小逆転!ベレリアンド戦争! ~if キャメロット王国参戦す~ 作:koe1
星暦877年6月19日午後2時、オルクセン軍はエルフィンド首都ティリオンで総勢6000名という軍事パレードを挙行した。
私はそのオルクセン軍の隊列を。オルクセン軍の工兵隊が腕によりをかけて作った閲覧席から『よくこんな相手に私たちは戦えたな』という思いを抱きながらぼんやりと眺めている。
そして私の隣にいる外務大臣閣下は完全な無表情でそれを眺めている。
おそらくだけど、オルクセン側より参列を『強くお願いされた』他の閣僚の皆様やそれぞれ1名だけ同行を許された秘書の皆様も同じような顔で眺めているんだろう。
その心の中で何を考えているかはわからないけど。
我らが女王・・・いや王女殿下はグスタフ王のいらっしゃる閲兵台より一段低い場所でお座りになっていらっしゃるけど、何を思いながらこのパレードをご覧になっているんだろう。
私たち白エルフ、800万はどうなるんだろう。
昨日、オルクセン軍・・・いや国家としてのオルクセンが私たち白エルフ最大の聖地であるエレントリ館を接収した。
なぜか私たちエルフィンド閣僚等もその接収に同行させられたけど、流石にこれは口にすると怒られそうだけど、氏族のみんなへの良い土産話ができたと思った。
実際、私たち白エルフにとって屈辱的なことであるといえるのに、外務省庁舎に戻ったら、色々な人からエレントリ館の中がどうだったのかという話しをそれとなくせがまれたぐらいだ。
で、エルフィンドがオルクセン軍による占領を経てオルクセン王国に、どのような形であれ併合されるのは決定事項。
併合されるというのに『国外とやりとりする外務省』が残るはずがない。
他の省庁はオルクセン王国のベレリアンド半島の出先機関として残る可能性はまだあるだろけど、外務省は真っ先に解体だろう。
元々エルフィンドの各官庁の中でも最も小規模で、最も発言力がない官庁なので、生き残りを図るための力もないのでしょうがない。
せめてキャメロット王国以外にも外交をおこなっている国があったらもう少しぐらいは発言力はあったんだろうけど、仕方ない。
なにせ主要ポストといえるものが、外務大臣とキャメロット駐箚公使ぐらいしかなく、局長クラスでさえ他官庁に比べるとどんなに良くても部長、普通だと課長、下手すると係長程度の権限や人員や予算規模しかない。
今は亡き教義省と比べるのもおこがましいほどの差があった。
そんな中で成り行きで、役職名目はそのままだけど、実働としては外務大臣閣下付筆頭秘書になってしまっているけど、元々は底辺といえる秘書の私に仕事はもうない。
なので頑張って早めに次の仕事を探そうと思っている。
自力で1ヶ月ほど探して見つからなければ、二角帽さんに泣きつく所存だ。
だからキャメロットに帰るであろう二角帽さんへ電信や手紙を送るだけのお金だけは絶対に取っておかなければならない。
今のエルフィンドの省庁って退職金て出るのかな・・・?でないよね・・・どうしよう。とりあえず安い部屋に引っ越しかな?
貯めていたお金があれば今の部屋でも半年はティリアンにいられるから安い部屋に引っ越せば、頑張れが1年はいられる。
でも1ヶ月で仕事が見つからなければ二角帽さんに泣きつく予定だから、引っ越さなくても良いかな?
でも仕事が見つかっても今みたいなお賃金が出るとは思えないから、やっぱり安い部屋に引っ越ししないとまずいかな?
あ~グスタフ国王陛下のお妃様になられるアンダリエル少将殿だ。
綺麗だな・・・
あれ?なんか最初は真面目にエルフィンドという国や白エルフ達のことを考えていたのに、私は何を考えているんだろう?
