刷することが可能となったので、エルフィンド各地の風景や白エルフ達の写真を掲載したいと考えたのだ。
そしてなぜわが社に話が来たかというと、エルフィンドブームに乗り、エルフィンドへ記者を派遣してエルフィンド各地の紀行記を連載しようという企画があったからだ。
それをその出版社が聞きつけ、取材費をある程度負担するので、記者が撮影した写真を誌内にて掲載させてほしいと持ちかけてきたのだ。
そしてその結果が私のエルフィンド出張というわけになったのだが、怖ろしい体験をここモーリア市でした。
私は今、この怖ろしい体験とオルクセンの怖ろしさをキャメロット国民に伝えるために、神がここエルフィンドの地に私を遣わしたのではないかと思ってしまう程だった。
例え神が遣わしたのでないとしても、私はなんとしてでもキャメロットに戻り、この事を伝えなければならない。
手紙や撮影した写真やガラス乾板を送るのではなく、なんとしてでも実際に体験し、目撃し、取材した私の口とペンによってキャメロット国民に伝えねばと決意した。
なので、なんとしてでも早期にキャメロットに戻らなければならない。
そしてキャメロット国民に真実を伝えたあと、再びこの地に戻ってこなければならない。
そう考えたとき、ふと同僚が1人、キャメロット海軍とエルフィンド海軍の親善交換訪問艦隊の取材でキャメロット軍艦に乗艦してエルフィンドに向かうと言っていた事を思い出した。
彼は無事だろうか?
「姉様、これはいかがしましょうか?」
外務大臣閣下が昨日の夜から私の事を突如として『姉様』と呼ぶようになった。
いや、外務大臣閣下だけではない。
他の外務省中枢の皆様全てがだ。
なぜこうなってしまったのか。
原因は昨日に緊急招集された首相官邸で開催された閣僚会議のせいだということはわかる。
誰もが外務大臣閣下の共として閣僚会議に参加するのを拒否した。
その理由はもちろんわかる。
間違いなく外務大臣閣下共々、真っ先に秘密警察の手によって今回の責任を取らされて処刑されるからだ。
なので外務大臣閣下付き秘書の中で底辺である、弱小氏族の私が、本来ならありえない閣僚会議に出席する外務大臣閣下の共をすることとなった。
官邸に向かう馬車の中で外務大臣閣下は今にも死んでしまいそうな顔をされてずっと震えていた。
対する私は『弱小氏族なんだからこんなのものよね』と諦めの極致にいた。
閣僚会議は紛糾というか、よくわからない有様だった。
外務大臣閣下に罵声を浴びせる方、見た目は落ち着いていて何も喋らずお茶を飲まれている方、狼狽している方、何も言わず突き刺すような視線を外務大臣閣下に浴びれる方。
そんな中でも各大臣の元に、特に陸軍、海軍、内務の大臣の脇にはひっきりなしに官僚がやってきて、新しい情報を伝えている。
そして首相閣下が静かに外務大臣大臣閣下を始めとする外務省中枢全員の、婉曲的表現での死刑宣告を下した。
勿論私も『外務省中枢』に含まれているので死刑確定。
私は「やっぱりな〜」と諦めの極致でそれを受け入れつつ、弱小氏族出身なのに外務大臣閣下付きの底辺とはいえ秘書にまで出世させてくれた外務省には愛着があるので、震えたまま何も言えない外務大臣閣下のかわりに言いたい事は言っておこうと口を開いた。
「私達を総員罷免とのことですが、よろしいのですか?」
陸軍、海軍大臣以外全ての皆様方の視線が外務大臣閣下の脇で立っている私に集中する。
私はもはやどうでもいいという気持ちだったので言葉を続けた。
「外務の仕事は国と国との付き合いですが、極論までいうと外務官僚同士の付き合となります。つまりは個人的信頼関係に基づいたものが土台となります。確かに開戦の責任は私達外務省にあります。しかしその責をとるために外務省中枢を一気に処分すれば、外国…我が国が唯一外国関係を結んでいるキャメロット王国の外務官僚との個人的信頼関係の再醸成から始めないといけません。それ以前に現在の有力氏族同士の力関係と能力の結果就任された外務大臣閣下を始めとする外務省中枢を一斉に処刑したのならば、新たな外務大臣閣下を始めとする各役職を有力氏族の皆様で調整の上で決定するまでの間…だいたい1カ月位でしょうか?その間、外務省中枢が誰もいない訳ですから、キャメロット王国とのやり取りが完全に不能となります」
私はそういったあと、私の方を黙って見つめる閣僚の皆様方をゆっくりと見回してから再び口を開いた。
「それに私達優秀な白エルフがオーク共如きに負けるはずがありません。陸軍、海軍の皆様の力によって必ずや勝利するでしょう。そうなれば逆にオルクセンに先に手を出させることに成功した外務省の働きはどうなるのでしょうか?勝利した際にその時の外務省中枢が誰もいないとキャメロット王国が知ったのならば、何らかの不信感を抱くはずです。そもそも我が国はキャメロット国以外と外交関係がないのですから、オルクセンに対して降伏勧告をするにしても、講和を結んでやるにしてもキャメロット王国に仲介を依頼するほかなく、そのキャメロット王国が不信感を我が国に対して抱いている場合、仲介を拒否される恐れがあります。さらに言うのならばもし何らかの間違いが続き、戦局が我が国に利有らざる場合は、私達外務省中枢を生贄としてオルクセンに付き出し、責任は全てこ奴らにあるとする方がまだ利用価値があるかと思います。如何でしょうか?」
私が諦めの極致で、この瞬間にも後ろから秘密警察に撃たれて死ぬかもな〜。氏族の皆には迷惑がかからないといいな〜と思いつつ言い切ると、まず陸軍大臣閣下が一利あると仰っしゃり、海軍大臣閣下と内務省大臣閣下もそれに続いてくださった。
首相閣下も最終的には同意してくださった。
そして私達の命は助かった。
いや、一時的にだが。
首相官邸から外務省庁舎に戻る馬車の中では、外務大臣閣下はずっと私に縋り付いたまま、泣きながら「ありがとう!ありがとう!」と仰り続けていた。
服が涙とかでとても汚れてしまったがどうしようもない。
そして庁舎に戻り、大臣室に着くと、そこには外務省中枢の皆様が1人残らず集まって私達を待っていた。
1人だと不安なのでより集ったのだろうと私は思った。
大臣室に着くまでの間に元に戻った外務大臣閣下は、首相官邸で何が起きたのか、これから私達外務省中枢の者達がどうなるかを説明したあと、私を前に押し出し「姉様が私達の救世主でした!」と突然に言った。
うん、外務大臣閣下、元に戻られていなかった。
そして外務大臣閣下がそう言って一呼吸ほどの間隔の後、外務省中枢の皆様方が私にすがりついて、泣きながらありがとう!ありがとう!を連呼した。
で、気がつけば外務大臣閣下をはじめとした外務省中枢の皆様が私の事を「姉様」と呼び、さらに何故か私が外務省方針を決定していて、外務大臣閣下をはじめとする中枢の皆様はそれに従ってくださっていた。
どうしてこーなったんだろう?
私、本当は首相官邸で死んでいて、夢でも見ているのかな?
第2話でした。
『内包』の解釈〜…