現実逃避しているのかな・・・。
翌日、思っていたよりも速くエルフィンド王国外務省の解体が発表され、同時に『エルフィンド王国渉外局』がエルフィンド王国外務省の人員を元にして、他省庁からの応援の人員も得て誕生した。
庁舎も外務省庁舎をそのまま使い、文字通り看板を付け替えただけだった。
で、何をする部署なんだろうと思ったんだけど、オルクセン側とエルフィンド側のパイプ役という話しだった。
つまりどちらの要望もまず私たちに持ち込まれる、私たちが持ち込まれたそれがどこの部署の担当かを判断し、賢明にオルクセンとエルフィンド間の調整連絡をしないといけない。
え?何それ?一番きつくない?間違ってない?
あと情報と権限が集中することになるから下手すると最弱省庁だったうちが、最強省庁になっちゃわない?
まぁ数年の命の省庁・・・というか局だけど。
そんな渉外局長殿には、オルクセン側の強い希望で・・・噂によると笑うととても怖い顔になるオルクセンのビューロー外務大臣閣下の要望らしいけど、外務大臣閣下が横滑りで就任し、私はどうしてからわからないけど、他の皆様をすっ飛ばして副局長に任じられてしまった。
私が副局長に任命されたのは外務大臣・・・いや、局長閣下の強い希望で。
オルクセン側の『現エルフィンド外務大臣が渉外局長を任じられることを強く希望する』という要望書を、私も秘書として帯同していた閣僚会議の場で首相閣下から手渡されて庁舎に戻った外務大臣閣下が私に泣きながらすがりついて
「姉様見捨てないで!見捨てないで!!副局長か筆頭秘書になってください!」
とお願いされ、流石に筆頭秘書は今の筆頭秘書の先輩がいらっしゃるから正式になるわけにはいかないなと思い、外務省には『副大臣』という役職はなかったので、そっちの方がまだ嫉妬されないかと思い「副局長なら・・・」といって引き受けたら、その場にいた外務大臣付筆頭秘書の先輩が「いやー!!姉様!副局長なんてやめて筆頭秘書になってー!」と泣きながらすがりいた後、なぜか外務大臣閣下が筆頭秘書殿に飛びかかっていき、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
暫く呆然とその取っ組み合いの喧嘩を眺めた後に「どっちの役職にしても外務大臣閣下のお側にいるのは変わらないと思いますけど?」というと、喧嘩はピタッととまった。
で、そんな感じの副局長内示だっけど、少なくとも局内から反対の声は、耳に聞こえる反対の声は一切なかった。
逆に『怖いオークに相手を少しでもしなくてすむ』や『姉様なら大丈夫、安心だ』という声ばかりだった。
せめて外務省ナンバー2の格であるキャメロット駐箚公使閣下がお戻りになるまで細かい人事は控えて置いた方が良いんじゃないかと思ったけど、渉外局長と副局長以外の人事はしっかりと控えられていた。
解せないな~。どうして~?おかしくない~?
何かやらかしたとき、お詫びに私をオークのご飯にするつもり~?
俺はまたエレントリ館に来ている。
てっきり先日のグスタフ国王陛下の訪問は、文字通りの『訪問』だと思っていたのだが、実際には『グスタフ国王陛下がエルフィンド滞在中の宿舎』としての接収だったとのことで、グスタフ国王陛下はこのエレントリ館に滞在しいるし、アンダリエル少将殿との結婚式もここでおこなう予定だとたった今、グスタフ国王陛下御自ら教えて頂いた。
そう、今日の俺はなぜかエレントリ館での晩餐にグスタフ国王陛下御自らに招待された。
他にここにいるのは、グスタフ国王陛下に既に王妃といえるアンダリエル少将殿、さらに俺の婚約者としての機関長に、グスタフ陛下の友人としてアストン卿に、俺の友人兼この舘の元持ち主であるアグラレス王女殿下だ。
つまり『書類上』は極めて私的な晩餐といえる。
実際には、少なくとも2件ほどグスタフ国王陛下にお伝えしないといけないことを俺は持っているので、アストン卿もアグラレス王女殿下もなにかお伝えしないといけないことをお持ちだろう。
なので『内輪で嫌なことを報告するお食事会』といえるだろう(苦笑)。
ちなみに護衛として怖い紅い眼鏡のじょーちゃん達はいるが、最強の護衛といえる巨狼族のアドヴィン殿はいらっしゃらなかった。
か弱すぎるアグラレス王女殿下や長年の御友人であるアストン卿は兎も角として、俺や機関長がいるのに巨狼族のアドヴィン殿はいらっしゃらないということは、少しは俺も『友人』として信頼されているということかね?
というわけで、そろそろ『嫌なこと』を報告したいと思うが、1件目は『俺にとって嫌なこと』だ(苦笑)。
俺が合図をすると、事前に預けてしっかりと中身を確認された大型封筒を紅い眼鏡のじょーちゃんの1人が持ってきてくれた。
それを受け取った俺は、流石にこれは手渡しじゃないと不味いなと思っていたので、不作法だが席を立ってグスタフ国王陛下の元へ行き、ナプキンで口を拭いているグスタフ国王陛下に「せっかくの料理が美味くなるか不味くなるかわかりませんが、こちらをご覧ください」といって封筒を手渡す。
中から出てきて書類をグスタフ国王陛下はぺらぺらとめくっていくが、段々とその速度は速くなっていき、最後までめくり終わると
「こんな方法で偽札を作ったのか・・・あの偽札をすぐに財務省の造幣局に送り、造幣局職員が再現実験をおこなっているそうだが、未だに同質の偽札を作ることができず、厳重に管理している原版等が盗難されたのではないかという話しまで出てきていたが・・・まさかこんな方法でか・・・」
と大変驚いた声で感想を述べられてから、その書類を隣にいらしたアンダリエル少将殿に手渡す。
席に戻っていた俺は目線でグスタフ国王陛下に『喋っても良いですか?』尋ねると無言で頷かれたので、ここにする皆に説明させて頂くことにした。
「偽札の原料である紙は、本物の低額のオルクセン紙幣を使っています。調査したところ、各紙幣の紙質が同じだとわかったので出来た手です。それを洗浄の上でパルプ戻し、紙自体を作り直しました。つまり本物そのものといえ手触りから見抜くのは難しいと自負しています。印刷方法ですが、紙幣を写真撮影し、それをさらに再撮影したものを原版として印刷しました。最近、写真の印刷方法が発明されたのはご存じでしょうか?それの応用です」
「ログレスタイムズが『モーリアの虐殺』の号外記事で使ったやつか・・・」とグスタフ国王陛下はとても嫌そうに言ったので、そうですと返事をした。
「こんな方法があるなんて・・・」
アンダリエル少将殿がゆっくりと『偽1万ラング紙幣製造方法書』を読んでいる。
「細かい事は専門家の皆様にそれを読んで頂くとして・・・陛下お願いがあります」とグスタフ国王陛下に言うと「命の恩人である君の縛り首については中止している。もちろん銃殺等もしないので安心して欲しい」とすぐに返してくれたので「それは大変に有り難いですが・・・実際に偽札を作ってくれた者達の処遇についてのお願いです」と真面目この上ない口調と表情でお願いすると
「『実行犯』の免罪か・・・」
と陛下もかなり真面目な顔つきと声で返してきた。
芝居ではなく、本当に悩んでいると俺は判断したので
「もちろんただとは言いません。偽札を作った者達が考えた『偽札製造防止に関する技術的所見』の供与がその条件です」というと「私とディネルースの結婚という目出度い時を血で汚すわけにはいかない」と掌をくるりと返してくださったので、懐に入れていた封筒を取り出し、まず紅い眼鏡のじょーちゃんにチェックして貰ってからグスタフ国王陛下にお渡しする。
グスタフ国王陛下は早速それをお読みになり始めた。
「紙幣の多色印刷の採用・・・今の紙幣でも採用されている複雑な幾何学模様は偽札防止に大変有効と・・・そして紙幣デザインに大きい肖像画を採用する・・・あれは偽札防止技術でもあったのか・・・」と箇条書きで記されている単純な偽造防止方法に驚かれていらっしっゃたが、内容を一つ一つ読んでいかれる。
というか星欧諸国でデザインに肖像画を採用している紙幣なんかあったけっけな?
それとも前にオルクセン紙幣の候補として出されたデザインにでっかい肖像画が配置されたのがあったのか?
そんなことを考えつつ俺は
「オルクセン造幣局の皆様も偽造方法がわかれば、肖像画以外はすぐに気がつかれるかと。肖像画ですが、表情の変化は些細ものでもすぐに気がつくそうで、かなり有効ではないかとのことです。いっそうのこと戦勝記念に新紙幣発行という形にしたら如何でしょうか?そうすれば、私が少しばかりばらまいた偽札も回収できるでしょうし」
というと、グスタフ国王陛下に
「確かにそうだな。君がばらまいたという、1万ラング紙幣1000枚や他にも作らせていたという偽札が流出しているかもしれないしな」
とちょっと怖い顔をされながら言ったので、謝っておくかと思った。
「陛下、そのことなんですが・・・すみません。はったりです。1万ラング紙幣1200枚程作るのが精一杯でして・・・残った約200枚はしっかりと俺の船の金庫に保管していますし、1万ラング紙幣以外の偽札を作ったとか、犯罪組織にばらまくとか言っていたの、全てはったりです。申し訳ございませんでした」
と言って頭を下げると、グスタフ国王陛下は少しぽかんとした顔をされたゲラゲラと大笑いされた(笑)。
そんな大笑いしているグスタフ国王陛下に向かって「そもそもオルクセン紙幣を偽札作りの原材料に使っている時点で経費が滅茶苦茶かかっています。あと歩留まりも大変悪く、作った後も使い古した感を出すのにも手間暇がかかり、1万ラング紙幣を作るのが精一杯でした。他の低額紙幣の偽札を作るとしたら大赤字でした。とりあえず残った約200枚も引き渡します」とばつが悪く言うと、笑い止んだグスタフ国王陛下が「ちなみに作ったのはエルフィンドの造幣局の者かね?」と、ポケットから出したノートに何かをさらさらと書いた後、そのページを破って俺に手渡した。
それにははっきりとサインと今日の日付入りで『ベレリアンド戦争時において某キャメロット人名誉エルフィンド大佐の指示命令要請で制作された偽1万ラング紙幣制作に関わった者を全て免罪とする。ただし以後制作した場合には免罪は適用しない』と書かれていた。
そして後で正式な書類を準備すると言いながら、先ほどの質問の答えを俺に促してきたので
「違います。どうせ本気で調べればわかることでしょうが、ファルマリアで知り合った民間の印刷所とそこが取引していた小さい製紙工房の連中です。俺が持ちかけたんですが、印刷所には大変腕の良い彫り師がいたので最初の2ヶ月ほどはなんとか偽原版を彫ろうとしたのですが失敗して、諦めかけたところで写真印刷がされていたログレスタイムズをそいつらが読んで写真印刷方法を知り、どうやって写真印刷をしたのかを調べてから一気に技術開発という感じです。紙の方もどうしても同じ質感の紙を作ることができずにいたとき、自棄になってオルクセン紙幣を薬品で漂白した上裁断したりして紙として漉いたら、当たり前と言えば当たり前ですが、質感そっくりの紙が完成という感じでした。完璧な偽札ができるまで4ヶ月ほどかかりましたが、いやー金喰いまくりでしたよ(笑)」と笑いながら言うと、アストン卿が「私や公使殿はいくら何でもそれは私は紳士らしくないと言って止めましたが・・・」と小さく呟くが今更でしょう。
70年ぐらい前のグロワール革命の際、奴らが作った紙幣の偽札を散々作ってばらまいていて、奴らの経済を大混乱させたのは我が国なんですから(笑)。
それでは偽札の話しが無事に終わったところでもう1つのお話をしようか。
俺はグスタフ国王陛下に「続いてもう一つお話があるのですが、こいつはちょっとかなり政治的なお話でして・・・どうしましょうか?」と遠回しに『政治的な全くアレなうちの機関長にも話を聞かせて良いのか?』と尋ねると、それをしっかりと理解してくれて
「どうも次の二角帽殿の話しは淑女の皆様に聴かせるには相応しくない話しのようだ。晩餐の途中だが、ディネルース。アグラレス王女と二角帽殿の婚約者殿のお相手を頼む。アストンさん、二角帽殿、隣の部屋へ」
そう言って自身が先頭になってアストン卿と俺を隣の部屋に案内してくれた。
隣の部屋にはアドヴィン殿が寝そべっていたが、特に俺達のことは気にしていない様に寝そべったままだった。
グスタフ国王陛下、アストン卿、俺とアドヴィン殿の他には紅い眼鏡のじょーちゃんが3人だけこの部屋にいる。
俺は紅い眼鏡のじょーちゃんに預けていた3つの封筒を受け取り、それをグスタフ国王陛下とアストン卿に手渡し、残った1つは俺が持った。
俺が中をご覧くださいとお願いするとグスタフ国王陛下とアストン卿は封をしていない封筒から俺が直接書いたものを取り出した。
上から、古アブール語、アブール語、オルクセン語、キャメロット語で同じ文章が記されている便せんが入っている。
その便せんには4つの言葉でこう記されている。
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君たちを愛している。
君たちは世界一美しい。
いいかい? 争ってはいけないよ。決して。
君たちの歌声は、いつ聴いても素晴らしいよ。
なるべく纏って生きていくんだ。
この土地は、寒さで不作になりがちね。
皆で生きていける農法をやっていきましょう。
貴方たちの言葉にはうっとりする。響きがいいわ。
あの川よりも南は危険だ。他の種族たちがいる。
これで大丈夫。
残念だけれど、私にはもう時間がないの。
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グスタフ国王陛下はわからないが、アストン卿はオルクセン語はもちろんのこと、古アブール語やアブール語も読み書きできる。
なので、4つの言語で記されているものが同一のものであるかの判断はつくが、特に4つの内容が違うと言うことは口にされなかった。
「これは一体?」
グスタフ国王陛下は、心底意味がわからないという感じで俺に尋ねてきた。
アストン卿も同じような表情で俺の方を見る。
俺は少しだけ気合いを入れて口を開いた。
「エルフィンド前首相ドウラグエル・ダリンウェンの取り調べ時に彼女が口にした、エルフィンドの伝説において幾度となく現れる『指導者』といわれる者達で、最後に現れたという者が残した言葉だそうです」
そう言うと、グスタフ国王陛下とアストン卿は大変驚かれていた。
「エルフィンドの伝承に度々登場する『指導者』が実在していたのですか?」
アストン卿が俺に尋ねるが、俺としても
「ダリンウェン前首相の取り調べ時に彼女が供述しただけで、キャメロット人の俺には確認は取れません。ただ同族でない俺に対してだけ語ったようでして。ただそれも蒙昧無知な短命種に有り難く教えてやるという上からどころ出ない感じでした」
そう言って2人をみると何も口にしないが『続きを』と促している目だった。
「俺が取り調べたのは暇だった2回だけで、それもエルフィンド側の取り調べがどうも手詰まりだということで、ダメ元で政権簒奪の一件で恨んでいるであろう俺を取り調べに投入したんですが、彼女が繰り返し口にしたのは『我らは選ばれし者』『この世界の主として定められし種族』で、他には政権簒奪とオルクセンの侵攻に対して『道理に叶っていない』『野蛮である』『いまに我らが正しいことがわかる』ばかりで、流石の俺もいいかげん苛ついてきたんで、誰がそんなこと決めたんだ?と尋ね返したら『指導者様にだ』と言ったで、俺も伝承のことは知っていましたが、全く気がつかず女王陛下のことか?と尋ね返したら『違う。最後の指導者様だ。私は直接導きを受けた』と」。
グスタフ国王陛下とアストン卿は無言だ。
「その最後の指導者様は200年ほど前にいなくなってしまったそうですが、その時にその指導者様が残した言葉が先ほどの便せんに記されていた言葉だそうです。ダリンウェン前首相はそれを『指導者たちの九つの教え』と言っていました。どうも前に現れた指導者達もほぼ同じようなことを口にしていたようなことがエルフィンドの伝承に残されていました。ちなみに俺が『本当にその指導者はそんなことを言ったのか?』という煽りに対してだけは、唯一怒った様な表情を見せて『私が指導者様の御言葉を誤ると思うのか?』と言われました。あれは狂信者の目です」
そう言って御2人の方を見るが2人はまだ無言だった。
俺は更に続きを促されていると判断してまた口を開いた。
「ただこれは俺の個人的な感想ですが、ダリンウェン前首相はその九つの教えを守っていない。彼女は本人が自覚をしていない上昇志向の強い機会主義者で、自身の野望に九つの教えの方を無意識にすりあわせていったんだと思います。『皆ですがって生きろ』という言葉に対して『白エルフだけですがって生きる』と曲解して同族である闇エルフを排除する。120年前のオルクセンとの戦争のどさくさに紛れてシルバー河南岸のモーリアを占領し、ほぼ同時期に入植地として西部の南岸にノグロストを造り、シルバー河の南に敢えて進出する。東岸の入植地であるファルマリアはオルクセンのアーンバンドが南岸にあったからシルバー河から少し北に離れた場所に作ったんでしょうが、正直いってこれら3つの街はエルフィンド本土防衛のための緩衝地帯と考えていたのでしょうが『あの川よりも南は危険だ。他の種族たちがいる』を無視している。そもそも緩衝地帯とするのならば貴重な国境地帯の防衛戦力であるはずの闇エルフ達を虐殺したあげくに、代替戦力をつぎ込んでいないのがおかしい。そもそも闇エルフ虐殺も『女王陛下の側近に闇エルフが取り立てられのが気に入らない』がきっかけだったようですし・・・。あと三圃式農法もそれに固執することによって弱小氏族の経済力が上がることを妨害していた節もあります。実際、ここ150年ほどではエルフィンドの農業生産量は恐ろしい具合に下がっています。そして5年ほど前に何とかそれを改革して生産力を上げようとしていた農務省の若手官僚達を『教義違反』ということで処分したそうです。さらには前首相の方針に反対する者も皆、例え閣僚であったとしても『教義違反』で逮捕されたそうです。女王陛下の側近だった闇エルフも、表向きは『病没』としていたようですが、実際には『教義違反』で逮捕の上、殺害したそうです。軍ですら秘密警察のスパイ網が構築されていて、下手な言動は一切できなかったとか。エルフィンドの歪な前政権の運営は恐怖で縛っているものといえます。はっきり言って『教義主義者の皮を被った権力欲の化け物』と言うのが私のダリンウェン前首相に対する個人的評価です。たった2回の取り調べだったんでこの程度ですが、もっと取り調べができていれば、更に悪口が言えたと思いますね。前首相にくらべたらもう元教義大臣の方がずっと純粋で可愛いと言えます」
と言い切る。
アストン卿は何とも言えない顔をされていたが、グスタフ国王陛下は両手で顔を覆われていた。
俺が「陛下、前首相の身柄は一昨日あたりにオルクセン側に引き渡している筈で、正式な取り調べ調書も担当した取調官と共に一緒に渡しているはずです。後はオルクセン側での再度の取り調べと、そして処罰をお願いします。エルフィンドは如何なる異議申し立ても致しません」と言ってもグスタフ国王陛下は両手で顔を覆われていたままだったので「白エルフの酷さに絶望してしまいましたか?」と冗談半分に言うと、顔を上げられて
「そんなことはない。例え何があってもこの半島の民も見捨てる様なことは絶対にしない。そんなことはしない。絶対に見捨てない」と、気合いが入ってはいるものの、どうも泣きそうだと感じてしまった顔で仰られた。
そしてその後すぐに表情を戻し
「しかし今回の戦争は、あちこちから上がってくる報告書に時々君らしい人物をみてしまうと、君1人のせいでオルクセンは色々と不利になってしまった気がするな」
と冗談ぽく言われたので、俺は正直に「いや、俺は単なる使い走りでしたよ。ねえアストン卿?ガン決まりじょーちゃんに比べたら全然ですよね?」とアストン卿に話を振るとアストン卿は「主観の相違といった面はありますが、確かに彼女に比べますとそうとも言えなくもないですな」と重々しく答えると、グスタフ国王陛下が心底驚いているような顔をされていたので
「あ~・・・エルフィンド外務省の下っ端官僚なんですが、戦列歩兵の旗手が勤まるぐらいのガン決まりの目をしていまして。オーク相手にも全くびびらないし、開戦以来エルフィンド外務省をどうしてだか完全に掌握して、外務省の方針や行動は彼女が全て決定していて、他の外務省職員ははそれに黙って従い、キャメロット公使館での政権簒奪も彼女が計画調整連絡をしました。他国というか、唯一外交関係のある国の公使館で政権簒奪をおこなうなんて普通はどうやっても思いつかないでしょう。あり得ないでしょう?それぐらいヤバイ奴です(笑)」
俺がそう言うと、アストン卿も無言で頷かれた。
グスタフ国王陛下は「そんな人物がいるとは・・・ビューローからはエルフィンドの外務大臣はなかなかやる。オルクセンという国家に忠誠を誓ってくれるのならば、オルクセン外務省で採用したいぐらいだとまで言っていたが・・・」と仰れたので、俺が「いや、本当に底辺の職員なのでご存じなくても当然かと。秘密警察も一切マークしていなかったぐらいですし。というかあそこまで底辺の職員がどうして外務省の実質トップに立った上で、外務大臣をはじめとする外務省の高級官僚全員から『姉様』と呼ばれていたのか全くわかりません。本人は一応説明してはくれましたが、理解できませんでした。ねぇ、アストン卿」というとアストン卿も「まさにそうですな。大げさにいうのならば魔種族研究家としては敗北ですが、エルフィンドの白エルフの姉妹関係は複雑怪奇ですな」と仰ってくださった。
「ちなみに先日のここの接収の際にもエルフィンド外務大臣付の秘書として帯同していました。流石にあの場で、書類上は単なる下っ端官僚を陛下に紹介するわけにもいかず・・・。ただあのガン決まりじょーちゃんがいなければ、エルフィンドはもっとあっさりと負けていたか、もっと酷い負け方をしていたと思います。それだけは確かです。あのじょーちゃんがエルフィンドの救世主だったと思います」
と、ガン決まりじょーちゃんの凄さを説明しきると、グスタフ国王陛下は何かを考えていらっしゃるようだったので「逮捕とかはやめてくださいよ?」と冗談半分にお願いすると「先に言われると逮捕できないではないか」とこれまた冗談半分に返されたので「外務省を首になって仕事がみつからなければ俺を頼れと言っているので、もしその時が来たら陛下に紹介させて頂きます。もっともオルクセンに数年後には併合されるエルフィンドに外務省なんて必要ないでしょうから、すぐに泣きついてくるかもしれませんが」と返すと「ではその時は私が予約の最上位ということでお願いする」と笑いながら返された。
ちなみにこの時は俺はまだエルフィンドが外務省を組織改編して『渉外局』を作ったことや、ガン決まりじょーちゃんが速くも渉外局で重きを成したことを全く知らなかった。
ちなみに後であった時に聞いた話だが「副局長になって賃金が今までの4倍になりました・・・最初は氏族のみんなに仕送りが沢山できると喜んでいたんですが、オルクセンの皆様や、すり寄ってくる白エルフとのお付き合いが沢山増えて、服とかを沢山買わないといけないし、豪華なお店に行く必要が増えて、氏族のみんなへの仕送りがなかなかできないです・・・」と呆然と言っていた。
ただエルフィンドの最有力省庁の副局長になったというのに、まったく奢らないのはガン決まりじょーちゃんらしくて少し嬉しくなっちまった。
なのでこっそりとガン決まりじょーちゃんの氏族に『投資』という形をとって、色々としちまった(笑)。
俺の報告が終わった後はアストン卿からの報告というか、キャメロット王国からの秘密連絡があり、俺はその間は聞かないふりをしながら、コボルトの侍従が淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。
紅茶も良いが、たまにはコーヒーも良いもんだ。
俺もコーヒーはしっかりと淹れられるようにしているが、やっぱりまだまだだな・・・。
そう思っているうちにグスタフ国王陛下とアストン卿の『お話』が終わったので、みんなのいる部屋に戻ろうとしたときに、唐突にふと思ったことがあり、口に開いた。
「今、ふと思ったんですが、陛下。初めてお会いしたときに『開戦以来、世界中の悪意が私達にだけ向かっている気がしてならない』と仰っておいででしたよね?それは本当かもしれません。もしかしたらですが・・・白エルフの『指導者』がまたこっそりとやって来て、陰から白エルフ達を助けようとしたんじゃないですかね?ただ闇エルフのこともエルフだと認識していたその指導者は表だって白エルフ達の前に現れなかっただけで」というと、まさかという顔をされていたので「戦争終わってから、オルクセンにだけ都合の悪いことっておきましたか?」と尋ねると、はっとした顔をされた。
「まぁ単なる船乗りの戯れ言です。ただ2年近く前に急にキャメロットでエルフィンドブームが起きたり、急にエルフィンド艦と瓜二つの艦型の艦が含まれる秘密親善艦隊の派遣が決まったり、あとオルクセンにとって都合の悪い場所にだけうちの国の新聞記者がいたりとか確かにオルクセンばかりに都合の悪いことしか起きているなという気持ちがありまして。指導者とやらが伝説ではなく、本当に存在した人物だったという前提での話しですがね。正直命短い人間族としては今ひとつ信じられない話しなんで。あと実は俺のがファルマリアにいたのも不思議なんですよ。戦争直前に急に入った仕事で『ファルマリアに保存食や小麦粉を積めるだけ積んで持って行ってくれ』っていう全額前払いの依頼だったんですが、依頼主が用意した品を積んでファルマリアにやってくると、受け渡し先と指定されていた商店が存在しない。なんで電信で依頼主にどうすれば良いかと連絡をとろうとしている内に戦争が始まって、民間の電信が制限された上に、電信線が切断されて連絡が取れない。そんで積荷の保存食や小麦粉はエルフィンド軍が適切価格で買い取ってくれたんで、全く損はしていない上に積荷の分儲かったと言えるぐらいなんですが、なんかこれもおかしいですよね?実際、ファルマリアから逃げ出すまでの間、受け渡し先の商店を探し回ったんですが、やっぱり過去も含めて存在しないことわかって。そん時は単なる依頼主の大馬鹿なミスかと思ったんですが、キャメロットに戻った際、依頼主を探したがなぜか見つからなかったんです。ただ今にしてみれば不思議なことにその時の俺は大して気にしなかったんですよ、なぜか。だからもしかしたら指導者様とやらがファルマリアを助けようと手を差し伸べようとしたのかもしれないと、ふと思っちまいましてね」
と言うと、まじめくさった顔で「オルクセン北部を突然襲った大嵐といい、本当にそうかもしれないな」と仰られたので「流石に幾らエルフの指導者様とはいえ天候を操ることはできないでしょう(笑)」と笑いながら言うと、陛下はニヤリとしながら「本当にそう思われるかな、二角帽殿?」と返されたので、一瞬まさかと思ったが、幾ら魔王様とはいえ天気を操ることなんか出来るはずがないと思い直し
「ご冗談はおやめください。そんな天気を操ることができる魔王様がいたらふん縛って誘拐して、魔王を無理矢理引退させた上で俺の船に乗って頂きます。天気を操って頂けるのなら、もう嵐を恐れる必要は一切ないのでね」
とこちらも冗談で返すと
「船乗りは大変と聞くので、御遠慮させて頂こう。さて淑女の皆様がお待ちだろう。みんなのところに戻ろう」
と言って、ご自身で扉を開けられた。
さてさて、戦争の後片付け、頑張りますか。
だけど俺って単なる船乗りの筈だったんだがな・・・どうしてこーなっちまったんだ?
最後までその姿を現さなかった歴史時空改変犯罪者。
現代ではイニシャルしか伝わっていない、伝説級の歴史時空改変犯罪者『D・S』、コードネーム『ON-TAI』に憧れる、白エルフを愛している歴史時空改変犯罪者によって歴史を変えられたベレリアント戦争でした。